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冒険者はじめました

35.森探索は、愚痴と共に

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昨日よりは遅めの時間に、冒険者ギルドに到着。
時間帯が違うだけで、ギルド会館内は閑散としている。


「まず、依頼確認しておくか。」 


イズマさんの指示に従って、クエストボードを確認する。
パーティーで一気に受けられるクエストは、最大3つまで。

ランクCは、護衛クエストがあるが、今は却下。

アグウルグの討伐が5体、随時クエストで出ている。期限は1週間。討伐練習する訳ですので、コレは受注。

あとは、適当な採取。
あ、ソグの実採取がある。全ランク共通。定期的、ということは、今後の需要を考えてかな?
森の周囲は、低ランクの人に任せて、奥にあれば採ってくるかな?

ベリルの実も全ランク共通。何だろう、この『ついでに採ってこい』感。
まぁ、お菓子屋さんには需要があるんだろうなぁ。


「・・・と、いうわけで、コレでどうですかね。」

「アグウルグメインだし、良いと思うっス。ヤム(自然薯)とか、ペーオ(芍薬)は、今取りにくい時期だし。・・・目立つと思うんで。」

「・・・ん、良いんじゃないか。」


私たちの意見に、イズマさんは少し微笑んで頷く。
その様子に、ギルドカウンターの向こう側がざわついた。

あー。この人無表情キャラでしたっけ。
ちょっと表情動くの、私は見慣れてるんですけどねぇ。
目つき悪い無表情同士、カン君とも気が合うようで、時々ほわほわしてるのが面白いんだよね。

そうか、コイツが世に言うギャップ萌えってヤツか。
枯れてるからよくわかんねー。
『めんこいねー、飴あげようか?』しか思わんわ。
・・・私今、年下設定だけどな?


「おはようございます。どうしましたか?」


ザワザワの向こうから、副ギルマスのザイルさんがやって来た。
あ、軽鎧にレイピアを帯刀してる。
付いて来る気満々ですね。

私も笑顔で挨拶する。挨拶は社会人の基本です。


「ザイルさん、おはようございます。ついでに受注するクエストチェックしてました。」

「そうですか、決まりました?」

「はい。無理なく、コレにしとこうかと。」


クエスト用紙を手渡すと、ザイルさんは即座に確認する。


「妥当ですね。良い判断です。では、処理をして出発しましょう。」


ザイルさんは、そのまま紙を持って、スタスタとカウンターへ行ってしまった。
そして、何事かを、職員と話している、と言うか。・・・職員が、ザイルさんが私たちに付いて行く理由を探ってると言うか。
ザイルさんは適当にあしらってるけどね。


「お待たせしましたね。では参りましょう。」


ささ、とザイルさんとイズマさんはホールを出て行く。
私達は慌てて、その背中を追った。
 


***



街道を離れ、森に入って探索開始。ニースの森と植生は若干違う感じ。
探索しやすい、というか。プレッシャーが少ないというか。

・・・そういや、私、武器出してなかったわ。
みんな剣やら短剣だから、帯刀してるんだよね。


「イズマさん、武器装備してもいいです?」

「あぁ。ココからなら良い。」


了解をもらうと、空間収納から弾帯と相棒を取り出した。
弾帯を腰に巻いていると、ザイルさんが興味深げに覗いてきた。


「それが、武器なのですか?」

「はい。魔道具化していて、私にしか使えない仕様ですが。イメージはボウガンによる攻撃みたいなものかと。まぁ、見ていただいた方が分かりますので、楽しみにしておいてください。」


相棒を肩にかけながら、説明をする。
ふと、先程の窓口の事が気になり、ザイルさんに聞いてみることにした。


「そう言えば、ザイルさん?さっき窓口で時間かかってましたけど、何かあったんですか?」

「あぁ。貴方達が何者か、とか、『黒持ち』だから全属性なのか、とか、細かい話を聞かれましたが。」

「はぁ。」

「答えようもないので、さぁ?としか返していません。」

「それは・・・ありがとうございます。」


ふぅ。と大きく息を吐くザイルさん。


「良からぬ輩が、動くような気もしますしね。とりあえず、貴方達の情報は、ある程度規制をかけようと思っています。・・・職員と言えども、ね。」


良からぬ輩・・・例の馬鹿3人組?


「これを機に、一斉駆除出来れば良いんですがね・・・」


何処か遠い目をするザイルさん。
・・・怖い。野犬掃討か何かですか。あの仕事担当職員が、そんな目をしていたよ。

とりあえず馬鹿3人組以外にもいるんだね?
まぁ、協力者というか。情報横流し者とか、かなぁ?

何となく察しながら、私達は森奥へ進んでいった。



***






ならず者の溜まり場になっている、場末の酒場。
茶髪で細身の男が、下卑た笑いを浮かべながら、息を切らして駆け込んで来た。
そのまま、奥で女を侍らせて座る、灰色髮のガタイの良い男と、鮮やかな青色の髪の見栄えの良い男の所へ寄っていく。


「ねー。ガンスー、タルマン。面白い話聞いたよー」

「チッタ、ギルドに行ってたんじゃなかったのか?」
「何だい?」


チッタと呼ばれた男は、ニヤニヤと笑みを浮かべて、椅子に腰掛ける。


「ギルドで、だよぉ。ファーマスんトコに、新人が入ったんだってー。男と女の2人組ー」

「ふん、新人育成か。ご苦労なこった。」

「へぇ。で?」


ガンスと呼ばれた灰髪の男は、侍らせている女達にちょっかいを出しながら、チッタの話にはあまり興味がなさそうな反応をするが、タルマンという青髪の男は、その綺麗な顔を薄く歪ませる。


「なーんと。『黒持ち』なんだってー」

「は?」

「ふーん。『黒持ち』、ね。」


ガンスはお伽話だろうと、眉をひそめるが、タルマンは綺麗な微笑みを見せる。

黒髪は全属性。
本当なら、使い道は多々ある。
・・・、ファーマスが自分の所に引き入れるのだから、何かあるのだろう。


「気になるでしょ?」


綺麗な微笑みを見せる仲間に、チッタは言葉を投げる。
彼がこの笑顔を見せる時は、楽しいコトを考えている時。
側から見たら、ゲスかろうが、パーティーにとっては、楽しいことが起こる前兆。


「今日は、イズマと副ギルマスと一緒に、街道沿いの森に入ってるらしいよ?副ギルマスは、夕方から会議に参加らしいから、その頃には帰ってくるんじゃないかってさ。」

「そう。・・・僕も久しぶりに、ギルドに顔をだそうかな。」


周囲が見惚れる笑顔を浮かべてそう言うと、タルマンはテーブルの上のグラスワインを一気に飲み干した。






**************





漸く、書きたかった本題に入れそうな、予感。
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