斜陽街

日生ななめ

文字の大きさ
2 / 35
序章

2

しおりを挟む
「斎藤君はさ、何で僕みたいなのが突然出てきたんだと思う?」
「要さんのような──?」唐突に自身の存在を問いただす要に、斎藤は面食らう。この人、変人の自覚あったのか。
 防風林と住宅街を通り抜け、図書館に通じる並木道を、二人並んで歩いている最中だった。夕暮れの肌寒く薄暗い、住宅の影と影を縫っていったような裏通りには、人影が全く見えない。自身の声が家と家の僅かな隙間や、ゆるくカーブした道の先に溶けるように吸い込まれていくのを感じた。
「少年時代の過ごし方、とかでしょうか」
「え? でもさ、生まれた時からの異能持ちも、三件確認されてるよ? これが増えてきちゃったら大変だよね」要が首を傾げた。
 異能の話だったか。斎藤は心の中で舌打ちをする。同時に、少しは自覚を持っていてほしかった、と落胆もした。
「リッヒーは局所的なウイルス進化だって言ってるし、アキちゃんはA市の民族伝承と関係があるんじゃないかって言ってる。斎藤君の意見も新しいね。『成長過程の外的要因説』。今度二人に相談してみるよ」
「素人の当てずっぽうですよ、あまり本気にしないでください」予想外の働きを褒められたようで、こそばゆい。
 だが、それよりも、要の発言が引っかかる。
「異能研究課のツートップの意見が、オカルトと科学的見地とで正反対じゃないですか。いいんですか?」組織の中での意見の食い違いは、遅かれ早かれ崩壊に繋がる。任侠映画の中で、組織の頭と対立し、やがて孤立無援となり裏切られる幹部を、斎藤は何人も見てきた。
「いいの、何が正解になるかも分かってないのに、数式の文法でこまねいてる場合じゃないでしょ? それに、公表こそされてないけど─」「異能を使った犯罪や、傷害事件も確認されている、早急な対応と打開策を国から求められている。ですよね?」
 決意を固めるように、遠くを見て要は語った。その意志を継ぐように斎藤が紡ぐ。
 少し前を歩いていた要が、ゆっくりと振り向いた。曇り空の薄い夕焼けに照らされ、瞳がオレンジ色に輝いている。
「異能者の犯罪が多発して、その上更に異能のメカニズムも分からない、なんて事になったら、最後に待ってるのは間違いなくA市の封鎖だ。危険な超能力者を際限なく生み出す都市なんて、現代日本にとって厄介者以外の何物でもないからね」
 そして、その先は無い。人口三十万人の小都市が鎖国状態になったら、十年も待たずに破滅するのは目に見えていた。
「ですが、異能のメカニズムが解明できた所で─」「わかってる、分かってるよ」
 要は悲しむような、困ったような表情で皺を寄せ、ため息をつくように笑いを浮かべる。母親が出来の悪い息子を慈しむような、穏やかな表情だった。
「解明できた所で、異能者が居なくなるわけじゃない。五年間で観測された異能者六八人はきっと死ぬまで異能者のままだ。彼らが何かしらの要因で異能を使えなくなるまで、異能研究課の仕事は続くさ」
 間違えたな、要さん。確認されている異能者は全部で七十人だ。今回の仕事のターゲットと、目の前で儚げに笑う男。
 斎藤は俯き気味に目を逸らす。あなたはこの世界に、たった一人の異能者になるまで、この街で人間狩りを続けるつもりなのか?
「さあ、嘆いてる場合じゃないよ! 急ごう!」今までの表情は仮面だったのか、要はにかっと、輝かしいばかりの笑顔を見せ、斎藤に向かって手を伸ばした。
「大丈夫さ、僕らならきっと戻せる。A市に満ちる異能力者を片付けて、元通りのつまらない街に─」この男は、ころころと笑顔の印象が変わる。今度は年相応の爽やかな、明るい笑顔を浮かべた。
「戻しましょう。俺たちの手で」歩み寄り、要の右手に応じる。
 少し湿った手を握りしめながら、要の目をじっと見据える。夕陽の反射を受けて、鈍いオレンジ色に輝く瞳が、不屈の精神が形になったような瞳が、ただただ美しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

処理中です...