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1部 おっかなびっくり放浪編
14 夜宴
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連れてかれた船上には数十人の海賊がいた。
「よう、来たか!」
「まぁ、ゆっくりしていけ!」
「なーんも無いけどな!」
「ぎゃははは!」
「……ど、どうも」
探知すると15人。
いや16、17人……あ、また一人増えた。
どこから出て来た? と思ったらネチャっと何かを踏んだ。見ると船上の床にこびりついていた発光する緑色の液体……初日に鑑定した『海賊の発光液』だ。
そこからぼやぁっと湯気が立ち上がり、私の目の前で人の形になって……海賊が現れた。味のあるバンダナをした片目が無いおじさんだ。
「よう、姉ちゃん! 俺にも酒くれ!」
ガシッと肩を掴まれて私は雄叫びをあげた。
「ぎゃははは! で、それで結局『うんこ』とは吐き捨てずに家を飛び出したのかよ! 堪え性ねーな! 」
「つーか、その山菜マスターかなりのむっつりだな! 俺なら正直にヤラせてくれって拝み倒すぜー!」
「待て待て待て! バネリ大佐の遊行船って伝説級の魔導船じゃねーか! あれゴジョプ提督も狙ってた船だろ!」
「はいはい、バネリもゴジョプもおとぎ話な? それより俺の話を聞いてくれ!」
「マジかよシミューズ運河廃路になったのか! 俺はあの水路建設で随分と日銭を稼がせてもらったんだぜー!」
「なぁリリー! 茶屋のねーちゃん、胸おっきかったか!?」
「胸より尻だろ! 女は尻が大きくないとなぁ!」
「ぎゃははは!ケツ軽はヤった気がしねーよな!」
「「「ぎゃははは!」」」
ゴジョプ提督? 北ドミナリー海の天空に存在する大陸『シャドー』を最初に発見した伝説の魔術師だ。公式に載ってる情報だからおとぎ話じゃない。
天空の大陸か……一度は行ってみたいな。
「もう一本追加ー!」
「おーい、つまみー!」
「はい、はい、はいはいっ」
海賊達に催促された身の上話も程々に、そこらじゅうに転がる潮ワインと波ビールの瓶を避けて海賊幽霊船の船上を駆け回る。船に招待されてから既に一時間……未だ水着姿でなにやってんだろ私。
「……ヒック……あぁ。うまいビールだ。人魚の墓で飲んだ酒を思い出すなぁ……」
こうまでして海賊達のコンパニオンに徹するのも訳がある。
「あらナゴンさん、人魚の墓に行ったんですか?」
副船長のナゴンさん。
さっきから飲んでるそれ、潮ワインを波ビールと勘違いして酔っ払ってる人だ。おつまみに熱々の一角ブタのホルモンを出す。
「ん? ああ、リリーがまだ生まれる前のことだ。俺は15歳の時、巨大な海王蛇に飲み込まれ、しばらくそいつの胃の中で生活していたんだ。そこで山積みになった人魚の死体を発見した……知ってるか? 人魚ってな、死んでも腐らねーんだ」
「また始まったよナゴンさんの嘘が!」
「ぎゃははは!」
「チッ……てめーらには話してねーよ! 俺はリリーに聞かせてんだ!……それにしてもこの煮込み料理うまいな。流石は王都からきた商人だ」
イベントのコラボフードで手に入れたフライしたチキンも出す。熱々のポテトも添えて。
「「「おお~!!!」」」
やだ。野郎共の目がハート。
ちょっと背筋が寒イボ。
「でもなんで海王蛇のお腹に人魚の墓が? 普通、消化されないなら排泄されちゃいますよね? 胃のどの辺りだったんでしょうか?」
人魚の墓は……前世でも見つけることは出来なかった。公式でも海王蛇の体内と載っていたけど、どれだけ体内を探しても人魚の墓は見付けられなかった。
「さぁな。解ることはただ1つ、俺は人魚に生かされたんだ」
「…………そうですか」
「それにしてもリリー、お前は可愛いな」
飲み過ぎだよ。
