手繋ぎ蝶

楠丸

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19章

~女達の一コマ~

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 十二月の初旬になっていた。バスケットに盛られたフルーツの静物画が飾られたダブルシービーのスタッフルームに、施設長の文岡(あやおか)丈二が帰ってきたのは、昼食休憩時間が終わり、午後の受注作業と個別運動などが始まった十三時過ぎだった。彼はつい昨日亡くなった高齢の男性利用者の葬儀に顔を出した用のため、黒ネクタイの喪服姿だった。
 今日の吉内叶恵は、午後は事務作業に入ってくれと、サービス管理責任者で副施設長格である文岡の実弟、和馬から指示を受けていた。

 文岡は喪服の上のコートを自分のデスクの椅子に掛けると、煙草とライターを手にスタッフルームを出ていった。そのあとを、弟の和馬が追った。行く先は屋外の喫煙所だった。

 施設長兄弟が出て、入れ替わりに若い女子のスタッフが入ってきた。慌てた歩調と顔だった。

「阿部さんが不穏になってまして、佐藤リーダーが裏庭に連れていったんですけど、今、かなり激しく揉み合ってて‥」今年に短大を卒業して入職した近藤莉奈というその女子は、目が合った叶恵に恐る恐る報告した。取り柄はひたすらに利用者に優しい所だが、半年以上いるわりには支援力が開花する様子は見えない。だが、性格だけはとにかく良く、愛情に包まれて大切に育てられてきたことがよく分かる。

 阿部とは、就労継続支援部の男性利用者で、年齢は四十代、障害支援区分は4、歌とダンスが好きで普段は明朗だが、極端な感情の起伏があり、彼が物品をぶちまけて暴れ出す際は、いつもスタッフは食堂へ連れていって、ジュースと菓子を与えることでの落ち着かせを図っている。

「作業に戻れ」叶恵は椅子を立って、莉奈に命じるように言うと、スタッフルームを出た。

 駐輪場脇の喫煙スペースでは、文岡と和馬が煙草を吸っていたが、叶恵が近づくと、「あの臭くてうるせえの、死んでくれてせいせいしたわ。これで少し肩の荷が降りたよ」と文岡がサービス管理責任者の実弟の耳に打っている言葉を拾った。

 施設長、と低く声かけした叶恵に、煙草を手にした文岡と和馬がうるさそうな目を向けた。叶恵が梨那からの報告をそのまま伝えると、経営者兄弟は煙草をもう何口か吸い、揉み消して、裏庭に歩を向けた。文岡の顔には、隠しようもない苛立ちが刻まれている。

 裏庭へ向かう道すがら、いからせた肩を大振りし、項を落とした和馬が唾を吐いた。この兄弟は四十代だが、昔の習いで体を揺らして歩く二人のあとに、叶恵は着いた。

 裏庭が揉み合いの現場になっていることは、叶恵には絶好の好都合だ。この裏庭は、問題を起こしたり、言うことを聞かない利用者を、文岡、和馬が連れ込んで、支援者のものとはおおよそかけ離れた言葉遣いでドスを効かせたり、威しつけながら、痣などを作らないように加減した軽暴力を振るう私刑の場所になっている。

 その裏庭には、彼らが気づくべくもない目が存在している。

 小石が敷き詰められ、プロパンガスのボンベが立ち、フェンスの向こうには更地、百メーター先にカレット工場が見える裏庭では、身長140cmの阿部が、佐藤涼子という中年の作業班リーダーの肩に拳を叩きつけながら、言葉を成さない奇声を張り上げている。

「朝の割り当てで決まったことは、その日はもう変えられないの! どうして分からないの、阿部さん!」佐藤は阿部の手首を掴み、体を揺さぶって説得しているが、感情的になった彼女の声は、逆に火に油となっているようだった。

 文岡は、佐藤と阿部の間に肩幅豊かな筋肉質の体を割り込ませた。阿部の後ろに和馬が立った。前後から威圧の視線を受けた阿部の顔と姿勢が、次第に固まり始めた。

 文岡が、自分よりも三回り以下の身長をした阿部の肩を掴んで体を固定させるや、彼の腹に膝を突き上げた。うずくまりかけた阿部の髪を、後ろから和馬が引いて、体を立たせた。

