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第6話
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いつもの小食堂ではなく本日は大食堂での晩餐で、末席には今枝やメイドたちも揃って非常に賑やかだった。
刺身や煮魚に熱々の天ぷらや吸い物、鯛飯などが供されてデザートの洋梨とカボスのシャーベットまで頂いてしまうと、霧島と京哉は明後日までの連休を満喫すべく、いそいそと夜釣りに出掛ける準備だ。
京哉の部屋でセーターの上に忘れず銃も吊る。防寒着はエキドナ号に置いてある。
「お寒いですので、風邪など召されませぬよう」
そう言って今枝が出してくれたのはマフラーと手袋である。肌触りのいいマフラーを巻き、手袋をポケットに入れると一階に降りて玄関ホールに向かった。車寄せに停めた白いセダンは既にエンジンが掛けられ、ヒータも利いている。
「では、夜の海ですので、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「分かった、行ってくる」
出発して十分後にはマリーナの突端に向かって歩いていた。マリーナの堤防はオレンジ色の外灯が間近に灯っていて見通しも悪くない。
そこで霧島は夜空を見上げ、明るい星を幾つか認めて安堵した。天候が良くても風があれば船は揺れる。京哉に船酔いされては愉しみも半減だ。そこでシンチレーションという大気の揺らぎによる星の瞬きが少ないことから風も僅かだろうと予測したのだった。
「食料や真水なんかは今枝さんたちが用意してくれたんですよね?」
「ああ、今回は全てが今枝任せだ」
「却って僕らが準備するより安全確実なんじゃないですか?」
「今枝が趣味に走ると、あのクソ親父と浪花節カラオケ大会だぞ?」
「流れ星を見たがってた御前もつれてきてあげたら良かったのに」
「私に船べりで背中を押させるような真似は止してくれ」
喋りながら辺りを見回すと流れ星を見に行くのか、この寒いのにヨットやクルーザーを利用しようという人影が結構あった。それらを眺めながら京哉は微笑みを浮かべる。
これも霧島カンパニー所有の十五メートルくらいのラミア号に二十メートルクラスのアプサラス号と並んだエキドナ号を前にした。
「今夜は流れ星も楽しみですね。早く乗りましょうよ」
「慌てると潮で滑るぞ」
言っている傍からエキドナ号に飛び移った京哉は足を滑らせ、したたか腰を打ち付ける寸前で霧島の腕に救われる。もやいを解きながら霧島は笑ったが、京哉としては機捜からの重大案件発生の一報や特別任務が降ってこないうちに沖に出てしまいたかったのだ。
それでもまずは点検である。小さな厨房を覗いて調味料類が揃い、食料の入った冷蔵庫もプラグが繋がれているのを確認した。置かれた段ボール箱の中にも食材がいっぱいだ。キャビンには適度にエアコンの温風が行き渡っている。
二階は天窓のあるベッドルームで、そこまでは見に行かずに操舵室に向かった。同時にアンカーの巻き上げられるガラガラという音が響いてくる。急いで操舵室に走ると霧島の背後から見事な操舵をじっと眺めた。エキドナ号は夜の海を滑るように割ってゆく。
沖堤防を避けてからエキドナ号は速度を上げた。この手の船はそう速くないが、これなら携帯の電波が入らない場所に着くまで長くは掛からないだろう。
昨夜と同じパターンで船出したが、昨夜と同じく京哉は嬉しくなって急いで厨房に舞い戻ると、水も塩辛くないのを確かめてから小鍋で湯を沸かす。
淹れたインスタントコーヒーのカップふたつを銀のトレイに載せて操舵室まで運んだ。もうオートパイロットをセットしたらしいが近海は船舶だらけなので、まだ霧島は広い窓から目が離せない。
だがコーヒーを味わう余裕くらいあるようで涼しい顔でカップを傾けていた。京哉は早々にカップを空にすると、腹から温まった勢いで甲板に出てみることにする。
「京哉お前、海に落っこちてくれるなよ」
「そこまで間抜けじゃないですよ」
「だが今日もあれだけ攻め抜いてしまったんだ、足腰は据わらん筈だぞ」
じつは言われた通り足腰は心許なかったのだが聞き流して防寒着とマフラーに手袋という完全防備で操舵室から甲板に出た。
霧島の操舵する船では酔ったことがないためその点は心配していないが、舷側に掴まって海面を覗いてみると凪というのか冬らしからぬ穏やかな海だった。舳先から艫へ、艫から舳先へと一周して操作室に戻る。
「誰かさんの行いは良くないのに、流れ星鑑賞には絶好のコンディションですよ」
「私がいったい何をしたと言うんだ?」
「だから書類を溜め込んで、関係各所からの督促メールが常に二桁も――」
「仕事の話はもういい。せっかくの二人きりの時間を愉しんでくれ」
やがて沖に出て霧島が船を停泊させアンカーを降ろすと京哉もホッとした。そうして釣り道具を持ち出して夜釣りの準備だ。艫と呼ばれる船尾寄りの甲板にカンテラ型のライトを置くと釣り道具を並べた。準備が整うとこちらも防寒着を着た霧島が出てくる。
「どうします、来週の食事当番を賭けますか?」
「ああ、構わんぞ。では第一投だな」
