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第18話
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気付くと周囲の乗客の殆どが同じ番組を観ているらしく、指向性の筈の小さな音声が同調して何処からでも聞こえてくる状態だった。
《ナイト損害保険組合本部の地下七階、冷凍睡眠装置の前からライヴでお届けしております。世紀の瞬間まであと十五分です。どうぞご一緒にお楽しみ下さい――》
割と冷静なレポーターから一転、ナイト損保の本部ビル前の映像に切り替わると、まるでデモ隊のようにプラカードなどを掲げた人々がお祭り騒ぎをしてる様子が見られた。
「ヒマな奴はいるもんだな」
「まあ、何でも愉しまなきゃ損だから」
「なら、お前も一緒にプラカード持って騒いでくるか?」
「王に拝謁するって? 三千年前の話を聞くのも優雅かもね」
映像がまた切り替わり、在りし日の(?)レックス=ナイトのポラが映る。黒髪で緑の瞳をした、なかなかの好男子だ。ポラでの年齢は三十代半ばくらいか。
《――今、医師団が装置の調整に入った模様です》
様々な機器の繋がった冷凍睡眠装置、台に乗せられた柩のようなものが大映しになった。
《世紀の瞬間まであと二分です……全ての機器が外されました。あと一分……たった今、装置のフタが外されました――》
カメラがレポーターからパンして装置の中を覗き込む。ドライアイスのような水蒸気で何も見えない。と思ったら中から何かが飛び出してきた。カメラが追う。それがバサバサと羽ばたき、医師の一人の淋しくなった頭髪をワシ掴んでとまった。
《――ナマムギナマゴメナマタマゴ、メクソミミクソハナクソハクソ、アホー》
ジャンキーを含めて三人は呆気にとられる。
「……なあ、レックス=ナイトって鳥だったのか?」
「鳥……オウムみたいだよね?」
「みたいじゃなくってオウムっスよ」
それは体長五十センチはありそうな、青い羽根が見事な、紛れもなくオウムだった。
カメラが慌てて空っぽの冷凍睡眠装置を映すのを視て納得し、ハイファが他局のニュースに変えた。何となく機内には空虚な雰囲気が漂っていた。
まもなくアナウンスが流れ、BELは無事にネオニューヨーク宙港付属空港に到着する。シドとハイファは現地時間を標準時と並べてリモータに表示してから、ジャンキーをつれて乗客の列に並びタラップドアを降りた。真夜中の空港を渡る風は涼しく爽やかだ。
リムジンコイルに乗ってメインビルに運ばれる。ロータリーで降ろされ、一階のロビーフロアに三人は足を踏み入れた。本星内移動なので面倒な通関などはない。
「で、お迎えは何処にいるのかな?」
観光案内端末で地図をダウンロードしたのち、一階の異様に広いロビーをハイファは見渡した。夜中でも巨大ハブ空港は休みなく機能し、利用客も多数行き交っている。
「待ち合わせはこっちだ」
シドが直行したのはやはり一階ロビーフロア隅の喫煙ルームだった。ジャンキーと二人で煙草を吸いつつ、ロビーフロアを注視する。
「厚生局ネオニューヨーク本部、フレッド=スミスにマーティン=ノアっつー奴が迎えにくる筈なんだが……おっ、あれじゃねぇか?」
喫煙ルームの透明な壁越しにスーツ姿の二人組をシドは目で指した。格好は普通のサラリーマンだが、同じ司法警察員特有の目つきが目に留まったのだ。彼らも同様に気付いたらしく喫煙ルームに入ってくる。
シドとハイファのように黒髪と金髪のコンビのうち、金髪の方が口を開いた。
「ワカミヤ氏とファサルート氏か?」
「ああ。夜中に呼び出してすまん」
「いや、このロジャー=フリップはずっと我々が追っていたロニアマフィアの元・手先、貴重な証人だ。パクってくれて感謝する。わたしはスミス、こっちは相方のノアだ」
ずっと二人を眺めていたノアが呆けたような声を出す。
「カミーユの言った通り、あんたらはとびきり目立つなあ。一発で判ったぜ」
「わたしたちはできるだけ目立ちたくないんだが」
スミスの言い分も尤もで、麻取としては身分を隠したいのだろうが、目立つことに関してはシドたち自身にもどうしようもない。ここはさっさと移動するしかなかった。
「屋上にBELを駐めてある。話はそちらで」
地元組に促され、五人でエレベーターに乗った。
多数のBELがひっきりなしに行き来するので、五十五階建ての屋上に設置された風よけドームは殆ど開きっ放し、少々涼しすぎた。皆がシドと同じ思いを抱いたのか、急いで覆面仕様の緊急機に乗り込む。すぐにノアが反重力装置を起動し、空港管制とやり取りをしてテイクオフ。
垂直に高度を取ってから光の洪水のような都市に向かって飛行を始めた。
「わあ、ここの夜景もすごいね」
ハイファの言う通り、窓外にはセントラルエリアに負けずとも劣らない、宝飾店のショーケースのような光景が広がっていた。
「確かにこいつは綺麗だな」
だがイヴェントストライカとその一行は暢気にナイトフライトを愉しませて貰えなかった。まだ視界に宙港ビルが収まっているうちに、BELを激しい衝撃が襲ったのだった。
