6 / 12
労災調査士『ファイル22 墜落(レッコ)』 6
しおりを挟む
「竹垣労務課長、そろそろお時間です。所長がお待ちかと思いますが」
倉田が言った。会社の自主安全パトロールは大手ゼネコンの場合、その現場規模にもよるが、通常一月に一度、あるいは二月に一度慣行されている。所長以下現場サイドは、高評価を得るために事前に準備をする。鳶職の安全周り班や、土工の片付け班を増員し、予めパトロールが巡回すると設定した範囲内を特に整備清掃して回る。自社のパトロールであるのに余計な労賃が発生する。予めセットされた場所であるから不備はない、不備がなければ現場の評価は上がる、金をかけて評価を得る。
労務だけではなく、社長や支店長の視察が予定されると労務課のパトロール程度の整備ではすまされない。この横浜の現場でも社長視察が一度あった。この事故の三ヶ月前である。二週間前に現場作業員に通知された。大赤字の上、工期が大幅に遅れている最中の視察であったが、作業員総出で整備是正、片付け清掃が行われた。その作業に従事した延べ人数は百人を超す。社長は横浜みなとみらい地区で行われた会議に出席した帰りがけの視察であった。会議時間が延びていれば当然この視察は延期、もしくは中止となり、莫大な労賃は無駄になってしまう。それが幸か不幸かは担当にもよるがに会議はスムーズに運び、予定通り行わることになった。夕方四時に社長一向は到着した。通常はコンクリート打設や材料搬入車両の一時待機場所として確保してあるスペースに、黒塗りの車が十台以上入ってきた。もちろん職人達の車は一切止めることは出来ない。事務所の一番近い場所に止められた車から社長は降りてきた。四代目で、四十代前半の社長は現場経験はない。事務所からは池田所長はじめ職員が総出で出迎える。現場には数名だけ派遣監督が残って作業の指揮をとっている。屋上にはひとり、双眼鏡を片手に見張り役をしている倉田がいた。おかしな格好をした作業員がいないか監視しているのだ。もし視察通路近くに予定外の作業員がいたりするとその職方のリーダーに電話して、すぐに移動させるよう指示する。現場の辻々には織田をはじめ各職リーダーが待機して、一行の通過を次の辻で待機しているリーダーに携帯で知らせる。この現場は外周を回っただけでも千五百メートルはある。現場の中をくまなく案内する時間的余裕もないので、この現場の最大の売りである、大竹工業が開発した免震工法と、九割がた完成したB棟の一部を視察させることにしてある。
社長一行が動き出す。大名行列の開始である。先頭は総括所長の池田である。池田のすぐ後ろに社長がおり、足元の段差や頭上の障害物などを、身体を社長の方に多少斜めに向けて、注意を促しながら先導していく。いつもは若い監督にやらせていることを自ら進んでやっている。もうじき定年を迎える男が青年社長の足元を気遣っている。たぶんこの大手ゼネコンの四代目は、土木建築会社のこういうしきたりというか、古く根深い体質が、社会に与える印象を悪くしているのだと痛感しているだろう。『いいよおじさん、俺の事なんか、自分で気をつけなさい』と言いたいのを我慢しているに違いない。社長の後ろには黒っぽい背広姿の社長付きが数人、そして支店のお偉方が数人。彼等をエスコートする監督職員が数十人ユニフォーム姿で案内係りとして散らばっている。ビデオ撮影もされている。金魚のふんは屋上から双眼鏡を覗く倉田を笑わせた。
辻に立ったリーダーの中にはそこに立たされた本来の意味をしっかりと把握していない者もいる。一行がまさに通過している最中に次の辻に連絡を入れる。
「社長一行、ただいま通過中、どうぞー、お任せー」
横山課長がそのリーダーをきつく睨む。左官屋の職長は気にする風もなく不適な笑みを浮かべ一礼した。終わってしまえば想いだし笑いの対照になるであろうが、その渦中にいるときは穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。
これが建築現場かと問いたくなるほどに整頓された空間には作業員の影も見当たらない。ただ携帯電話を手にした男が曲がり角に不自然に立っている。視察時間僅か二十分、大名行列はゴールの事務所前に到着した。社長を労う池田所長の大袈裟な笑い声が双眼鏡に入った。倉田から連絡体系通りに終了の知らせが末端の作業員にまで届く。大名行列のためにシートで封印した箇所が再び姿を現し、ブレーカー(コンクリートをエアーで壊す斫り機械)によって破壊されていく。地球を突っつく音が場内場外に轟く。数百万円もかけたほんの一瞬のカーニバルをあざけ笑っているように。もしかしたら若い社長は何もかも分かっているのではないだろうか、自分が視察することによってどれだけ予算が費やされ、工事が遅れてしまうかを、しかしどうすることも出来ないジレンマを感じているのかもしれない。