「おい」左手で阿部の胸倉を掴み上げ、右手で軽い平手打ちを何度もその顔に食らわせながら、文岡は声を降らせた。
「お前、俺達に一端張ってるつもりみてえだな。ちょうどいいから、お前みてえな家畜には一生かかっても分からねえこと、教えてやるよ。世の中には分際ってもんがあるんだよ。お前らの安全を毎日守って、お前らの飯と糞やションベンの世話してんのは俺達なんだよ。つまり、俺達が、お前らの命を握ってんだよ。お前らの命を預かってるから、病災の頃は感染対策をきっちりやったし、地震や台風からお前らの命を守るための防災訓練だってやってるわけだ。お前を含めて、どいつもこいつもそれに感謝の心を少しも見せねえとこに、すでにお前らの生まれつきの分際が出てるんだよ」文岡は目を大きく剥き、息がかかるほどに、阿部の顔に自分の顔を寄せた。

「そんなに竹ひごの検品が嫌だったら、職員の手元やるか? 言っとくけどな、こっちは竹ひごとか梱包みたいに優しくも甘くもねえぞ。優しいほうがよけりゃ、こっちが決めた朝の割り当てに従え。それが出来ねえんだったら、とっとと自殺して、もーもー、ぶーぶー鳴いて、餌食って、糞小便垂れる牛か豚に生まれてこいよ。五階から飛び降りるとか、電車に飛び込めば死ねることぐらい、お前でも分かんだろ。まあ、そんなのが一匹死んでくれて、こっちはすっとしてるんだけどな。風呂も入らなきゃ、糞したあともケツも拭かねえ、手も洗わねえ、臭え、ぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ、うるせえ爺いが、ちょうどよく脳溢血でくたばってくれたからさ。あの伊藤の親爺だよ。お前も知ってんだろ、おい」文岡は言って、阿部の頬をまた二回叩いた。

 こういった施設長兄弟の行状は、開設して十年かけて作られてきたこの施設の体質であり、すでにここの習慣になっており、不適切行為として外部へ伝えられることはない。佐藤はここの職員中、数少ない素直な心を持つ人間だが、彼女が職場を移ることなく七年間働き続けている理由は、先天性の指定難病を抱えた長男の長期入院費と治療費のためだ。その足しの「手当」を文岡が佐藤に振り込んでいることも、叶恵は知っている。佐藤が文岡に逆らう術はない。

 ダブルシービーは給与、福利厚生ともに充実し、賞与も良い。小規模としては珍しく、安房鴨川には保養所もある。それは県の漁業を支える港湾会社がスポンサーに着き、県議会の左派議員からリベートを受け取るという表、裏の根回しがあってのことだ。

「竹ひごの作業に戻れ」胸倉から手を振り離した文岡の命令に、阿部はただ俯くだけだった。和馬が阿部の髪を離し、彼の背中を掌で突いた。和馬は阿部のジャージの襟首を持ち、脚をもつれさせる彼を牛を引くように引き、その後ろに文岡が続いた。

「佐藤さんも吉内さんも、仕事に戻って」和馬は叶恵と佐藤を振り返って、指示の声を投げた。佐藤はただ黙って従い、肩を落として、痩せ型の体に花柄のエプロンをまとった姿を裏口へと消した。

 叶恵は四人の後ろ姿を見送りながら、これまでここで得てきた情報と、ここ何年かの間に自分が仕掛けてきたものと、予想されるそれの成果を、頭の中で反芻し、遅れて彼らのあとに着いた。

 新京成線高根台駅近くの一角に軒の立つ、広さ七十坪ほどのスパゲティ・レストランカフェに、愛美はいた。通路側の四人掛けのテーブル席の出入口側には、愛美、隣に特別支援学校高等部二年の一人娘、賜希(たまき)がちょこんと座り、向かいの厨房側に夫の高坂康博、その愛人で、康博の子を持つ、赤荻清乃と名乗るアラサーで萌え系のルックスをした女が座る。愛美が外で名乗る二井原は、彼女の旧姓だ。
 四つのお冷が載ったテーブルでは、愛美の前には半分まで食べ進んだナポリタンがあり、その隣で賜希が唇をすぼめて、おぼつかない手つきでフォークを操作してカルボナーラを食べている。目を伏せる清乃の前には,全くフォークとスプーンのつけられていないジェノバ風シーフードがすっかり冷めて固くなっている。

