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52:大人の玩具の大人買い
しおりを挟む颯斗は手にしたタブレット端末を不思議そうに眺め、次いで雛子にも見せるように軽く掲げた。
「ルームサービス頼むにはこれ使うんだと。分かるか?」
「……見た事あるけど」
二人で端末を覗き込む。
そこにはアダルトグッズが並んでおり、購入の文字や合計金額の項目もある。インターネットの通販ページと似たような造りだ。
以前にラブホテルではこういう販売方法もあると聞いた。他にもテレビ画面に映してリモコンで操作したり、フロントに電話をしたり、自動販売機が設置されていたりと様々だ。女性の営業に同行して見たこともある。
「雛子の会社の商品は?」
「うちの? ……あるかな」
雛子が勤めている会社の商品はラブホテルでも取り扱われているが、かといって全国すべてのホテルに置いてあるわけではない。
杜撰な管理のすえに顧客に出されては会社の信用に関わると、営業が納品先を厳選して商品を卸しているのだ。女性向けという傾向も考え、いかにもなラブホテルよりも一見すると普通のホテルのような洒落たところの方が多いとも聞いた。
たとえば今いるこのホテルのような、と考えながら端末を操作し「あっ」と小さく声をあげた。画面に見覚えのある商品が表示される。自社の商品だ。
胸に湧くのは愛社精神ゆえの嬉しさと、……そして懐かしさと当時の感動。
「これ……」
「あぁ、それが雛子の会社のか」
「そうなの。あとこっちも、他のページにもあるみたい」
「結構多く扱ってるんだな」
「多分、会社も近いから納品も楽だし、もしかしたら創業時からの付き合いで多く仕入れてるのかも。見て、ここからメーカーごとに検索できる」
「一覧になると見やすいな。……よし、片っ端から全部買うぞ」
「全部!?」
突然の颯斗の言葉に驚いて声をあげてしまう。
さすがに何十個もあるわけではないが、それでも全部は買い過ぎだ。普通ならば道具一つか二つとローションぐらいのはず。
それを説明するも颯斗は手早く端末を操作し、次々とカートへと入れてしまう。
「ねぇ颯斗、どうしたの?」
「高額になっても俺が払うから安心しろ」
「べつに金額気にしてるわけじゃないの。ねぇってば」
「あ、でも流石に挿れるタイプは駄目だな」
取り扱い商品の中にはバイブやディルドといった膣内に挿入して使う道具もある。
これは却下、とスルーして端末を操作する颯斗に、雛子はどうして良いのか分からずにいた。いったいどうして先程の流れからアダルトグッズの大人買いになっているのか……。
だが止めても理由を聞いても「まぁまぁ」だの「いいから」だのと誤魔化してくるだけで、挙げ句にあっさりと購入ボタンを押してしまった。
画面が切り替わり、購入に対してのお礼と、しばらくお待ちくださいという指示が映る。
いかにもな購入完了画面だ。
「これで購入にはなったけど、どうやって届くんだ?」
「多分ドアの前に置いてくれるんだと思う。ところで、なんで今うちの商品を」
商品を買うの? と問いかけた言葉がキスで遮られる。これは答える気がないどころか質問をさせる気もないということか。
先程のキスよりも少し深く唇を交わし、ゆっくりと放す。次は更に深くなり、雛子の咥内にぬると颯斗の舌が入り込んできた。
舌を絡め合い、一度離れては角度を変えて。深いキスを何度も繰り返せば次第に呼吸も乱れ始める。ついさっきまで泣きながら過去を話していたというのに、いつの間にか意識はやわらぎ、漏れた吐息は悲壮感の欠片もなくただ熱っぽい。
そうしてしばらくキスを交していると、扉の向こうからカタと音が聞こえた。次いでインターフォンが鳴る。
注文した商品をスタッフが持ってきてくれたのだろう。一度目の呼び鈴は到着を、そして二度目は準備を終えたことの連絡だ。