当然今日も竹垣を手厚く迎える算段が施されていた。事故の検証報告を兼ねて夜の接待をするつもりであった。
「なんですか時間て?私はいくらでもあります。池田所長に連絡してください、まだしばらくかかるのでお先にと」
「はい、分かりました」
倉田は少し離れたところに行き、携帯を隠すように電話した。稀に竹垣のような堅物がいる。竹垣も所長の池田も役職は課長である。しかし大手ゼネコンの所長ともなると、年間少なくても数十億、数百億円の工事をこなしている。この莫大な予算に群がる下請けからの謝礼は半端な額ではない。したがって労務課の課長と現場所長とでは同格でありながら、その資金力には雲泥の差がある。多少赤字になろうと工期に間に合い事故さえ起こさなければ会社での評価も上がり、信用度も増すのである。竹垣のような堅物に現場サイドの過失でも指摘されるとマイナス点が加算される。池田はこの事故処理を穏便にすませてくれるよう定例の巡回時より手厚い宴を用意していた。
「竹垣課長、所長がどうしてもお出でいただきたいとおっしゃっておりますが」
竹垣は池田の強引なやり口に苦笑いした。
「あと一時間で終了しますからとお伝えください」
「はい、わっかりました」
狭間に詰め寄られた倉田の顔に笑顔が戻った。
「それじゃあ、みなさん、あちらに移動しましょう」
全員藤木が転落した場所まで移動した。
「それじゃあひとつひとつ検証していきますので。そうですねこの作業のリーダーの山崎さんお願いします。荷揚はリフトで十八階まで揚げて、そこからはかついで揚げたということですね」
「はい、長い四メーターパイプと足場板は手渡しで揚げました」
「あの非常階段ですね」
「はい、そうです」
「結構怖いですよね、踊り場では身体を半分乗り出さなければなりませんよね」
「そうですね、階段の手摺越しですから長物はかなり手に力が入ります」
「落としたら大変なことになる、下には誰か監視人がついていましたか?」
「いえ、いません」
「うわーっ、人が蟻みたいに見えますよ、それに大勢作業している。この踊り場から四メーターのパイプを落としたのを想像すると震えがきますね」
「ええ、見ないようにしています」
「まあ、時間的に数分、まあ十分くらいのことでしょうからカラーコーン(赤い三角錐でバリケードを簡易にしたもの)で囲んで監視人をつけるようにしてください。これ倉田さんお願いしますよ、足場の解体作業のときも逆の手順をするわけだろうから、これしっかりね」
「分かりました」
倉田がメモしながら返事をした。
「山崎さん、足場をかけるには三角屋根によじ登らなくてはなりませんが、どうやって?」
「エレベーター室の外部梯子で屋根に上がり、それから三角屋根のてっぺんに下りました」
「段差は二メートル近くありますね、どなたが?」
「私と事故にあった藤木さんです」
「よく立てましたねこの勾配のところに」
「三角の棟部分に跨いで立っていました。それでも足が疲れてしまうのでしゃがんだ状態で作業にかかりました」
「二人とも三角屋根に下りた?」
「まず私が下りて、藤木さんには材料を引っ張りあげてもらいました」
「下にはどなたが?」
「俺とこの関野です」
田中が関野のヘルメットを叩いて言った。
「お二人は下で材料を差し出したりしていたわけですね」
「はい、クランプのような小物は袋に入れて藤木さんにロープで引っ張り上げてもらいました」
「山崎さん命綱はどこに掛けていました?」
「エレベーター室の屋根にマルカン(パラペットの下部に、コンクリートを打ち込むさいに取り付けられた金具、ゴンドラなど吊るすときに使われる)から親綱を垂らし、ロリップ(親綱に取り付ける金具。片方はロープを挟み込み、もう片方の先端にはフックが付いている。そのフックに安全帯をかける。作業員が上がるときはロープの挟み部に余裕が出来、上がるに任せて動く、しかし、下りるときは作業員の重みでロープをしっかりと挟み込み、下がらないようになっている)をつけて命綱を使用していました」
「はいなるほど、まあそれから足場を組み立てていく過程で藤木さんが三角屋根に下りることになるわけですよねえ」
「はい、三角の下部から田中さんが枠組み足場を上げてきました、五段目の上部で三角の棟部と高さが揃いました。これを両サイドかけ終わり、棟から十センチ上げたところに、布パイプ(縦パイプと縦パイプを繋ぐ横パイプ)を一段取り付けるときに藤木さんが下りてきました」
