俺はヒーローなんかじゃない

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俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]

落とし穴side智也

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お腹がいっぱいになってから、お兄さんはにっこり笑った。
「お腹、いっぱいになった?」
「はい。あの、ありがとうございます。」
「……少し、ゆっくりしていこうか。」

お兄さんはファミレスに着いてから、僕について詮索するわけでもなく、ただ、のんびりと時間を過ごして、たまに、お兄さん自身の話をしてくれた。その話を聞いて、お兄さんが大学生であり、今日はアルバイトの帰りであったことがわかった。

「あの……」

声を掛けたはいいものの、どうして、自分に声を掛けてくれたのか、何故、ここに連れてきてくれたのか、聞きたいことがまとまらず、言葉が詰まった。
そんな僕をみて、お兄さんは優しく微笑んだ。

「ゆっくりで大丈夫だよ。」
「えっ、と…どうして、声を掛けてくれたんですか?」

お兄さんが声を掛けてくれたのは、人通りの多い道だった。
僕の問いに、少し考えてからお兄さんは答えた。

「君が痛みに耐えるみたいに、辛そうな顔をしていたから、気になっちゃったんだ。だから、声を掛けた。
でも、体調が悪いわけじゃないって教えてくれたでしょ?本当に苦しそうだったのに、体が痛いわけじゃないってなったら、なんか、もっと放っておけなくて…。
それで、まー、ご飯食べたら少しは元気になるかな?って、連れてきちゃた。」

そう言ってから、
「でも。お節介だったよね。ごめんね」
と、申し訳なさそうにした。それを聞いて、僕は慌てて話した。
「いえ、あの、少し、楽になりました。ありがとうございます。」
「そっか、よかったぁ。
……話したくなかったら、話さなくてもいいんだけどさ、何があったか聞いてもいい?全く知らない僕だからこそ、話しやすかったりとか、するかもだし。」
お兄さんはそう言ってから僕を上目遣いで見た。

「僕、あの…親が、離婚するんです。」

僕の言葉に、お兄さんは悲しそうな顔をした。
でも、僕が苦しい理由は、親の離婚それではなかった。

「でも、親の離婚は、なんか、確かにダメージはあったんですけど、こんなになる程じゃなくて…本当は…」

本当は、自分でも分かっているんだ。

「好きな、人が…いるんです。」

僕は、太狼に恋をしていた。誰よりも、なによりも、大好きだった。それでも、は、いつか自分を必要としなくなる。永遠の愛を誓っても、その誓いなんてなかったみたいに生きるんだ。だから、好きな人にしたくなかった。必死にその気持ちを押し込めた。失うのが怖かったから。

「その人がいたから、僕はどんなに辛くても、大丈夫に戻れたんです。」

ただ、太狼に恋人ができただけ。自分が好きな恐れていた人を、太狼が見つけただけ。それだけのはずなんだ。ただ、その相手が自分じゃないだけだ。

「それなのに、僕自身が望んでなかったはずなのに、誰かのことで、幸せそうに笑うその人を見るのが、苦しくて…」

大切な人が、幸せにしてるのに、祝えなくて、喜べなくて、嬉しくなくて、悲しくて、苦しくて。今更、好きだという気持ちが、ドロドロに心から溢れ出したんだ。

「大好きだったんだ……。それなのに、誰かの恋人特別になっちゃった……。」

お兄さんは、僕の話に頷きながら慈しむような瞳を僕に向けた。

「そっか、大好きで大切な、心の支えみたいだった人に恋人ができて、それで、君の中で抑えていた気持ちが、苦しみとなって表れたんだね。」

そう言ってから、鞄からティッシュとハンカチを出した。

「辛いだろうけど、時間も時間だから、とりあえずぐしゃぐしゃになった顔を戻そう。」

僕は、顔と心を一旦落ち着かせた。それから、改めて、お兄さんにお礼を言ってファミレスを出た。帰り際にお兄さんがスッと紙を渡してくれた。

「それ、僕の番号。もし、何か聞いて欲しいって思ったら、連絡して。ま、辛くなくても、楽しかった話でもいいから。」

そういうお兄さんに、自分も連絡先を渡そうとすると

「気持ちだけもらっておくよ。もし、冷静になって、変な奴に絡まれてたんだとか思ったりしたら、不安になっちゃうでしょ?悪用されるかも~とかさ。」

そう言って、“気を付けて帰るんだぞ”と言葉を残して背を向けて行った。

(僕はきっと、あの背中をまた、求めてしまうんだろうな......。)

何となく、そう思いながら、僕は、家へ向かった。


もし、この後、僕がお兄さんを求めさえしなければ、きっと、僕は......。



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