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第3話
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「確かに人目慣れはしたと言うか、させられましたけど。忍さんも『県警本部版・抱かれたい男ランキング』で数期連続トップ独走中ですからね。そんな貴方を僕が独占しててもいいんでしょうか?」
「構うものか。もはや私たちは県警一有名な公認カップルだぞ」
「うーん、それも結構恥ずかしいものがありますけど」
「恥ずかしいついでに言っておく。お前の首筋に昨夜の名残のアザがあるからな」
「ええっ、本当ですか? どうしよう、火曜の朝までに消えるかなあ?」
「おそらく無理だろう。だが、まあ、そう気にするな」
「あ、もしかして『鳴海巡査部長を護る会』五十名超えに怒ってるとか?」
「当たり前だろう! たびたび機捜にまでクッキーだのチョコだのと差し入れを持ち込んで、お前は断りもせずあっさり毎回受け取るのだからな」
本気で腹を立てているらしく霧島は喋りつつも温めたカツサンドを一気食いする。
「仕方ないでしょう、僕が作った会じゃないんですし。それに追い払う理由を捏ね上げるよりも有難く受け取ってさっさとお帰り願った方が面倒がないんですよ」
「……ふむ。京哉、ときにお前は元々異性愛者だったな。なかなか女性の心理にも詳しく扱いにも長けているようだ。きっと余程の経験を積んできたのだろうな」
「ゲホゲホッ……ゴホッ! 別に包み隠さず話したっていいですよ。ただ年上の誰かさんのプライドに触るんじゃないかと思って、今まで話さなかっただけですから」
それこそ涼しい声で京哉が言い放つと、痛いところを突かれた霧島は話題自体が他人事のような顔をしてサンドウィッチに集中しているふりをし始めた。
綺麗に食べてしまうと二人で後片付けし、真水の補給プラス釣果の鮮度を考えて一旦陸に戻ることにした。アンカーをオートでガラガラと巻き上げると岸に向けて出航である。
戻った母港は貝崎市にあるマリーナだ。寒風が吹く中、下船してヨットハウスの駐車場に駐めてあった愛車の白いセダンにクーラーボックスを積み込み乗り込んだ。
ステアリングを握ったのは霧島だ。海岸通りを右に出て五分ほど走り、細い小径をまた右に曲がって坂道を上ると、もう目的地の霧島カンパニーが持つ保養所である。噴水のあるロータリーを半周して車寄せにセダンを滑り込ませた。
チャイムを鳴らしインターフォンに声を吹き込む。すぐ内側から観音扉が開いた。出迎えたのはモーニングを着た老年の男性でこの保養所を預かる執事の今枝である。
「お帰りなさいませ。お寒かったでしょう、さあ、中へ」
玄関ホールに二人が入ると紺のメイドドレスと白いエプロンに白いヘッドドレスまで着けたメイドたちが並んで頭を下げた。京哉も専用ルームを貰っているくらいここを利用しているので、このような仰々しい出迎えにも驚くことはない。それにここは霧島会長の身内しか利用しない別荘のようなもので余計な気遣いは要らないのだ。
重いクーラーボックスを今枝に渡すと中身を検めて大漁を確認し上品に微笑む。
「これは大したものでございますね」
「一番大きな真鯛は京哉の釣果だ。皆で食えるよう厨房に申し付けてくれ」
「承知致しました。それではわたくし共も有難くご相伴に与ります。忍さま、鳴海さま、お体が冷えていらっしゃるでしょう。まずはご入浴なされるのが宜しいかと」
「分かった。京哉の部屋にいる」
言い置きロビーのエレベーターで最上階の四階に上がった。廊下を辿り京哉専用ルームに入るとドアロックして二人はキスを交わす。そっと抱き合い唇を重ねると霧島は深く求めた。