さっきからナゴンさんが熱心に話し掛けてるそれ、潮ワインの瓶の底だからね。
「そもそも、海王蛇が人魚を食べますか?」
「海王蛇は人魚を食うわけじゃない」
ボソッと答えた船長がチキンにかぶり付き、目を見開いた。
「うめぇ! これはビールに合うな!」
「食べるわけじゃない、とは?」
「ん? ああ、人魚の肉は蛇にとったら毒だからな。だから胃の中に入れたら胃液を出さないようにするんだ。だから人魚は腐らない」
「へぇ……胃の中に入れる理由って……?」
船長なにか知ってそうだな。ナゴンさんが話してる時も一人だけ真顔だったし。
「海王蛇はそこらじゅうの生物を丸飲みするんだよ。とくに発情期は気性が荒くてな、大型船だろうがお構い無しだ。一発で穴あけられちまうぜ」
「…………はは、私の船なら、ひとたまりもないですね」
この船……海王蛇にやられたのか。
波ビールの瓶を片手に船長が立ち上がった。あ、おかわりですね。空瓶を受け取って新たなビールを渡す。
「さっきから思ってたけどアンタの出す酒はほんとキンキンに冷えてやがるぜ! どーなってんだこれ!」
「喜んで頂けてよかった。で、人魚の墓ってどこにあるんですか?」
「……なんだ、商人の血が騒ぎだしたのか? ハッ、お子様に人魚は捕まえられねーよっ」
からかうように言われ、頭をガシガシと撫でられた。そして踵を返した船長の手首を掴む。
「人魚って女しか生まないのよ」
「ん?」
「だから繁殖で地上に上がるとき、喉仏の骨を外すんです。人魚は声が唯一の武器ですからね。人間に害をなす気はないと、意思表示するんです。そこで人間の男に子種をもらう……でしょう?」
「……何故……そのことを? いや、商人ならどこかで情報を知ったのか……」
これはストーンバイで手に入れた人魚の歌声(喉仏の骨)を鑑定したら解った情報だ。人魚と夫婦になり、その際、喉仏の骨を貰った海賊の手記から得た情報でもある。
「私は船長が言った通りお子様なので、人魚のように男性が喜ぶような取り引きは出来ませんが……」
笑顔で収納からウイスキーとブランデーの瓶を出して見せた。
「な、なんだその高そうな酒は!」
「おまっ、ワインやビール以外にも持ってやがったのか!」
「これが王都の商人、か……」
さっそく飲もうと手を伸ばしてきたのでまた収納に戻す。
「あ、いっけなーい。間違えました。これは王侯貴族に卸す酒でした」
そして鯛焼きを出してパクつく。
「またっ、なんだそれ!」
「魚か!? 鯛っぽいな……」
「俺にもくれよー!」
米粉でできた白い鯛焼きも出す。中はカスタードクリームだ。海賊達が生唾を飲んだ。
餌付けがはじまった。
「──成る程。つまり人魚の墓は海王蛇の胃の中で龍涎香のように、結石になっているんですね。ナゴンさんは海王蛇から出ようと色々皮膜を破っていたらそこに辿り着いたと……」
「その龍涎香ってのがよく解らないが、ナゴンいわく、いい香りがしたんだとよ。山積みになった人魚の鱗から、しゅわしゅわの気泡が立つビールが流れていたって」
「つまりナゴンさんが人魚の墓で飲んだ酒は、海王蛇の胃で発酵した人魚の死体から出る体液だった、ということですね」
鱗からビール……確か魚から醤油が作れるが、人魚からは酒が作れるのか。
脳内メモに刻む。
船長と話していると、移動してきたナゴンさんに肩を組まれた。
「表現が気持ち悪ぃーな……俺は人魚の愛液で生かされていたのさ。味も覚えてる」
「……そうですか」
「それにしてもこの白い魚うまいな」
鯛焼きを腹から食べる人はじめて見た。
いや、見たところ腹しか食べていない。
骨とかないからちゃんと頭と尻尾も食べてくれないかな?
「これあと3つくれ」
「お残しは許しません!」
「ぎゃははは! おいアンタ、そういやさっき見た地下室、あれ生け簀だろ? ありゃ駄目だ」
え?
