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29:今更はじめてのキスを※
しおりを挟む「とっ……とてっ、とても有意義な検証だったわ……! さすがはうちの商品……!」
そう雛子が荒い呼吸の中で告げたのはひとしきり笑い終わったあと。
暗い部屋の中で腹が捩れるほどに笑い、どちらともなくもう無理と判断して部屋の電気を着けた。ちなみにコンドームは部屋の電気がつくやゴミ箱に投げ入れられてしまった。
「愛社精神と知的好奇心が満たされたようで何よりだ……」
溜息混じりに颯斗が呟く。
若干の疲労を感じさせるのは、密事の後だからか、おかしな検証に付き合わされたからか、もしくは笑い過ぎか。
「俺以外の男相手だったらキレて犯されてたかもしれないからな。そこらへん肝に銘じて、なおかつ俺の寛大さに感謝しろよ」
「なによ、颯斗だって笑ってたじゃない」
「あの光景は笑うかキレるかの二択だ。ところで……」
話を変え、颯斗が手を伸ばして頬に触れてきた。
またも唇に親指を添えてくる。これをされては雛子も喋る事が出来なくなり、むにむにと唇を押されながらもせめてと彼を見た。どうしたの?と視線で尋ねる。
「前回も今回も、体はって協力してやってるよな」
「んむ……」
「だからさ……。キスぐらいさせてくれてもいいんじゃないか?」
じっと雛子を見つめながら、なぁ、と唇を擦りながら強請ってくる。
先程まで笑いあっていた表情が今は真剣なものに変わり、瞳は熱さえ感じさせる。
それだけ心から求めてくれているということだ。
それに絆され、雛子は数秒悩むような素振りを見せたのち、「んっ」と小さな声で返すと目をつむってみせた。
少し唇を尖らせるのは、求めてくれる彼に、自分もまた求めているのだと訴えるためだ。
「雛子……」
目を瞑って暗くなった視界の中、颯斗の声がする。見えないのに彼が身を寄せてきたのが分かる。
唇を押さえていた指がすっと離れていき、まるでそれに代わるかのように暖かく柔らかなものが雛子の唇に触れた。
「ん……」
軽い触れ合いのようなキスをし、唇を離してもう一度。
先程よりも深く。三度目はもっと深く長く。四度目にぬるりと彼の舌が咥内に入り込んでくるのを、雛子は鼻にかかった声を出すと共に受け入れた。
おずおずと自らも舌を絡め、深いキスを続ける。
「ふぁ……」
幾度となくキスを交わしてようやく終わる頃には、雛子の意識はすっかりと蕩けていた。
唇を塞ぎ合うことによる若干の息苦しさ、舌を絡める今まで体験したことのない感覚。そして颯斗とキスをしたという事実……。
それらすべてが意識をふわふわとさせる。
(キスがこんなに気持良いなんて知らなかった……)
ぼんやりとそんな事を考え、ほぅと熱っぽい吐息き……、
ふと視線を下に落とした。
颯斗の下腹部、下着に覆われたそこが緩やかながらに山を作っている。
「……本当にすぐに勃つのね」
つい先程颯斗は『軽く扱けばすぐに勃つ』と言っていたが、今回は触ってすらいない。それなのにそこは既に首をもたげて布を押し上げているの。やはり男性の体は不思議だ。
そう雛子がまじまじと下着の山を眺めていると、直視されるのは恥ずかしいのか颯斗の手が顎に触れて顔を上げるように促してきた。
見上げた彼の頬が少し赤いのは、キスだけで反応してしまったことを恥ずかしがっているのか……。
「なぁ雛子、また手伝ってくれよ」
「私もう眠いなぁ、寝ちゃおうかな」
「そう言うなって。……ほら、次はキスしながらしようぜ」
誘うように声をかけ、颯斗が両腕を広げる。
これに対しても雛子はわざと悩む素振りをしてみせた。さっきのキスといい今といい、答えなんて悩むまでもなく自分の胸の中にあるのに。
そうして数秒おいて彼を焦らしたのち、「仕方ないなぁ」答えて彼の腕の中へと身を寄せた。
……キスをしながら。
◆◆◆
密事を終え、眠りについた深夜。むしろ明け方に近い時刻。
