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第二幕

哲子さん、あなたそういう趣味が…?

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その夜。

「ああ~痛いぃ~」

ペンションの個室のベッドで哲子は伸びていました。

久しぶりに身体を動かしたため、腰を痛めてしまったのでした。

「紫さん、悪いけど腰に湿布貼ってくれない?」

「いいけど、湿布貼ったまま夜這いに行くの?メントールの匂いじゃ、彼も萎えちゃうんじゃない?」

「だってしょうがないじゃない。痛いんだもの。紫さん香水とか持ってない?」

「ごめんなさい。お線香しかないわ」

「だと思ったわ。仕方ないから近くのドラッグストアで香水買ってくるわ」

哲子はリュックを開けて貴重品袋を探しました。

しかし。

「おかしいわね…。どこにもないわ」

「本当に?取り合えず中身を全部広げてみたら?」

哲子は言われた通りリュックをひっくり返して中身を床に全部出しました。

お菓子や洗面道具、救急道具、着替え、飲み物、その他諸々。

貴重品袋はどこにも見当たりません。

「どうしましょう。財布の他に携帯電話も入っていたのに…」

「この巾着袋は?」

「それは違うわ」

哲子は高岡さんから巾着袋を取り返そうとしましたが、もうすでに高岡さんは袋を開けていました。

「目隠しに猿ぐつわ、それに…鞭…?哲子さん、あなたそういう趣味が…?」

「アイマスクと小顔矯正マスクよ。それは鞭じゃなくてフィットネスチューブ」

「誤魔化さなくてもいいのよ。恥ずかしがるような年齢でもないでしょ?」

「だから違うって言ってるでしょ」

「仏壇用の蝋燭ならあるけど、今夜のプレイに使う?」

「使わないわよ。そんなことより私の財布と携帯よ。やっぱりフロントに紛失届け出した方がいいかしら」

「もっと手っ取り早い方法があるわ」

高岡さんは自分の携帯を取り出し、哲子の携帯に電話を掛けました。

「ちょっと、紫さん…」

哲子は呆れぎみにため息をつきました。

「きっと外で落としたのよ。携帯鳴らしてもここじゃ聞こえないわよ」

ところが次の瞬間。

なんと隣りの部屋から、荒城の月着信音が聞こえてくるではありませんか。

「あれって哲子さんの携帯の着信音よね?」

「ええ。私達の隣りって、誰の部屋かしら」

「ちょっと見に行ってみましょう」

二人は廊下に出て隣りの部屋の扉に近付いていきました。

若い男性二人の話し声が聞こえます。

「おい、皇潤。ちゃんと電源切っとけよ」

「悪りぃ悪りぃ。財布の中身、いくら入ってた?」

「あ~。二万ちょっとって感じだな」

「チッ…。年寄りだから大金持ち歩いてると思ったのに」

「ま、遊ぶ金ぐらいにはなるだろ」

「この携帯、一緒に持って来ちまったけどどうする?フロントに届けとくか?」

「バーカ。捨てるに決まってんだろ」

「捨てるってどこに?」

「浜辺だよ。どうせ明日も行くだろ。今度はもっと金持ってそうなカモ見つけてこいよな」

「わかってるよ」

扉の前で、哲子は怒りに身を震わせていました。

「酷い…酷いわ、皇ちゃん!」

両手で顔を覆い、泣きながら自分の部屋へと戻っていきました。

「哲子さん、元気出して。男なら別の部屋にもいるわよ」

「夜這いをかける元気なんてとてもじゃないけど出ないわ。なんとかしてあの二人に仕返ししてやりたい…」

「気持ちはわかるけど、相手はスリの常習犯みたいだし、泣き寝入りするしかないんじゃないかしら」

「もう…相変わらず冷たいわね。私は腹が立って仕方ないわ。一発ずつ殴るだけじゃ収まらないくらいよ」

「そうね。この世が法と秩序で守られていなければ、二人仲良く棺に押しこんで生きたまま火葬してやるのに」

「…」

哲子は一息置いてから、

「財布はともかくとして、なんとか携帯だけは取り返せないかしら。あの携帯には思い出の写真がたくさん入ってるの」

「うーん…。あっ!そうだわ。哲子さん、あなた常備薬セット持ってきてたわよね」

「ええ。胃薬とか下剤とか酔い止めとか、色々入ってるわ。でも何に使うの?」

「ちょっといいことを思いついたの」
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