やんごとなき依頼人~Barter.20~

志賀雅基

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第24話

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 駆け足の三人を見て何事かとご婦人方が振り返る。構わず最短ルートを走り抜けながら霧島は携帯で一ノ瀬本部長にコールした。状況を話すといつも慎重な本部長が珍しく即断で許可を出してくれる。人員を送る手配のサーヴィス付きだ。

 黒塗りに辿り着くと即移動した。真冬の寒風を避けて平日の屋上駐車場は空いている。 邪魔な車止めを避け、二台分のスペースを跨ぐように霧島は黒塗りを駐めた。

 ソフトケースからPSG1を出した京哉は、黒塗りの後部から車底に下半身を潜り込ませて腹這いになる。落下防止のフェンスがあったが幸いにしてビルのふちとフェンスの間に三十センチほどの隙間があった。

 二脚バイポッドを立てることなく京哉は自力で約八キロの銃を支える。隙間から銃口を突き出しスコープを覗き込んだ。
 スポッタたる霧島が気象計を操作しながらレーザースコープを覗いて報告する。

「相生ビル十階、中央付近で距離六百三十五メートル」
「六百三十五メートル、コピー」
「左からの横風が強い、気を付けろ」
「アイ・サー」

 応えつつ京哉は伏射姿勢を取り直した。投げ出した右足は銃身《バレル》よりやや左に、左足は更に左に角度を付けて開く。背を反らして上体を起こし、両肘をついて左手はバレルを覆うハンドガードを下から巻き込むように支えた。

 右手はグリップを握り人差し指は勿論トリガへ。ここは十二階で僅かに高台、その状態で銃口をビルのふちに依託して銃床ストックを強く右肩に押し付ける。

「何処だ、京哉?」
「右寄りの中央から五枚目と六枚目の窓」

 言いながら京哉は心音と呼吸を合わせ始めた。心音三回で吸っては吐く。銃口がぶれないようトリガは心音の間に引かなくてはならない。
 銃口角度六十分の一度のぶれが百メートルで二十九ミリのずれになる。六百三十五メートルなら十八センチ以上のずれだ。

 敵を逃がすならともかく、場合によっては無辜の市民を掠めかねない。

「いたぞ、京哉。ターゲットは二人、十階一時方向のブラインドのない窓だ」
「ラジャー、今は一人隠れてます。セミオートですし二人同時に現れたら合図を」

 すうっと息を吸い込んで京哉は息を止める。呼吸を止めてトリガを引けるのは十秒が限界、それ以上は脳が酸素不足に陥って精確な狙いがつけられなくなる。

「標的が現れた」

 その低く通る声を待たずして京哉の銃はマズルフラッシュを吐いていた。速射で四度、黒塗りの蔭で白炎が閃く。レーザースコープを目に当てたまま霧島が言った。

「四射、オールヒット。ターゲットは二名とも右肩と右大腿部に被弾した」
「一面が全て窓だったのは幸いでしたよ、足をやれましたからね」

 微笑んで京哉は言い、肩付けしていたPSG1を降ろして立ち上がる。周囲を見回したが音に気付いた者はいないようだ。白い硝煙も既に風が攫っている。

「で、ターゲットの許には行くんですか?」
「いや、保秘の観点から本部長がSATの突入班を動かした。他を動かすとその銃のライフルマークで足がつく。一悶着では済まされん事態になるからな」

「じゃあ僕らはターゲットを拷問しなくていいんですね?」
「ああ。あとは『備』からの報告を待てばいい」
「警備部機動隊SAT、寺岡隊長が何て言いますかね。でも、良かったですよ」

 見えない所から撃たれなくて済むという余裕を得て京哉は溜息をついた。だが狙撃ポイントからは何があっても早急に撤収するのがセオリーである。
 砂埃だらけになったスーツを払って、ソフトケースに銃その他の機材を詰め込み、空薬莢四つも回収すると黒塗りの助手席に滑り込んだ。黙ったままのオルファスが後部に乗ると霧島が発車させる。

 螺旋を描く坂道を下り立体駐車場を出た。そうしてグルグルと辺りを走り回る。

「それでオルファス、貴様の次のリクエストは何処だ?」
「夜になってきらきらピカピカ光る看板が沢山ある所を歩きたい」
「まるでカラスだな。だがそれはだめだ、繁華街には柏仁会の奴らも歩いている」

「狙われながらオフィス街だって歩いたではないか」
「ならば、こう言えば分かるか。私は疲れた京哉に無理をさせたくないんだ」
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