セイレーン～楽園27～

第14話（BL特有シーン・回避可）

「本当にダメか？『今晩』って約束したじゃねぇか……なあ、ハイファ」

　肩に巻きついていた腕はもう、背後からハイファのドレスシャツをまさぐっていた。耳朶を唇で挟んでシドは軽く歯を立てる。するすると下がった手にスラックスの前を撫で上げられ、ハイファは椅子に座ったまま背筋を駆け下りる疼きに身を震わせた。

　仕草は優しいながらも理性を叩き壊すようなシドの求め方に思考が白熱していた。

「今晩の約束だ、夜が終わっちまうぜ？」
「そんな……んっ、だめ。だめだよシド……あっ、はぁん！」

　いつの間にかドレスシャツのボタンを三つまで外され、差し入れられたシドの指先に左胸の小さな尖りを摘まれていた。甘やかな痛みが脳で快感に変換され、またも疼きとなって腰に溜まってゆく。余計にシドを煽ると分かっていつつ甘く鳴いてしまう。

「ほら、ハイファ。立てよ」
「んんっ、シド……手、離して」

　素直に胸の尖りから指を離されたが、そのときには既に躰に炎を灯されていた。

　腰に片腕を回されて立たされる。浅ましくも、もう吐息が乱れてしまったのが恥ずかしく、壁に手をつかされたこともハイファは意識しなかった。

　着衣のままで背後からシドに抱き締められ、荒々しい愛撫を受けてハイファは陶然とする。しなやかな背を反らせてシドの手に酔った。だがなけなしの理性で訴える。

「あっふ、お願い……リフレッシャ、浴びさせて」
「だめだ、夜が終わっちまうだろ」
「そんな、夜も昼も、宙艦じゃ関係ないじゃない……あっ、はうん！」

　うなじをきつく噛まれてハイファは高い声を洩らした。完全防音とはいえ自身の声の響きに媚びた甘さが混じっているのが分かり、またもハイファの羞恥を煽る。しかし再び胸の尖りを指先で転がされ、耳許に熱い囁きを吹き込まれると、もう陥落するしか道はなかった。

「シド、もう、お願い……服、汚しちゃうから」
「もうそんなにしてるのか？」

　ベルトを緩められ、脱がされぬままに中を探られる。滴るほどに溢れた透明の蜜がシドの手を濡らした。構わずシドは熱く硬く成長したハイファのものを扱き始める。
　緩急をつけて扱かれ、ハイファは身を捩らせて逃れようとした。

「いや、あ……やめ、だめ……僕だけ、ズルい」
「ズルくねぇよ。いきたければいっていい、受け止めてやるからさ」
「あっ、ん……いや、僕だけなんて、いや。シドと一緒にいきたい」

　とうとうストレートに乞うたハイファにシドは笑みを浮かべる。掴んだハイファを解放して次には下着ごとスラックスを膝下まで引き下ろした。変化を隠れなく露わにされたハイファは眩暈のような羞恥と、これから与えられる快感への期待以外の何も考えられなくなる。

　背後でシドが跪き、ハイファを押し開いて後ろの色づきまで露出させた。

「いっぱい気持ち良くしてやるからな」
「あっ、ああん……シド、そんな……あぅんっ！」

　狭いそこに侵入してきた柔らかなものがシドの舌だと知って、リフレッシャも浴びさせて貰えなかった躰が硬直する。羞恥に全身が一瞬で桜色に染まった。思わず目を瞑る。

　頭の芯が痺れるほどに恥ずかしく、だが制御できない躰は却ってシドの舌を締めつけてしまう。それでもシドは確実に舌をねじ込み、窄まりに唾液を送り込み続けた。

「ああっ、シド……はぁん……ああんっ！」

　喉からは勝手に高くも甘い喘ぎが洩れ続ける。そうしてやっと舌を抜かれると今度は指で嬲られた。ハイファを傷つけないよう、いつもこれ以上無理なくらいに深爪して整えられた指が色づきをなぞり、何度も浅く抽挿入される。翻弄されてハイファはいつしか叫んでいた。

