あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

文字の大きさ
2 / 71

02:動かして遊ぶ玩具

しおりを挟む


 お店の滞在時間は三時間と決まっており、三十分前にラストオーダーを終えて規定の時間に店を出る。
 普通の流れであれば別のお店で二次会……、となるのかもしれないが、八人のうち五人が明日も仕事という状況ではなかなかそうもいかない。ひとまず今夜はこれでとお開きを決め、駅までの道を歩く。社会人ならば仕方あるまい。
 雛子としては駅までの道のりを俊と歩きたいと考えていた。道幅から自然と二人並んで歩く構図になっており、親密になるまたとないチャンスだからだ。

 だけど……。

「羽柴さん、明日休みって言ってたっけ。元々休み?」
「美緒から誘われて有給にしたの。直前でも休みをずらしやすい職場だから、帰りが遅くなるって事前に分かってる時は次の日は休みにしちゃう事が多いかな」
「いいな。俺のとこは融通が利かないんだ。俺も明日休みなんだけど、こっちは一ヵ月前から有給申請して周りに宣言してようやくだよ」

 羨ましいという言葉に、雛子は頷いて返した。
 隣を歩くのは雛子が狙っていた俊。……ではない。颯斗だ。
 店を出て歩き出してすぐ、彼がそれとなく隣について話しかけてきたのだ。内容こそ他愛もない会話だが、それでも彼の気遣いのおかげで話は程よく盛り上がる。

「朝桐君は仕事はパティシエだっけ? 冴島君と同じ職業って言ってたよね」
「あぁ、店も同じなんだ。この業界、今の時期は比較的楽だけど、これからが地獄の季節だからなぁ……」
「地獄……。クリスマスね」

 なるほど、と雛子が頷けば、颯斗が深く頷いた。
 夏が終わったばかり。むしろ九月の上旬はまだ日中は真夏日のように暑く、夜になってようやく夏の終わりを実感出来るぐらいだ。世間も雰囲気を変えはしたもののさすがにクリスマスを語るには早い。
 それでも数ヵ月先の一大イベントを考えてしまうのは仕事柄というもの。

「羽柴さんは玩具会社だったよな。そっちもクリスマスは掻き入れ時だろ?」
「え、う、うん。そうなの。クリスマスプレゼント。大変よね」
「お互い束の間の休息ってやつか。それでさ、暇なうちにどっかに……っと、あぶない!」

 話の途中に颯斗が声をあげた。
 その声に雛子は驚き、次いで背後からくる何かにドンとぶつかられた。よろけたところを颯斗に支えられて転びこそしなかったが、手にしていた鞄を落としてしまう。
 ぶつかってきたのは酔っ払ったサラリーマンだ。詫びもせずふらふらと覚束ない足取りで歩いていくあたり、雛子にぶつかった事も気付いていないのだろう。深酒どころではない。

「酔っ払いか……、ひどいな。羽柴さん、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。私も話してて気付かなかったし、それにここらへんは居酒屋も多しい酔った人が居るのは仕方ないよ」
「でもあんなに飲むのは無いよなぁ」

 まったくと言いたげに颯斗がしゃがんで落ちた鞄を拾う。
 落ちた衝撃で鞄の中身が幾つか転がり出てしまっていたようで、携帯電話とポーチ、手帳、それに社員証……。

(社員証!)

 しまった! と雛子はすぐさま社員証をさっと拾い上げて渡された鞄に突っ込んだ。
 それとほぼ同時に「雛子?」と美緒の声が聞こえてきた。前を歩いていた一行が少し離れた場所に立ち止まってこちらを見ており、代表するように美緒が小走り目に近付いてくる。雛子達が最後尾を歩いていたため、着いてこないことに今まで気付かなかったのだろう。

「雛子、どうしたの? 何かあった?」
「酔っ払いにぶつかって鞄を落としちゃったの」
「え、平気? 何か無くした? 皆で探そうか」
「大丈夫、携帯も壊れてないし、家の鍵も定期もちゃんとある。他に何か落としてないかちょっと確認してから行くけど、みんな先に帰ってて」
「それならせめて私は」

 私は残る、と美緒が言い掛ける。だがそれに「俺が残るよ」と声が割って入ってきた。颯斗だ。

「さっきまで俺と話してたんだし、俺が一緒に探すよ。ちゃんと駅まで送り届けるから」
「そう? それなら朝桐君、雛子のことお願いね。じゃあまたね」

 軽い挨拶を残して美緒が待っていた集団の元へと向かう。あらかた事情を説明し終えたのか、誰からともなく別れの言葉を告げてきた。
 雛子はそれに手を振って返し、美緒達が駅に向かって歩き出すのを見届けると、今度は颯斗へと向き直った。

「ごめんね、朝桐君。付き合わせちゃって。でも電車の時間もあるしいつでも帰って良いから」
「いや、付き合うよ。俺も羽柴さんと話がしたかったから」

 颯斗の言葉に雛子は「え?」と聞き返して彼を見た。……そして思わずドキリとしてしまう。
 彼の笑みがどこか悪戯っぽいものに変わっている。
 何かを企んでいるような顔だ。先程までの人当たりの良い態度とは違う。瞳も、まるで獲物を前に狙い定めたと言いたげにじっと雛子を見つめてくる。

「は、話って……、さっきのクリスマスのこと?」
「それも込みで、仕事の話」

 にやりと口角を上げて、颯斗が何かを差し出してくる。
 手の平に納まってしまう小さな白い紙。ただのメモ用紙のようにも見えるだろう。
 だがそれをクルリと引っ繰り返された瞬間、雛子は息を呑んだ。

 雛子の名刺だ。はっきりと雛子のフルネームが書かれている。
 そして……、会社名も。
 どうして彼が名刺をと雛子は慌てて鞄の中を見た。名刺入れはちゃんと残っている。……蓋が開いて、名刺は鞄の中で散っているが。

「聞いたことがない社名だったから調べさせてもらったんだ」

 裏を含むような口調で喋りつつ、颯斗が今度は己の携帯電話を見せつけてきた。
 画面に表示されているのはとある会社のホームページ。一番上には社名が表示され、トップバナーがクルクルと変わってお勧め商品を宣伝する。
 遠目にはたんなる通販サイトに見えるだろう。
 だけどよくよく見れば扱う商品の形状に違和感を覚えるはずだ。そして用途を見れば、一瞬で何のサイトか理解する……。

「動かして遊ぶ玩具、だっけ? 確かに玩具ではあるし物は言いようだよな。……まぁ、玩具は玩具でも『大人の玩具』だけど」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...