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しばらくの間、会話もなく過ごしていたが、手にしていたシェイクも飲みきった。時計を見ればまもなくお昼だ。
「んじゃ、赤尾さんに次に進められた場所に行こう」
車に乗りこみ、再び走り出す。次に目指すは富楽里という道の駅だ。そこのつみれ汁がたいそう美味しいらしい。しかも、一階には採れたて野菜や魚の市場があるという。このあたりの中では一番お勧めの市場だというので、楽しみだ。ただ、明日までもう一泊あるので、生ものは買えない。どうせなら魚も買っていきたかったので残念。
「あ、ここだここだ」
この道の駅は、二階が高速道路と繋がっていて、一階は一般道。それぞれの利用者が食事や買い物ができる作りになっている。なかなかよくできている。
「へぇ、活気に溢れてるね」
一階の市場は、食事のあとにゆっくりと回ることにして、まずはつみれ汁だ。階段で二階にあがると、フードコートのような形でテーブルが並んでいる。
「あ! あの店だと思う。つみれ汁」
暖簾につみれ汁、と書かれている店で、つみれ汁と鮭おにぎりのセットを購入した。あわせてもワンコイン以下。え、安い。大丈夫? ありがたや……。
このフードコートでも、オルは目立っている。まあ、考えたらインバウンドでこのあたりに来る外国人ってそんなにいないのかもしれない。
今回来て感じたけど、南房総、最高よね。自然もたくさんだし、東京からそんなに離れてもいない。そして食べ物が美味しい。
「コノシロって魚をすり身にしてるんだって」
大きな器に二つ入ったすり身を、割り箸で食べる。考えたら、オルって難なくお箸使ってるよね。
「なんだ?」
「箸、使うの上手だよね」
「花農家でずっと見てたからな」
「そのときは、花農家さんのご飯とか食べなかったの?」
「無断で少々いただいたことはあるが、大きくはなれなかった」
どうやら彼の姿を認識できる人はいなかったようだ。
「確かに、突然こんなでかい人間が家の中にいたら、ただの不審者だわね。泥棒よ」
オルも自覚があるのだろう。苦笑いを浮かべる。
「まぁ、弥生が特殊なんだ。昼寝の最中に運ばれてきたのも、縁があったのだろう」
どんな理由で私に彼が見えるのかは良くわからない。ただそんなことなど、どうでも良いのだ。今私の目の前に、オルがいて一緒に食べているという、たったそれだけのことが、つみれ汁の味をさらに美味しくさせてくれているのだから。
「出汁が効いていて良いな」
「なんでそんな、グルメ漫画みたいな発言出てくんのよ」
「弥生が会社で、俺が留守番している日に、テレビで見てる」
「えっ、ちょっと。何勝手にテレビ見てくつろいでるの」
単に昼寝しているだけだと思ったら、まさかのリラックス具合である。どうやら何かの再放送を見ていたらしい。
「うん、満足だ。どれ、下の市場でも見に行こうではないか」
これは完全にごまかしている。まったく、節約している私としては、テレビも処分するか迷っているというのに。電気代、今月あがってたの、もしかしてもしかしなくても、オルが昼間使っていたからじゃ……。
それに気付き、思わずオルを睨んでしまった。
「ほら、早く行くぞ」
オルも、どうやら睨まれる心当たりがあるのか、私を急かす。今度から留守番をさせるのはやめよう。そう心に誓ったのだった。
一階の市場でいくつか野菜を買い込む。うっかりたくさん買いそうになったけど、帰り道を考えて量を減らした。
そこから車を走らせ、途中で小道に入る。左側にアメリカのスクールバスが、意気揚々と止まっていた。赤尾さんのお勧めその三だ。敷地内に入り、駐車場に車を止める。車から降りると、バスの近くに寄っていった。
「おお、格好かわいいねぇ」
「そうか? 俺にはいまいちわからないが」
妖精王には、この黄色い大きなスクールバスの魅力はわからないか。まぁ自然の中が生活の拠点の男だ。こうした文明の利器の魅力はわかるまい。
「今ものすごく失礼なことを考えてただろう」
「なんでそんなことまで、わかるのよ」
「やっぱり!」
むにぃ、と私の頬を両手で押しつぶす。ちょっと、元が一般的日本人の私がそんなことをされたら、目も当てられない顔になるでしょうが!
その手を上下に動かされ、すっかりフェイスエクササイズが始まってしまうところだった。心なしか、顔の凝りが取れた気がする。妖精王の手のひらって、まさかそんな力があるのか?
