あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

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30:クリスマスという名の修羅場

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 十二月に入ると、颯斗と連絡を取り合う頻度は目に見えて減った。
 といっても連絡がこないわけではなく、朝や夜にはメッセージのやり取りをするし、たまに仕事後に食事もする。
 だがメッセージがくる時間帯は朝は早く夜は遅くなり、必然的にやり取りは手短になる。食事をしても彼は明日の出勤時間が早いからと早々に帰ってしまう。
 更に十二月も半ばに差し掛かると食事は無くなりメッセージだけになり、クリスマスが目前に迫ると朝に一言だけなって……、

 そしてついにクリスマスイブになると朝のメッセージすら来なくなった。



「羽柴さーん、ケーキあるからみんなで食べよう」

 そう声が掛けられたのは、イブも終わりまさにクリスマス当日な二十五日の午後。
 時計を見れば午後の三時を示しており、お茶休憩にと考えたのだろう。声を掛けてきた同僚の他にも女性社員が居り、その奥には上の階の女性社員達の姿もある。
 せっかくのクリスマスに働いているのだからケーキぐらいは食べなくては、というのが二社の女性社員の総意であり、クリスマスの伝統行事でもある。

「平日だっていうのに、どこもかしこもクリスマスムードねぇ」

 ケーキを突きながらの女性社員のぼやきに、誰からともなくまったくだと頷く。
 世間はクリスマス一色で、テレビやラジオはもちろんSNSまでもがクリスマスのことで溢れている。調べもののためにインターネットを開いてもトップページはこの日のためにとクリスマスデザインにされており、取り上げられるトピックもクリスマスに関するものが多い。
 まさにお祭りムードというものだ。否が応でも目に入る。

「そういえば、羽柴さんが仲良くしてる子、クリスマスは忙しいんだっけ? 全然連絡とれないんでしょ?」
「えっ!?」

 突然話を振られ、更にその話題に、雛子はドキリとして危うくスプーンを落としかけた。
 チラと横目に見るのはテーブルに置いてある携帯電話。
 昨日から颯斗からのメッセージはきていない。試しにと朝方に一言送ってみたのだが、いまだ読んだ形跡すらない。

(でも、なんでそれを知られてるの……!? 颯斗のことは誰にも話してないのに!)

 周囲を見るも、誰もが平然としながら雛子の返事を待っている。
 彼女達の態度に颯斗との仲を知ろうとする色や、そもそもの颯斗の存在を探ろうとする色はない。存在を知っている前提の会話といった雰囲気だ。
 どこまで知られているのか、どう思われているのか、なんで知られてしまったのか。疑問が湧くと同時に顔が熱くなる。

「あ、あれは、その、え、えっと……。確かに返事はこないけど、でもクリスマスだから仕方ないし……」
「そうよねぇ。ブライダルカメラマンっていうんだっけ? 今は式をしないで写真だけって人も多いらしいし、二人だけの撮影ならクリスマスにって考える人も多そうだもんねぇ」
「え……ブライダル、カメラマン……。美緒……。そ、そう!そうなんですよ! 朝から晩までどころか、イルミネーションを背景に撮るためにって深夜まで撮影予定が入ってるらしくて、それまでは定期的に遊びに行ってたのに、この時期になるとパッタリと止んじゃって!」
「他の記念写真ならまだしもウェディングドレスなら準備にも時間掛かりそうだし、流れ作業とはいかないもんねぇ」

 大変だわ、としみじみと話す女性社員の言葉に、聞いていた者達が頷く。
 雛子も乾いた笑いを浮かべつつ「ですよね」と相槌を打った。幸い、声が上擦っていることに気付いた者はいない。
 だが次の瞬間に雛子が再びビクリと肩を跳ねさせフォークで救っていた生クリームを落としかけたのは、隣に座っていた同僚が「ケーキ屋も大変みたいね」と話し出したからだ。

