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俺は君のヒーローだ。
19 涙side虎之助
しおりを挟む『あの、原君。まだ、あって少ししか経ってないけど……その、好きです。』
人生で何回目かの告白。
(……好き。)
頭の辞書で検索してもいつもそこだけ真っ黒に汚れている。
『そっか、ありがとう。僕、君のことよく知らないけど……これから教えてくれる?』
(あー、真っ赤になって頷いて……こういうのを可愛いって思うんだろうな……。)
彼女という存在は、僕にとって何の意味もない。
デートに誘われたら行くし、望まれれば僕にできる事をする。
けど、僕の中の絶対は真木ちゃんだ。
だから、彼女ができたところで何も変わらない。
(……そもそも、僕は付き合うなんて一言も言ってないんだけどなぁ……)
話を合わせて、笑いあって……周りと君が望む彼氏を演じるけれど誰も僕を見つけてはくれない。
(好きって、なんだろうね。)
「虎之助君、あの、虎ちゃんって呼んでいい?」
不意に声がして考えが現実に戻る。
(あ、放課後デート中だった。)
「え、えーと……」
『虎。』
真木ちゃんの優しい声が頭をよぎる。
「ごめん、僕……虎之助って呼ばれたいなぁ…って、思っちゃった。」
首を傾げて、彼女の目を覗き込む。
(あー、また赤い。)
「そ、そっか、うん。わかった。じゃ、じゃあ、虎之助って呼ぶね。」
「うん♪ ありがとう。」
(……今日は、真木ちゃん家にいるかな……。)
彼女に相槌を打ちながら考える。
(あー、でも誰かと遊びに行くって言ってたな……また、家で待ってたら駄目かな……。)
「と、虎之助」
突然名前を呼ばれて彼女を見る。
「どうしたの?」
「あの、家どっち?」
気が付くと見慣れた住宅街だった。
「あー、あっちだよ。」
「そ、そうなんだ。」
「うん。……えっと、違う方向?」
「え、あ、うん。」
(……この子を送った後なら真木ちゃん家にいるかもしれないな……。)
「じゃあ、送って行くよ。」
「え、悪いよ。」
「うんん。女の子を1人で帰せないでしょ?」
「あ、ありがとう……」
(素直な子だなぁ……。)
それに比べて自分ときたらどうだろうか。
目の前の子をほったらかして自分の事ばかり考えている。
この子にあげられるのは表面上の優しさと僕という彼氏がいるという事だけ。
わかっているのに、僕は告白を断らない。
誰かが、僕の事を見つけてくれるんじゃないかって思っているのかもしれない。
真木ちゃん以外の、誰かが。
「ありがとう。ここで、大丈夫。」
「そっか、気を付けてね。」
「うん。じゃあ、また明日。」
「うん。また明日。」
彼女と別れて、家に帰る。
真木ちゃんはヒーローだ。
だから、好き。
でも、本当に……だから好きなの?
1人になるといつも考える。
好きってなんだろう。
僕の好きはなんだろう。
この好きは、真木ちゃんを汚す好きなのかな。
いつも、いつも考える。
(あ、着いちゃった。)
真木ちゃんの家の明かりは付いていなくて、それでも自然と足が動いた。
ガチャ
(あれ?空いてる……。)
玄関には、真木ちゃんの靴が置いてあった。
「……真木ちゃん?」
僕は、迷わず真木ちゃんの部屋へ向かった。
部屋の扉は少し空いていた。
「真木ちゃん、入るよ?」
返事はなかったけれどドアを開ける。
「真木ちゃん?」
真木ちゃんは、ベットに上半身だけ乗せてうつ伏せの状態でいた。
近付くと、キラリと光った。
「……また、泣いてるの?」
真木ちゃんは、涙を流しながら眠っていた。
「……ごめん……。」
苦しそうに、真木ちゃんはそう言った。
最近の真木ちゃんは変だ。
なにかを隠してる。
なにかに傷付いている。
(……どうして、教えてくれないの?)
僕は真木ちゃんの涙をそっと親指で拭って、それを舐めた。
「……真木ちゃん、僕はなんだってするんだよ。」
君が汚れないためならば。
「だから……真っ白でいてね。」
普段なら届かない真木ちゃんの頭を撫でて僕は部屋を後にした。
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