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一話完結:クロガネ様の願い札は、どれです?

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「第一王子様は、私ではなく、あのお姉さまを婚約者として、選んだのですか」

 驚きました。私は銀髪のギンチヨ、侯爵家の次女です。


 姉と第一王子の婚約は、侯爵家として、喜ばしい事であります。

 姉と第一王子の二人は、学園の同級生でした。
 姉は、金髪の美人で、周りからは優等生に見えています。

 でも、姉は、学園を卒業してから、裏で隠れて遊び歩いていることに、私は気が付いています。

 多くの令息を誘惑して騙し、ついには、第一王子の気を引くことに成功したようです。


 第一王子のことは、詳しく知りませんが、このまま姉が王妃になって、国政は大丈夫なのでしょうか?

 男性なんて、信じられない生き物です。


    ◇


 王宮での婚約パーティーに参加しています。


「え? 第一王子様の親友が亡くなられたのですか」

 第一王子の親友は、姉から誘惑され騙された令息です。

 お話を聞けたらと思っていましたが、叶わなくなってしまいました。


「私の婚約者を侮辱したこの令嬢を追い出せ!」
 第一王子が、姉の親友を断罪しました。

 彼女は、姉の裏の顔を知っており、彼に再考を進言したようです。

 でも、追い出せって? 追放じゃないのですね。

 彼は、もしかして、姉に疑問を持っているのでしょうか。親友が亡くなったことに疑問を抱いているのでしょうか。

 第一王子は、栗毛のイケメンで、学園時代の成績も良かったはずです。



「ギンチヨ嬢、これからは義兄弟になるのだから、次の休日、一緒に食事へ行かないか」

 第二王子のクロガネ様が、私にアプローチしてきました。
 彼は、黒髪のイケメンで、学園の同級生です。

「私は、休日も、学生として、学業に専念したいと思います」
「第二王子様は、宿題を終えられたのですか?」

 男性を信じられない私は、誘いを断りました。


    ◇


 神殿の図書館で勉強しているときです。
 正面にクロガネ様が座って来ました。

「偶然だな、ギンチヨ」

「珍しいですね、第二王子様が図書館に来るなんて」

 彼は、王族専用の家庭教師を雇っており、成績優秀で、図書館に来る必要なんて無いはずです。
 誰かが、私の行動や好みを、彼に話したのだと思います。


「いま読んでる恋愛小説に分からない単語があるので、調べに来たんだ」

 彼のことは警戒していますが、恋愛小説は、私の得意分野です。

「どこですか? その単語はですね……」

「神殿の中でファーストキスをすると、二人は結ばれて、幸せになるという言い伝えがですね……」

 しばらく、恋愛小説の話題で盛り上がりました。
 彼への警戒心は、解けました。



 一緒に図書館を出て、神殿の中、ペガサスの絵が描かれた木の札に、願い事を書いて、下げている場所の前に来ました。

「懐かしいですね、中等部の時に、みんなで願い事を書いて、下げましたね」

「あ、あぁ」
 クロガネ様は、生返事です。

「クロガネ様の願い札は、どれです?」

「見るな!」
 彼の動きで、どの願い札か、バレバレです。

 願い札の表に“宿題が無くなりますように”と、書かれているのが見えました。

 これは、隠したくなりますね。


    ◇


 王宮での夜会に呼ばれました。

 侯爵家の令嬢、ましてや王妃となる女性の妹として、断ることはできません。


「ギンチヨ嬢、俺と踊ってくれないか」
 第二王子のクロガネ様からダンスに誘われました。

 彼は、ダンスのリードが上手く、会話も楽しいです。


「楽しかった、バルコニーで少し涼もう」
 二人でバルコニーに出ます。

 たそがれ時の風が、心地よいです。

「貴女の銀髪は美しいな」
 彼が、私の髪を撫でました。

「クロガネ様……」
 キスをする雰囲気になってきました。

「王族としての仕事がある、失礼する」
 後ろめたい事でもあったのか、彼は逃げました。

「なんなのよ、もう!」


    ◇


 また、王宮のパーティーに呼ばれました。

 前回のことがあるので、参加したくはなかったのですが、立場があるので、しぶしぶ参加しています。


 第二王子のクロガネ様が見えます。あれから、学園でも避けています。

 私がバルコニーへ逃げたら、彼が追って来ました。

「ギンチヨ嬢、先日はすまなかった」
「俺の気持ちを整理したので、もう一度、やり直したい」

 え? 彼は、私の肩を掴み、キスする雰囲気になってきました。

「クロガネ様……」


「ここにいたのか」
 突然、第一王子がバルコニーへ来ました。

 もう少しだったのに……


「先日、第二王子が失礼をした。怒らないでくれ。こいつに、貴女の姉のことを探るように頼んだのは私だ」

「どういうことですか?」

「冷静になって考えてみたら、私は彼女が信じられなくなってきた。こいつは貴女の同級生なので、芝居でデートに誘って、情報を聞き出してもらっていたんだ」

「第二王子様が、芝居で私を誘っていたこと、解りました」

 私のこめかみに青筋が立っていると思うのは、気のせいではありませんよね。


「姉の裏の顔は、もうご存じなのでしょ!」
「では、私は、失礼します」

 怒って、バルコニーを出ていきます。

「ギンチヨ……」
 クロガネ様は、泣きそうな顔です。

「サヨナラです、第二王子様」
 そのまま、王宮から出ていきました。



    ◇



 後日、第一王子は、姉との婚約を破棄しました。

 王族への不敬と不貞の罪で姉を断罪した後、第一王子は、混乱の責任をとって、王太子の座を返上しました。


 私は、図書館で勉強しようとしましたが、一人ボッチだと泣いてしまい、ノートを汚すだけです。


 帰ろうと図書館を出て、願い札の前まで来た時です。

「クロガネ様が中等部の時に書いた願い札……」
 表に“宿題が無くなりますように”と、願いが書かれています。

 ふと、願い札を手に取り、裏を見ました。
「え!」


 裏には“ギンチヨ嬢と結ばれますように”と、願いが書いてあるのを見つけました。


「私は、彼を誤解していたのですね」
 急いで、彼に会いに行かなければ! 走ります。


 あ、神殿の出口に、彼が立っていました。

「ここにいたのか、お願いだ、俺の話を聞いてくれ、先日の誤解を解きたいんだ」


「もう、誤解は解けていますよ、クロガネ様」
 彼の瞳は、つやのある黒色で綺麗です。

「俺のプロポーズを受けてくれ、ギンチヨ」
 彼は、立ったまま、プロポーズをしました。

「恋愛小説のような、甘い言葉はないのですか?」
 彼の胸に飛び込みます。

「俺は、言葉より、行動で示す方が得意なんだ」


 私たちは、神殿の中で、ファーストキスをしました。



 ━━ FIN ━━




【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
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