「ケーキ屋にとってクリスマスって一年で一番の売り時でしょ。大変だよね。ねぇ雛子」
「け、ケーキ……!? それは、うん、確かに凄く大変そうで、何日も前からって……」
「そうそう、改札抜けた駅ビルの通り、クリスマスイブどころか一昨日辺りからケーキ屋の臨時店が並んでるもんね。ほら、昨日帰りに通ったら凄い混雑だったじゃない」

 ねぇ、と同意を求められ、雛子はパチンと一度瞬きをし……「そうね」と返した。
 この声もやはり上擦っているのだが、同僚も気付いていない。「今日も混みそうだから別の道を通ろう」と提案して話を終えてしまった。
 所詮はケーキを食べながらの雑談なのだ。まさか雛子がここまで動揺しているなどと誰も思うまい。

「そう考えると、うちはクリスマス商戦には参加してても先に抜けられるから楽な部類ね」

 女性社員の出した結論に、誰もが同意を示す。
 そうしてまた別の一人が「そういえば」と話題を変え、再び話が盛り上がる。休憩兼お茶会は話題が尽きず、そして話題が変わるスピードは早い。
 その話の流れに乗って相槌を打ちながらも、雛子は周囲に気付かれないよう小さく安堵の息を吐いた。

(颯斗のことかと思って焦っちゃった……)

 もしも颯斗のことを言われていたら、そのうえ「彼とはどんな関係なの?」と聞き出されていたら、いったいどうなっていたか。ーー女性だけの休憩は色恋沙汰の話題が上がりやすいーー

 付き合っているというわけではない。かといって友達でもない。
 発端は脅し脅されの関係ではあるが、それが既に破綻していることは自覚している。そもそも脅されているなんて説明出来るわけがない。

(……私達、変な関係)

 ちらと携帯電話に視線を向ける。
 メッセージ受信を示すランプは点いておらず、携帯電話はシンと静まり画面も暗いままだ。
 美緒からの連絡はもちろん、颯斗からの連絡もきていない。


 ◆◆◆


 クリスマス商戦と言っても、クリスマス当日はさほど忙しいわけではない。
 なにせアダルトグッズ。当日には既に顧客の手にあり、それを見越して納品や配送をされる。それもケーキのような生物ではないので買う側も提供する側も事前に用意できるのだ。
 つまり、クリスマス当日にはすべて終わっている。あとは売れ行きや評判を調べるだけである。

「クリスマスの売上が出たら仕事納めして年末。年が明けたら仕事始め、そしてバレンタインがくる……。今度は私の番か……」

 うぅ……と唸りながらベッドの上に寝転がる。

 ケーキを食べつつの雑談を終えて仕事に戻り、つつがなく業務を終えて退社。混雑する街並みをするすると抜けるように歩き、自宅に帰り、入浴やら食事やらと済ませた後。
 ベッドの上で微睡むように過ごしていると、ふと時刻が零時を超えていることに気付いた。二十六日、クリスマスが終わったのだ。
 明日は休みなのでもう少し起きていてもいい。だけどするべき事もない。テレビも面白そうな番組はやっておらず、本もちょうど帰りの電車で読み終えてしまった。

「寝ても良いんだけど……」

 枕もとに置いた携帯電話に話しかける。だが通話はしていない。つまり完全なる雛子の独り言だ。
 今日一日ほとんど動かなかった携帯電話。
 結局、美緒からもだが颯斗からも連絡はきていない。
 二人とも忙しくて返事が出来る状況にないのだろう。それは分かる。
 例年、美緒からの返事がくるのは翌々日だ。『返事できなくてごめんね、ようやく落ち着いたよ』という言葉と共に、食事や遊びに出掛けようと誘ってくれる。なので彼女は待っていれば平気だろう、返事を催促する気はない。

 ……だけど。

「あの性格から考えると、絶対に電話してくると思うのよね」

 どうなの? と、やはり返事のない携帯電話に話しかけた。

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