いきなりの船長の突っ込みに飲んでいたブランデーで噎せてしまった。
途端、船長に腕を引っ張られる。
「勿体ねー! なにやってんだ! こんな上等な酒を吐くなんてっ」
「な、なん……」
あの生け簀は、酸素石も取り出したし、そんな痕跡残しては……。
「……ん? ああ、少し鱗が浮いていたからな。何かしら運んでたんだろ?」
「…………」
「おーい、リリー船長?」
「……運んでたっていうか、活き餌が欲しかったんです」
「ふーん」
船長はナゴンさんがお残しした鯛焼きを食べて、目を見開いた。
「うめぇ! これどこで釣ったんだ!」
「サリラン大陸の魔境支部、海底ダンジョンの隠し洞窟にある第4釣り場です」
「…………それ、道中深海じゃねぇか」
「え……あの、本当ですよ」
もちろん前世での話だ。イベントのおやつフェスティバルで2万匹は釣ったのだ。
船長は「はぁ」と呆れて、じとりと睨んできた。嘘は言ってないのに。
「ほんたうめぇな、これ…………それで、生け簀の魚は死んじまったと?」
「……ええ、まぁ、はい。全滅です」
「入れてた期間は?」
「1日と少し……酸素石も入れて餌も与えていました」
「漁師なら港に着くまで、それくらいで充分だ。アンタは商人だろ? 行商にいくなら、きちんとした設備は揃えなきゃな」
やっぱりそうだよねぇ。
バネリ大佐の遊行船があれば、鯛どころか鯨すら生きたまま運べ、そのまま収納に入れることも出来た。あの船はぶっ壊れ性能なのだ。一国の騎士団ごときに扱える代物じゃない。
「まず、地下室のあの細かい穴を塞げ。小魚からしたら、いちいち海中の魚影が見えて弱っちまう」
「……はい」
「穴は排水用と海中から取り入れる新鮮な海水用に2つだけでいい」
「……へぇ」
「筒を作って上から海水を取り入れろ。それなら泡が立って空気も入る。その酸素石? という石も要らねぇ」
「うんうん」
「いくらかは死んじまうが俺らはそうしてた」
ほう。
ちらりと自分の船を見る。
結界は纏ってる。舵を握らなくともこちらに呼び寄せることはできる。
手を翳し船と自分の魔力を繋ぐ。
ぐるりと反転。船首がこちらを向いた。
「……っな!?」
持ち上げて海賊幽霊船の手前まで運び、目の前で空中停止させた。
あちこちから海賊達の驚きの声が上がる。
「……魔導船と言っていたな」
「正しくは海賊魔導船です」
「…………それでこの島、俺らの船に辿り着いたってわけか」
「ええ。私、本当は商人じゃなくて海賊なんです」
ニヤリと口角を上げた途端、海賊達から歓声が上がった。あまりの地響き──声の波動に船に纏わせた結界が揺れた。すげー。
「よう、来たか!」
「まぁ、ゆっくりしていけ!」
「なーんも無いけどな!」
「ぎゃははは!」
「……ど、どうも」
探知すると15人。
いや16、17人……あ、また一人増えた。
どこから出て来た? と思ったらネチャっと何かを踏んだ。見ると船上の床にこびりついていた発光する緑色の液体……初日に鑑定した『海賊の発光液』だ。
そこからぼやぁっと湯気が立ち上がり、私の目の前で人の形になって……海賊が現れた。味のあるバンダナをした片目が無いおじさんだ。
「よう、姉ちゃん! 俺にも酒くれ!」
ガシッと肩を掴まれて私は雄叫びをあげた。
「ぎゃははは! で、それで結局『うんこ』とは吐き捨てずに家を飛び出したのかよ! 堪え性ねーな! 」
「つーか、その山菜マスターかなりのむっつりだな! 俺なら正直にヤラせてくれって拝み倒すぜー!」
「待て待て待て! バネリ大佐の遊行船って伝説級の魔導船じゃねーか! あれゴジョプ提督も狙ってた船だろ!」
「はいはい、バネリもゴジョプもおとぎ話な? それより俺の話を聞いてくれ!」
「マジかよシミューズ運河廃路になったのか! 俺はあの水路建設で随分と日銭を稼がせてもらったんだぜー!」
「なぁリリー! 茶屋のねーちゃん、胸おっきかったか!?」
「胸より尻だろ! 女は尻が大きくないとなぁ!」
「ぎゃははは!ケツ軽はヤった気がしねーよな!」
「「「ぎゃははは!」」」
ゴジョプ提督? 北ドミナリー海の天空に存在する大陸『シャドー』を最初に発見した伝説の魔術師だ。公式に載ってる情報だからおとぎ話じゃない。
