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53:営業トーク
しおりを挟む颯斗が手にしたのは色の濃いピンク色の箱。
商品写真が大きく写っており、果たしてこの場において説明が必要なのかと思えてしまう。
だがわざわざ雛子の手に持たせて「説明よろしく」と言ってくるあたり、本当に説明を求めているというよりはやりとりを好んでいるのだろう。
ならばと雛子がコホンと咳払いをすれば、背中越しに颯斗が苦笑するのが伝わってきた。
「こちらは弊社の商品の中でも販売年数の一番長い品物となってり、お客様に長く愛され、固定リピーターの多い商品です」
「へぇ、ローターって人気あるんだな」
「振動や耐久性の向上を図りつつも大きな仕様変更はあえてせず、初期の形・操作方法を保つことにより安心して繰り返しお求め頂いております」
「確かに、ローターのイメージって昔からこれかもな」
「続いてこちらのローションは……、二個買ったの?」
二つの箱を手に取り、雛子が首を傾げる。
片方はモノクロのシンプルなデザインの箱、片方は淡いピンク色に可愛らしい字体の箱。どちらも外装だけでは中身は分かりにくいが、そこはもちろん自社製品なので一目で分かる。どちらも中身はローションだ。
背後から見ていた颯斗も「あ、本当だ」と今更ながらに気付いたと言いたげである。片っ端から全部、と宣言していたあたり深く考えずにカートに突っ込んでいったのだろう。
「なぁ営業、こういうの合わせて使うってどうなんだ?」
「だから私はデザイナーで……。まぁ良いわ。弊社で取り扱うローションは基本的には同じ成分を使用しておりますので、合わせて使うことに支障はありません。ですが他社の製品と合わせて使う事や、弊社製品であっても何種類も同時に使うことはお肌のトラブルを引き起こし兼ねませんのでおやめください。一度洗い落としてからの使用をお願いしております」
「なるほどなぁ。で、こっちのは?」
「それは……」
また一つ別の箱を手に取って尋ねてくる颯斗に、雛子はむぐと言い淀み……そして「知らない」とふいとそっぽを向いた。
「知らないって、自分の会社の商品だろ。というかこれ本当になんだ?」
箱を眺めつつ颯斗が首を傾げる。
今までのコンドームだのローターだのは分かっていたうえで雛子の営業トークを楽しんでいたが、今回ばかりは商品そのものが分からないのだろう。
だがこれに関しては雛子も説明がしづらく、心の中では『なんてもの買ってるのよ!』という気分だった。今からそれを使うとなると恥ずかしくなってしまう。
颯斗が箱を開けて中の機械を取り出すとより落ち着きを無くし、彼がその機械を持っている光景が官能的で直視し難くなる。
といっても、昔ながらのデザインを貫くローターと違い、丸みを帯びたデザインや曲面にあしらわれたボタンは最新感を漂わせ、使用用途の知名度も合わせ一目では性的な行為に使うものとは分かりにくい。色合いも白と深い朱色の組み合わせと洒落ている。
颯斗が手に取っても、そこに卑猥さを見出すのは経験者や知識のある者ぐらいだろう。雛子は経験は無いが、知識はある。
これはもしや耳年増というものでは……、と自分の事を省みてしまう。
「なぁ、これ何する道具なんだ?」
「……それは、吸うの」
「吸う? あぁ、ここの部分で吸うのか。それで、なにを?」
「体の一部を……、その……だからっ!」
雛子は意を決するとぐいと半身体を捩じり、背後から抱きしめてくる颯斗へと顔を寄せた。
彼の耳元にそっと唇を寄せ、囁くように告げる。
どこに当てるのか。
どこを吸うのか……。
それを聞いた颯斗は一瞬目を丸くさせ、次いで手の中にある機械に視線を向け……、そうしてようやく告げられた言葉を理解したのかにやと笑みを浮かべた。
なんとも言えない表情だ。にやけていて、同時に期待しているのが分かる。黙っていると凛々しい顔付きなのに今はその欠片も無い。もっとも、元々の顔付が整っているため破顔しても見目は良く、何も知らない第三者が見れば『嬉しそうに笑っていて素敵』とでも言っただろうか。雛子だけは「にやけづらやめて」と彼の頬を軽くペチリと叩いてやったが。
「そうか、世の中にはそんなエロい道具があるんだな」
「なによ、別にそんなにエッチな道具じゃ……、エッチな道具だわ」
いかんせんアダルトグッズ会社である。その件に関しての否定は出来ない。
ゆえに素直に認めれば、颯斗がそうだろうと言いたげに頷いた。次いで試しにと機械のスイッチを押す。
ヴンと稼働音はするがローターのようないかにもな音ではない。耳を澄ますと聞こえる程度だ。
「確かに吸ってるような気もするけど、これぐらいで良いのか?」
今一つ分からないと言いたげに颯斗が機械の吸引部に指を添える。強弱を切り替えて試すあたり興味深々なのだろう。
更にはどうかと尋ねてくるのだから、雛子は答えようがなく「知らない」と素っ気なく返した。
「顧客アンケートの結果は良いみたいだけど。あ、でも勿論だけどうちの商品でアンケート結果の悪い物なんて一つも無いからね。どれも満足いただけているけど、その中でも満足度が高いってこと」
「つまりそれほど気持ち良いってことか。それなら……」
さっそくとでも考えたのか、颯斗が手にしていた機械を下腹部へと近付けてくる。
気付けばバスローブの下半分は大きく開かれショーツが丸見えになっており、これでは着ていないのと同じだ。いつの間に!と心の中で驚き、慌てて「待って!」と制止の声をあげて彼の手を両手で掴んだ。
ぐっと押しのけようとするもびくともしない。
「ね、ねぇ、これは使いたくないって言ったら聞いてくれる……?」
「聞くわけがない」
あっさりと否定され、思わずぐぬぬと唸ってしまう。心なしか押さえている颯斗の手により力が入った気がする。このままでは押し負けかねない。
だがあっさりと諦め良い様にされるわけにはいかない。そう考え、ぽすんと背を預けると振り返るようにしてじっと見上げ、自ら彼にキスをした。もちろん手は押さえたまま。
「使うのはまだ怖いから違うのから始めて、……って言ったら聞いてくれる?」
「……そういう事なら、まぁ、聞いてやらないこともないな」
あっさりと颯斗が手を引く。それに対して雛子は心の中で「分かりやすい」と呟きながらも、お礼代わりにともう一度キスをした。目を瞑ってそれを受ける颯斗の嬉しそうな事と言ったら無い。
次いで彼は手にしていた機械を手元に上に置き、今度はローターを手に取った。
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