 康博は、生ハムサラダとイカのマリネにひっきりなしにフォークを通し、がつがつと口に運びながら、ジョッキのウイスキーハイボールを鯨飲し、せわしなく目を動かして、周囲に眼を飛ばすような視線を送っているが、その食い方、飲み方には、こんなことは俺は何とも思っちゃいねえ、という虚勢が如実に表れている。昼飲みのハイボールは、もう二杯目だった。

 お冷とオーダー品の載る、白いクロスを敷いたテーブルの中央には、すでに愛美、康弘の署名捺印がされた離婚届の用紙が置いてある。

「こいつは俺が出してくるわ。お前らは、今日はゆっくりしてろよ」康博は酔って泳いだ声で言い、ジョッキを片手に、お冷と酒と料理に囲まれた離婚届用紙を指で叩いた。

 内装が木目調で統一され、骨董品の壷や皿がコーナーに並んで客の目を楽しませ、懐かしのイタリアンポップスが流れる店の客入りは、時間的にランチのピーク時を過ぎていることもあって、まばらというほどでもないが、賑わうまででもなかった。

 清乃の顔と態度には恐れが滲み出しているが、賜希の様子にはさほどの屈託はない。それは時に泣くこと、落ち込みをもたらすことがあっても、次の一瞬には関心の対象が変わる現金な特性に加え、両親の離婚をあらかじめ知らされていながら、父親とはこれからも時々会うことを母親から許されているからでもある。

「いいわよ。私が出すから。この用紙には、私の名前が書いてあるのよ。あなたがそんな酔っ払って、そんな崩れた態度で窓口の係員の人に出されたら恥になるから」愛美の言葉に、康博は笑いを鼻から吹いた。

「恥なんてお互い様だろ。彼カノだった頃から、こうやって店に入るたび、俺が代わりにメニュー読んでやってたじゃねえかよ。俺だって、お前と出かけるたんびに恥を忍んでたわけだよ。今日だって、店員のお姉ちゃん、啞然としてたぞ。お前が見てる予備校の生徒が、お前の持ち物をどれだけ知ってっか、俺には分からねえけどな」

 康博の声と言葉には周りへの遠慮がないが、こういう所が、出逢った頃、中学三年の愛美を惹きつけた性格的特徴の魅力でもあった。二十歳を過ぎ、お互い美大生と、建設会社の基礎工事職人という立場で同窓会と呼ぶにはまだ早いクラス会で再会し、それから逢瀬を重ねて結婚生活に入り、賜希が生まれるまで、良く言えば豪放で、ちまちました所のない気風は、確かに女としての愛美を魅了していた。

 だからこそ、覚悟は半ば以上にはしていた。怖いもの知らずで豪放磊落だが、多くのその手の男にありがちな癖を持っていることは、まだ人生経験がないなりに分かっていたからだ。

「いいか、これは協議の示談だ。明日までに三つ振り込むから、それで文句ねえだろ。慰謝料と養育費を兼ねてる分だよ」「じゃあ、もらっておく」愛美は言うと、康博の目をまっすぐに見据えた。「こちらの彼女さんの女の子は、今、七つって聞いてるけど、その子を養育するためにこれからかかるお金を、あなたがどんぶり勘定してるんだったら、私はもらってもいいよ。その代わり、この先、私とあなたの間に、子供はともかく、お金のやり取りはなしだからね。あなたのお得意の適当会計で、あなたが困ることになっても、私に出来ることはないから」愛美の声は優しいが、清乃はそれに何かの剣幕を感じることと疚しさからか、下ばかりを向いて言葉を閉ざしている。

「お前は自信あんのか? これから賜希をお前の細腕で育ててくだけの‥」康博の問いかけは、度数の高い酒の酔いに押されて語尾が消えた。

「言っとくけどな、俺はお前との家庭を潰す気は一切なかったんだぜ。こっちはこっち、そっちはそっちで、傾かない弥次郎兵衛みたいに、ちゃんと持たせようとしてたんだよ。だから、稼ぎだって、必要な分はきっちりそっちに渡して、賜希を特支にもやったんだ。確かに俺がやったことは、お前には文句のつけようがあることだろうが、俺なりに筋は通していこうと思ってた矢先に、お前が離婚を突きつけてきたんだ。俺にだって、少しは物言う権利はあるだろう、なあ、愛美よ」愛美の毅然と酒の酔いで語勢を削がれた「筋」の発音が、愛美には「鈴」に聞こえた。