天空の大陸か……一度は行ってみたいな。
「もう一本追加ー!」
「おーい、つまみー!」
「はい、はい、はいはいっ」
海賊達に催促された身の上話も程々に、そこらじゅうに転がる潮ワインと波ビールの瓶を避けて海賊幽霊船の船上を駆け回る。船に招待されてから既に一時間……未だ水着姿でなにやってんだろ私。
「……ヒック……あぁ。うまいビールだ。人魚の墓で飲んだ酒を思い出すなぁ……」
こうまでして海賊達のコンパニオンに徹するのも訳がある。
「あらナゴンさん、人魚の墓に行ったんですか?」
副船長のナゴンさん。
さっきから飲んでるそれ、潮ワインを波ビールと勘違いして酔っ払ってる人だ。おつまみに熱々の一角ブタのホルモンを出す。
「ん? ああ、リリーがまだ生まれる前のことだ。俺は15歳の時、巨大な海王蛇に飲み込まれ、しばらくそいつの胃の中で生活していたんだ。そこで山積みになった人魚の死体を発見した……知ってるか? 人魚ってな、死んでも腐らねーんだ」
「また始まったよナゴンさんの嘘が!」
「ぎゃははは!」
「チッ……てめーらには話してねーよ! 俺はリリーに聞かせてんだ!……それにしてもこの煮込み料理うまいな。流石は王都からきた商人だ」
イベントのコラボフードで手に入れたフライしたチキンも出す。熱々のポテトも添えて。
「「「おお~!!!」」」
やだ。野郎共の目がハート。
ちょっと背筋が寒イボ。
「でもなんで海王蛇のお腹に人魚の墓が? 普通、消化されないなら排泄されちゃいますよね? 胃のどの辺りだったんでしょうか?」
人魚の墓は……前世でも見つけることは出来なかった。公式でも海王蛇の体内と載っていたけど、どれだけ体内を探しても人魚の墓は見付けられなかった。
「さぁな。解ることはただ1つ、俺は人魚に生かされたんだ」
「…………そうですか」
「それにしてもリリー、お前は可愛いな」
飲み過ぎだよ。
さっきからナゴンさんが熱心に話し掛けてるそれ、潮ワインの瓶の底だからね。
「そもそも、海王蛇が人魚を食べますか?」
「海王蛇は人魚を食うわけじゃない」
ボソッと答えた船長がチキンにかぶり付き、目を見開いた。
「うめぇ! これはビールに合うな!」
「食べるわけじゃない、とは?」
「ん? ああ、人魚の肉は蛇にとったら毒だからな。だから胃の中に入れたら胃液を出さないようにするんだ。だから人魚は腐らない」
「へぇ……胃の中に入れる理由って……?」
船長なにか知ってそうだな。ナゴンさんが話してる時も一人だけ真顔だったし。
「海王蛇はそこらじゅうの生物を丸飲みするんだよ。とくに発情期は気性が荒くてな、大型船だろうがお構い無しだ。一発で穴あけられちまうぜ」
「…………はは、私の船なら、ひとたまりもないですね」
この船……海王蛇にやられたのか。
波ビールの瓶を片手に船長が立ち上がった。あ、おかわりですね。空瓶を受け取って新たなビールを渡す。
「さっきから思ってたけどアンタの出す酒はほんとキンキンに冷えてやがるぜ! どーなってんだこれ!」
「喜んで頂けてよかった。で、人魚の墓ってどこにあるんですか?」
「……なんだ、商人の血が騒ぎだしたのか? ハッ、お子様に人魚は捕まえられねーよっ」
からかうように言われ、頭をガシガシと撫でられた。そして踵を返した船長の手首を掴む。
「人魚って女しか生まないのよ」
「ん?」
「だから繁殖で地上に上がるとき、喉仏の骨を外すんです。人魚は声が唯一の武器ですからね。人間に害をなす気はないと、意思表示するんです。そこで人間の男に子種をもらう……でしょう?」
「……何故……そのことを? いや、商人ならどこかで情報を知ったのか……」
これはストーンバイで手に入れた人魚の歌声(喉仏の骨)を鑑定したら解った情報だ。人魚と夫婦になり、その際、喉仏の骨を貰った海賊の手記から得た情報でもある。
「私は船長が言った通りお子様なので、人魚のように男性が喜ぶような取り引きは出来ませんが……」
笑顔で収納からウイスキーとブランデーの瓶を出して見せた。
「な、なんだその高そうな酒は!」
「おまっ、ワインやビール以外にも持ってやがったのか!」