「下りてきましたとは山崎さんの指示ではないのですか?」
山崎は一瞬返答に困った。本来は、関野を枠組み足場の五段目まで上らせて、布パイプの端部を固定させるつもりであったが、藤木が先に下りてしまったのである。大先輩の藤木に山崎も遠慮していた。
「田中さんが、左側の枠組み足場の上、関野が右側枠組み足場の上、私が三角屋根の棟の上にいて、足場から足場まで七メーター五十センチなので四メーターパイプを棟上でジョイント(パイプを連結させる金物)して取り付けるつもりでしたが、藤木さんが機転を利かせ、下りてきてくれたのです」
「ん、よく分かりませんねえ、山崎さんの指示ではなかったのですね?機転を利かせてくれたとは藤木さんが下りてきてくれてよかったと考えているわけですね」
関野が申し訳なさそうに前にしゃしゃり出て来た。
「僕が早く上ればよかったんだ、僕が機転を利かせ、足場の上に上ればよかったんだ、そうすりゃあ」
田中が関野のヘルメットをラジェット(クランプを締め付けたり、番線と言う針金を締め付ける先の尖った鳶職必携の道具)で叩いて言った。
「うるせえんだおめえは、バカッタレ」
カポッという乾いた音がみんなを笑わせた。関野がヘルメット掻いて笑っている。長井の息子だけが関野のどたばたに苦虫を噛み潰している。
「まあいいでしょう、どうやって下りてきましたか藤木さんは?」
「もう一本の親綱をマルカンから提げてそれを伝って、右側の枠組み足場まで下りるつもりでいたみたいです」
「ということはそこで転がり落ちたのですね?」
「ロッククライミングみたいにあのきつい斜面に直角に立って、ロープを握り身体を支えていました。命綱を安全帯から外し、ロリップにかけようとしたのでしたが、ロリップの位置が少し高かったので前屈みに手を伸ばしたときに足が滑り、そのまま下まで転がりました」
「エレベーター室の屋根から下りるときは安全帯をロリップにかけていなかったのですね、三角屋根に下りてから命綱をかけるつもりでいたわけですね藤木さんは?」
「残念ですがそういうことです。手を伸ばしたとき、ロープによりかかるように立って重心をとっていたのですが、それが少し前に体重をかけたときに踏ん張っていた右足が滑り、ロープを握る手が緩み、滑り落ちました。イモリのように屋根にへばりついた格好で枠組み足場に追突しました。そこで止まっていれば擦り傷ぐらいですんだかもしれないのですが、左足が足場の外にはずれてしまい、今度は身体が横になり、三角屋根下部から二メーターを一気に転げ落ちました。足の捻挫は枠組み足場に追突したときの衝撃で、腰他の打ち身は、足場に衝突したさい身体が九十度回転し、真横になって三角屋根下部からの段差を落ちた衝撃だと思います」
「あそこに黄色く筋がついているのはヘルメットが擦った跡です」
全員が黄色い筋を見つめている。
「藤木さんは滑ったとき下を確認することは出来なかったでしょうねえ、その余裕があれば枠組み足場の縦部に足をあずけられたかもしれない」
「一瞬のことでしたからねえ、下を見る間も、ロープを掴み直す余裕もないし、そんな判断は無理でしょう、ただ屋根にへばりついて摩擦でスピードを緩めようと必死だったと思うなあ、黄色い筋の両脇にわかりづらいけど薄く黒い線があるでしょう、あれは地下足袋の親指部分のゴムの跡ですよ」
全員が目を凝らして山崎の指摘した場所を見た。
「あっ、あるある、黄色い線を中心に二本の黒い線、それを線で結ぶと藤木さんの身体が浮かんできますね」
関野が、謎が解けた探偵のように言った。
「だからなんだってっんだ、おめえは黙ってろバカッタレ」
田中のラジェットが、今度は三発、関野の頭に振り下ろされた。関野は首にクッションがついているように叩かれるたびに伸縮させた。竹垣の顔にも笑みがこぼれた。
「あれ、うちの若い衆なんです。ふざけてるつもりはないんですけどすいません」
「いいじゃありませんか、二和建設も若い職人さんが少ないようだから、大事に育ててやってくださいよ、あんまりパカパカやると、ほんとのパかになっちゃうよ、ねえ~」
ねえ~だけを関野に向かって言った。
「はい~」
関野が竹垣の調子に合わせて返事をした。田中が呆れてラジェットを持ち直し振り上げたが竹垣が見ていたので止めた。