 思い出す。小学校時代から読字、書字のLDを理由、または顔立ちへのやっかみからいじめに遭っていた愛美は、中学で、夜叉のような顔をした女子の不良に目をつけられた。そのわけは、ただ愛美が可愛いからというものだったらしい。リンチの通告など言葉での威し、軽い暴力から始まり、修学旅行の夜、旅館の女子トイレに連れ込まれ、その不良女子怖さの言いなりになっていた男子の半端な不良達に、輪姦されそうになった。それを助けたのが、「転校生のくせに態度がでかい」という評判を持っていた康博だった。

 “糞だせえ真似、やめろよ。張ってる自覚あんだったら。これが広まったら、お前ら、一生干されるぜ” 父性を含んだ喝の口上を切って、その女子不良以下の面子を退散させて、下がジャージで上がジュニア用ブラジャーの姿にされて呆然とする愛美を抱え起こした。愛美が脱がされた体操服の上とジャージを着ける間、目を外して立ち、恐怖とショックで脚を震わせる愛美の手を取って女子トイレを出た。

 康博の口聞きで、愛美は女性の教師が泊まる部屋に保護され、一緒に寝て、箱根の修学旅行の二日目を終えることになった。それで良かったと思った。前年の林間に続いて、女子の部屋で深夜に囁くように話される、女子だけの「いい話」などに自分はついていけず、寝息を殺すようにして眠ることしか出来ないことは分かりきっていたからだった。

 拙い言葉で康博に感謝の言葉を述べたのは、卒業を前にした雨の日の廊下だった。たいしたことはしてねえよ、と返して、はにかみ笑った彼に、これまで異性に対してほとんどと言っていいほど持ったことのなかった恋心を、思春期が始まって以来ようやく持ったが、連絡手段が限られていた平成前期の当時のこともあり、卒業が一度二人を分けることになった。それから愛美と康博は、クラス会で再会するまでの間、それぞれ和菓子店にアルバイト勤務しながらの大検を経ての美大合格、定時制高校で学びながら職人の汗水を流す青春を送ったが、愛美の心にはしっかりと康博が留められていた。
 その修学旅行以後、夜叉の顔をした不良女子も、その取り巻き連中も愛美に手を出さなくなった。その理由、事情については、クラス会の折、康博と親しくしていた元不良の男子による耳打ちで知ることなったが、それによると、その一件で学年のトップとその周辺の番の幹部連中から興味を持たれた康博は、グループに取り込むことを目的とした力試しか、放課後の体育倉庫で、他校にまで腕っ節で名前を売る者達が監視する中で、喧嘩の強さでは五本の指に入る男とさしで勝負し、その喧嘩には負けたが、自ら左二の腕に煙草の根性焼きを入れて嘆願したという。

 “みっともねえことだけはやらねえように、雑魚の奴らに教育してくんねえ? あいつら、揃って薄馬鹿ばっかだからさぁ”

 それで番長も康博の根性を買ってその嘆願を受け入れ、相互不可侵の約束が交わされたのだ、と元不良は言ったが、何でも康博の叔母は、読み書きや計算に困難を持つ子供を対象とした、ちょうど今で言うところの発達支援塾のような小さな施設を経営しており、康博はそこに出入りして自分よりも年少の子供達の遊び相手になり、面倒を見ていたのだという。愛美とは、横浜から転入してきてクラスを同じくし、彼女の抱えるものを授業中の様子を見て知っていた。元から持つ任侠心もあったが、それもその任侠心を発揮して愛美を助けた動機だったようだ。

 それが後年に結ばれて、子供を設けるまでのことの始まりだった。

 今、このパスタハウスで自分の目の前に展覧されている絵は、自分が康博のすかっとした、それでいて破れかぶれな漢気を信じて所帯を構えた結果だが、それほどの後悔は覚えていない。

 これも人生の在りよう。愛美の中に、より覚悟が据えられていく感じがする。

「お前、これからはどうする気でいるんだよ。金はまだまだかかるぞ」「移ろうと思ってるの‥」康博の問いに愛美が答えた時、ウエイターが来て、声をかけて賜希の前にチェリーとキウィ、ウエハースのトッピングされたチョコレートソースのアイスクリームを置き、食べ終わったカルボナーラの深皿を下げて去った。賜希はスプーンを取って、ガラスの皿に顔を寄せてアイスクリームを食べ始めた。