「これが王都の商人、か……」
さっそく飲もうと手を伸ばしてきたのでまた収納に戻す。
「あ、いっけなーい。間違えました。これは王侯貴族に卸す酒でした」
そして鯛焼きを出してパクつく。
「またっ、なんだそれ!」
「魚か!? 鯛っぽいな……」
「俺にもくれよー!」
米粉でできた白い鯛焼きも出す。中はカスタードクリームだ。海賊達が生唾を飲んだ。
餌付けがはじまった。
「──成る程。つまり人魚の墓は海王蛇の胃の中で龍涎香のように、結石になっているんですね。ナゴンさんは海王蛇から出ようと色々皮膜を破っていたらそこに辿り着いたと……」
「その龍涎香ってのがよく解らないが、ナゴンいわく、いい香りがしたんだとよ。山積みになった人魚の鱗から、しゅわしゅわの気泡が立つビールが流れていたって」
「つまりナゴンさんが人魚の墓で飲んだ酒は、海王蛇の胃で発酵した人魚の死体から出る体液だった、ということですね」
鱗からビール……確か魚から醤油が作れるが、人魚からは酒が作れるのか。
脳内メモに刻む。
船長と話していると、移動してきたナゴンさんに肩を組まれた。
「表現が気持ち悪ぃーな……俺は人魚の愛液で生かされていたのさ。味も覚えてる」
「……そうですか」
「それにしてもこの白い魚うまいな」
鯛焼きを腹から食べる人はじめて見た。
いや、見たところ腹しか食べていない。
骨とかないからちゃんと頭と尻尾も食べてくれないかな?
「これあと3つくれ」
「お残しは許しません!」
「ぎゃははは! おいアンタ、そういやさっき見た地下室、あれ生け簀だろ? ありゃ駄目だ」
え?
いきなりの船長の突っ込みに飲んでいたブランデーで噎せてしまった。
途端、船長に腕を引っ張られる。
「勿体ねー! なにやってんだ! こんな上等な酒を吐くなんてっ」
「な、なん……」
あの生け簀は、酸素石も取り出したし、そんな痕跡残しては……。
「……ん? ああ、少し鱗が浮いていたからな。何かしら運んでたんだろ?」
「…………」
「おーい、リリー船長?」
「……運んでたっていうか、活き餌が欲しかったんです」
「ふーん」
船長はナゴンさんがお残しした鯛焼きを食べて、目を見開いた。
「うめぇ! これどこで釣ったんだ!」
「サリラン大陸の魔境支部、海底ダンジョンの隠し洞窟にある第4釣り場です」
「…………それ、道中深海じゃねぇか」
「え……あの、本当ですよ」
もちろん前世での話だ。イベントのおやつフェスティバルで2万匹は釣ったのだ。
船長は「はぁ」と呆れて、じとりと睨んできた。嘘は言ってないのに。
「ほんたうめぇな、これ…………それで、生け簀の魚は死んじまったと?」
「……ええ、まぁ、はい。全滅です」
「入れてた期間は?」
「1日と少し……酸素石も入れて餌も与えていました」
「漁師なら港に着くまで、それくらいで充分だ。アンタは商人だろ? 行商にいくなら、きちんとした設備は揃えなきゃな」
やっぱりそうだよねぇ。
バネリ大佐の遊行船があれば、鯛どころか鯨すら生きたまま運べ、そのまま収納に入れることも出来た。あの船はぶっ壊れ性能なのだ。一国の騎士団ごときに扱える代物じゃない。
「まず、地下室のあの細かい穴を塞げ。小魚からしたら、いちいち海中の魚影が見えて弱っちまう」
「……はい」
「穴は排水用と海中から取り入れる新鮮な海水用に2つだけでいい」
「……へぇ」
「筒を作って上から海水を取り入れろ。それなら泡が立って空気も入る。その酸素石? という石も要らねぇ」
「うんうん」
「いくらかは死んじまうが俺らはそうしてた」
ほう。
ちらりと自分の船を見る。
結界は纏ってる。舵を握らなくともこちらに呼び寄せることはできる。
手を翳し船と自分の魔力を繋ぐ。
ぐるりと反転。船首がこちらを向いた。
「……っな!?」
持ち上げて海賊幽霊船の手前まで運び、目の前で空中停止させた。
あちこちから海賊達の驚きの声が上がる。
「……魔導船と言っていたな」
「正しくは海賊魔導船です」
「…………それでこの島、俺らの船に辿り着いたってわけか」
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