ラブホテルの部屋は二重扉になっていることが多く、注文を受けたスタッフは一枚目の扉を開けて中に商品やルームサービスの飲食物を置く。そして通路に出ると、今度は室内にいた客達が内扉を開けて物を取る。
もちろん他の方法を取るホテルもあるが、これだと室内に届けつつも顔を合わせずに済むため、採用しているラブホテルは多いと以前に営業から聞いた。
「なるほどなぁ、だから二重扉になってるのか」
関心したと言いたげに颯斗が部屋に戻ってくる。
次いで彼はソファに座り直し……はせず、シーツの縁に腰掛けた。持ってきた紙袋からあれこれと取り出し並べていく。
その際にポンポンと隣を叩くのはこっちに来いという事だろう。思い返せば初めて彼とラブホテルに来たときもこうやって隣にくるように促された。
あの時は一度とはいえ拒否をしたが今は断る理由もない。素直に応じてベッドに乗ればぐいと抱き寄せられた。
足の間に座らせたいのだろう。引かれるままに彼に背を向けるようにして足の間にちょこんと腰を下ろせば、後ろからぎゅうと抱きしめられた。
颯斗はこの体勢が好きなのか、テレビを見ている時にこうやって後ろからくっついてくる。
後ろから抱きしめられると安堵感が湧き、密着した背中が温まっていくのが心地良い。時には自分を抱きしめる腕がコップを奪ったり腰や胸を触ったりとちょっかいを掛けてくるが、それもまた甘く穏やかな時間だ。
なにより、この体制は同じ方向を見ているため、くっつきながらテレビ番組や映画を見て話が出来る。
今は目の前に置かれたアダルトグッズについてだが。
「本当に買ったのね」
「こうやって並べると壮観だな。それじゃ説明よろしくな」
「えぇ、私が!? なんで?」
「そりゃ営業だからだろ」
「私はデザイナーよ!」
後ろから抱きしめてくる颯斗に文句を言うが、彼はこの訴えを右から左で聞き流すだけだ。「まぁまぁ」と適当な言葉と共に首筋にキスをしてくるのは宥めているつもりだろうか。
それに絆され、雛子はまったくとわざとらしく溜息を吐いてシーツの上に並ぶ商品を眺めた。
明るいデザインの箱。大小様々でその数は七つ。ここには無いが商品ページにはバイブやディルドといった物もあったのだから、このラブホテルで取り扱ってる商品の種類は豊富だ。納品先についてはそこまで詳しくないが、自社の製品が一通り揃っているあたりやはりお得意様なのだろう。
購入者でありながら販売元でもある不思議な感覚で商品を眺め、そして一つの箱を手に取った。
並ぶ箱の中でも一番小さい、手の中に納まる程度だ。
箱全体は薄いピンク色をしており、中央には一輪の花と、上部から降り注ぐように描かれた細かな星。それと下部には英字の商品名。花と星、それに商品名は箔押しを模している。
一見するとお菓子の箱にでも見えるだろうか。それを手に取って眺めていると、背後から覗き込んできた颯斗が「ゴムか?」と尋ねてきた。こくりと頷いて返す。
「こういうのもあるんだな。ゴムのパッケージってギラギラしてるのばっかだと思ってた」
「こういう方が女性も買いやすいでしょ。男性用に水色もあるのよ」
「確かに男としてもこっちの方が持ちやすいな。これ鞄から出して実はゴムでしたってギャップも良いかも」
気に入ったのか、颯斗が手を伸ばしてゴムの箱を手に取る。
「中はどうなってるんだ?」とさっそく開封しようとするので、雛子は慌てて彼の手からパッと箱を奪った。
「これはまだ駄目」
「まだ?」
「そう、まだ駄目なの。今日はこれは使わないで」
言い聞かせるように話してベッド横のサイドテーブルにコンドームの箱を置けば、颯斗が不思議そうにそれを見つめる。
だが無理に取り返そうとしないあたりは雛子の指示に従うつもりなのだろう。項にキスをして「それじゃ次はこっちな」と別の箱を手に取った。
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