「予備校って言っても、体育とか医学とか、美術に特化した専門予備校があるの。そのそれぞれの分野で志を立てたい子達向けの。美術専に移って、そこで正職の講師になろうと思ってるのよ。それで私が年老いて、この子をホームや入所に預けなくちゃならなくなる時が来るまで、育てるつもりでいるのよ」「考えの詰めが甘いんじゃねえのか。そんなことがそう上手くいくもんかね。採用倍率ってものもあるだろ。キャリア形成前提で、若い人間を採るもんじゃないのか」「見くびらないでちょうだい。やってみるわよ。何とかなるようにする方向へは、ちゃんと持っていく気でいるから。私はあなたみたいな適当主義じゃないから」愛美の隣では、その言葉の交わりがただ吹く風という表情をした賜希がアイスクリームを食べている。

「あなた、よく聞いて」愛美は康博の隣で瞼を伏せている彼の若い愛人に呼びかけた。

「これはもう、今となっては収拾のつけようがないことよね。だからこそ、今、私はあなたには何のマイナスな気持ちは持っていないのよ。あなたがこの人の子供を産んだと知った時ほどはね。だけど、心配なのよ。あなたがこの先にちゃんと、この人のそばで人の親として、自分を持ってやっていけるかどうかがね」清乃は、伏せた瞼をしばたかせて洟を啜り始めた。

「寂しさとか、不安から求めた相手との間に作ったものは、いつかは壊れていくものなのよ。その不安に、これからも耐えて、この人の奥さんとして、お嬢ちゃんを養育していけるの?」

 清乃の目から涙がこぼれ始めた。その涙が、愛美への詫びと、考えを欠いて突き走ってしまったことの後悔からのものなのかはまだ分からないが、こういう場で涙を流す心を持っているだけ、まともだろう。だが、知的程度が気になる。

「これはもう起こってしまったことよ。でも、起こってしまったなりにも、先の時間に事態を落ち着けることは出来るの。あなたには、義務が発生しているの。それは、あなたが彼との間に産んだ子を、国が保障する権利を受けられる資格を持った人にきっちり育てていくことなのよ。あなたには、もうそれしか残されていないのよ」

 清乃はただ泣いている。康博はハイボールを飲み干し、ジョッキの底をテーブルに打ちつけようにして置いた。
「釣りはやるよ‥」康博は小さな曖気(あいき)混じりに言って、テーブル上のメンズバッグから長い財布を出し、一万円を抜いて離婚届の隣に置いた。

「勘定、これで足りるだろ。ゆっくりしてけよ。おい、これ食わないんだったら行くぞ」

 赤い顔をした康博はジャケットを肩に突っ掛け、清乃が全くフォークをつけないまま冷めたシーフードスパゲティを指して言い、立ち上がった。

「じゃあな、賜希。近いうち、舞浜のランドかシーに連れてって、みあげもたんと買ってやるからな」アイスクリームを食べている元の所帯の娘に、笑顔の康博が声を投じると、賜希が皿から顔を上げて父親を見た。彼女が返した反応はそれだけだった。

 清乃は唇を歪めて啜り上げながら、顔の下半分を手で覆い、もう片手にコートを持って席を立った。

「今日、あなたの女の子はどこに預けてきたの?」愛美が訊くと、清乃が涙に震える小声で呟いたが、聞き取れなかった。「どこ?」愛美がもう一度訊き返すと、ようやく聞き取れる声で、「友達‥」と答えた。細かいことは分からないが、自分の親元と答えなかった所に、複雑な事情を愛美は感じ取った。

 木目の店内にいる店員や客達の目が向くことはなかった。自分達が座るテーブルから、居合わせの距離があるからということもある。流れている曲はミーナの「砂に消えた涙」だった。

「いいか。前から言ってることだけどな、これはお前が俺にきっちり仕えなかったことが原因なんだよ。俺をほったらかしにして、自分の好きな絵ばっかり描いて、どこかのギャラリーに提供するとか、自分のことばっかり見てくれって欲求をいつも出してることに、俺が耐えられなくなって起こったことだよ。それを反省しろよ、少しは‥」愛美は康博の身勝手な捨て文句を聞きながら、清乃にまた目を当てた。名乗りと単調な返答を除く口の重さに、賜希ほどではないが、何かを抱えていると察した。

