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34:眠る間際の告白
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『最後のやばかった。エロい声、最高。録音しときゃよかった。……なぁ、次するとき』
「録音して良いわけないでしょ」
『だよなぁ。でもとにかくそれぐらい気持ち良かった』
「それならよかったけど、眠れそうなの?」
そもそもこんな事になったのは、体は疲れているのに意識が冴えて眠れないという颯斗のためだ。
調子はどうなのかと問えば、彼はどことなく微睡んだ声で『眠れそう』と返してきた。その声には偽っている様子もなく、むしろ既に眠そうだ。
良かった、と雛子は安堵し「おやすみ」と就寝の言葉を掛けて電話を終らせようとした。だがそれより先に颯斗がもう少し話をと粘ってくる。
「まだ寝なくて良いの?」
『いや、もうそろそろ寝るけど、終わってはい通話終了じゃ味気ないだろ』
だから、という颯斗の話を聞き、雛子は無意識に枕元の目覚まし時計へと視線をやった。
時刻は既に四時を過ぎている。二時から電話をして三時頃に事に及んだのだから、どうやら一時間も没頭していたらしい。
遅い時間だが今更だ。それに明日も職場に顔を出さなければならない颯斗と違い、雛子は丸一日休みを取っている。昼までゆっくりと眠り、待ち合わせの時間に合わせて家を出ればいいだけだ。
そう考え、電話越しで見えないと分かっていても肩を竦めた。
「クリスマスを乗り越えたパティシエは労わないと可哀想ね。仕方ないからもう少し付き合ってあげる」
渋々了承といった声色で告げれば、電話口から聞こえてくる颯斗の声が嬉しそうなものに変わった。
そうしてしばらく雑談を続けるも、元より遅い時間もあって睡魔は急速に訪れてくる。
最初こそ明日のことや年末年始の予定について話をしていたが、次第に相手の話を聞き逃すことが多くなり、相槌の間も長くなり……、と、誰が聞いても眠たげなものになっていた。
(……本格的に眠くなってきちゃった)
うとうとと会話の途中で雛子の意識が微睡んだ。
夜更かしどころではない遅い時間。むしろ早起きを心掛けている者達が起き出してきかねない時間だ。それも果てた気怠さもあってさすがに眠くなってくる。
だが眠くなっているのは雛子だけではなく、むしろ颯斗の方が眠そうだ。そもそも彼は『体は疲れて眠いのに頭が冴えて眠れない』という状況で雛子に助けを求めてきたのだから、頭も蕩けた今は体も意識もすべて眠いのだろう。
「颯斗、まだ起きてる?」
『んー、……起きて、は、いる』
颯斗の声は早い段階で眠気を帯びはじめ、言葉も途切れ途切れになっていた。聞いている方が眠くなりそうだ。
それでも雛子が就寝を提案すると『もう少し』と粘ってくる。
まだ眠れないのか、それとも何か眠れない理由がまだあるのか……。
どうしたものか。
いっそ無理やりに電話を終えてみるか。それとも眠りに着きやすいオルゴールでも流してみようか。
そんな事を雛子が微睡んだ思考で考えていると、何やら静まっていた颯斗がポツリと『クリスマスケーキ……』と呟いた。
「ケーキ?」
『そう、クリスマスケーキ……。俺のは、コンペ通らなくて……。自信、あったのに……』
ポツリとポツリと眠たげな声で颯斗が語る。
コンペとはコンペティションのことだ。本来ならば一つの案件に対して複数の企業が作品や企画を出し合うことを指すが、この場合は参加者が社内に限定された『社内コンペ』と呼ばれるものである。雛子は会社勤めのデザイナーゆえにコンペティションに参加した事はないが、フリーのデザイナーはこういった場で仕事を得ることも多いと聞く。
颯斗が勤めている洋菓子店では、シーズン毎に新作商品の全店共通コンペを行っているという。とりわけクリスマスケーキともなれば誰もが力を入れ、審査をする者達も社運を賭けるのだろう。一番の稼ぎ時だからこそ外せない。