応えて開かれた京哉の歯列の間から舌を侵入させ、届く限りを舐め回す。幾度も唾液をせがんでは飲み干した。絶妙なテクニックに京哉は酔う。
初めから霧島は京哉を堕とす気で攻めていた。初めてこじ開けられた時からずっと霧島に全てを教え込まれ馴らされ開発されたのだ。そんな躰が反応しない訳がない。
「んんぅ……ん、んんっ……はあっ! そんなの反則ですよ!」
膝が砕けた京哉を霧島は抱き上げ天蓋付きのベッドに座らせた。
「薄っぺらなお前は冷え切っているだろう。一緒に風呂に入って洗ってやるか?」
「……お願いします」
黒い瞳が情欲に潤んでいるのを承知で、涼しい顔の霧島は再び京哉を抱き上げる。脱衣所で降ろしてやると服を脱いだ。まずは銃の入ったショルダーホルスタを外す。
機動捜査隊は覆面パトカーで警邏し、殺しや強盗に放火その他の凶悪犯罪が起こった際に、いち早く駆けつけて初動捜査に当たるのが職務である。それ故に凶悪犯とばったり出くわすことも考慮され、職務中は銃を所持することが義務付けられていた。
機捜隊員が所持するのはシグ・ザウエルP230JPなるフルロードなら薬室一発マガジン八発の合計九発の三十二ACP弾を発射可能だが貸与される弾薬は五発のみというものだ。しかし二人が所持するのは同じシグ・ザウエルでもP226、十六発の九ミリパラベラムを発射可能な代物だった。
それにプラスして十五発満タンのスペアマガジンが二本という重装備である。
かつては特別任務の際に交換・貸与されていたのだが、いつの間にか持たされっ放しになってしまったのだ。特別任務絡みで県内の指定暴力団に恨みを買っていることもあり、職務中以外でも持ち歩く許可は県警本部長特令で降りていた。
ベルトに着けたスペアマガジンパウチも外すと、ジーンズやシャツに下着などを洗濯乾燥機に放り込む。バスルームに入って二人一緒に頭から熱いシャワーを浴びた。
「はあ~っ、気持ちいいかも」
「このあともっと気持ち良くしてやる」
「って、忍さん、昨日の夜も船の中であんなに……」
「そんな目をして嫌とは言わせんぞ。私が欲しいのだろう、素直になれ」
「構うものか。もはや私たちは県警一有名な公認カップルだぞ」
「うーん、それも結構恥ずかしいものがありますけど」
「恥ずかしいついでに言っておく。お前の首筋に昨夜の名残のアザがあるからな」
「ええっ、本当ですか? どうしよう、火曜の朝までに消えるかなあ?」
「おそらく無理だろう。だが、まあ、そう気にするな」
「あ、もしかして『鳴海巡査部長を護る会』五十名超えに怒ってるとか?」
「当たり前だろう! たびたび機捜にまでクッキーだのチョコだのと差し入れを持ち込んで、お前は断りもせずあっさり毎回受け取るのだからな」
本気で腹を立てているらしく霧島は喋りつつも温めたカツサンドを一気食いする。
「仕方ないでしょう、僕が作った会じゃないんですし。それに追い払う理由を捏ね上げるよりも有難く受け取ってさっさとお帰り願った方が面倒がないんですよ」
「……ふむ。京哉、ときにお前は元々異性愛者だったな。なかなか女性の心理にも詳しく扱いにも長けているようだ。きっと余程の経験を積んできたのだろうな」
「ゲホゲホッ……ゴホッ! 別に包み隠さず話したっていいですよ。ただ年上の誰かさんのプライドに触るんじゃないかと思って、今まで話さなかっただけですから」
それこそ涼しい声で京哉が言い放つと、痛いところを突かれた霧島は話題自体が他人事のような顔をしてサンドウィッチに集中しているふりをし始めた。
綺麗に食べてしまうと二人で後片付けし、真水の補給プラス釣果の鮮度を考えて一旦陸に戻ることにした。アンカーをオートでガラガラと巻き上げると岸に向けて出航である。
戻った母港は貝崎市にあるマリーナだ。寒風が吹く中、下船してヨットハウスの駐車場に駐めてあった愛車の白いセダンにクーラーボックスを積み込み乗り込んだ。