ドンッ! と、いきなり何かが機体にぶつかったような衝撃で、シートに腰掛けていた全員が前方に放り出されそうになる。
「何だ、どうした!?」
「分からん……うっ!」
《ナイト損害保険組合本部の地下七階、冷凍睡眠装置の前からライヴでお届けしております。世紀の瞬間まであと十五分です。どうぞご一緒にお楽しみ下さい――》
割と冷静なレポーターから一転、ナイト損保の本部ビル前の映像に切り替わると、まるでデモ隊のようにプラカードなどを掲げた人々がお祭り騒ぎをしてる様子が見られた。
「ヒマな奴はいるもんだな」
「まあ、何でも愉しまなきゃ損だから」
「なら、お前も一緒にプラカード持って騒いでくるか?」
「王に拝謁するって? 三千年前の話を聞くのも優雅かもね」
映像がまた切り替わり、在りし日の(?)レックス=ナイトのポラが映る。黒髪で緑の瞳をした、なかなかの好男子だ。ポラでの年齢は三十代半ばくらいか。
《――今、医師団が装置の調整に入った模様です》
様々な機器の繋がった冷凍睡眠装置、台に乗せられた柩のようなものが大映しになった。
《世紀の瞬間まであと二分です……全ての機器が外されました。あと一分……たった今、装置のフタが外されました――》
カメラがレポーターからパンして装置の中を覗き込む。ドライアイスのような水蒸気で何も見えない。と思ったら中から何かが飛び出してきた。カメラが追う。それがバサバサと羽ばたき、医師の一人の淋しくなった頭髪をワシ掴んでとまった。
《――ナマムギナマゴメナマタマゴ、メクソミミクソハナクソハクソ、アホー》
ジャンキーを含めて三人は呆気にとられる。
「……なあ、レックス=ナイトって鳥だったのか?」
「鳥……オウムみたいだよね?」
「みたいじゃなくってオウムっスよ」
それは体長五十センチはありそうな、青い羽根が見事な、紛れもなくオウムだった。
カメラが慌てて空っぽの冷凍睡眠装置を映すのを視て納得し、ハイファが他局のニュースに変えた。何となく機内には空虚な雰囲気が漂っていた。
まもなくアナウンスが流れ、BELは無事にネオニューヨーク宙港付属空港に到着する。シドとハイファは現地時間を標準時と並べてリモータに表示してから、ジャンキーをつれて乗客の列に並びタラップドアを降りた。真夜中の空港を渡る風は涼しく爽やかだ。
リムジンコイルに乗ってメインビルに運ばれる。ロータリーで降ろされ、一階のロビーフロアに三人は足を踏み入れた。本星内移動なので面倒な通関などはない。
「で、お迎えは何処にいるのかな?」
観光案内端末で地図をダウンロードしたのち、一階の異様に広いロビーをハイファは見渡した。夜中でも巨大ハブ空港は休みなく機能し、利用客も多数行き交っている。
「待ち合わせはこっちだ」
シドが直行したのはやはり一階ロビーフロア隅の喫煙ルームだった。ジャンキーと二人で煙草を吸いつつ、ロビーフロアを注視する。
「厚生局ネオニューヨーク本部、フレッド=スミスにマーティン=ノアっつー奴が迎えにくる筈なんだが……おっ、あれじゃねぇか?」
喫煙ルームの透明な壁越しにスーツ姿の二人組をシドは目で指した。格好は普通のサラリーマンだが、同じ司法警察員特有の目つきが目に留まったのだ。彼らも同様に気付いたらしく喫煙ルームに入ってくる。
シドとハイファのように黒髪と金髪のコンビのうち、金髪の方が口を開いた。
「ワカミヤ氏とファサルート氏か?」
「ああ。夜中に呼び出してすまん」
「いや、このロジャー=フリップはずっと我々が追っていたロニアマフィアの元・手先、貴重な証人だ。パクってくれて感謝する。わたしはスミス、こっちは相方のノアだ」
ずっと二人を眺めていたノアが呆けたような声を出す。
「カミーユの言った通り、あんたらはとびきり目立つなあ。一発で判ったぜ」
「わたしたちはできるだけ目立ちたくないんだが」
スミスの言い分も尤もで、麻取としては身分を隠したいのだろうが、目立つことに関してはシドたち自身にもどうしようもない。ここはさっさと移動するしかなかった。
「屋上にBELを駐めてある。話はそちらで」
地元組に促され、五人でエレベーターに乗った。
多数のBELがひっきりなしに行き来するので、五十五階建ての屋上に設置された風よけドームは殆ど開きっ放し、少々涼しすぎた。皆がシドと同じ思いを抱いたのか、急いで覆面仕様の緊急機に乗り込む。すぐにノアが反重力装置を起動し、空港管制とやり取りをしてテイクオフ。
垂直に高度を取ってから光の洪水のような都市に向かって飛行を始めた。
「わあ、ここの夜景もすごいね」
ハイファの言う通り、窓外にはセントラルエリアに負けずとも劣らない、宝飾店のショーケースのような光景が広がっていた。
「確かにこいつは綺麗だな」
だがイヴェントストライカとその一行は暢気にナイトフライトを愉しませて貰えなかった。まだ視界に宙港ビルが収まっているうちに、BELを激しい衝撃が襲ったのだった。
ドンッ! と、いきなり何かが機体にぶつかったような衝撃で、シートに腰掛けていた全員が前方に放り出されそうになる。
「何だ、どうした!?」
「分からん……うっ!」
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