「じゃあな」横顔を向けた康博と、肩をすくめて後ろに続いてレジへ去る清乃を目だけで見送った愛美は、チョコレートソースが着いた賜希の口許を紙ナプキンで拭った。そこへウエイトレスが食器類を下げに来たが、手つかずでトレーに載った清乃のジェノバ風シーフードスパゲティを見て感じたことは、もったいなさよりも、清乃が背負って生きてきた悲しみを追い思う気持ちだった。テーブルの物は、自分が食べかけのまま残したナポリタンも下げてもらった。

 これはやはり、危機に落ちた自分を根性のない半端な不良達の欲望から救った、充てるべき言葉は漢気、この思いから始まった関係だったのか。

 賜希がアイスクリームを食べ終わるのを待ち、離婚届をバッグに入れ、店長らしい男が立つレジで康博が置いて去った金で会計し、娘の手を引いて冬晴れの高根台の街に出た時、粒の小さな涙が頬にこぼれた。

 娘も気づいていないその涙を小指の腹で拭いながら、愛美は先程まで同席していた夫の愛人につられたもらい涙ではない、愛していた男が自分を裏切っていたことの悲しみによる涙だ、と心で言い聞かせたが、自分の判定するその真偽は怪しかった。そんな気持ちの中で、康博が彼女を不幸へ追い立てることがないようにと心から祈った。祈りながら、一ケ月半前に、康博への焚きつけの思い、自分の恋愛的冒険を兼ねて参加した、罠の手繋ぎ式で知り合った村瀬に連絡を取るタイミングを計っていた。

 十七時で勤務を終えた叶恵は、巾着バッグを背負って、銀のフルフェイスヘルメットを被って黒のぺスパに跨り、宮本から谷津まで飛ばした。彼女がダブルシービーに入職してからの十年住み続けている住居は、習志野から八千代にかけて何軒かのビルや貸店舗を所有する不動産オーナーの邸宅だった。敷地二百坪で、四つの部屋を持つその家には現在老齢のオーナー夫妻が住んでいるが、元々息子が使っていた部屋を間借りし、月に三万円の家賃を払って叶恵が住んでいる。

 オーナー夫妻は金に余裕があるためか度量も広く、叶恵に風呂、朝食、夕食を提供しながら食費や光熱費を取らない。叶恵もそういった温かい恩恵に応え、家賃の支払いを遅らせたことがなく、部屋も綺麗に使っている。

 谷津駅北口側の住宅地の坂上にある、四角く剪定された白樫の垣根に囲まれた邸宅の門に、ヘッドライトを光らせてぺスパを乗り入れ、オーナーのセドリックの脇に駐輪してエンジンを切った。

「今日は水炊きよ。早めにお風呂入って、来なさい」玄関を潜った叶恵に、綺麗な銀の髪をした夫人が言い、後ろのテーブルでは銀髪の主人が鍋に白菜を盛りつけていた。
 叶恵は、はい、と返し、あてがわれている二階の部屋へ向かって階段を昇った。

 自室に入り、巾着の中身を出し、PCに向かった。デスクトップ画面には、協力者から送信されたムービーメールが届いているという表示が出ていた。

 それを開くと、マンションの一室で撮影されたと思われる、二十代の女の映像が現れた。

 女がTシャツを着ていることから、それは夏時に撮影されたものと分かる。髪を赤茶色にカラーリングし、誰かと会話しているところを映された女は頬骨が張っていて美人ではないが、地のものらしい小麦色の肌とスレンダーな体つきにセクシズム、団栗のような丸い目にコミカルな愛嬌を見出せないこともない。だが、その目には思慮深さを始めとする知性らしきものが覗えず、言うなれば、思考というものがない人間のそれだった。男の声も聞こえているが、小さなぼそぼそ口調で、まだ話していることは聞き取れない。この女を、叶恵は浅からず知っている。名前は村嶋理恵。今年の九月までの一年半ほど、ダブルシービーの就労継続部を利用していた。療育手帳の区分はB2で、性非行歴があり、「好きな人」をころころと変える。一見や、知り合ってそう時間の経っていない男への警戒心がまるでなく、屋外での作業中に外部の車が来ると「あー、私のことナンパしに来たんだ」などとはしゃぎ騒ぐ。

 この女は、障害区分が軽度の男性利用者何人かと関係を持ち、誰のものかも分からない子供を妊娠、中絶してから来なくなり、そのうちに除名のような扱いで退所となったが、こんなエピソード自体は、今の叶恵にはどうでもいいことだった。

