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届かない恋

お前の時計、俺の時計。

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どうして、お前だけいないんだ。

この世界は時間を刻んでいく。

俺の時間も進んでいく。

なのに、どうして?

どうして、お前の時間は動かないんだ。

時計はいつか止まる。

でも、どうして止まる時間は決まってくれないんだろう。

どうせ壊れてしまうなら、俺の時間も一緒に壊してくれればよかったのに。


もう、止まった時間は俺に追いついてくれない。

俺が戻ることさえ、許してくれない。

自分より大切な人だった。

自分の命より必要な人だった。

ただ、お前の隣にいるために俺が生きてるんだと思ってた。

こんなに、大切だったのに。

どうして、お前の時間は進んでくれない。

お前がいないなら、俺の命はどこにやればいい?


昔、誰かが言った。

「いつか、誰かに刺されるぞ」

その時俺はお前がいたから嫌だと思った。

お前がいる世界から消えたくなかったから。

今の俺なら……きっと。

「死ぬのか?」

扉が開いた。

呆然と考えていた頭が現実に引き戻された。

青い空。澄んだ風が頬を撫でた。

「……今 死んだらきっとあいつは怒るなって考えてただけ。」

「……あいつだけじゃない。」

「そう、かな?」

「あぁ。俺も怒る。」

「じゃあ、ますます死ねないや。」

「……泣いてもいいんだぞ。」

「…………まだ、駄目だよ。」

「どうして?」

「今泣いたら、俺のための涙になるから。俺が悲しいだけの涙になるから。俺の全ては、あいつのものだ。……たとえあいつがいなくても。」

「じゃあ、俺は一生あいつに勝てないな。」

「さぁ、どうだろうね。」

「ん?俺でもいい日が来るのか?」

「あいつを倒せたらね。」

「ふっ、じゃあ、殴りにいくか。」

「病院で喧嘩はよろしくないとおもうよ?」

「ん、そうか……なら、もう少し待ってやるか。」

お前の時間は止まったままだ。

だけど、止まった時計が動き出すのも近いのかもしれない。

『ただいま。』

照れたように笑うお前が頭に浮かんだ。
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