「はい、事故の概要は分かりました。それではまとめてみましょうか。まず第一の要因はなんといっても製品制度が粗悪であり、従来考えていなかったところに足場を整備しなければならなかった。これにつきるでしょう、これは大きな問題で、これから建設を取り巻く環境は益々厳しくなる中、コストダウン、工期の短縮を進めていく上で克服していかなければならない最重要事項でしょう。急ぐが上、または安いが上、だから制度が落ちても構わないというわけではありませんね、やはり実際にPCを組み立てて、収まりが悪ければ、責任として是正しなければならない。そして是正ばかりに頭がいってしまって、肝心な安全を省いてしまう、着工当初完璧に遵守されていた足場の組み立て手順が、時間、コストの犠牲になってしまっては事故はなくならない。これは残念ですが我々大竹に課せられた課題でしょう、藤木さんには誠に申し訳ないことをした」
織田をはじめ職人全員が竹垣のような価値観の職員に出会ったことがなかったので驚いた。事故と言うのは、ただ落ちたとか、転んだとか、切ったとかではなくて、それ以前に見落としている根本があることをみんなが知った。確かに藤木は命綱をかけるタイミングを逸して、滑って落ちたのだが、それは単なる結果であって、要因ではないのである。事故が起きると大概の職員は下請けを呼んで何故命綱を使わなかったのか厳しく追及する。次の仕事をちらつかせながら責任を押し付ける。しかし下請けは元受に、どうして元々計画のない場所に急遽足場をかけさせたのかなどと訴えたりはしない。黙って頭を下げて反省したふりをしていれば次の仕事をもらえるからである。
「これは本社に戻り次第、報告します。しかしいくら製品制度が向上しようと完璧ではありません。現場で人が作る以上、それは期待出来ないと思います。そうであるならば、やはりこういう状況も想定して対応していかなければなりません。そうするとまず足場の図面を描き、それを基にして作業手順を組み立てていく必要がありますよね。材料はどこから、誰がどうやって揚げるのか?組み立ては?誰の指示で作業するのか?作業員のポジションは?どうですか倉田さん、わたしの考え方に問題あるでしょうか?」
「いえ、その通りだと思います」
「みなさんは?織田さん、山崎さんどうでしょうか?宜しいでしょうか?ということは私の意見に基本的に賛成してくれたと了解しますよ。それでは第一に、足場の図面の作成、これがなされていなかった。致命的なミス、手抜き、責任放棄、あなたのことですよ倉田さん」
竹垣のきつい視線が倉田を一撃した。
「図面がない故に作業手順が確立出来なかった。職人達は安全体系が確立されていないのに作業しなければならなかった、これは大問題です。幸いにも軽症だったから責任の所在が曖昧にされていますが倉田さん、重大災害でしたら私がちょっと大声を出すくらいではすみませんよ。充分に反省して、これを教訓に、これからの作業に反映させてください」
「はい、分かりました」
「次に作業手順はみなさんプロですから頭の中で組み立てていたのでしょうがそれが上手く通じていなかった。山崎さんが考えていた配置が、本来ベテラン同士の間では、暗黙の了解とされているべきであるのに、少なくとも藤木さんには通じていなかった。それとも分かっていながら山崎さんの指示を藤木さんが無視したのか、つまり藤木さんは山崎さんをリーダーとして認めていなかった。どうです、私の考え過ぎでしょうか山崎さん?」
藤木は山崎を無視したわけではなく、またリーダーとして認めていないわけでもなかった。ベテランで技術力のある職人は、ほとんどが率先して、危険できついポジションついてしまうのである。技術は、ある程度まで達すると、あとは如何にそれを応用していくかで職人として差が出てくる。藤木の五十年のキャリアで習得した技術は織田班では群を抜いている。しかし、身体を動かすことを惜しまない藤木に欠けていたのは、統率力であり、上に立つという欲であった。それに中学すらろくに卒業していない彼は読み書きも不得手であり、監督との折衝や他職リーダーとのコミュニケーションを計る上で、最低限必要とされる読み書きも儘ならない自分はその任でないと自覚していた。しかしリーダーにはなれないが、職人としての技術では誰にもひけはとらないと自負している、六十五歳になった現在でもその自信と覚悟は変わらなかった。そしてそのことは本人だけではなく、二和建設の社員をはじめ、職人一同が感じていた。織田も、応援の山崎もそうであった。
「私は藤木さんに何も指示していません。藤木さんは自主的に下りてきたのです」
「あなたは彼が下りてくるのを一部始終見ていたわけですよね、止めることも出来た、下りてくる前にあなたの段取りを説明する時間もあったのにそれをしなかった。どうしてですか?」
「それは・・・藤木さんには現場状況で判断してもらい、そのように動いてもらうという関係にあったからです」