その審査に颯斗が提案したケーキは落ちてしまった。つまり商品にはなれなかった、ということだ。
「……そっか」
残念だったね、と雛子が労りの言葉を掛ける。
本来ならば『あんなに頑張ったのに』と彼の努力を称えるべきなのかもしれないが、その時まだ出会っていない。どれだけ試行錯誤を繰り返して挑んだのか分からないのに軽はずみな言葉は掛けられず、今の颯斗の声色から察するに『次があるよ』と無理やりに前を向かせることも躊躇われる。
ゆえに当り障りのない言葉しか出ないのが悔やまれる。なにか気の利いた言葉を……、と眠気を押しのけながらも考えていると、颯斗が再び話し出した。
『コンペに落ちることは……はじめてじゃ、ないし……、落ちるやつの方が……多いんだ』
「そっか、そうだよね。クリスマスって言っても、何十個も新作出すわけじゃないもんね」
『だから……今までは別に……悔しいけど、でも次があるって。でも、今年……俊のが通って』
「冴島君の?」
その名前を雛子が口にすれば、電話口で颯斗が一瞬たじろいたのが分かった。
それでも話を続ける気はあるのだろう、やはり眠そうな、そしてどこか躊躇いを感じさせる声で胸の内を吐露する。
曰く、今年のクリスマス商品の一つに俊のケーキが選ばれた。
といっても、今まで颯斗の案だけが通ったこともあれば二人揃って落ちたこともあるという。彼等が勤めている店は各地に店舗を持ち、百貨店にも入っている。スイーツ好きならば知らぬ者の居ない店らしく、規模も大きいだけに勤めている者も多い。
となればコンペを通るのは難しく、まさに狭き門というものだ。
落ちること自体は珍しくもない。むしろ落ちる者のほうが殆ど。いちいち落ち込んでいてはキリがない。そう颯斗も考えていた。
だけど……、
『今年は……、なんか、すげぇ気になって……。俊のケーキ、評判も良くて……だから、ずっとそんなことばっか考えてて……』
「それで眠れないの?」
『……ん』
眠そうな声で、否、眠いのに眠れない辛そうな声で、颯斗が小さく肯定する。
共に切磋琢磨し合った友人への嫉妬だろうか。それとも一歩先を行かれたと焦っているのか。
だが今までも同じような事はあり、立場が逆だった事もあると話していた。
それに新商品に選ばれるのはなにも単純に優れているからというわけではない。その時の流行、ニーズ、材料の仕入れ価格、提供できる値段、作る工程に掛かる費用……。商売なのだからそういったものを加味して新商品を選ばなければならず、流行やニーズに関しては颯斗達も把握できるだろうが、仕入れ価格や値段についてまでを想定するのは難しい。
「だから、そんなに考え込まなくても……」
『俊だから、気になるんだ。やっぱりって……、考えて……。……なぁ、雛子』
「ん?」
ふと、話の途中に名前を呼ばれた。
画面には颯斗の名前しか表示されていないが、それでも無意識に画面を覗き込む。
だが待っても彼が話しだす様子はなく、雛子は囁くように「颯斗?」と彼を呼んだ。だがやはり返事はない。
「颯斗、寝ちゃったの?」
『……やっぱり、まだ……あいつが良いのか?』
「え……?」
『まだ、俊の方が……、でも、少しぐらい……俺の……俺のことも、見て……』
呟くように告げてくる颯斗の声に、雛子はそっと携帯電話を手に取った。
颯斗がコンペの事を気にしていたのは、同僚である俊に抜かされた焦りからではない。他でもないその俊を、雛子が気にかけていたからだ。
電話の向こうで彼はどんな表情をしているのだろうか。
もしかしたら思い悩み、緊張し、その果てに想いを打ち明けて尋ねてきたのかもしれない。
それを想像すれば寝転がったまま話を続けるなど出来るわけがなく、雛子は携帯電話を取り落とさないよう手に持ち、シーツの上で改まるように座った。