「や、あん……もう、シド……奥まで、頂戴――」
「奥まで……こんな風に、か？」

　低い声で囁いたシドは大型の武器を扱う関節の張った中指をするすると芯まで届かせる。知り尽くしたポイントを軽く掻いては突いた。途端にハイファは鳥肌の立つような鋭い快感に晒されて一際喘ぎを高くする。徐々に指を増やされ、体内でバラバラに蠢かされて、ハイファの理性は完全に崩壊させられた。意識せず、あられもなく乞うている。

「ああっ、いい、そこ……もっと、シド、シド！」
「このままこれでいくか？」
「や、ん……シドが欲しい。僕を埋めて……ああっ！」

　それでも指を抜かれるときには腰が追ってしまう。羞恥を振り払うように肩越しに振り向くと、シドが自らのベルトを緩めて下衣を押し下げ、勃ち上がりきったものを晒していた。

　濡れそぼった太いものを目にしてハイファは息を呑む。今からこれが自分の中に入ってくるのだとは、にわかに信じがたいほどの存在感だった。

「ハイファ、俺を入れてくれるか？」
「……うん。きて、入れて」

　細い腰にシドはしっかりと片腕を回して抱き締める。上衣を汚さぬように捲り上げ、片手で己のものをほぐしたばかりのハイファにあてがい、溢れた蜜を塗り込むように動かした。
太く怒張した切っ先を僅かに食い込ませる。

「入るぞ、ハイファ。息、ゆっくり吐けよ」
「ん……あっ、あっ……ああっ、シド……あうっ！」

　呼吸に合わせて侵入してきたシドは、やはり圧倒的な太さと硬さでハイファに悲鳴じみた喘ぎを洩らさせた。ゆっくりと、だがためらいなく挿し入れられたものは、ハイファの中で息づいて粘膜まで融かされそうに熱い。正直いって苦しかった。乱れた息をするたびに締めつけてしまい、深々と貫いたシドにも呻きを洩らさせる。

「うっ……く……ハイファ、少し力抜いてくれ」
「んんっ……無理、いいからシド、動いて、突いて！」
「だめだ、これじゃ傷つけちまう」
「いい、傷つけてもいいから――」

　堪らなくなったのか、シドが強引に動きだした。熱く太い楔をずるりと引き抜き、繋がりが解けてしまう寸前で突き上げる。根元までをねじ込むようにして貫いた。数度の擦過でハイファの苦しさが嘘のように融け消え、反転したように快感だけが全身を押し包む。

「シド、すごい……いい、ああん、太いよ、シド！」
「俺も、メチャメチャ気持ちいい、ハイファ、ハイファ！」

　幾度も名を呼び合い、二人は躰をぶつけるようにして求め合った。シドに突き上げられ、掻き回すように動かされて、ハイファはあまりの快感に気が遠くなる思いをしながらも、更なる快感を追って細い腰を淫らに振ってしまう。もはや自力では立っていられず、ハイファは壁に縋り、爪を立ててシドの攻めに堪えていた。

「もう、シド……僕、だめ――」
「俺も、一緒に、いくぞ」

　低く甘い声で肩越しに振り返ると、斜めに見える端正な顔が僅かに歪んでいて酷く色っぽい。切れ長の目に溜めた情欲が溢れる寸前なのを目にした途端、ハイファはこれ以上ないほどの快感と悦びを感じる。もう絶頂感を押し返せない。粘膜でシドの変化をくっきりと感じ取った。熱く蜜の滴るものをシドに握り込まれ、腰の律動に合わせて数度、扱かれる。

「あっ、いく、いっちゃう……シド、はうっ！」
「ハイファ……うっ、く……あうっ！」

　芯をシドにずぶ濡れにされるのを感じながら、ハイファも同時にシドの手の中に解き放っていた。二人は幾度も身を震わせて迸らせる。何も考えられない数秒ののち、いきなり膝の力が抜けてハイファは頽れそうになった。シドの力強い腕に救われ、ゆっくりと座らされる。

　洗面所で手を洗ってきたシドは水を湛えたコップを持っていた。最初のひとくちは口移しの甘い水、ハイファは残りを一気に飲み干して溜息をつく。

「ふう。……もう、油断も隙もないんだから！」
「でも良かっただろ、この『勉強』も」
「……うん」

　素直に頷くとシドは珍しくポーカーフェイスを崩して破顔し、ハイファをすくい上げてベッドの下段に寝かせた。甲斐甲斐しく身なりを整えてやり、シワにならないよう上着を脱がせて執銃も解く。