あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

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22:翌朝の忘れ物

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 だいぶ乱れた濃紺のベッドシーツの上に倒れ込み、しばらく荒い息を繰り返す。
 それが落ち着く頃、もぞりと颯斗が起き上がった。水を取りに行くというので雛子も自分の分を頼んでおく。
 そうして戻ってきた颯斗は片手に炭酸水二本と、そしてもう片手には衣服を持っていた。炭酸水をヘッドボードに置いて、洋服に関してはまだ寝転がったままの雛子の体に置いてくる。

「なにこれ」
「着替え。さすがにそのままじゃ寝れないだろ。最近明け方は寒くなってきたし、ちゃんと着ておけよ」
「ズボンを用意しなかった男とは思えない発言ね」

 茶化しながらも用意してもらった洋服に着替える。目新しいシャツと、今度はちゃんとズボンも用意されている。
 どちらもだいぶ大きいが寝間着と考えれば良いサイズだ。着替えて、水を飲み、そうして改めて横になる。今度は眠るために。
 もぞもぞと布団を掛ければ颯斗も部屋の電気を消して続くように布団に入ってきた。そのうえ手繰り寄せるようにぎゅうと抱きしめてくる。
 まだ少し熱を残した体。胸元に頭を置けば頬に触れる肌もほんのりと熱い。自分の体にもまだ余韻が残っており、それが眠気へと変わっていく。

 どちらともなく就寝の言葉を交わし、室内に静けさが戻ってくる。そんな中、ふと、雛子は颯斗を見上げた。
 暗さに慣れていない目では彼の表情は分からない。それでもぼんやりと輪郭ぐらいは見える。「ねぇ」と声を掛ければ、微睡んだ声で「ん?」と返事が聞こえてきた。

「自分のシャツを私が着てるの、嬉しかったの?」
「おやすみ」
「俺のシャツで、なんて、結構そういう事に拘るタイプなのね」
「俺は明日仕事だから早いんだ。さっさと寝ろ」

 情事の最中の事を思い出して雛子が小さく笑みを零す。対して颯斗の返事は素っ気ない。
 もっともこの素っ気なさは図星ゆえの誤魔化しだ。それが分かるからこそ「ねぇねぇ」と言及すれば、再び「おやすみ」と問答無用な言葉が返ってきた。布団を引っぱって雛子の頭に被せるのはこれ以上喋らすまいという強硬手段だろう。

 意地っ張り。
 だけどこの意地っ張りが可愛いと思えてしまう。

 むず痒いような甘い感情が己の中で芽生え始めている事を……、むしろだいぶ前から既に芽生えていたであろうそれを改めて自覚し、雛子は小さく笑んだ。
 クスクスと笑えば、笑い声が聞こえたのかそれとも振動で察したか、颯斗が不満そうに「お前なぁ」と話し出した。

「帰れないところを泊めて貰ってる、っていう自分の立場を分かってるのか? 今すぐに追い出しても良いんだぞ?」
「やだ、怖いこと言わないでよ。こんな時間に追い出されたら電車の復旧どころじゃないわ。……でも、それなら、追い出されないよう泊めてもらうお礼に良いことを教えてあげる」
「良いことぉ? 最新のオナホールの形状でも語るつもりか?」

 遠慮したいとでも言いたげな颯斗の声色に、雛子は「馬鹿」と咎めて制した。
 そうしてぐいと身を寄せる。思い返せば、前回はこうやって顔を寄せて彼の頬にキスをしたではないか。
 だが今回は頬へのキスではなく、耳元に唇を寄せ……。

「私、男のひとの部屋に来るのも、男のひとのシャツを着て寝るのも、今夜が初めてなの」

 そう囁いた。
 颯斗の体がビクッと跳ねるのが暗い部屋でも分かる。
 それを感じ取り、雛子は満足すると同時に再び布団の中に潜り込んだ。

「お前、本当に……そういうところだぞ……」

 と、そんな悔しそうな――それでいて嬉しさが隠しきれていない――颯斗の呻くような声を聞きながら、雛子はゆっくりと眠りについた。


 ◆◆◆


 翌朝、目覚まし時計の音にどちらともなく起き出し身支度と朝食を済ませ、颯斗の車に乗り込んでマンションを出る。
 てっきり最寄りの駅で降ろされるのだと思っていた雛子だったが、対して颯斗は当然のように「住所は?」とカーナビをいじりながら聞いてきた。どうやら自宅まで送ってくれるつもりらしく、ならばと素直に甘える事にした。

 そうして車で走ることしばらく、雛子はふととある事に気付いて「あ、」と小さく声を漏らした。

「忘れ物しちゃった」
「忘れ物? 俺の家にか? 今から戻れば間に合うけど」
「んー、でも良いや。別に必要なものでもないし」

 さして慌てることもなく雛子が答えれば、大事な物ではないと察したのか颯斗が「わかった」と返してきた。
 だが次の瞬間に颯斗の表情が悪戯っぽいものに変わった。ニヤリと口角を上げた、訳知り顔である。運転中のためこちらを向くことはないが、それでも横顔だけでも彼の表情の変化を見て取り、雛子は思わず怪訝に眉根を寄せた。はたしていったい何を言ってくるのか……。

「なるほどな、わざと忘れ物か」
「わざと? なんでわざと忘れ物なんてするのよ」
「また俺の家に来たいんだろ? そのための口実を残していくなんて可愛いことするじゃん」
「はぁ?」

 雛子の口から驚きと呆れの声が漏れた。
 だがそれに対しても颯斗は余裕の表情である。

「また取りに来いよ。もちろん泊まりでな」
「……馬鹿すぎて話にならない。本当に忘れて置いてきちゃっただけよ。そもそも、私には要らないものだし、取りにくる必要もないの」
「要らないもの? でもお前のものなんだろ?」

 余裕の笑みだった颯斗の表情に疑問の色が浮かぶ。
 忘れ物、だが雛子には要らない物……、というのはどういうことかと問いたいのだろう。
 彼の問いかけに、今度は雛子がニヤと笑みを浮かべた。

「そうよ。私の物だけど私は使わないの。だからあげる」
「あげるって言われても、そもそも何を忘れて……、お前まさか!?」

 思い至ったのか颯斗が声をあげた。
 それに対して雛子は笑い出したいのを堪え、それでも漏れそうになる笑いを口元を手で押さえることで堪える。

 思い出されるのは颯斗の家の寝室。
 寝具を紺色で統一し、オレンジ色の淡い間接照明を灯らせる洒落た部屋だった。
 そこのヘッドボード。時計と携帯電話の充電器、それと読みかけの本と、並ぶ物も部屋に合わせて洒落ていた。

 そんな雰囲気の中、ヘッドボードのど真ん中に鎮座する……ピンクの筒。
 紺色で統一された部屋の中、そのピンクはやたらと目立つ。部屋に入ればすぐに目につくだろう。
 ……目につく割には置いてきてしまったのだが。

 だが再三言っている通り、持って帰ったところで雛子には必要ないものだ。
 ピンクの筒の先端にある挿入口。その穴がどれだけ広がろうと、中の構造が押し入ってきたものをどれだけ絡みつくように包もうと、雛子には挿入するものがない。あれは男性が使うもの。
 だから……、

「随分と気持ちよさそうだったし、泊めてもらったお礼に颯斗にあげる。愛用してね」

 雛子がにっこりと笑えば、颯斗が見て分かるほどに頬を引きつらせ……、

「ひとの家に変な置き土産を残していくな!!」

 なんともごもっともな怒りの声を荒らげた。


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