心臓が早鐘を打つ。片手には携帯電話を持ち、そしてもう片手では鼓動を落ち着かせるために服をぎゅっと掴む。
颯斗から続く言葉はない。彼もこちらの様子を窺っているのだろうか……。
「颯斗、あのね……」
『…………ん』
「冴島君の事なんだけど、そんなに颯斗が気にすることは無いの。だって、その、私は……」
『………ぐぅ……んぅ』
「あのね、颯斗が思ってる以上に、きっと私は颯斗のことを……。颯斗? ねぇ、颯斗?」
電話の向こうに異変を感じ、雛子が数度呼びかける。
だがこれに対しても返事はない。
もしも思い悩み緊張し言葉が紡げずにいたとしても、普通ならば相槌ぐらいは返すものではないだろうか。
もしかして……、と雛子はふととある事に思い至り、改めて確認するように「颯斗?」と呼んでみた。
それでもやはり返事はない。否、返事の代わりに微かに聞こえるのは……。
スゥ、スゥ……という、緩やかな寝息。
そう、寝息。
寝ている。
試しにと雛子が「寝てるの?」と尋ねるも返事はなく、そして返事がない事こそが肯定である。
思わず雛子はガクリと肩を落とし、手にしていた携帯電話を落としかけてしまった。むしろ落としてしまって良い気もする。
「……もう寝るからね」
呆れの声で告げるも、これにもやっぱり返事は無い。穏やかな寝息が聞こえるだけだ。
雛子は盛大に溜息を吐き「おやすみ」と告げて通話終了のボタンを押した。
こんな重要な会話の途中で寝るなんて、明日どうしてくれようか。
誤魔化そうものなら直前の会話を一字一句再現してやろう。でも素直に謝ってきたら少し揶揄うぐらいにしても良いかもしれない。
だけどもしも改めて真摯に尋ねてくるのなら、その時は言い掛けた言葉の続きを………。
そんな事を考えながら、雛子もまた眠りについた。
だというのに、翌日の颯斗は普段となんら変わらぬ態度で、果てには昨夜の事については、
「実は、電話でしたあとのこと殆ど覚えてないんだよ。寝る前に少し話してた気もするんだけど、なに話してたっけ?」
とまで言いのけたのだ。
これには雛子ももはや怒りもなく、話の内容を尋ねてくる彼に「一生教えてあげない」と断言した。
「録音して良いわけないでしょ」
『だよなぁ。でもとにかくそれぐらい気持ち良かった』
「それならよかったけど、眠れそうなの?」
そもそもこんな事になったのは、体は疲れているのに意識が冴えて眠れないという颯斗のためだ。
調子はどうなのかと問えば、彼はどことなく微睡んだ声で『眠れそう』と返してきた。その声には偽っている様子もなく、むしろ既に眠そうだ。
良かった、と雛子は安堵し「おやすみ」と就寝の言葉を掛けて電話を終らせようとした。だがそれより先に颯斗がもう少し話をと粘ってくる。
「まだ寝なくて良いの?」
『いや、もうそろそろ寝るけど、終わってはい通話終了じゃ味気ないだろ』
だから、という颯斗の話を聞き、雛子は無意識に枕元の目覚まし時計へと視線をやった。
時刻は既に四時を過ぎている。二時から電話をして三時頃に事に及んだのだから、どうやら一時間も没頭していたらしい。
遅い時間だが今更だ。それに明日も職場に顔を出さなければならない颯斗と違い、雛子は丸一日休みを取っている。昼までゆっくりと眠り、待ち合わせの時間に合わせて家を出ればいいだけだ。
そう考え、電話越しで見えないと分かっていても肩を竦めた。
「クリスマスを乗り越えたパティシエは労わないと可哀想ね。仕方ないからもう少し付き合ってあげる」
渋々了承といった声色で告げれば、電話口から聞こえてくる颯斗の声が嬉しそうなものに変わった。
そうしてしばらく雑談を続けるも、元より遅い時間もあって睡魔は急速に訪れてくる。
最初こそ明日のことや年末年始の予定について話をしていたが、次第に相手の話を聞き逃すことが多くなり、相槌の間も長くなり……、と、誰が聞いても眠たげなものになっていた。
(……本格的に眠くなってきちゃった)
