俺はヒーローなんかじゃない

ここクマ

文字の大きさ
67 / 68
俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]

「お兄さん」side智也

しおりを挟む

薄暗い部屋の中、月だけが彼を見ていた。

(月だけが?本当に?)

熱が、体を覆って、脳が彼に告げる。

”コレ、は愛されている証拠だ”

薄暗い部屋の中、その部屋を照らすのは確かに月だけだった。けれど、彼を見ていたのは、月だけではない。

(どうして、心が泣いてるんだろう?)

回らない頭で、ふらふらと考える。けれど、その思考も下からの刺激で途絶えた。

(あぁ、僕は愛されている。)

理由もわからない涙が、彼の頬を伝った。







日常は、いくら崩れてもその平和を保とうとする。
お兄さんとの出会いから数日経った日だった。いつもみたいに、家を出て、公園でご飯を食べる。しかし、ふと、もう、学校に早く行ってもいいのだと思い出した。

(どうせ、テンテンはいない......。もし、いたって、僕のことなんて、どうせ、もう、気にも留めないんだろう。)

自分の中の何かにひびが入って、すべてがどうでもよくなりそうだった。けれど、どうしても、思い出してしまう。
僕はいらない、すべてが僕のせいだと否定され、どうでもいいと思わされた、そんな日に、ありがとうと言ってくれた僕の大切な人。僕がいて幸せだと言ってくれた人。きっと、君は、まだ、僕を心配して、僕のために怒ってくれる。優しさをくれる。

(それを、利用すればいいんじゃないのか?)

そんな悪魔の囁きにさえ、僕は頷けない。こんな思いをしてまで、君が傷付く可能性に進みたくないんだ。
ご飯を食べ終わって、学校に行く。ぼんやり考えながら歩いていたせいか、いつもよりだいぶ早く学校についてしまった。

(ま、もしテンテンに会っても、そういう気分だってことにしよう。一日くらいなら、なんとかなるでしょ。)

けれど、日常は、自分以外の世界でも、新しく構築されているものなんだ。
廊下を歩くが、人の気配がほとんどなく、まだ生徒がいないことが分かった。しかし、自分の教室に近づくと、教室の中から声が聞こえた。人がいないからか、それとも、自身の耳が声に敏感になっているっからか、かすかな声だったが太狼の声と木嶋 龍だとわかった。

「あー!もうっ!太狼、お前なんで伊藤みたいな奴と友達やってるんだ?」

急に、木嶋流が耐えきれなくなったように声をあげた。

「なんでって、あいつは良い奴だよ。疑問に思う点がわからない。」
「良い奴なの?」
「あぁ。それに、あいつの隣は安心するんだ。」

心臓が跳ねて、笑みが溢れた。まだ、自分はテンテンにとってまだ、隣にいていい存在なんだと思えた。

「なにそれ、妬けるんだけど。僕の隣は安心できないの?」

嫌な予感がした。

「あーもう、拗ねるなよ。」

呆れたような、それでいて、愛しいものに話すような優しく、少し照れたような声だった。

「お前が1番だよ。りゅう。」

僕は無意識に、涙を流していて、足が勝手に教室から離れていた。

(あー、だめだ。僕は、だめだ。)



「それは、嫉妬って気持ちかもしれないね。」

カフェの中、目の前にはこの間のお兄さんがいる。あれからなんとか、気持ちを保って授業にだけ出て、すぐにお兄さんに連絡をした。お兄さんは、二つ返事で僕をカフェへと誘ってくれた。
僕が今日のことを話すと、お兄さんは話してくれた。

「”自分以外の人の隣で、自分を必要とせず笑っている。自分じゃ無い人に向けての好意を感じた。”それが君にとって、とても感情を動かされることだった。って、ことだよね。」

お兄さんの言葉に頷いて、考える。

(僕は、嫉妬していたんだ……そっか……。)

テンテンの隣に木嶋龍がいる。テンテンは、僕にはくれない甘い声で、木嶋龍に囁く。自分じゃ無い、その人に「好きだ」と。

「君は、その人が本当に好きなんだね。この前も、”その人がいたから、生きられた”みたいな事を言っていたし。」

お兄さんは、僕の目を真っ直ぐと何かを覗くように見た。
「……もし、その人が、君に手を伸ばさなくなったら……その人の選択肢から君が消えたら、その時、君は、どうなるんだろうね。」

突然、淡々と、それでいて興味深い事を話すような楽しそうな声を含みながら、お兄さんは言った。

(テンテンから、僕が……消える?)

「なるほど、興味深いね。」

お兄さんはそう言って、僕の顔を見た。

「その人の世界から自分が消えるって、想像したのかな?もしそうなら、それだけでこんなにも自然に涙が流せるなんて…」

そう言われて、涙がポロポロと流れていることに気がついた。それと同時に、テンテンの存在が自分の支えになっていたことに気付かされた。

「もう少し、聞いてもいいかな。」

明らかにこの間とは違って、僕の話を研究の材料のように聞くお兄さんに違和感を感じた。けれど、その違和感すらどうでもなるくらいに、僕の心は削られていた。誰でもいいから、縋りたかった。


聞かれたことは、テンテンのことや僕との関係、木嶋龍についてだった。特に、テンテンの性格に関する事を聞かれた。

「君の苦しさをどうにかするためには、様々な選択肢がありそうだね。」

それからお兄さんは、とりあえずと言って3つの選択肢を僕に提示した。

まず、このままテンテンを諦めて、他の人を探す……つまり、テンテンを忘れるということ。
次に、テンテンの優しさに漬け込んで自分から興味を離さないようにすること。
最後に、何もしないでこのままでいること。

「でも、君は何もしないまま、苦しいままでいそうだから……えーと、心配しちゃいそうだな。」

お兄さんは、この間みたいに慈しむように僕を見た。

「僕は……幸せを、奪いたく無い…。」

もう、“お前がいなければ”なんて言葉を聞きたくなかった。だからこそ、何もできない。

「そっか……でも、君は…愛してくれる人が、必要なんじゃないかのかな。」

そう言って、お兄さんは僕の方に手を伸ばした。
頬にお兄さんの手が触れる。優しく頬を撫で、そっと離れた。
不思議と、自分の中に嫌悪感はなく、お兄さんの行動が自然に受け入れられた。それをお兄さんも感じ取ったのか、にっこり笑った。

「僕が、その人の代わりに君を愛す、なんて、どうかな?」

急な言葉に頭が追いつかず、お兄さんを見る。

「あ、今すぐに答えて欲しいわけじゃなくてね、ゆっくり考えていいから。ま、とりあえず、今日は帰ろうか。」

そう言って、お兄さんは僕を促しながら店の外へ向かった。頭の整理ができないままいると、お兄さんの手がまた、頬に触れた。

「嫌なら、避けてね。」

そう言われて、気がつくと、唇に何かが触れ、ハムっと下唇を食べられた。

(キス…されてるのか?)

唇が離れ、お兄さんを見ると優しく微笑んで、僕の頭を撫でた。

「じゃ、返事待ってるね」

混乱したままの僕に、そう言って、お兄さんは背を向けた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

好きだからキスしたい

すずかけあおい
BL
「たまには実晴からキスしてみろ」攻めからキスを求められた受けの話です。 〔攻め〕玲央 〔受け〕実晴

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

処理中です...