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第23話
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土産を手に入れると茶の時間だと皇太子は騒ぎだした。ネットの店舗案内サイトで既に調べ済みだという喫茶店に率先して向かう。婦人服売り場がメインとなった七階の喫茶店は京哉に優しい喫煙席のある店だった。
だがカウンター席は女性客でいっぱい、それ以外の全席は窓に面していて、その中で喫煙のボックス席が一ヶ所だけ空いている。
必然的に座ることになった席から京哉はまず窓外をチェックした。
「わあ、相生ビルとサカエ第一ビルからまともに狙えるかも」
「せめて私が窓際に座るか?」
「俺が窓際だ。こんな絶景は初めてだ、何とも素晴らしい! ビルがタケノコのようだ」
あくまでオルファスはバカ殿のふりを貫いて自分を囮にするつもりらしい。もしかしたら本当にバカ殿なんじゃないかと京哉はチラリと思ったが口に出さず、水のタンブラーとお絞りを持ってきたウェイトレスにコーヒーを頼もうとした。
そこで誰が口を開くより早く、オルファスが大声で注文してしまう。
「この店に来たらアレを頼まずしてどうする! ビッグタワーパフェを所望する!」
「お客様、ビッグタワーパフェは十五分ほどお時間を頂きますが宜しいですか?」
「構わん。画像に撮ってブログに上げるのだ。わくわくするな!」
じゃあ僕はコーヒーと言いかけて京哉はメニュー表を確かめた。ビッグタワーパフェは器だけでも高さ四十二センチで『四人以上での挑戦がお勧め☆』などと書かれている。
コーヒーを諦めた京哉は窓外に目を向けながら椅子に沈み込んだ。火急の際には引き倒せるように霧島は向かいのオルファスの隣に腰掛けている。そんな霧島が手を差し出した。
「京哉、一本分けてくれ」
「一本と言わず、どうぞ」
二人はニコチンで頭を冷やしながら時間を潰す。やがてビッグタワーパフェが店内の人目を引きずりながらワゴンで運ばれてきた。実物を目の当たりにすると圧巻だった。
「これ、四人どころか十人前は確実ですよ」
「これだけ盛り付ける技術も大したものだな」
「フルーツの香りがいいですね、特にイチゴが」
「アイスクリームも色々と違う種類が入っているぞ」
口々に言いながら結局は霧島と京哉も交代で携帯の画像に収めている。頼んだ当人のオルファスも画像に収めるのが忙しく目を輝かせているが喋る余裕もないらしい。
そこでふいに人影が近寄ってきて京哉と霧島は目を上げた。それは女性客たちで、
「すみませーん、そのパフェ撮らせて貰ってもいいですか?」
などと言い、次には霧島たち三人を見て「アー」と口を開ける。パフェよりも霧島たちを撮りたがる女性客らに丁重なお断りをしパフェだけ撮ってお引き取り願った。
「さて、もういいであろう。この素敵な甘味の牙城を崩す時が来たぞ! いざ!」
「興奮するのは分かるが、いちいち大声を出すな。いいから溶ける前に食うぞ」
三人は柄の長いスプーンで生クリームから攻め始めた。
「うわ、クリームが甘いからイチゴが酸っぱいかも」
「メロンとブドウは甘いままだな」
「キウイが舌に突き刺さる酸っぱさだ! 俺は先を行く! アイスで口直しだ!」
騒ぎながら食う間も京哉は窓外のビルを注視し続ける。そうやって脳ミソを働かせ続けているのでパフェの糖分は旨かった。
だが半分も食わないうちに躰が芯から凍えて、当初の予定通りにコーヒーを追加注文するハメになる。三人はコーヒーを飲みつつ頑張った。
「アイスでお腹いっぱいになったかと思ったら、最後はコーンフレークですか」
「この量は結構くるものがあるな」
「溶けたアイスの染みたこれがまた旨いではないか!」
「そこまで言うならオルファスが残りを食べて下さい。僕、もう甘いのはギヴです」
「私もだ。今なら塩昆布ひとつまみに千円払っても惜しくないぞ」
食い終わる頃には三人とも三杯目のコーヒーを飲んでいた。異様に旨いコーヒーを味わいながら空になった巨大な器にスプーンを放り込むと、周囲からは拍手が送られる。
ウェイトレスもまさか男三人が完食するとは思っていなかったらしく、驚きの目を向け拍手をしてくれていた。
さすがに満腹で京哉は目覚ましがてら食後の煙草に火を点けた。その時だった。
いきなり高い音がしてパフェの巨大なグラスのふちが欠けた。咄嗟に見た窓には穴が開き、その穴を中心にして蜘蛛の巣状のヒビが入っている。鋭く見るより早く霧島は京哉に声を投げつつ、オルファスの腕を掴んで店の出入り口へと駆け出していた。
「京哉、後退しろ!」
ここで敵を見極めたい誘惑を振り切り、京哉もソフトケースを掴むと霧島のあとを追う。こんな所でカウンタースナイプなどできない。先行した二人に追いつくと霧島はレジでカネを払っていた。土産にカネを使い過ぎ、オルファスの手持ちでは足らなかったのだ。
パフェとコーヒーにしては高額の八千二百円を立て替え、他の客に騒がれる前に喫茶店を出る。またも目のやり場に困る商品の間を駆け抜けながら霧島が低く訊いた。