「関係とは先輩後輩ということですか?」
倉田が言った。会社の自主安全パトロールは大手ゼネコンの場合、その現場規模にもよるが、通常一月に一度、あるいは二月に一度慣行されている。所長以下現場サイドは、高評価を得るために事前に準備をする。鳶職の安全周り班や、土工の片付け班を増員し、予めパトロールが巡回すると設定した範囲内を特に整備清掃して回る。自社のパトロールであるのに余計な労賃が発生する。予めセットされた場所であるから不備はない、不備がなければ現場の評価は上がる、金をかけて評価を得る。
労務だけではなく、社長や支店長の視察が予定されると労務課のパトロール程度の整備ではすまされない。この横浜の現場でも社長視察が一度あった。この事故の三ヶ月前である。二週間前に現場作業員に通知された。大赤字の上、工期が大幅に遅れている最中の視察であったが、作業員総出で整備是正、片付け清掃が行われた。その作業に従事した延べ人数は百人を超す。社長は横浜みなとみらい地区で行われた会議に出席した帰りがけの視察であった。会議時間が延びていれば当然この視察は延期、もしくは中止となり、莫大な労賃は無駄になってしまう。それが幸か不幸かは担当にもよるがに会議はスムーズに運び、予定通り行わることになった。夕方四時に社長一向は到着した。通常はコンクリート打設や材料搬入車両の一時待機場所として確保してあるスペースに、黒塗りの車が十台以上入ってきた。もちろん職人達の車は一切止めることは出来ない。事務所の一番近い場所に止められた車から社長は降りてきた。四代目で、四十代前半の社長は現場経験はない。事務所からは池田所長はじめ職員が総出で出迎える。現場には数名だけ派遣監督が残って作業の指揮をとっている。屋上にはひとり、双眼鏡を片手に見張り役をしている倉田がいた。おかしな格好をした作業員がいないか監視しているのだ。もし視察通路近くに予定外の作業員がいたりするとその職方のリーダーに電話して、すぐに移動させるよう指示する。現場の辻々には織田をはじめ各職リーダーが待機して、一行の通過を次の辻で待機しているリーダーに携帯で知らせる。この現場は外周を回っただけでも千五百メートルはある。現場の中をくまなく案内する時間的余裕もないので、この現場の最大の売りである、大竹工業が開発した免震工法と、九割がた完成したB棟の一部を視察させることにしてある。
社長一行が動き出す。大名行列の開始である。先頭は総括所長の池田である。池田のすぐ後ろに社長がおり、足元の段差や頭上の障害物などを、身体を社長の方に多少斜めに向けて、注意を促しながら先導していく。いつもは若い監督にやらせていることを自ら進んでやっている。もうじき定年を迎える男が青年社長の足元を気遣っている。たぶんこの大手ゼネコンの四代目は、土木建築会社のこういうしきたりというか、古く根深い体質が、社会に与える印象を悪くしているのだと痛感しているだろう。『いいよおじさん、俺の事なんか、自分で気をつけなさい』と言いたいのを我慢しているに違いない。社長の後ろには黒っぽい背広姿の社長付きが数人、そして支店のお偉方が数人。彼等をエスコートする監督職員が数十人ユニフォーム姿で案内係りとして散らばっている。ビデオ撮影もされている。金魚のふんは屋上から双眼鏡を覗く倉田を笑わせた。
辻に立ったリーダーの中にはそこに立たされた本来の意味をしっかりと把握していない者もいる。一行がまさに通過している最中に次の辻に連絡を入れる。
「社長一行、ただいま通過中、どうぞー、お任せー」
横山課長がそのリーダーをきつく睨む。左官屋の職長は気にする風もなく不適な笑みを浮かべ一礼した。終わってしまえば想いだし笑いの対照になるであろうが、その渦中にいるときは穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。
これが建築現場かと問いたくなるほどに整頓された空間には作業員の影も見当たらない。ただ携帯電話を手にした男が曲がり角に不自然に立っている。視察時間僅か二十分、大名行列はゴールの事務所前に到着した。社長を労う池田所長の大袈裟な笑い声が双眼鏡に入った。倉田から連絡体系通りに終了の知らせが末端の作業員にまで届く。大名行列のためにシートで封印した箇所が再び姿を現し、ブレーカー(コンクリートをエアーで壊す斫り機械)によって破壊されていく。地球を突っつく音が場内場外に轟く。数百万円もかけたほんの一瞬のカーニバルをあざけ笑っているように。もしかしたら若い社長は何もかも分かっているのではないだろうか、自分が視察することによってどれだけ予算が費やされ、工事が遅れてしまうかを、しかしどうすることも出来ないジレンマを感じているのかもしれない。
