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「……オ、オベロンじゃないの?」
妖精王だなんて突拍子もない単語を言われた私が最初に返したのは、元祖妖精王の名前だった。というか、むしろ妖精王だなんて『真夏の夜の夢』に出てくるオベロンしか知らない。名前だってほぼオベロンだし。
「ああ、オベロンはじいさんだ」
まさかの血縁! そうくるとは思わなかった。
「で、でも妖精だなんて、イギリスとかフィンランドとかが生息地じゃないの?」
妖精といえばイギリスというイメージだし、フィンランドにはカバによく似た妖精もいたはずだ。確か北欧には、伝統的なエルフの王がいた気がする。それに、日本は妖精ではなく妖怪が大手を振って歩いているので、少々ジャンルが違う気もするのだ。
でもまぁ、いずれにせよファンタジー大好きな私としては、ちょっとテンションがあがってしまうのは、正直なところ。見た目だけは完璧な妖精だし。何故かTシャツにジーンズ姿だし、言葉は少々悪い気がするけれど。
「少し前までは、お前が言うそのイギリスにいたんだが、この国の人間の話に興味を持って、引っ越してきた」
「引っ越し……」
妖精って引っ越しするんだ。
「この国に来てしばらくふらふらしていたが、そのうちにたどり着いた場所が、ちょうどバラの花がたくさんあって、居心地が良くてな。花の蜜をいただきながらのんびり過ごしていたのだが、気付いたらお前の顔が目の前だった」
「ということは、谷崎農園さんのバラ園で過ごしてたってことよね。谷崎農園さんって九州だけど、移動中に気づかなかったの?」
「昼寝を数日していたが、ゆりかごみたいに揺れていて、寝心地は最高だったぞ」
まさかの宅配便のトラックがゆりかご! 日本の物流はなんと丁寧な運び方をしてくれているのだろうか。思わず手を合わせそうになる。
「……ん? 昼寝を数日?」
「ああ。どのくらい過ぎてるかは知らんが、昼寝の前日はカンカン照りで暑くてな。疲れてしまった。寝始めた日は雨だったな」
スマートフォンの天気予報で、谷崎農園さんのある佐賀県の天気のログを確認する。
「カンカン照りの翌日が雨の日……って、四日前じゃないの!」
この男は、四日も眠りこけていたのか。ということは、イギリスにいたという『ちょっと前』も、全然ちょっとじゃない気がしてきた。
「ねぇ、妖精王」
「妖精王は肩書きだ。俺の名前はオールベロンだと言っただろう」
不満気な顔を隠しもせずに彼は飛び立ち、私の鼻に指先を当てた。え、飛べるんだ。よく見れば背中に半透明の羽が見える。蝶々とトンボの間くらいのサイズの羽だ。
「じゃぁオールベロン──長いな。オルで良いか」
「オル。オル……。ふむ、悪くない」
文句を言い出すかと思ったら、思いのほか気に入ったようで、口の端をわずかにあげた。わかりやすい男だな。
「オル、イギリスにはいつまでいたの?」
「知らん」
「知らん、て」
「そんなもん、知ってどうする」
「別に知ってもどうにもならないけど、気になるじゃん?」
妖精王の時間感覚なんて、普通に生活していたら知ることもないし。まぁ、知る必要性もないんだけどさ。でも、せっかくこんなファンタジーな状況になっているのだ。知れることは知りたい。
オルは少しだけ首をひねりながら、空中であぐらを組みぐるぐると回り始めた。宙であぐらを組むだなんて、器用なものだ。
ついつい、指先でちょん、と押してみる。今度はまるで鉄棒で前転するように、前回りを始めた。頭に血が上らないのだろうか。
「おい、妖精で遊ぶな」
「あ、そこは『人で遊ぶな』じゃなくて『妖精で遊ぶな』になるんだ」
「人ではないからな」
「確かに」
そうじゃない。
「それで?」
「なにが」
「いつイギリスにいたのかを、思い出そうとしてくれたんでしょ?」
「ああそうだった」
妖精って忘れっぽいのだろうか。それとも、実はすごい年寄りなのだろうか。小さいけれど、顔の見た目は二十代半ばくらいのイケメンなんだよねぇ。
「たしか、そのときの統治者は女王だった」
「女王……。ちなみについ最近までイギリスはエリザベス二世という女王陛下がいたけど」
「エリザベス……。その名前は知っているが、一世の方だな。だがその頃よりももう少し最近までいたぞ」
「いや、エリザベス一世ってすごい昔の人だけどね?」
これはいよいよ、妖精王にとっての『ちょっと前』は、全然ちょっと前じゃないことが濃厚になってきた。