 理恵がベッドに腰かけ、隣に男が座った。映っている男は、ダブルシービー施設長の文岡だった。

 文岡が理恵の肩を強引に抱くと、理恵は蓮な笑いを曳らして、文岡の肩に頬を載せた。「お前、何でもしゃべっちまうかんな。このこと、ぜってえ外でしゃべんなよ」文岡は笑いを含んだ声で言うなり、理恵の膝上スカートに手を潜らせ、パンティに指を差し入れ、彼女が腿を広げた。指のスライドとともに、陰毛のじゃらつきと、安臭い淫靡さを醸す粘膜の音が鳴った。

 そこへ画面の端から、スマホを構えたトランクス一枚の姿の和馬が現れた。トランクスの前部が膨らんでいた。

「今日も姦ってやるからよ。お前の好きなアヌスやっから、脱げよ」和馬が言った時、彼同様に陰茎を勃起させた別の下半身裸の男が左から映り込んだ。追従笑いを浮かべたその四角い顔に細い目の男は、文岡兄弟と同年代の人間で、少なくとも叶恵には、その男の素性は分かる。

 昔に文岡兄弟と、大田区の東糀谷界隈で一緒に蜷局(とぐろ)を巻いていた仲間の内で、使い走りの扱いを受けていた、自覚のない境界線知能の男。

 チャプターを選択し、画面を進めると、理恵の嬌声めいた笑い声とともに、陰毛の下に大きく開かれた彼女の赤い膣孔と、赤銅色をした肛門が画面一杯に映し出された。協力者が部屋の四方に仕掛けた盗撮機には、ズーム機能もついている。包皮から露頭したクリトリスを、表面の平らな印台の指輪を嵌めた和馬の指が弄び、彼の濁った笑いが流れた。理恵はむつきを替えてもらう時の機嫌の良い赤ん坊のように、はしゃぎ笑っている。自分が男二人がかりで玩具にされていることなど、この女は全く気にもせず、受け入れている。
 次に選択したチャプターの画面の中では、斜め前から、全裸の理恵が和馬をフェラチオで受け、後ろから文岡がその体を貫いている絵が映し出されていた。「汚え。糞が引っついてやがる」文岡が呟いた。「臭え。こないだの調理実習で先にカレー食っといてよかったな」和馬が言うと、文岡が笑った。

 今も文岡達に進んで格下の使い走りとして好んで従属している、氏名を長田という男は、理恵の体の後ろに立ち、萎びた笑いを顔にへばりつかせて陰茎をしごいている。姦淫に参加することは許されていないらしい。叶恵は調べ尽くして、他の様々な情報とともに掴んでいる。この男が、十代の頃の文岡兄弟とそのチームの仲間達が路上強盗や恐喝、目に留めた女子中学生や女子高校生をさらって凌辱する際や、拉致した敵対チームのメンバーをリンチする時に見張り役をさせられ、あの事件では罪を押しつけられ、主犯扱いで裁かれたことを。

 それでも長田は地元から住居を移すこともなく、文岡兄弟と手を切ることもなく、彼らに呼び出されれば東糀谷から千葉まで出てきて、用に使われ続けている。ここに叶恵が仕事で見ている人間達の特性が出ているが、彼女が彼に同情することはない。大人の年齢になれば権利と表裏一体の責任が生じることは当たり前で、長田が今もこの素性を隠して表の顔をつくろって社会人然と生きている兄弟に媚びて従っていることも権利なのだ、と叶恵は思っている。それが叶恵の考えだった。

 画面の中では文岡が理恵の肛門に射精を終え、和馬が彼女の脚の間に体を割り込ませて、乳房を揉み立てながら、ぬかるみの音を立て、手で性器をこねて遊んでいる。理恵はシーツの上で体を反らせ、紅潮した顔を歪めながら忘我の声を上げていた。呆けた声に、三人の男の笑いが重なった。

 そこへ適時とばかり、ビデオ通話の着信が表示された。発信者は、荒川、とある。理恵が着信画面をクリックしてビデオ通話に応答すると、目の笑わない笑みの顔をした男の顔が現れ、画面が文岡達の痴態と男の顔に二分割された。マイクのオンは自動で切り替わるように設定してある。