当然今日も竹垣を手厚く迎える算段が施されていた。事故の検証報告を兼ねて夜の接待をするつもりであった。
「なんですか時間て?私はいくらでもあります。池田所長に連絡してください、まだしばらくかかるのでお先にと」
「はい、分かりました」
倉田は少し離れたところに行き、携帯を隠すように電話した。稀に竹垣のような堅物がいる。竹垣も所長の池田も役職は課長である。しかし大手ゼネコンの所長ともなると、年間少なくても数十億、数百億円の工事をこなしている。この莫大な予算に群がる下請けからの謝礼は半端な額ではない。したがって労務課の課長と現場所長とでは同格でありながら、その資金力には雲泥の差がある。多少赤字になろうと工期に間に合い事故さえ起こさなければ会社での評価も上がり、信用度も増すのである。竹垣のような堅物に現場サイドの過失でも指摘されるとマイナス点が加算される。池田はこの事故処理を穏便にすませてくれるよう定例の巡回時より手厚い宴を用意していた。
「竹垣課長、所長がどうしてもお出でいただきたいとおっしゃっておりますが」
竹垣は池田の強引なやり口に苦笑いした。
「あと一時間で終了しますからとお伝えください」
「はい、わっかりました」
狭間に詰め寄られた倉田の顔に笑顔が戻った。
「それじゃあ、みなさん、あちらに移動しましょう」
全員藤木が転落した場所まで移動した。
「それじゃあひとつひとつ検証していきますので。そうですねこの作業のリーダーの山崎さんお願いします。荷揚はリフトで十八階まで揚げて、そこからはかついで揚げたということですね」
「はい、長い四メーターパイプと足場板は手渡しで揚げました」
「あの非常階段ですね」
「はい、そうです」
「結構怖いですよね、踊り場では身体を半分乗り出さなければなりませんよね」
「そうですね、階段の手摺越しですから長物はかなり手に力が入ります」
「落としたら大変なことになる、下には誰か監視人がついていましたか?」
「いえ、いません」
「うわーっ、人が蟻みたいに見えますよ、それに大勢作業している。この踊り場から四メーターのパイプを落としたのを想像すると震えがきますね」
「ええ、見ないようにしています」
「まあ、時間的に数分、まあ十分くらいのことでしょうからカラーコーン(赤い三角錐でバリケードを簡易にしたもの)で囲んで監視人をつけるようにしてください。これ倉田さんお願いしますよ、足場の解体作業のときも逆の手順をするわけだろうから、これしっかりね」
「分かりました」
倉田がメモしながら返事をした。
「山崎さん、足場をかけるには三角屋根によじ登らなくてはなりませんが、どうやって?」
「エレベーター室の外部梯子で屋根に上がり、それから三角屋根のてっぺんに下りました」
「段差は二メートル近くありますね、どなたが?」
「私と事故にあった藤木さんです」
「よく立てましたねこの勾配のところに」
「三角の棟部分に跨いで立っていました。それでも足が疲れてしまうのでしゃがんだ状態で作業にかかりました」
「二人とも三角屋根に下りた?」
「まず私が下りて、藤木さんには材料を引っ張りあげてもらいました」
「下にはどなたが?」
「俺とこの関野です」
田中が関野のヘルメットを叩いて言った。
「お二人は下で材料を差し出したりしていたわけですね」
「はい、クランプのような小物は袋に入れて藤木さんにロープで引っ張り上げてもらいました」
「山崎さん命綱はどこに掛けていました?」
「エレベーター室の屋根にマルカン(パラペットの下部に、コンクリートを打ち込むさいに取り付けられた金具、ゴンドラなど吊るすときに使われる)から親綱を垂らし、ロリップ(親綱に取り付ける金具。片方はロープを挟み込み、もう片方の先端にはフックが付いている。そのフックに安全帯をかける。作業員が上がるときはロープの挟み部に余裕が出来、上がるに任せて動く、しかし、下りるときは作業員の重みでロープをしっかりと挟み込み、下がらないようになっている)をつけて命綱を使用していました」
「はいなるほど、まあそれから足場を組み立てていく過程で藤木さんが三角屋根に下りることになるわけですよねえ」
「はい、三角の下部から田中さんが枠組み足場を上げてきました、五段目の上部で三角の棟部と高さが揃いました。これを両サイドかけ終わり、棟から十センチ上げたところに、布パイプ(縦パイプと縦パイプを繋ぐ横パイプ)を一段取り付けるときに藤木さんが下りてきました」
「下りてきましたとは山崎さんの指示ではないのですか?」