「ないぞ」
「だから、勝手に私が考えていそうなことに対して返事しないでよ」
「んじゃ、赤尾さんに次に進められた場所に行こう」
車に乗りこみ、再び走り出す。次に目指すは富楽里という道の駅だ。そこのつみれ汁がたいそう美味しいらしい。しかも、一階には採れたて野菜や魚の市場があるという。このあたりの中では一番お勧めの市場だというので、楽しみだ。ただ、明日までもう一泊あるので、生ものは買えない。どうせなら魚も買っていきたかったので残念。
「あ、ここだここだ」
この道の駅は、二階が高速道路と繋がっていて、一階は一般道。それぞれの利用者が食事や買い物ができる作りになっている。なかなかよくできている。
「へぇ、活気に溢れてるね」
一階の市場は、食事のあとにゆっくりと回ることにして、まずはつみれ汁だ。階段で二階にあがると、フードコートのような形でテーブルが並んでいる。
「あ! あの店だと思う。つみれ汁」
暖簾につみれ汁、と書かれている店で、つみれ汁と鮭おにぎりのセットを購入した。あわせてもワンコイン以下。え、安い。大丈夫? ありがたや……。
このフードコートでも、オルは目立っている。まあ、考えたらインバウンドでこのあたりに来る外国人ってそんなにいないのかもしれない。
今回来て感じたけど、南房総、最高よね。自然もたくさんだし、東京からそんなに離れてもいない。そして食べ物が美味しい。
「コノシロって魚をすり身にしてるんだって」
大きな器に二つ入ったすり身を、割り箸で食べる。考えたら、オルって難なくお箸使ってるよね。
「なんだ?」
「箸、使うの上手だよね」
「花農家でずっと見てたからな」
「そのときは、花農家さんのご飯とか食べなかったの?」
「無断で少々いただいたことはあるが、大きくはなれなかった」
どうやら彼の姿を認識できる人はいなかったようだ。
「確かに、突然こんなでかい人間が家の中にいたら、ただの不審者だわね。泥棒よ」
オルも自覚があるのだろう。苦笑いを浮かべる。
「まぁ、弥生が特殊なんだ。昼寝の最中に運ばれてきたのも、縁があったのだろう」
どんな理由で私に彼が見えるのかは良くわからない。ただそんなことなど、どうでも良いのだ。今私の目の前に、オルがいて一緒に食べているという、たったそれだけのことが、つみれ汁の味をさらに美味しくさせてくれているのだから。
「出汁が効いていて良いな」
「なんでそんな、グルメ漫画みたいな発言出てくんのよ」
「弥生が会社で、俺が留守番している日に、テレビで見てる」
「えっ、ちょっと。何勝手にテレビ見てくつろいでるの」
単に昼寝しているだけだと思ったら、まさかのリラックス具合である。どうやら何かの再放送を見ていたらしい。
「うん、満足だ。どれ、下の市場でも見に行こうではないか」
これは完全にごまかしている。まったく、節約している私としては、テレビも処分するか迷っているというのに。電気代、今月あがってたの、もしかしてもしかしなくても、オルが昼間使っていたからじゃ……。
それに気付き、思わずオルを睨んでしまった。
「ほら、早く行くぞ」
オルも、どうやら睨まれる心当たりがあるのか、私を急かす。今度から留守番をさせるのはやめよう。そう心に誓ったのだった。
一階の市場でいくつか野菜を買い込む。うっかりたくさん買いそうになったけど、帰り道を考えて量を減らした。
そこから車を走らせ、途中で小道に入る。左側にアメリカのスクールバスが、意気揚々と止まっていた。赤尾さんのお勧めその三だ。敷地内に入り、駐車場に車を止める。車から降りると、バスの近くに寄っていった。
「おお、格好かわいいねぇ」
「そうか? 俺にはいまいちわからないが」
妖精王には、この黄色い大きなスクールバスの魅力はわからないか。まぁ自然の中が生活の拠点の男だ。こうした文明の利器の魅力はわかるまい。
「今ものすごく失礼なことを考えてただろう」
「なんでそんなことまで、わかるのよ」
「やっぱり!」
むにぃ、と私の頬を両手で押しつぶす。ちょっと、元が一般的日本人の私がそんなことをされたら、目も当てられない顔になるでしょうが!
その手を上下に動かされ、すっかりフェイスエクササイズが始まってしまうところだった。心なしか、顔の凝りが取れた気がする。妖精王の手のひらって、まさかそんな力があるのか?
「ないぞ」
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