うとうとと会話の途中で雛子の意識が微睡んだ。
夜更かしどころではない遅い時間。むしろ早起きを心掛けている者達が起き出してきかねない時間だ。それも果てた気怠さもあってさすがに眠くなってくる。
だが眠くなっているのは雛子だけではなく、むしろ颯斗の方が眠そうだ。そもそも彼は『体は疲れて眠いのに頭が冴えて眠れない』という状況で雛子に助けを求めてきたのだから、頭も蕩けた今は体も意識もすべて眠いのだろう。
「颯斗、まだ起きてる?」
『んー、……起きて、は、いる』
颯斗の声は早い段階で眠気を帯びはじめ、言葉も途切れ途切れになっていた。聞いている方が眠くなりそうだ。
それでも雛子が就寝を提案すると『もう少し』と粘ってくる。
まだ眠れないのか、それとも何か眠れない理由がまだあるのか……。
どうしたものか。
いっそ無理やりに電話を終えてみるか。それとも眠りに着きやすいオルゴールでも流してみようか。
そんな事を雛子が微睡んだ思考で考えていると、何やら静まっていた颯斗がポツリと『クリスマスケーキ……』と呟いた。
「ケーキ?」
『そう、クリスマスケーキ……。俺のは、コンペ通らなくて……。自信、あったのに……』
ポツリとポツリと眠たげな声で颯斗が語る。
コンペとはコンペティションのことだ。本来ならば一つの案件に対して複数の企業が作品や企画を出し合うことを指すが、この場合は参加者が社内に限定された『社内コンペ』と呼ばれるものである。雛子は会社勤めのデザイナーゆえにコンペティションに参加した事はないが、フリーのデザイナーはこういった場で仕事を得ることも多いと聞く。
颯斗が勤めている洋菓子店では、シーズン毎に新作商品の全店共通コンペを行っているという。とりわけクリスマスケーキともなれば誰もが力を入れ、審査をする者達も社運を賭けるのだろう。一番の稼ぎ時だからこそ外せない。
その審査に颯斗が提案したケーキは落ちてしまった。つまり商品にはなれなかった、ということだ。
「……そっか」
残念だったね、と雛子が労りの言葉を掛ける。
本来ならば『あんなに頑張ったのに』と彼の努力を称えるべきなのかもしれないが、その時まだ出会っていない。どれだけ試行錯誤を繰り返して挑んだのか分からないのに軽はずみな言葉は掛けられず、今の颯斗の声色から察するに『次があるよ』と無理やりに前を向かせることも躊躇われる。
ゆえに当り障りのない言葉しか出ないのが悔やまれる。なにか気の利いた言葉を……、と眠気を押しのけながらも考えていると、颯斗が再び話し出した。
『コンペに落ちることは……はじめてじゃ、ないし……、落ちるやつの方が……多いんだ』
「そっか、そうだよね。クリスマスって言っても、何十個も新作出すわけじゃないもんね」
『だから……今までは別に……悔しいけど、でも次があるって。でも、今年……俊のが通って』
「冴島君の?」
その名前を雛子が口にすれば、電話口で颯斗が一瞬たじろいたのが分かった。
それでも話を続ける気はあるのだろう、やはり眠そうな、そしてどこか躊躇いを感じさせる声で胸の内を吐露する。
曰く、今年のクリスマス商品の一つに俊のケーキが選ばれた。
といっても、今まで颯斗の案だけが通ったこともあれば二人揃って落ちたこともあるという。彼等が勤めている店は各地に店舗を持ち、百貨店にも入っている。スイーツ好きならば知らぬ者の居ない店らしく、規模も大きいだけに勤めている者も多い。
となればコンペを通るのは難しく、まさに狭き門というものだ。
落ちること自体は珍しくもない。むしろ落ちる者のほうが殆ど。いちいち落ち込んでいてはキリがない。そう颯斗も考えていた。
だけど……、
『今年は……、なんか、すげぇ気になって……。俊のケーキ、評判も良くて……だから、ずっとそんなことばっか考えてて……』
「それで眠れないの?」
『……ん』
眠そうな声で、否、眠いのに眠れない辛そうな声で、颯斗が小さく肯定する。