異常に匂いに敏感な京哉はミミズのお化けのようなイソメを針に付けられず、これも少し苦手ながらマシなベタベタしたエビを釣り針にくっつけて海中に投下した。
刺身や煮魚に熱々の天ぷらや吸い物、鯛飯などが供されてデザートの洋梨とカボスのシャーベットまで頂いてしまうと、霧島と京哉は明後日までの連休を満喫すべく、いそいそと夜釣りに出掛ける準備だ。
京哉の部屋でセーターの上に忘れず銃も吊る。防寒着はエキドナ号に置いてある。
「お寒いですので、風邪など召されませぬよう」
そう言って今枝が出してくれたのはマフラーと手袋である。肌触りのいいマフラーを巻き、手袋をポケットに入れると一階に降りて玄関ホールに向かった。車寄せに停めた白いセダンは既にエンジンが掛けられ、ヒータも利いている。
「では、夜の海ですので、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「分かった、行ってくる」
出発して十分後にはマリーナの突端に向かって歩いていた。マリーナの堤防はオレンジ色の外灯が間近に灯っていて見通しも悪くない。
そこで霧島は夜空を見上げ、明るい星を幾つか認めて安堵した。天候が良くても風があれば船は揺れる。京哉に船酔いされては愉しみも半減だ。そこでシンチレーションという大気の揺らぎによる星の瞬きが少ないことから風も僅かだろうと予測したのだった。
「食料や真水なんかは今枝さんたちが用意してくれたんですよね?」
「ああ、今回は全てが今枝任せだ」
「却って僕らが準備するより安全確実なんじゃないですか?」
「今枝が趣味に走ると、あのクソ親父と浪花節カラオケ大会だぞ?」
「流れ星を見たがってた御前もつれてきてあげたら良かったのに」
「私に船べりで背中を押させるような真似は止してくれ」
喋りながら辺りを見回すと流れ星を見に行くのか、この寒いのにヨットやクルーザーを利用しようという人影が結構あった。それらを眺めながら京哉は微笑みを浮かべる。
これも霧島カンパニー所有の十五メートルくらいのラミア号に二十メートルクラスのアプサラス号と並んだエキドナ号を前にした。
「今夜は流れ星も楽しみですね。早く乗りましょうよ」
「慌てると潮で滑るぞ」
言っている傍からエキドナ号に飛び移った京哉は足を滑らせ、したたか腰を打ち付ける寸前で霧島の腕に救われる。もやいを解きながら霧島は笑ったが、京哉としては機捜からの重大案件発生の一報や特別任務が降ってこないうちに沖に出てしまいたかったのだ。
それでもまずは点検である。小さな厨房を覗いて調味料類が揃い、食料の入った冷蔵庫もプラグが繋がれているのを確認した。置かれた段ボール箱の中にも食材がいっぱいだ。キャビンには適度にエアコンの温風が行き渡っている。
二階は天窓のあるベッドルームで、そこまでは見に行かずに操舵室に向かった。同時にアンカーの巻き上げられるガラガラという音が響いてくる。急いで操舵室に走ると霧島の背後から見事な操舵をじっと眺めた。エキドナ号は夜の海を滑るように割ってゆく。
沖堤防を避けてからエキドナ号は速度を上げた。この手の船はそう速くないが、これなら携帯の電波が入らない場所に着くまで長くは掛からないだろう。
昨夜と同じパターンで船出したが、昨夜と同じく京哉は嬉しくなって急いで厨房に舞い戻ると、水も塩辛くないのを確かめてから小鍋で湯を沸かす。
淹れたインスタントコーヒーのカップふたつを銀のトレイに載せて操舵室まで運んだ。もうオートパイロットをセットしたらしいが近海は船舶だらけなので、まだ霧島は広い窓から目が離せない。
だがコーヒーを味わう余裕くらいあるようで涼しい顔でカップを傾けていた。京哉は早々にカップを空にすると、腹から温まった勢いで甲板に出てみることにする。
「京哉お前、海に落っこちてくれるなよ」
「そこまで間抜けじゃないですよ」
「だが今日もあれだけ攻め抜いてしまったんだ、足腰は据わらん筈だぞ」
じつは言われた通り足腰は心許なかったのだが聞き流して防寒着とマフラーに手袋という完全防備で操舵室から甲板に出た。
霧島の操舵する船では酔ったことがないためその点は心配していないが、舷側に掴まって海面を覗いてみると凪というのか冬らしからぬ穏やかな海だった。舳先から艫へ、艫から舳先へと一周して操作室に戻る。
「誰かさんの行いは良くないのに、流れ星鑑賞には絶好のコンディションですよ」
「私がいったい何をしたと言うんだ?」
「だから書類を溜め込んで、関係各所からの督促メールが常に二桁も――」
「仕事の話はもういい。せっかくの二人きりの時間を愉しんでくれ」
やがて沖に出て霧島が船を停泊させアンカーを降ろすと京哉もホッとした。そうして釣り道具を持ち出して夜釣りの準備だ。艫と呼ばれる船尾寄りの甲板にカンテラ型のライトを置くと釣り道具を並べた。準備が整うとこちらも防寒着を着た霧島が出てくる。
「どうします、来週の食事当番を賭けますか?」
「ああ、構わんぞ。では第一投だな」
異常に匂いに敏感な京哉はミミズのお化けのようなイソメを針に付けられず、これも少し苦手ながらマシなベタベタしたエビを釣り針にくっつけて海中に投下した。
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