「どうだ。アングルとか問題ねえか」男が問い、叶恵が頷いた。「問題ない。私が欲しかった絵が撮れてる」「そうか。偽の工事要請書類、こっちで作って、化けて潜った仕事の甲斐があったぜ。あの市川のウィークリーマンションにな」「恩に着る」「いいんだ。お互いこうして素の面さらして、今回の件、組んだ関係じゃねえか。お前が首尾よくお前の親父の弔いやってくれることを祈るよ」画面の中にいる鱈子唇の男は、言って笑いを落とした。

「例の小討論会とかはクリスマス過ぎだったな。成功報酬は、この前教えた口座に、上手く行き次第振り込んでくれりゃいい。やるんだろ?」「やるよ。私には他に道はない」「自分も体と、社会的生命、張ることは分かってんな」「分かってる」叶恵は気合を呑んだ声で答えた。男の顔に隠れた脇の画面では、上から伸びた文岡の手に乳房を揉まれた仰向けの理恵が和馬に挿入されて、ずりずりと体を揺らし、喘いでいる。

「じゃあ、お互い他にも掴んだことがあったら、また連絡取り合おう」「ああ、またな」叶恵と、刈り込んだリーゼントの頭をした赤い鱈子唇の男は同意を交わしてビデオ通話を終了させた。

 男が画面から消えると、正常位で和馬を受ける理恵の喘ぎ顔が大映しになった。叶恵は保存ボタンをクリックし、画面を閉じた。

 叶恵は煙草一式を持って、外階段と繋がっている一階のベランダテラスへ降りた。白い丸テーブルと椅子が配置されたテラスで、茶のパッケージの「マイティビート」6mに電子ライターで火を点け、尖らせた唇から煙を吐いて、夜の空を見上げた。

 始めは手探りの試行錯誤、それから徐々にいろいろなことを掴み、下ごしらえをした。人相を覚えていた文岡兄弟と、彼らが率いていたチームは、当時、現在の写真もろとも、調査の一環として買った実話ムック本に紹介され、恰好いい、かっ飛んだ武勇伝が掲載されていたが、のちに就いた職業などは伏せられていた。彼らが東京から千葉へ転居して福祉の道に入り、兄弟で福祉施設を立ち上げ、弟はまだ独身だが、兄は結婚して家庭を持っているという情報は、女の身で鳶の手元仕事に就いている時に、かつて大田区の非行少年勢力の連合体で相談役をしていたという流れ職人の男から耳に入れた。それで名前を検索し、施設名と所在地が分かった。

 その後、鳶の手元を辞め、貯めた金を元手に千葉へ渡った。現在の住居は、訪ねた大手不動産チェーンの社員から「安く住める所がある」と耳に打たれて決めた。

 ダブルシービーには、週刊の求人誌の募集に応募し、スターティングメンバーとして入職したが、面接の時、彼らが叶恵に見せた顔は、いかにも穏やかで礼儀正しい福祉従事者という風だった。だが、その本性は入職してすぐさま見ることになった。支援の最中には利用者に対して優しく接するが、利用者が帰宅したあとのスタッフルームでは、利用者の話し方や歩き方、顔の表情などを真似して、また、利用者本人やその保護者を侮辱して、幹部スタッフ達と盛り上がっている。それらが、叶恵の意を拾った。彼らが福祉の道に入った動機というところで。

 彼らを社会的に抹殺すること。それが幼かった自分の目前で、彼らの手で嬲り殺しにされた父親へのはなむけだと、叶恵はマイティビートを深く吸い燻らせながら、近づいた計画決行の日に向けて、気持ちを堅めつつあった。

 なお、共同作業者の荒川と名乗る男は、叶恵が週二日ほどのペースで汗を流す格闘ジムに、オーナーと知己の彼が出入りしていたことで知り合った。叶恵は男に信用出来るものを感じ、男は彼女に協力することで、己の商売のつてを得ようとし、法や官憲の目が届かない関係が構築されたのだった。
 紫がかった煙の向こうに広がる冬の夜空は、冷たい雨気を含んだ厚い雲が垂れていた。あの日のあの夜と同じように。フィルターまで吸った煙草を携帯灰皿に入れ、揉んで潰した時、それを文岡兄弟の人生に被らせながら、叶恵は雲の奥の半月を睨んだ。

 唯一つのそれだけが、自分という人間の芯であり、存在理由であると心に語りかけていた。自分を一番落ち着かせるそれを思った時、後ろから夫人が「お風呂涌いてるから、早く入っちゃったほうがいいわよ」と声かけし、叶恵は振り向いて「はい」と答えた。
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