共に切磋琢磨し合った友人への嫉妬だろうか。それとも一歩先を行かれたと焦っているのか。
だが今までも同じような事はあり、立場が逆だった事もあると話していた。
それに新商品に選ばれるのはなにも単純に優れているからというわけではない。その時の流行、ニーズ、材料の仕入れ価格、提供できる値段、作る工程に掛かる費用……。商売なのだからそういったものを加味して新商品を選ばなければならず、流行やニーズに関しては颯斗達も把握できるだろうが、仕入れ価格や値段についてまでを想定するのは難しい。
「だから、そんなに考え込まなくても……」
『俊だから、気になるんだ。やっぱりって……、考えて……。……なぁ、雛子』
「ん?」
ふと、話の途中に名前を呼ばれた。
画面には颯斗の名前しか表示されていないが、それでも無意識に画面を覗き込む。
だが待っても彼が話しだす様子はなく、雛子は囁くように「颯斗?」と彼を呼んだ。だがやはり返事はない。
「颯斗、寝ちゃったの?」
『……やっぱり、まだ……あいつが良いのか?』
「え……?」
『まだ、俊の方が……、でも、少しぐらい……俺の……俺のことも、見て……』
呟くように告げてくる颯斗の声に、雛子はそっと携帯電話を手に取った。
颯斗がコンペの事を気にしていたのは、同僚である俊に抜かされた焦りからではない。他でもないその俊を、雛子が気にかけていたからだ。
電話の向こうで彼はどんな表情をしているのだろうか。
もしかしたら思い悩み、緊張し、その果てに想いを打ち明けて尋ねてきたのかもしれない。
それを想像すれば寝転がったまま話を続けるなど出来るわけがなく、雛子は携帯電話を取り落とさないよう手に持ち、シーツの上で改まるように座った。
心臓が早鐘を打つ。片手には携帯電話を持ち、そしてもう片手では鼓動を落ち着かせるために服をぎゅっと掴む。
颯斗から続く言葉はない。彼もこちらの様子を窺っているのだろうか……。
「颯斗、あのね……」
『…………ん』
「冴島君の事なんだけど、そんなに颯斗が気にすることは無いの。だって、その、私は……」
『………ぐぅ……んぅ』
「あのね、颯斗が思ってる以上に、きっと私は颯斗のことを……。颯斗? ねぇ、颯斗?」
電話の向こうに異変を感じ、雛子が数度呼びかける。
だがこれに対しても返事はない。
もしも思い悩み緊張し言葉が紡げずにいたとしても、普通ならば相槌ぐらいは返すものではないだろうか。
もしかして……、と雛子はふととある事に思い至り、改めて確認するように「颯斗?」と呼んでみた。
それでもやはり返事はない。否、返事の代わりに微かに聞こえるのは……。
スゥ、スゥ……という、緩やかな寝息。
そう、寝息。
寝ている。
試しにと雛子が「寝てるの?」と尋ねるも返事はなく、そして返事がない事こそが肯定である。
思わず雛子はガクリと肩を落とし、手にしていた携帯電話を落としかけてしまった。むしろ落としてしまって良い気もする。
「……もう寝るからね」
呆れの声で告げるも、これにもやっぱり返事は無い。穏やかな寝息が聞こえるだけだ。
雛子は盛大に溜息を吐き「おやすみ」と告げて通話終了のボタンを押した。
こんな重要な会話の途中で寝るなんて、明日どうしてくれようか。
誤魔化そうものなら直前の会話を一字一句再現してやろう。でも素直に謝ってきたら少し揶揄うぐらいにしても良いかもしれない。
だけどもしも改めて真摯に尋ねてくるのなら、その時は言い掛けた言葉の続きを………。
そんな事を考えながら、雛子もまた眠りについた。
だというのに、翌日の颯斗は普段となんら変わらぬ態度で、果てには昨夜の事については、
「実は、電話でしたあとのこと殆ど覚えてないんだよ。寝る前に少し話してた気もするんだけど、なに話してたっけ?」
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