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森へ帰ろう

79.追撃(第三者視点)

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「なっ!!」

「待ちやがれ!!」


いきなりの『黒持ち』の逃走に、コルトとダグは呆気に取られる。


「させねーよっ!」


イズマはコルトの剣先を避け、『黒持ち』を追いかけようとしたダグを蹴り飛ばす。


「くっ!」


イズマの背の向こう、馬が遠ざかっていく。


イズマを2人で攻撃すれば、必ず『黒持ち』は助けにくる。
そこを拘束する算段でいたのに。

よりにもよって、逃げるとは。
仲間を守る矜持など、ないのか。


「騎士様の矜持にはない、って顔してんな。」


コルトの思いを読んだかのように、イズマがまた笑う。


「これだから、冒険者はっ!」


自分が良ければ、それで良いのか。
苦し紛れに、相手を下に見るように、呟く。


「冒険者、だからだよ。逃げても何しても、目的が果たせられるんなら勝ちなんだよ。今回は、アイツ自身がお前らに渡らなければ良いんだ。その為なら・・・俺が囮になる。そのつもりのリーダーからの指示だしなぁ。」

「ほざけぇ!!」


蹴り飛ばされたダグが、体制を立て直しイズマに突っ込んでいく。
それに合わせるように、コルトもイズマに襲いかかる。

いくら伝説級の元騎士、ファーマス率いる冒険者パーティー『グレイハウンド』の構成員とはいえ、騎士2人がかりなら。
コイツを倒して、『黒持ち』を追う。

コルトの剣戟と、ダグの拳撃。
イズマは体術メインの短剣使い。
受け流されながらも、2人は、徐々にイズマを押し始めた。

身体強化を使用していたのだろうが、15分近くも全力の2人相手に使い続けていたら、魔力枯渇に近いだろう。
徐々にダメージが通るようになってきた。


「オラァ!!」

「ちっ!」

「さっさと倒れなさいっ!」

「ガハッ」


ダグの頭部狙いのラッシュを捌いていたイズマの胴がガラ空きになった瞬間を狙い、コルトは剣で斬りつける。

イズマは斬りつけられた衝撃を緩和すべく、バックステップで下がるが、殊の外ダメージが大きかったのだろう。
腹部を抑え、片膝をついた。


「いい加減、先に行かせてもらいますよ。」

「おい、コルト。コイツ落としてもいいか?」


余程鬱憤が溜まっているのだろう。
ダグは、ゴキゴキと拳を鳴らし、イズマに向かう。


「勝手にしなさい。」

「へいへい。」


コルトは興味なさげに言い放つと、門兵が使用する馬を取りに行く。
背後からダグの楽しそうな声が聞こえてきた。


「散々コケにしてくれたなぁ。受け流すのが精一杯だったくせによぉ。」

「・・・はっ、受け流ししか、しない、冒険者1人に、手間取るとは・・・騎士様も・・・大したこと・・・ねぇなぁ。」

「っうるっせぇ!」


イズマの挑発に、ダグはまた怒りを露わにする。
ゴッ、という殴打音の後、倒れこむ音がする。


「けっ、時間稼ぎしたつもりだろうがな、無駄だよ。大事に庇ってたようだけど、存分に狩って、可愛がってやるからなぁ。」

「ダグ、行きますよ。」


まだ終わらない同僚のリンチに、辟易した様子でコルトは声をかける。

地面に倒れこんでいるイズマは、肩で息をしながらも、薄っすらと笑みを浮かべた。
まだ気持ちが折れていないその様子に、ダグの苛立ちが加速する。


「何がおかしい!!」

「なん、の、ために・・・時間を、かせ、いだと・・・」

「黙れぇ!」


ダグは、イズマを踏みつけようと、足を振り上げた。

その時。



「【暴風ストーム】!」

「ぐぁぁぁぁ!!」


ダグの身体が一瞬にして、竜巻に包まれ、風の刃に斬りつけられた。
コルトは何が起こったか分からず目を見開く。


「イズマ、だいじょぶ~?」

「・・・おせぇ、よ。ベネ・・・ゴホッ」

「第4部隊、ダグ及びコルト!冒険者イズマ殿への私闘を仕掛けた嫌疑で、身柄を確保する!」


そこに居たのは、『グレイハウンド』の構成員である魔法使いベネリ。そして、第3部隊の面々。


 ーーー その為の時間稼ぎ。


『黒持ち』を逃がすだけでなく、増援を呼ぶ算段までしていた、とは。
手を出さないで、受け流ししかしなかったのは、私闘された、という証明にするため。


ーーー つくづく、面白く、ない。


「コルト殿、何故このようなことを?」


第3部隊の連中がにじり寄る。


ーーーこれが彼らの筋書きなのであれば。我々は、我々の筋書きを完遂するまで。


ぎり、と唇を噛んだコルトは魔力を練り上げる。


「【閃光フラッシュ】【拘束バインド】!!」


コルトは、北門全体を範囲とした、足留め魔法を放つと、馬に飛び乗り、ニースの森へ向けて駆け出して行った。



***


コルトを取り逃がした第3部隊の面子は、追いかけるためバタバタと駆けずり回り始める。
衛兵が使う馬は、1頭はコルトに奪われ、2頭は先の閃光で使いものにならない。

そんな様子を傍目に見ながら、ベネリはイズマの側に寄り添い、回復魔法をかけ始めた。


「あーぁ、逃げいっちゃったねー」

「ベネ・・・追っかけ、ろ・・・よ・・・。」


地面に倒れ込んだまま、息絶え絶えにイズマは呟く。


「追っかけんのは、騎士団のお仕事でしょ?イズが身体張って、俺が一匹抑えてやったのに、逃したのはアイツらなんだから。・・・俺の今のお仕事は、お前に回復かけて、レザ先生のトコに連れてく事ですー。」

「おま・・・え・・・」

「まぁ、明日、森には向かうよ?俺かファーマスさんかは分からんけど。」

「そ、か・・・」

「だから、イズは寝てていーよ。任務お疲れ。」

「あぁ、たの・・・む・・・」


怪我と疲労と安心とで、イズマはふ、と、意識を飛ばした。
リーダーからの任務に忠実だった幼馴染を労うように、ベネリはそっと頭を撫でる。


「リンちゃんは、だいじょぶ。お前がぎっちり体術仕込んで、あの闘い方なんだからさ。一対一なら、あんな奴に引けを取らない、よ。」


リンの強さも、それを仕込んだ幼馴染の仕事ぶりも信じていると言うように、ベネリは微笑んだ。


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