あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

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61:大事な撮影に勇気を

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 商品の撮影にはスタジオを借りる。もちろんプロのカメラマンを呼び、モデルもきちんと事務所に所属しているモデルだ。
 今日は上階と合わせての撮影のため人数も多く、モデルは男女ともに呼ばれている。アダルトグッズの撮影ではあるものの現場は明るく賑やかで、それでいて皆がプロなだけあってスムーズに撮影が進んでいく。
 そんな中、雛子は担当する商品の撮影を真剣な面持ちで見守っていた。


 雛子が今回担当する商品はベビードールだ。他もいくつか手を貸しているが、この商品に関してはメインを任されている。
 ベビードールとは膝丈のランジェリーの事であり、胸下からふわりと裾が広がる柔らかなシルエットが特徴の一つでもある。レースやフリルがあしらわれており、色合いも様々。濃い色合いや透ける素材を使った妖艶なデザインのものもあれば、純白の布にふんだんにレースを使い愛らしさを追求したものもある。

 ホワイトデー企画として作り上げた新作のベビードールは、胸から下をレースにした大胆なデザインである。
 細部には白のレースをあしらい、裾の部分はギャザーを細かに入れてボリュームを出している。ふわりと裾が広がるベビードールの特徴を前面に出してみた、と担当したデザイナーから聞いた。
 色展開は三色で、白とパステルピンクと黒に近い濃紺。デザインは全て同じだが色が違うと印象もだいぶ変わる。
 同色のショーツも着いており、こちらもまた布よりもレースが多く、更にサイドは紐になっている。重ねて着るとベビードールから薄っすらと大胆な下着が透けて見えるデザインだ。
 更に同色のガウンもセットになっている。こちらも透けていて体を隠すことは出来ないが、羽織るとまた印象が変わる。ガウンはベビードールを部屋着として愛用する者のためでもあり、……それと、大胆な姿を見せたいが躊躇ってしまう人のためとも聞いた。

「あなたとの幸せな時間を、特別な装いで……」

 資料を読み込み、更には書かれている文面を口で読み上げる。
 これは商品宣伝時に使うキャッチコピーだ。
 それを見つめていると、ふいに名前を呼ばれた。

「羽柴さん、撮影はどう? なにか問題は?」

 隣に立ち尋ねてきたのは企画のリーダーだ。雛子よりもだいぶ年上の女性で、入社してから数え切れないほど助けられている。全体の管理をしているため多忙であり、先程まではこの撮影スタジオの責任者と話をしていた。
 どうかと問われ、雛子は順調だと返した。メインで担当しているベビードールの撮影も、他の商品の撮影も、そして現場の雰囲気もスケジュールも、至って順調だ。
 それを聞いてリーダーが満足そうに頷いた。

「羽柴さんはこのベビードールがメインだっけ。羽柴さんの仕事はもう殆ど終わってるんでしょ?」
「はい、あとは完成したデータを確認するだけです。撮影も順調で予定してたイメージ通りの写真を……」

 ふと、雛子は言葉を止め、改めて目の前の光景を見た。
 ベビードールを纏った女性モデルがカメラの前でポーズを撮っている。
 スタイルが良く可愛らしいモデルで、堂々とカメラの前で幾多のポーズを取る姿はさすがプロと言える。腕の上げ方一つにも違いを見せ、時にセクシーに、時に愛らしく、商品をより良く見せてくれる。
 だけど……、と雛子は考え、手にしていた書類にもう一度視線を落とした。

『あなたとの幸せな時間を、特別な装いで』

 それがこのベビードールのキャッチコピー。
 ホワイトデーに合わせた新商品だけあり『幸せな時間』という甘めの言葉を使いつつも、『彼』という性別を限定させる言葉は避けて客層を広げたと会議の場で聞いた。
 男女のカップルで女性が着るも、女性同士のカップルで二人とも着るも、なんだったら男女でも男性が着たり男性同士で着てもいい。カップルじゃなくたって着るのは自由だ。
『あなた』という言葉に制限は無く、そして誰がベビードールを着て誰と『幸せな時間』を過ごすのかは自由。

(でも……)

 違和感に似た感覚を覚え、再び撮影現場を見つめる。
 ベビードールを着て写真に撮られているのは女性一人。着用時の見本でもあるのだから当然と言えば当然なのだが……。

(もしも私がこれを着るとしたら、そこにはきっと……)

 颯斗が居て、そして彼は嬉しそうに手招きしてくれるだろう。
 抱きしめてキスをして、きっと褒めてくれるだろう。『可愛い』と。あと多分『エロい』とも言ってくる。
 それはなんとも心地良くて甘い、幸せな時間だ。
 このベビードールがそんな幸せな時間を想定して作られたなら、写真には……。

「……あの、一つ提案があるんですけど」
「提案?」
「はい。あ、でもただ思いついただけで、それに撮影が長引いちゃうかもしれないし……」

 言い出したものの、途端に怖気づいてしまう。
『そんなこと』と言われたらどうしようか。『あなたの意見は聞いてない』とか『それで何になるの?』とか……。
 記憶に蘇るのは何年も前に言われた言葉。
 ここではない、今目の前にしている女性はそんな事は言わない。そう分かっているのに一度蘇った言葉は耳の内側で木霊する。

 そんな不安を、雛子は上着のポケットに手を添えることで押し留めた。
 上着の布越しでも、そこに名刺入れがあると分かる。颯斗がくれたものだ。木霊していた過去の言葉を、颯斗の『大丈夫だから』という声が消してくれる。記憶の中の声でさえ彼の言葉は優しく胸に響き、背中を押してくれる。
 口にしかけていた『やっぱりなんでもありません』という怖気の言葉をぐっと飲み込み、改めて企画リーダーへと向き直った。


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