隠れて付き合っている完璧な天使様が、実は『経験済み』だなんてきっと誰も思わない。

もろ平野

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わるいこと、しよう。

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「……知佐くんってば~!」

はっとして顔を上げると、陽菜が腕の中から脱出してこちらを睨み上げていた。あっ、俺も寝てたわこれ、と気付く。

「ごめん、起こしてくれてた?」

「3回くらいね」

「かたじけない。しかし陽菜さんも寝てらっしゃっt……」

「それはいいの!」

「さいで」

静かな部屋に心地良い沈黙が流れる。沈黙が苦にならないというのは、普段思っているよりずっと貴重だよなぁ……などと寝ぼけながら考えていると。

「知佐くん、最初の『悪いこと』って覚えてる?」

文脈から察するに、

「コーラ」

「次は?」

「寄り道して買い食い。歩きながら食べましたね」

アイスを2つ。一度も放課後の買い食いをしたことがない、と言う彼女を連れてコンビニに行ったのだ。

「……一番直近の『悪いこと』は?」

「……それ口で言う?」

じーっ、と見つめられて、諦めて口を開く。思い出すだけで恥ずかしいんですが。

「この前放課後の教室で、……キスしたっすね」

新手の羞恥プレイかな?と内心悶えつつ、『天使様』の顔を見上げる。すると、梅雨の自販機に見た、どこか必死な表情で。

「……今日の『悪いこと』は、ないの?」

理由もないけれど息を詰めてしまって、その隙間にさらに言葉が重ねられる。

真っ赤な顔で、泣き出しそうにも見える顔で。

「今日、わたし、頑張って誘った…………だめ?」

「誘った、って」

思わず出た問いに、『天使様』はこくりと頷きを返す。

「『天使様』なら絶対言わないのかもしれない、けど、……私だって、先に進みたいんだよ……?」

瞳は熱っぽく潤んで、目が離せなくなる。

そして『天使様』……陽菜は、もう一言。

「……わるいこと、しよ?」






コトを済ませた後、もとい、『わるいこと』をした後。

「……こういうのって、こっちから言いたかったわぁ……」

今どき時代遅れかもだけど、と言って陽菜の方を見ると、『天使様』は掛け布団に包まって何やら悶えていた。

手早く服を着て、布団の上からポンポン、と頭のあるらしい辺りを撫でる。

撫でてみたはいいものの、何を言えばいいか分からず撫で続けていると、
「んっ……」

と、布団から顔だけを出してきた『天使様』と目が合う。

そのまま撫で続けてみると、気持ちよさそうに目を細めて笑う様子が猫のようで、思わずこちらも笑ってしまう。

ただ、まあ、何と言いますか。

「服着よっか、陽菜さん」

「~~~っ……!!」

『天使様』の脱いだ、もとい脱がせた服がどうにも生々しい、というかリアルで、正直目のやりどころに困ってるんですごめんなさい、と誰とはなしに謝ってみる。

「着替えるから出てってっ」

「はいっ」

数分後。

「……いいよ」

と許可が出たのでドアを開けると、ばすっ、と抱きついてくる。顔を見ようとすると、ぷいっ、と背けてくるので、恥ずかしさは消えていないらしいけれど。

『天使様』の背中に手を回して、ハグを返す。

「わるいこと、しちゃったね」

言葉とは裏腹に、嬉しそうに言う天使様は抑えきれなく弾んだ声で続けて、

「ひとつ、決めたの。……取りたい『100点』が出来たので、明日から見てて」

と言う。何のことか良く分からないけれど、悪いことではなさそうなので、

「うん」

と頷きを返す。

「そろそろ、皆さん帰ってきたりする?」

「……うん、そうかも」

「そっか、じゃあそろそろお暇しようかな」

実はご両親に挨拶させてもらったこともあるのだけど、今日ばかりは流石に気まずすぎる。
『天使様』は顔を肩に埋めたまま頷きながら、

「『わるいこと』、一緒にしてくれてありがとう」

と言う。懐いた猫よろしく顔をくっつけて離さないまま。……こっちの身がもたない、と口の中で呟いてから、耳元に囁きを返す。

「…………あんまり誘われると、抑えられなくなる」

ぼんっ、と音が立ちそうなくらいに『天使様』は顔を真っ赤にしたけれど、一瞬の間の後にカウンターを決めてきた。

「……私は、それでもいいよ」

そこからどうやって帰ったのか、どうにも記憶が薄い。無事に帰ったことは帰ったのだけれど、意識がはっきりしたのは風呂に入ろうと服を脱いだ時にふわりと甘くシャンプーが香った時である。お前バカになってるぞ、という指摘には耳を覆うことにしたい。







「——っくぅー、マジで『天使様』と修学旅行行きてえーっ」

「なあなあ時任、クラス委員の力でなんとかならねえ?」

はっ、と回想から覚めて目の前の友人2人を見る。昼休みの学食はまだまだ喧騒に包まれていて、伸び気味のラーメンを食べ切って答える。

「残念ながらならない。できたら俺が『天使様』と行こうとしてるよ」

返却棚に食器を載せたトレイを返し、秋が深まって寒くなってきた廊下に出る。寒い寒い、と言い合いながら教室に向かう。

階段を上がる途中、白峰が声を掛けてくる。

「時任、何かあった? 今日ぼーっとしてるように見えるけど」

……心当たりがありすぎる。木崎は「そうかぁ?」と言っているけれど。

「いや、そんなことないでしょ」

と、誤魔化しておく。それとほぼ同時に、木崎が目敏く教室前にクラスメイトと立っている遠くの『天使様』を見つけたので、有耶無耶になってほっと一息。

「あっ、『天使様』だ」

「お、ほんとだ」

こいつらずっと陽菜のこと話してるな、と思ったものの声には出さないでおく。

「さて、次のホームルームはお待ちかね、修学旅行の班決めだ」

「うっひょ~!」

「早めに誰か誘っとくとしようかな」

さて、と教室前に到着すると、『天使様』がこちら側に歩いてきた。何だろうと思っていると何と、俺の目の前で立ち止まる。

そして、一言。とんでもない爆弾発言が飛び出してきたのだった。

「時任さん、一緒に修学旅行に行きませんか?」

と。後ろで木崎が騒ぎ、白峰が唖然とし、高橋さんたち女子もぽかーん、としているけれど、ほとんど思考のうちに入ってこない。

そして耳元に口を近づけて、

「知佐くんの『100点』が取りたいんです」

と、はにかんだ声で『天使様』は囁いた。

「……うん、一緒に行こう」

と辛うじて返す。嬉しそうに『天使様』は笑って、「ホームルーム、始めましょうか」と教室に入る。

「…………クラス委員の力か?」

迷って、返す。

「…………いや、違うかも」

そういうことか、と納得すると同時に、胸の動悸が止まらない。けれどもそれは、決して不快なものではなくて。


だから、つまりはこういうことなのだろう。


もう一度、今度はこちらが捕まえて、耳元に言葉を落とす。

「ありがとう、あと、超可愛い」


————『天使様』との恋は、まだまだ始まったばかり。







———————————————————————
作者より

如何でしたでしょうか……!楽しんで頂けたなら幸いです。
運営さんに怒られない程度のエロさを入れたかったんです(自首)。

「天使様と付き合いたい……!」
「修学旅行行きたい……」
「この2人がもっと見たい!」
と思って頂けましたら、是非ブックマークと評価を宜しくお願いします。モチベーションに繋がりますので……!

それでは、またどこかで!
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