山崎は一瞬返答に困った。本来は、関野を枠組み足場の五段目まで上らせて、布パイプの端部を固定させるつもりであったが、藤木が先に下りてしまったのである。大先輩の藤木に山崎も遠慮していた。
「田中さんが、左側の枠組み足場の上、関野が右側枠組み足場の上、私が三角屋根の棟の上にいて、足場から足場まで七メーター五十センチなので四メーターパイプを棟上でジョイント(パイプを連結させる金物)して取り付けるつもりでしたが、藤木さんが機転を利かせ、下りてきてくれたのです」
「ん、よく分かりませんねえ、山崎さんの指示ではなかったのですね?機転を利かせてくれたとは藤木さんが下りてきてくれてよかったと考えているわけですね」
関野が申し訳なさそうに前にしゃしゃり出て来た。
「僕が早く上ればよかったんだ、僕が機転を利かせ、足場の上に上ればよかったんだ、そうすりゃあ」
田中が関野のヘルメットをラジェット(クランプを締め付けたり、番線と言う針金を締め付ける先の尖った鳶職必携の道具)で叩いて言った。
「うるせえんだおめえは、バカッタレ」
カポッという乾いた音がみんなを笑わせた。関野がヘルメット掻いて笑っている。長井の息子だけが関野のどたばたに苦虫を噛み潰している。
「まあいいでしょう、どうやって下りてきましたか藤木さんは?」
「もう一本の親綱をマルカンから提げてそれを伝って、右側の枠組み足場まで下りるつもりでいたみたいです」
「ということはそこで転がり落ちたのですね?」
「ロッククライミングみたいにあのきつい斜面に直角に立って、ロープを握り身体を支えていました。命綱を安全帯から外し、ロリップにかけようとしたのでしたが、ロリップの位置が少し高かったので前屈みに手を伸ばしたときに足が滑り、そのまま下まで転がりました」
「エレベーター室の屋根から下りるときは安全帯をロリップにかけていなかったのですね、三角屋根に下りてから命綱をかけるつもりでいたわけですね藤木さんは?」
「残念ですがそういうことです。手を伸ばしたとき、ロープによりかかるように立って重心をとっていたのですが、それが少し前に体重をかけたときに踏ん張っていた右足が滑り、ロープを握る手が緩み、滑り落ちました。イモリのように屋根にへばりついた格好で枠組み足場に追突しました。そこで止まっていれば擦り傷ぐらいですんだかもしれないのですが、左足が足場の外にはずれてしまい、今度は身体が横になり、三角屋根下部から二メーターを一気に転げ落ちました。足の捻挫は枠組み足場に追突したときの衝撃で、腰他の打ち身は、足場に衝突したさい身体が九十度回転し、真横になって三角屋根下部からの段差を落ちた衝撃だと思います」
「あそこに黄色く筋がついているのはヘルメットが擦った跡です」
全員が黄色い筋を見つめている。
「藤木さんは滑ったとき下を確認することは出来なかったでしょうねえ、その余裕があれば枠組み足場の縦部に足をあずけられたかもしれない」
「一瞬のことでしたからねえ、下を見る間も、ロープを掴み直す余裕もないし、そんな判断は無理でしょう、ただ屋根にへばりついて摩擦でスピードを緩めようと必死だったと思うなあ、黄色い筋の両脇にわかりづらいけど薄く黒い線があるでしょう、あれは地下足袋の親指部分のゴムの跡ですよ」
全員が目を凝らして山崎の指摘した場所を見た。
「あっ、あるある、黄色い線を中心に二本の黒い線、それを線で結ぶと藤木さんの身体が浮かんできますね」
関野が、謎が解けた探偵のように言った。
「だからなんだってっんだ、おめえは黙ってろバカッタレ」
田中のラジェットが、今度は三発、関野の頭に振り下ろされた。関野は首にクッションがついているように叩かれるたびに伸縮させた。竹垣の顔にも笑みがこぼれた。
「あれ、うちの若い衆なんです。ふざけてるつもりはないんですけどすいません」
「いいじゃありませんか、二和建設も若い職人さんが少ないようだから、大事に育ててやってくださいよ、あんまりパカパカやると、ほんとのパかになっちゃうよ、ねえ~」
ねえ~だけを関野に向かって言った。
「はい~」
関野が竹垣の調子に合わせて返事をした。田中が呆れてラジェットを持ち直し振り上げたが竹垣が見ていたので止めた。
「はい、事故の概要は分かりました。それではまとめてみましょうか。まず第一の要因はなんといっても製品制度が粗悪であり、従来考えていなかったところに足場を整備しなければならなかった。これにつきるでしょう、これは大きな問題で、これから建設を取り巻く環境は益々厳しくなる中、コストダウン、工期の短縮を進めていく上で克服していかなければならない最重要事項でしょう。急ぐが上、または安いが上、だから制度が落ちても構わないというわけではありませんね、やはり実際にPCを組み立てて、収まりが悪ければ、責任として是正しなければならない。そして是正ばかりに頭がいってしまって、肝心な安全を省いてしまう、着工当初完璧に遵守されていた足場の組み立て手順が、時間、コストの犠牲になってしまっては事故はなくならない。これは残念ですが我々大竹に課せられた課題でしょう、藤木さんには誠に申し訳ないことをした」
