やんごとなき依頼人~Barter.20~

志賀雅基

文字の大きさ
10 / 53

第10話

しおりを挟む
 笑うオルファスを睨みつけながら霧島は言った。

「無茶も大概にして頂きたい。SPは先の先を読み、緊張感を保って職務を遂行するために一定時間毎の交代が基本だ。たった二人きりで他国の皇太子をられても責任は取れません」

「しかしだね、他のSPを就けて再び脱走されるよりはマシだと思わんかね?」
「けれどリンドル王国側のSPもいるのではないですか?」

「協議の結果、リンドル王国側SPは全員羽田のボーイング機に待機と相成った。お国事情が違い過ぎ、本国内ガードに特化したSPは却って足手まといとの判断だ」
「それに俺はそなたたちが気に入ったのだ。料理も上手く酒の趣味もいいからな」

 さすがの霧島もこれには絶句する。呆れるより純粋に怒っていた。

「貴様、無銭飲食及び不法侵入で留置場体験ツアーにしてやってもいいんだぞ!」
「留置場とは何だ? ふむ、牢屋だと? それでは日本見物ができんではないか」

 そこで話を聞いていた京哉が発言した。

「でもオルファスは日本語も堪能だし、目立たないスーツでも着せて防弾車両の中から日本見物でもしていれば問題はないんじゃないでしょうか」

「そう、それなのだ。俺は普通の日本見物がしたいだけなのだ。資源はあるのに上手く活用できない我がリンドルの未来のためにな。それなのに毎夜のように政治家とのディナーの予定が組まれ、用を足すのでもSPがぞろぞろとついてくる。もう我慢がならんと侍従長に言えば帝国ホテルに監禁だ。だからそなたたちには申し訳ないが、伏して頼む」

 頼むという割に態度は尊大だったが、オルファスの目は真剣だった。

「では、霧島警視と鳴海巡査部長に特別任務を下す。リンドル王国の皇太子であるオルファス=ライド四世のセキュリティポリスに就きたまえ」

 本部長命令とあらば仕方ない。霧島の発した鋭い号令で京哉も立ち姿勢を正す。

「気を付け、敬礼! 霧島警視以下二名は特別任務を拝命します。敬礼!」

 揃って身を折る敬礼をした二人に一ノ瀬本部長は満足そうに頷いた。

「宜しい。きみたちなら安心して任せられる。心して完遂してくれたまえ。以上だ」

 オルファスも立ち上がり三人で本部長室を出る。エレベーターで下って本部庁舎裏に待たせてあった黒塗りに乗り込んだ。白藤市は首都圏下でも特筆すべき都市部である。高低様々なビルをオルファスはサイドウィンドウにへばりついて眺めていた。

 四十分で着いた保養所では今枝が色々と采配を振るってくれて、オルファスには京哉の隣の部屋があてがわれた。反対側の隣は霧島の部屋だが、いつも霧島は京哉の部屋に入り浸りである。それはともかく霧島は暫し思い通りになって安堵していた。

 来客を恭しく扱い慣れた今枝に何もかも丸投げする計画だったのである。
 だが偉そうな闖入者は独りではつまらないからと京哉の部屋に押し掛け、

「朝食は和食を所望する!」

 などと言い放った。仕方ないので急遽メニュー変更され、朝ご飯はおにぎりにアサリの味噌汁、釣ってきたカレイの切り身の照り焼きに漬物となった。

「うむ、これは旨い! もうホテルのゴテゴテした洋食は飽き飽きでな」
「そうですか……」

 本部長室では自分からオルファスの援護射撃をしたものの、残り二日の休日がだめになった京哉は萎れ気味だ。可哀相に思うも霧島にもどうしようもない。明日からの一週間、どうお茶を濁してオルファスにリンドル王国へとお帰り願うか、それに頭を絞るのみだ。

 綺麗に食してしまうと今枝が呼んだテーラーの人間が顔を出した。オルファスの目立たない普段着やスーツなどを仕立てるためである。採寸して一旦撤収したテーラーの人間たちは昼には再び現れてオーダーメイドのコートやスーツにドレスシャツなどを数着と、普段着のシャツやカシミアのセーターにジーンズまで置いて去った。

「すんごいお金掛かってますよね。本部長が領収書を見て目を回すかも」
「どうせクソ親父の策略だ。リンドル王国に恩を売る絶好のチャンスだからな」

「ああ、それかも知れませんね。こんな美味しいシチュエーション、御前は見逃さないでしょうから。でも忍さん、今日からどうするんですか?」
「海だ、海。お国には海がないから物珍しいだろう」

 聞きつけてセーターにジーンズ姿のオルファスが頷く。

「俺は海が好きだ。広くて自由なのがいい」
「ならば一週間、釣り三昧で決まりだな」
「ちょっと待て。俺は釣りもしたいが、あらゆる日本を見物したい」
「そうか。そのうち連れて歩いてやる、そのうちな」

 口先だけで霧島が相手をしているとチャイムも鳴らさずドアが開かれ、小柄な枯れ木の如き老人が上品なグレイのスーツ姿で現れた。老人は駆け込んできてオルファスに取り縋る。

「オルファスさま、よくぞ御無事で!」

 叫ぶなり滂沱と涙を流し始めたのを見ると、どうやら知り合いらしい。

「エイダ、どうしてお前がここにいる?」
「侍従長として、わたくしがオルファスさまのお側を離れられましょうか!」
「もう警視庁から情報が洩れたらしいな。全く、余計なことを」

 会話は全て英語だったが霧島が通訳してくれたので京哉にも事情は理解できた。皇太子のお守りが一人増えたらしい。少し安堵できる事態である。

「それにしてもオルファスさま、そのような賤民めいた格好をされておいたわしい」
「構わん、俺が望んでこの貧しい姿をしている。動きやすくてなかなか良いぞ」

 賤民二人は眉間にシワを寄せて主従を眺めた。そこで侍従長のエイダも目立たないよう貧しい姿になる。小柄なので京哉の衣服を貸した。
 主従揃ってジーンズにセーターを身に着け、何やら盛り上がっている。エイダも賤民めいた格好がお気に召したようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...