ステアリングを握ったのは霧島だ。海岸通りを右に出て五分ほど走り、細い小径をまた右に曲がって坂道を上ると、もう目的地の霧島カンパニーが持つ保養所である。噴水のあるロータリーを半周して車寄せにセダンを滑り込ませた。
チャイムを鳴らしインターフォンに声を吹き込む。すぐ内側から観音扉が開いた。出迎えたのはモーニングを着た老年の男性でこの保養所を預かる執事の今枝である。
「お帰りなさいませ。お寒かったでしょう、さあ、中へ」
玄関ホールに二人が入ると紺のメイドドレスと白いエプロンに白いヘッドドレスまで着けたメイドたちが並んで頭を下げた。京哉も専用ルームを貰っているくらいここを利用しているので、このような仰々しい出迎えにも驚くことはない。それにここは霧島会長の身内しか利用しない別荘のようなもので余計な気遣いは要らないのだ。
重いクーラーボックスを今枝に渡すと中身を検めて大漁を確認し上品に微笑む。
「これは大したものでございますね」
「一番大きな真鯛は京哉の釣果だ。皆で食えるよう厨房に申し付けてくれ」
「承知致しました。それではわたくし共も有難くご相伴に与ります。忍さま、鳴海さま、お体が冷えていらっしゃるでしょう。まずはご入浴なされるのが宜しいかと」
「分かった。京哉の部屋にいる」
言い置きロビーのエレベーターで最上階の四階に上がった。廊下を辿り京哉専用ルームに入るとドアロックして二人はキスを交わす。そっと抱き合い唇を重ねると霧島は深く求めた。
応えて開かれた京哉の歯列の間から舌を侵入させ、届く限りを舐め回す。幾度も唾液をせがんでは飲み干した。絶妙なテクニックに京哉は酔う。
初めから霧島は京哉を堕とす気で攻めていた。初めてこじ開けられた時からずっと霧島に全てを教え込まれ馴らされ開発されたのだ。そんな躰が反応しない訳がない。
「んんぅ……ん、んんっ……はあっ! そんなの反則ですよ!」
膝が砕けた京哉を霧島は抱き上げ天蓋付きのベッドに座らせた。
「薄っぺらなお前は冷え切っているだろう。一緒に風呂に入って洗ってやるか?」
「……お願いします」
黒い瞳が情欲に潤んでいるのを承知で、涼しい顔の霧島は再び京哉を抱き上げる。脱衣所で降ろしてやると服を脱いだ。まずは銃の入ったショルダーホルスタを外す。
機動捜査隊は覆面パトカーで警邏し、殺しや強盗に放火その他の凶悪犯罪が起こった際に、いち早く駆けつけて初動捜査に当たるのが職務である。それ故に凶悪犯とばったり出くわすことも考慮され、職務中は銃を所持することが義務付けられていた。
機捜隊員が所持するのはシグ・ザウエルP230JPなるフルロードなら薬室一発マガジン八発の合計九発の三十二ACP弾を発射可能だが貸与される弾薬は五発のみというものだ。しかし二人が所持するのは同じシグ・ザウエルでもP226、十六発の九ミリパラベラムを発射可能な代物だった。
それにプラスして十五発満タンのスペアマガジンが二本という重装備である。
かつては特別任務の際に交換・貸与されていたのだが、いつの間にか持たされっ放しになってしまったのだ。特別任務絡みで県内の指定暴力団に恨みを買っていることもあり、職務中以外でも持ち歩く許可は県警本部長特令で降りていた。
ベルトに着けたスペアマガジンパウチも外すと、ジーンズやシャツに下着などを洗濯乾燥機に放り込む。バスルームに入って二人一緒に頭から熱いシャワーを浴びた。
「はあ~っ、気持ちいいかも」
「このあともっと気持ち良くしてやる」
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「そんな目をして嫌とは言わせんぞ。私が欲しいのだろう、素直になれ」
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