妖精王だなんて突拍子もない単語を言われた私が最初に返したのは、元祖妖精王の名前だった。というか、むしろ妖精王だなんて『真夏の夜の夢』に出てくるオベロンしか知らない。名前だってほぼオベロンだし。
「ああ、オベロンはじいさんだ」
まさかの血縁! そうくるとは思わなかった。
「で、でも妖精だなんて、イギリスとかフィンランドとかが生息地じゃないの?」
妖精といえばイギリスというイメージだし、フィンランドにはカバによく似た妖精もいたはずだ。確か北欧には、伝統的なエルフの王がいた気がする。それに、日本は妖精ではなく妖怪が大手を振って歩いているので、少々ジャンルが違う気もするのだ。
でもまぁ、いずれにせよファンタジー大好きな私としては、ちょっとテンションがあがってしまうのは、正直なところ。見た目だけは完璧な妖精だし。何故かTシャツにジーンズ姿だし、言葉は少々悪い気がするけれど。
「少し前までは、お前が言うそのイギリスにいたんだが、この国の人間の話に興味を持って、引っ越してきた」
「引っ越し……」
妖精って引っ越しするんだ。
「この国に来てしばらくふらふらしていたが、そのうちにたどり着いた場所が、ちょうどバラの花がたくさんあって、居心地が良くてな。花の蜜をいただきながらのんびり過ごしていたのだが、気付いたらお前の顔が目の前だった」
「ということは、谷崎農園さんのバラ園で過ごしてたってことよね。谷崎農園さんって九州だけど、移動中に気づかなかったの?」
「昼寝を数日していたが、ゆりかごみたいに揺れていて、寝心地は最高だったぞ」
まさかの宅配便のトラックがゆりかご! 日本の物流はなんと丁寧な運び方をしてくれているのだろうか。思わず手を合わせそうになる。
「……ん? 昼寝を数日?」
「ああ。どのくらい過ぎてるかは知らんが、昼寝の前日はカンカン照りで暑くてな。疲れてしまった。寝始めた日は雨だったな」
スマートフォンの天気予報で、谷崎農園さんのある佐賀県の天気のログを確認する。
「カンカン照りの翌日が雨の日……って、四日前じゃないの!」
この男は、四日も眠りこけていたのか。ということは、イギリスにいたという『ちょっと前』も、全然ちょっとじゃない気がしてきた。
「ねぇ、妖精王」
「妖精王は肩書きだ。俺の名前はオールベロンだと言っただろう」
不満気な顔を隠しもせずに彼は飛び立ち、私の鼻に指先を当てた。え、飛べるんだ。よく見れば背中に半透明の羽が見える。蝶々とトンボの間くらいのサイズの羽だ。
「じゃぁオールベロン──長いな。オルで良いか」
「オル。オル……。ふむ、悪くない」
文句を言い出すかと思ったら、思いのほか気に入ったようで、口の端をわずかにあげた。わかりやすい男だな。
「オル、イギリスにはいつまでいたの?」
「知らん」
「知らん、て」
「そんなもん、知ってどうする」
「別に知ってもどうにもならないけど、気になるじゃん?」
妖精王の時間感覚なんて、普通に生活していたら知ることもないし。まぁ、知る必要性もないんだけどさ。でも、せっかくこんなファンタジーな状況になっているのだ。知れることは知りたい。
オルは少しだけ首をひねりながら、空中であぐらを組みぐるぐると回り始めた。宙であぐらを組むだなんて、器用なものだ。
ついつい、指先でちょん、と押してみる。今度はまるで鉄棒で前転するように、前回りを始めた。頭に血が上らないのだろうか。
「おい、妖精で遊ぶな」
「あ、そこは『人で遊ぶな』じゃなくて『妖精で遊ぶな』になるんだ」
「人ではないからな」
「確かに」
そうじゃない。
「それで?」
「なにが」
「いつイギリスにいたのかを、思い出そうとしてくれたんでしょ?」
「ああそうだった」
妖精って忘れっぽいのだろうか。それとも、実はすごい年寄りなのだろうか。小さいけれど、顔の見た目は二十代半ばくらいのイケメンなんだよねぇ。
「たしか、そのときの統治者は女王だった」
「女王……。ちなみについ最近までイギリスはエリザベス二世という女王陛下がいたけど」
「エリザベス……。その名前は知っているが、一世の方だな。だがその頃よりももう少し最近までいたぞ」
「いや、エリザベス一世ってすごい昔の人だけどね?」
これはいよいよ、妖精王にとっての『ちょっと前』は、全然ちょっと前じゃないことが濃厚になってきた。
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※この物語はフィクションです。
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