雛子はぼんやりとした意識で微かに声を漏らすと、ゆっくりと起き上がった。
「喉、乾いた……」
誰にというわけでもなくひとりごちて、ヘッドボードに置かれた炭酸水に手を伸ばす。だが持ち上げてもそれは軽く、振っても中に水が入っている感覚はない。
試しにと颯斗の分にも手を伸ばすがこちらも同様に軽い。ーー「悪い、夜中に起きてお前のも飲んだ」とは、翌朝の颯斗の自白ーー
それならキッチンに……ともぞもぞと布団の中から出てベッドを降りようとすると、手首を掴まれた。
颯斗だ。意識は殆ど寝ているのだろう、それでも薄っすらと目を開けて、とろんとした眠たげな声で雛子を呼んできた。
「どうした……?」
「喉乾いたの。お水もう無いから、飲んでくる」
「ん……。冷蔵庫に……ある、から……適当に…………」
適当に飲んでいい、とでも言うつもりだったのか。だが颯斗は言葉の途中で再び眠りについてしまった。
それを見届け、雛子は眠る颯斗の額を軽く指先で撫で、ゆっくりとベッドから降りてキッチンへと向かった。
冷蔵庫から飲み物を取り、喉の乾きを潤す。
時計を見れば朝と言うにはまだ早い。夏場ならそろそろ外が明るくなり始める時間だが、冬の空はまだ真っ暗だ。
もう一度寝よう、起きたらご飯を食べて、買い物にでも行こうか。そんな事を考えながら寝室へと戻ろうとし、途中で足を止めた。
視線が向かうのは自分の鞄。中を漁り、取り出しのは手のひらに収まるほど小さな袋。それが二枚。
黒地に蛍光グリーンの文字はぎらついた印象を与え、落ち着きのあるデザインの部屋の中で妙に浮いて見える。
言わずもがな、コンドームである。それも光るコンドーム。
途中で破けたらと考えて予備に二枚用意しておいたのだ。
「これ、どうしよう」
このまま鞄に入れて持ち帰っても……と考え、ふと思い立ってコンドームを手に寝室へと戻った。
ーーちなみに寝室の扉の外にはゴミ箱が置かれている。不自然な配置だが、これはいざ寝ようとなって部屋の電気を落とした際、どちらともなく無言でゴミ箱を覗き「……光ってるわね」「……光ってるな」という会話の末に颯斗により部屋の外へと出されたのだーー
そうして戻った寝室ではまだ颯斗が眠っている。
雛子は彼が起きないようにそっとベッドへと戻り、そしてヘッドボードの箱を手に取った。
密事の最中、颯斗が『良いもの』が入っていると言い、そこからローションを取り出したのだ。そのときに彼は他にも何かあるような口振りだったが、最後まで言わずに話を終えてしまった。
「もしかして中には……。あ、やっぱり」
箱の中にあったのは、先程使ったローションと、そして……、ピンク色の筒。もといオナホール。
以前に雛子がこの部屋に持ち込み、そして忘れていったものだ。それが箱にしまわれている。
意外と愛用しているのかも……と、そんな事を考えつつ、雛子は手にしていたコンドームをそっとオナホールに添えるように箱にしまい、ヘッドボードへと戻した。
◆◆◆
『なんでお前はひとの家に変なものを置いていくんだ!!』
という颯斗からの怒りのメッセージが携帯電話に入ったのは夜のこと。
あのあとひと眠りして起きると朝食を取り、一緒に買い物をして映画を見た。レストランで夕食を食べて「今夜も泊まっていくか?」という彼の誘いを「明日は仕事!」とピシャリと断り、車で家まで送ってもらい……、別れ際にキスをした。
そうして自宅に戻り寝る準備を整えてベッドて寛いでいたところ、先程のメッセージがきたのだ。
きっと颯斗ももう寝ようとベッドに入り、箱を開けたのだろう。そしてコンドームがちゃっかりと残されていることに気付いた……と。
そこまで考え、雛子は返事を打ち込んだ。
『なんで今箱を開けたの?』
と。
これに対しての返事は、
『おやすみ』
である。
携帯電話の画面越しでさえ分かる彼の白々しさに、雛子は小さく笑みを零した。
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