「何処か分かったか?」
「はい。相生ビルの、たぶん十階です」
「チョクで現場に向かって間に合うと思うか?」
「おそらく無理でしょう。屋上駐車場からカウンタースナイプならいけるかも」
「車を屋上に移動する。それと撃つのは本部長に伺いを立ててからだ」
だがカウンター席は女性客でいっぱい、それ以外の全席は窓に面していて、その中で喫煙のボックス席が一ヶ所だけ空いている。
必然的に座ることになった席から京哉はまず窓外をチェックした。
「わあ、相生ビルとサカエ第一ビルからまともに狙えるかも」
「せめて私が窓際に座るか?」
「俺が窓際だ。こんな絶景は初めてだ、何とも素晴らしい! ビルがタケノコのようだ」
あくまでオルファスはバカ殿のふりを貫いて自分を囮にするつもりらしい。もしかしたら本当にバカ殿なんじゃないかと京哉はチラリと思ったが口に出さず、水のタンブラーとお絞りを持ってきたウェイトレスにコーヒーを頼もうとした。
そこで誰が口を開くより早く、オルファスが大声で注文してしまう。
「この店に来たらアレを頼まずしてどうする! ビッグタワーパフェを所望する!」
「お客様、ビッグタワーパフェは十五分ほどお時間を頂きますが宜しいですか?」
「構わん。画像に撮ってブログに上げるのだ。わくわくするな!」
じゃあ僕はコーヒーと言いかけて京哉はメニュー表を確かめた。ビッグタワーパフェは器だけでも高さ四十二センチで『四人以上での挑戦がお勧め☆』などと書かれている。
コーヒーを諦めた京哉は窓外に目を向けながら椅子に沈み込んだ。火急の際には引き倒せるように霧島は向かいのオルファスの隣に腰掛けている。そんな霧島が手を差し出した。
「京哉、一本分けてくれ」
「一本と言わず、どうぞ」
二人はニコチンで頭を冷やしながら時間を潰す。やがてビッグタワーパフェが店内の人目を引きずりながらワゴンで運ばれてきた。実物を目の当たりにすると圧巻だった。
「これ、四人どころか十人前は確実ですよ」
「これだけ盛り付ける技術も大したものだな」
「フルーツの香りがいいですね、特にイチゴが」
「アイスクリームも色々と違う種類が入っているぞ」
口々に言いながら結局は霧島と京哉も交代で携帯の画像に収めている。頼んだ当人のオルファスも画像に収めるのが忙しく目を輝かせているが喋る余裕もないらしい。
そこでふいに人影が近寄ってきて京哉と霧島は目を上げた。それは女性客たちで、
「すみませーん、そのパフェ撮らせて貰ってもいいですか?」
などと言い、次には霧島たち三人を見て「アー」と口を開ける。パフェよりも霧島たちを撮りたがる女性客らに丁重なお断りをしパフェだけ撮ってお引き取り願った。
「さて、もういいであろう。この素敵な甘味の牙城を崩す時が来たぞ! いざ!」
「興奮するのは分かるが、いちいち大声を出すな。いいから溶ける前に食うぞ」
三人は柄の長いスプーンで生クリームから攻め始めた。
「うわ、クリームが甘いからイチゴが酸っぱいかも」
「メロンとブドウは甘いままだな」
「キウイが舌に突き刺さる酸っぱさだ! 俺は先を行く! アイスで口直しだ!」
騒ぎながら食う間も京哉は窓外のビルを注視し続ける。そうやって脳ミソを働かせ続けているのでパフェの糖分は旨かった。
だが半分も食わないうちに躰が芯から凍えて、当初の予定通りにコーヒーを追加注文するハメになる。三人はコーヒーを飲みつつ頑張った。
「アイスでお腹いっぱいになったかと思ったら、最後はコーンフレークですか」
「この量は結構くるものがあるな」
「溶けたアイスの染みたこれがまた旨いではないか!」
「そこまで言うならオルファスが残りを食べて下さい。僕、もう甘いのはギヴです」
「私もだ。今なら塩昆布ひとつまみに千円払っても惜しくないぞ」
食い終わる頃には三人とも三杯目のコーヒーを飲んでいた。異様に旨いコーヒーを味わいながら空になった巨大な器にスプーンを放り込むと、周囲からは拍手が送られる。
ウェイトレスもまさか男三人が完食するとは思っていなかったらしく、驚きの目を向け拍手をしてくれていた。
さすがに満腹で京哉は目覚ましがてら食後の煙草に火を点けた。その時だった。
いきなり高い音がしてパフェの巨大なグラスのふちが欠けた。咄嗟に見た窓には穴が開き、その穴を中心にして蜘蛛の巣状のヒビが入っている。鋭く見るより早く霧島は京哉に声を投げつつ、オルファスの腕を掴んで店の出入り口へと駆け出していた。
「京哉、後退しろ!」
ここで敵を見極めたい誘惑を振り切り、京哉もソフトケースを掴むと霧島のあとを追う。こんな所でカウンタースナイプなどできない。先行した二人に追いつくと霧島はレジでカネを払っていた。土産にカネを使い過ぎ、オルファスの手持ちでは足らなかったのだ。
パフェとコーヒーにしては高額の八千二百円を立て替え、他の客に騒がれる前に喫茶店を出る。またも目のやり場に困る商品の間を駆け抜けながら霧島が低く訊いた。
「何処か分かったか?」
「はい。相生ビルの、たぶん十階です」
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