織田をはじめ職人全員が竹垣のような価値観の職員に出会ったことがなかったので驚いた。事故と言うのは、ただ落ちたとか、転んだとか、切ったとかではなくて、それ以前に見落としている根本があることをみんなが知った。確かに藤木は命綱をかけるタイミングを逸して、滑って落ちたのだが、それは単なる結果であって、要因ではないのである。事故が起きると大概の職員は下請けを呼んで何故命綱を使わなかったのか厳しく追及する。次の仕事をちらつかせながら責任を押し付ける。しかし下請けは元受に、どうして元々計画のない場所に急遽足場をかけさせたのかなどと訴えたりはしない。黙って頭を下げて反省したふりをしていれば次の仕事をもらえるからである。
「これは本社に戻り次第、報告します。しかしいくら製品制度が向上しようと完璧ではありません。現場で人が作る以上、それは期待出来ないと思います。そうであるならば、やはりこういう状況も想定して対応していかなければなりません。そうするとまず足場の図面を描き、それを基にして作業手順を組み立てていく必要がありますよね。材料はどこから、誰がどうやって揚げるのか?組み立ては?誰の指示で作業するのか?作業員のポジションは?どうですか倉田さん、わたしの考え方に問題あるでしょうか?」
「いえ、その通りだと思います」
「みなさんは?織田さん、山崎さんどうでしょうか?宜しいでしょうか?ということは私の意見に基本的に賛成してくれたと了解しますよ。それでは第一に、足場の図面の作成、これがなされていなかった。致命的なミス、手抜き、責任放棄、あなたのことですよ倉田さん」
竹垣のきつい視線が倉田を一撃した。
「図面がない故に作業手順が確立出来なかった。職人達は安全体系が確立されていないのに作業しなければならなかった、これは大問題です。幸いにも軽症だったから責任の所在が曖昧にされていますが倉田さん、重大災害でしたら私がちょっと大声を出すくらいではすみませんよ。充分に反省して、これを教訓に、これからの作業に反映させてください」
「はい、分かりました」
「次に作業手順はみなさんプロですから頭の中で組み立てていたのでしょうがそれが上手く通じていなかった。山崎さんが考えていた配置が、本来ベテラン同士の間では、暗黙の了解とされているべきであるのに、少なくとも藤木さんには通じていなかった。それとも分かっていながら山崎さんの指示を藤木さんが無視したのか、つまり藤木さんは山崎さんをリーダーとして認めていなかった。どうです、私の考え過ぎでしょうか山崎さん?」
藤木は山崎を無視したわけではなく、またリーダーとして認めていないわけでもなかった。ベテランで技術力のある職人は、ほとんどが率先して、危険できついポジションついてしまうのである。技術は、ある程度まで達すると、あとは如何にそれを応用していくかで職人として差が出てくる。藤木の五十年のキャリアで習得した技術は織田班では群を抜いている。しかし、身体を動かすことを惜しまない藤木に欠けていたのは、統率力であり、上に立つという欲であった。それに中学すらろくに卒業していない彼は読み書きも不得手であり、監督との折衝や他職リーダーとのコミュニケーションを計る上で、最低限必要とされる読み書きも儘ならない自分はその任でないと自覚していた。しかしリーダーにはなれないが、職人としての技術では誰にもひけはとらないと自負している、六十五歳になった現在でもその自信と覚悟は変わらなかった。そしてそのことは本人だけではなく、二和建設の社員をはじめ、職人一同が感じていた。織田も、応援の山崎もそうであった。
「私は藤木さんに何も指示していません。藤木さんは自主的に下りてきたのです」
「あなたは彼が下りてくるのを一部始終見ていたわけですよね、止めることも出来た、下りてくる前にあなたの段取りを説明する時間もあったのにそれをしなかった。どうしてですか?」
「それは・・・藤木さんには現場状況で判断してもらい、そのように動いてもらうという関係にあったからです」
「関係とは先輩後輩ということですか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる