裏稼業探偵

アルキメ

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case7 自白の鑑定

3 闇渡りの羽根

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 灰羽根旅団のアジトは、市街地に建つ小さな雑居ビル、その地下一階に構えた事務所だという。古い鉄筋コンクリート製のビルで、空き部屋が多いようだった。

「――じゃ、今から降りまーす」

 禊屋はビルの地下フロアへの階段を前にして、コートの右襟へ向かって小声で囁く。右襟の内側にボタンサイズの通信機を仕込んでいるのだ。

 この通信機のマイクを通して、現場の音が支社の乃神の元へ送られる。禊屋は右耳に付けた無線イヤホンで乃神から指示を受けることになっているのだが、横髪で耳を隠せる禊屋と違って冬吾は髪が短いのでイヤホンを付けられない。カツラや帽子で隠す方法もあるにはあるが、却って不審がられることも考えられるため、今回はやめておいた。いざというときは禊屋と上手く息を合わせる必要があるということだ。

 階段を降りる前に、冬吾は自分の装備を改めて確認しておく。目的は戦闘ではないが、もしもの時のために、銃は抜けるようにしておかなければ。

 これまで銃はいつもズボンと腰の間に挟んでいたのだが、それでは機能性だけでなく、暴発など安全性の面でも不安が残る――というのは、前回の事件で得た教訓である。よって、今回は銃を仕舞っておくガンホルスターもナイツに用意してもらっていた。

 ホルスターは腰元に左右一つずつ。使う銃はいつものベレッタ92FSと、グロック17だ。両方とも夕桜支社で管理されているものを借り受けているので、メンテナンスについては心配ない。極端に無理な扱い方でもしない限りは、暴発や遅発を起こすリスクは最小限に抑えられていると考えていいだろう。

 今回は狭い屋内での戦闘が予想されるため、どちらの銃にも跳弾が起こりづらいホローポイント弾を装填してある。一般的なフルメタルジャケットと比較して、弾頭が剥き出しで窪んでおり、変形しやすい――つまり貫通力の抑えられている弾丸だ。そのため人体に撃ち込んだ際には体内に留まりつつ変形することで効率的にダメージを与える、殺傷力の高い弾丸でもある。

 ちなみに、ベレッタは右手、グロックは左手で抜くようにホルスターに差し込んである。使用するグロックは第四世代型と呼ばれる後期モデルで、マガジンリリースボタンを本来の左側から右側に付け替えることで左利き用の調整が出来るようになっているのだ。左利きに対応しているのはベレッタも同様なのだが、グロックよりもこちらのほうがほんの少しの差ではあるが、使い慣れている。二丁拳銃といったような高度な芸当ができるわけでもない。左はあくまで補助の位置づけであり、主軸は利き手である右だ。となれば、右で扱うのはベレッタのほうが安心できるだろうという考えだ。

 今回は武器以外にも道具を支給してもらっている。今着ているこのジャンパー……外見上だけでなく着心地まで普通のジャンパーとしか思えないが、防弾仕様になっているらしい。それで守れるのは上半身だけなのだが、ビジネスの名目でここに来ている以上、全身ガチガチの装備というわけにもいかない。これが相手に余計な刺激を与えないギリギリのラインだ。

 銃の扱いにもそこそこ慣れてきた――慣れてしまった――が、灰羽根旅団は五人組のグループだという。もしも争いになったら、自分一人で全員を相手にするのはとても無理だ。極力、派手な事態は避ける必要がある。

 ビルの階段を降りる前に、禊屋が不意に言う。

「合図、決めておこっか」
「合図……?」

 禊屋は左手で人差し指と中指を立て、ピースサインを作った。

「あたしが左手でこうしたら、それが合図ね」
「いや、だから……何の合図?」

 禊屋は真剣な表情になって答える。

「……何もなければそれでいい。でも、今回もしも、もうどうしようもならないような窮地に陥ったときは――あたしの判断でこの合図を出す。そうしたら……キミはあたしのことなんて気にしないで、その場から逃げて」

 冬吾は軽くため息をついた。禊屋の悪い癖だ。彼女は時折、自分の命を軽視しているような言動をすることがある。前に咎めたこともあったが、この分だとあまり効果は無かったようだ。

「またお前はそういうことを……従えるわけないだろ、そんなの。何のために俺がいるんだよ」
「やだ。約束して」
「やだって、そんなわがままみたいな……」

 禊屋が思い詰めたような顔をするので、冬吾は言葉を続けることが出来なかった。

「お願い……約束して。キミはあたしの護衛役……でも、無理してあたしを助けようなんてしないでいい。前はそれで上手くいったこともあったけど……あんなのレアケース中のレアケース、たまたまだから。本当にどうしようもないようなときには、自分の命を最優先に考えて」

 上手くいったのはたまたまであるというのは否定できないが……。

「でも……」
「あたしの指示だから、キミは逃げても仕事を放棄したことにはならない。だから――もぉ、うるさい! 黙ってて!」

 禊屋はいきなり怒ったように言った。

「え、ええっ!?」
「ああ、ごめん。こっちがうるさくって」

 そう言って、禊屋は自分の右耳をトントンと指し示す。大方、今の話に乃神がイヤホン越しに文句を付けてきたのだろう。あいつがどういうことを言ったのかは、おおよそ見当がつくが。

「なにもあたしが身代わりになるってんじゃないよ。あたしもキミのことなんかほっといて逃げるんだし、お互い様ってやつ。そういう選択が互いにとって良い場合もある。それに、この合図だって万が一の場合ってだけだから。とくに何事もなく依頼をこなして終わりってことのほうが、確率的には高いだろうし。だから……ね?」
「…………わかった」

 納得したわけじゃない……だが、今この場はこう答えておかないと、禊屋は引いてくれないだろう……そう思った。

 禊屋は冬吾の返答で、安心したように笑った。

「――よし。じゃ、いこっか?」

 冬吾は頷いて、禊屋と共にビルの階段を降り始める。

 階段を降りながら、冬吾は禊屋が今さっき見せた態度について考えてみた。

 彼女がああまで頑なになる理由は、はっきりとはわからない。禊屋は自分のせいで俺を巻き込んでしまったと考えているようだから、俺のことを心配してくれているのだろう――初めのうちはそう思っていた。いや、今でもそれは要因の一つとしてあるのだろうが、どうもそれだけではないような気がする。どこか偏執めいているというか、禊屋自身のもっと根元の部分に起因しているような……そんな感じがするのだ。もしかしたら、彼女の過去に何かしらの原因があるのかもしれないが……。

 地下一階まで降りると、狭苦しい廊下に三つほど扉が並んでいるのが見えた。左右に一つずつと、奥に一つ。左右の扉は板が打ち付けられて封鎖されているので、本命の灰羽根旅団のアジトは奥の扉だろう。

 禊屋が扉をノックすると、五秒ほど経ってから「はい」という男の声が返ってきた。扉が開かれ、細身の男が顔を出す。落ち窪んだ目とこけた頬――死神のような男だった。

「ナイツの禊屋さんと、その護衛の方……ですね? お待ちしておりました」

 落ち着いた声に話し方をする男は、ゆっくりと手を室内のほうへと動かす。

「こちらへどうぞ。依頼させていただく件については、事務所の中でゆっくりと……」

 事務所とは言うが、裸電球が吊ってあるだけの薄暗い部屋だった。いやに埃っぽい。

 奥に扉が一つ。中央にテーブルが一卓置いてあり、その左右にパイプ椅子が一脚ずつ。手前の右隅には、箱が置かれている。あれは……クーラーボックスだろうか?

 ――奥の左隅に目をやると、異常なものが見えた。暗くてはっきりとしないが……あれは、死体ではないのか?

 一歩近づいてみると、はっきりとわかった。横たわった男の身体だ。側頭部の銃創らしき部分からは血が流れ出していたようだが、既に血液は固まっている。

「これ……」

 禊屋も気がつき、表情を緊張させる。すると、案内していた男が軽く笑って言った。

「あぁ、どうもすみません。お見苦しいものを」
「あの人は……?」

 禊屋が尋ねる。

「うちの仲間……だったものです」
「殺したの?」
「粛正ですよ。くだらないミスを犯し、組織に迷惑をかけました。――まぁ、そんなことはどうでもいいじゃないですか」

 応対する男の他に、部屋には二人がいた。背の低い男と、体格の良い大男。どちらもチンピラ風の出で立ち。こちらをじろりと見つつニヤニヤとした笑みを浮かべていて、なんとなく不快だ。ズボン腰元の膨らみ具合から見て、二人とも銃を持っているらしい。

 グループは全員で五人……四人目はそこで死んでいる男だとして、もう一人は、奥の部屋か? それとも、今は外出しているのか。

「おかけください禊屋さん」

 案内していた細身の男はテーブル左側の椅子へ座るよう促す。

「護衛の方はすみません。椅子が足りませんでしたね。今、奥から別のを取ってきますので」
「ああ……いえ、お構いなく。立ったままでいいです」

 冬吾はやんわりと断る。立ったままのほうが、いざというとき動きやすいだろう……。

「そうですか。それなら、禊屋さんどうぞ……」

 禊屋が椅子に座ろうとした、そのとき――男がいきなりテーブルを手で強く叩きつけた。

「と、その前に――虫を落としていただきましょうか?」

 それまでとは打って変わって、ドスを利かせた声で男は言う。こちらを威圧するような行動。しかし禊屋は冷静だった。

「……虫ってなんのこと?」
「付けてきているでしょう? 余計なものを」

 男は懐から、テレビのリモコンくらいの大きさの機械を取り出す。小さな緑色のランプが点灯しているのが見えた。

「世の中には便利な道具が沢山ありますね。これは、盗聴盗撮の電波を探知する機械なんです。念のために持っていたものなんですが、役に立って良かった。さぁ、これでわかりましたよね。……しらばっくれても無駄ですよ?」

 まずい――バレている。通信機を持ち込んでいることは、見透かされていたのだ。

「私は、禊屋さんだけにお話ししたいと連絡したはずですよ」

 男は淡々と、しかし不快さを隠そうともせずに話を続ける。

「……私はね、禊屋さん。約束を破られるということが何より気にくわない。護衛の方は仕方がないとしても――約束した以上は、それ以外の方に話を聞かれるわけにはいかないんですよ。それを外していただかない限りは、依頼の件はお話しできませんね。いやはや……天下のナイツがこのような姑息な真似をするとは。信頼を裏切られた気分です」

 禊屋はしばらく考えてから、答えた。

「……わかった。外せばいいんでしょ」

 禊屋は右耳からイヤホンと、コートの襟からボタン型のマイクを取り外す。乃神からそう指示が出たのか、あるいは禊屋自身で考え出した答えか。

「どうもすみませんね。では……」

 イヤホンとマイクを受け取った男は、それをそのまま床に落として踏みつぶす。それからもう一度盗聴発見器を確認し、頷いた。もう反応はないらしい。

 初っ端からつまづいた……これで、支社からのサポートは期待できない。こちらの様子がわからなければ、乃神も動きようがないだろう。……大丈夫なのか?

「用心深いことで」

 禊屋が呆れたように言う。男は軽く笑って、

「子どもの頃からそういう性質(たち)なんですよ。そのおかげで、今までこうして裏稼業やってこれてますがね。では改めて……お座りください」

 禊屋と男はテーブルにつく。冬吾は禊屋の後ろの壁際に立つことにした。

「――申し遅れました。わたくし、灰羽根旅団の灰鷹と申します」
「じゃああなたが、ここのリーダー?」
「そうなっていますね。一応」

 他の連中とは明らかに雰囲気が違うと思っていたが、やはりこの男がリーダーの灰鷹だったようだ。

 今までのやり取りだけでも充分にわかる。この男は曲者だ。禊屋に通信機を外させる過程はもちろん、仲間の死体をそのままにしていたのも、こちらを萎縮させようとしてのことだったのかもしれない。

 抜け目のない相手だ。油断は禁物、警戒しないと――そう思ったとき、灰鷹が横に立つ背の低い男へ視線を送るのがわかった。

 灰鷹から何か合図を受け取った男が、こちらへ近づいてくる。

「……? なに――がっ!?」

 冬吾は男からいきなり、腹を殴られた。不意の衝撃に、視界が白黒に点滅する。続けて髪をわしづかみにされ、力ずくで床に押し倒された。瞬く間にもう一人の男が寄ってきて、身体を上から押さえつけられる。冬吾はもがいて抵抗しようとしたが、一人に両腕を押さえられている間に、もう一人によって左右のガンホルスターから銃を奪い取られてしまう。

「ノラっ!?」

 禊屋が叫ぶ。それに灰鷹の声が重なった。

「上着の下にまだ武器を隠しているかもしれない。よく探せ」
「わかってるって」

 指示を受けた男たちによって、冬吾は無理やりジャンパーを脱がされる。

「これは……ナイフか?」

 背の低い男が、冬吾のズボン尻ポケットから鞘付きのナイフを取った。冬吾の父の形見で、お守り代わりにいつも身につけているものだ。

「あっ……か、返せ!」
「おおっと」

 冬吾は手を伸ばすも払いのけられ、逆にまた頭を床に押さえつけられる。

「ちょっと、どういうつもり――!?」

 禊屋は憤って灰鷹へ問い詰める。灰鷹は肩をすくませ笑って、

「どういうつもりもなにも、あんなものを付けてきたからには、見当はついているんでしょう? 我々に後ろ暗いことがあると疑っていなければ、わざわざあんな真似はしないはずだ。ええ、その通りです。我々はナイツを裏切って、伏王会につく準備をしていたところなんですよ。あちらさんのほうが、色々と条件が良かったもので」

 まったく悪びれた様子はない。禊屋は灰鷹を訝しげに見つめる。

「驚いた……随分、正直なんだ」
「隠したところで無駄でしょう。ナイツを誤魔化しきることが難しいことくらいは理解していますし、相手がナイツでなくとも疑われた時点でこういうのは大抵失敗、上手くはいかないものです。だから思い切って、計画をB案に変更しました」
「B案……?」
「単純明快な話です。あなた方には人質になってもらう。禊屋さんが人質ということであれば、ナイツもそう簡単に手を出せないでしょう。我々の安全が確保できるまでは、同行してもらいますよ」
「……そんなことしたら、あなたたちにとって取り返しがつかなくなると思うけど。こっそりと移籍するだけならともかく、協定が生きている以上は、ナイツと明確に敵対した組織を伏王会は取らないでしょ?」
「そうでしょうね。伏王会移籍がご破算になったのは痛手でしたが、まぁ、ナイツに尻尾を掴まれてしまったのならば致し方ない。しばらくは海外にでも身を隠しますよ」
「……海外に逃げれば捕まらないとでも?」
「ここにいるよりはマシでしょう?」

 灰鷹は予め、伏王会と接触していたことがナイツにバレた場合にどう動くべきかということまで想定していたのだ。禊屋が身につけていた通信機が見つかり、ナイツが既に探りを入れにきているということを確信した灰鷹は、即座に計画を切り替えてきたということになる。

 ――最悪の状況だ。床に押さえつけられたまま、冬吾は歯噛みする。

 まんまと銃を奪われ、取り押さえられ……これでは何をしにここに来たのか、わからない。

 敵は部屋に三人……もしかしたら奥にももう一人いるかもしれない。防弾着のジャンパーも奪われてしまった。丸腰ではとても敵うはずがない。人質ということであれば、少なくともナイツから逃げ切るまでは殺されるようなことはないだろうが……。

「ああ、そうそう」

 灰鷹が思い出したように、禊屋へ向かって言う。

「今はそれより優先すべき用事があるので、後回しにしますが――あなたにも身体検査を受けてもらいますよ。どこかに武器を隠し持っている可能性もありますからね」

 冬吾を押さえつけている男二人が、下卑た笑いを浮かべる。

「へへへ……楽しみにしとけよ? 女の身体には隠し場所が沢山あるからなぁ……後でじっくりと調べてやる」
「心配すんなって。案外、癖になっちまうかもしれねぇぜ?」

 ……なんてことだ。

 楽観視しし過ぎていた。そりゃあ、逃げ切れるまで殺しはしないだろうが、それ以外のことならなんだってやりかねない連中なんだ。禊屋を傷つけることだって、平気で……。

 それは駄目だ! 絶対に駄目だ。なんとかして、この状況を変えないと――! ……だが、どうやって?

 禊屋は後ろからの下品な煽りを無視して、灰鷹へ言った。

「……今すぐやらなくていいの? あたしは今もあなたを撃ち殺そうと、テーブルの下で銃を構えるチャンスを窺っているかもしれないのに」

 ハッタリだ。禊屋は銃を持っていない。所持しているのはせいぜい、護身用としても頼りない小型ナイフくらいだ。

 それを見抜いているかのように、灰鷹は苦笑する。

「この状況でそんなことをすれば、互いに損しかしませんよ。あなた方二人はここで死ぬし、我々は貴重な人質を失う。あなたはそんな選択をするほど愚かじゃない。そもそも本当にそう考えているなら、黙って実行するでしょう」
「……そうかもね」

 禊屋は更に灰鷹へ尋ねた。

「さっき通信機の話が出たとき……あたしが依頼を断って帰ろうとしたら、どうするつもりだったの?」
「その場は一旦収まるでしょうが、我々がナイツからより深い嫌疑をかけられるのは目に見えています。そうなれば行方を眩ますのにも一苦労するでしょうし、禊屋さんに私の『お願い』も聞いていただけなくなる。それは私にとって大変都合が悪い。だからナイツへ先手を打つため、無理やりにでもさらっていくつもりでした。しかしこれはなかなかリスキーな選択……。ちょっとしたはずみであなた方を殺してしまうかもしれないし、通信が生きている間に行動を起こせば私たちとしても時間稼ぎがしづらくなる。だから、禊屋さんが話のわかる方で助かりました」
「……『お願い』って言ったけど、何のこと?」
「依頼の件ですよ。元々、私は禊屋さんにあるトラブルを解決していただくために、ここへお招きしたわけですから」
「ふざけないで」

 禊屋の声に静かな怒気が込められる。

「そんなこと、今さら素直にあたしが協力するとでも思った?」
「協力はできないと?」
「当たり前でしょ。それとも、あたしが協力すればすぐに解放してくれるわけ?」
「それは無理だ。先ほども言ったように、あなたには人質として、我々の安全が確保できるまでは一緒にいてもらわなければならない。……しかし、もう一人の方は、必ずしもそうではないのですよ」

 そう言って、灰鷹は床に這いつくばる冬吾へと視線を向ける。

「禊屋さん。あなたが協力を拒否するというのなら、そこで押さえつけられている男を殺します――と言ったら、どうしますか?」
「……なるほど。そうくるわけね」

 禊屋は片手で顔を覆い、ため息をついてから答えた。

「……わかった。言うとおりにする」

 その返答を得て、灰鷹は満足そうに微笑んだ。

「くくく……安心しました。あなたが仲間を見捨てるような非情な人ではなくて」
「あなたの頼みは聞いてあげる。だから……彼を放してやって。どうせ武器もないんじゃ、ここから逃げ出せるはずないでしょ?」

 灰鷹はゆっくり禊屋と冬吾を交互に見た後、答える。

「……ま、いいでしょう。おい、離してやれ」

 冬吾を取り押さえていた男たちが離れていく。冬吾から奪った銃と防弾ジャンパーを持った男は、反対側の壁際にある棚の上にそれらを置いてから、冬吾から見て右側――部屋の入り口を塞ぐようにして位置を取った。

 灰鷹は懐からリボルバー銃を取りだし、冬吾へ警告するように言う。

「――ただし、そこの壁際から動かないこと。少しでもおかしな動きをすれば殺します。いいですね?」
「…………」
 
 冬吾は頷いて、後ろの壁際まで下がった。

 禊屋に助けられてしまった……。守る立場の者が守られていては世話ない。

 危機的状況にあることはたしかだが、縄で縛られはしていないだけマシか。手も足も動く。ついでに、頭も働かせないと。どうにか……どうにかして、この状況を打破できないだろうか?

「手荒な真似をして失礼。そこのタオルを使っていただいても結構ですよ」

 壁際の小さな棚の上を手で示して、灰鷹が言う。白いタオルが置かれてあった。

 床へ押さえつけられた際に頬に付いた汚れをタオルで拭いながら、冬吾は部屋の状況をもう一度確認する。

 今いる位置は禊屋の左斜め後ろで、彼女との距離は一メートル半というところ。冬吾から見て右側――入り口の扉の前には、それを塞ぐように体格の大きな男が立っている。灰鷹の後ろ――左奥には、先ほど殴りつけてきた背の低い男。

 敵は全員銃を所持している。なんとか銃を奪い取れれば、あるいは……とも思ったが、現実的に考えて無理がある。灰鷹の警告通り、下手に壁際から動けば即座に撃ち殺されるだろう。

 冬吾は、自分の左側で倒れている死体をもう一度見た。……少しのミスで、自分もああなる。

 ……悔しいが、今は様子見に徹するしかないようだ。

「それで……あたしは何をすればいいの?」

 禊屋の問いに、灰鷹はニヤリと笑い、答える。

「三日前に、この街で起きた殺人事件をご存知でしょうか? 貿易会社の社長が自分の邸宅内で殺されたという、アレです」
「……ニュースで見た」
「それなら話は早い。禊屋さんにお願いしたいことというのは、そのことなのです。あの事件の犯人が誰なのか、推理してほしいのですよ」
「あの事件の……犯人を?」

 冬吾もその事件のニュースは見て知っていた。たしか、パーティの最中にその主催者が殺されたという話だったか。犯人はまだ捕まっていなかったはずだ。

「なかなかに変わった事件でしてね。何しろ……『自分が犯人だ』と言い張る者が、“三人”もいるのですから」

 禊屋は怪訝そうな顔をする。

「どういうこと?」
「まぁ、まずは順を追って話しましょうか。我々が普段どのような活動をしているかは、ご存知でしょうか?」
「警察に通報されないような人間を誘拐して、身代金を請求。それが支払われなかったら、誘拐した人間をバラして海外のマーケットへ売りとばす……と、聞いているけど?」
「その通りです。しかし、我々は人さらいばかりをやっているわけではありません。ネタさえあれば、強請りたかりをすることもある。今回もそうでした。ターゲットは貿易会社社長、古志川達夫(こしかわたつお)。この男です」

 そう言って、灰鷹はシャツのポケットから一枚の写真を取り出した。恰幅のいい中年の男が映っている。歳は五十前後というところ。髪は白髪が交じり、大きく見開いたカエルのような目をしている。

 灰鷹は説明を続けた。

「詳しいことは話せないのですが、ある組織が主導する麻薬密輸に関わっているということで、こちらから交渉を持ちかけました」

 そのネタを元に脅迫したということだろう。

「交渉自体は問題なく終わり、口止め料金の支払いも無事に行われました。そこまではよかった。我々としてはそれで古志川との関係は終わり、二度と話すこともない予定でした。ところが、古志川は思いのほか馬鹿な男だったようで……。我々に殺し屋を差し向けてきたのです」
「殺し屋を……?」
「ええ。おそらく、我々が麻薬密輸の件をきちんと黙っているか不安になって、物理的に口を塞ごうとしたのでしょう。まったく、小心者はときに大胆すぎる」

 灰鷹はやれやれ、と言うように首を振った。

「殺し屋の襲撃は運良く事前に察知できたので、逆に罠に嵌めて捕らえてやりましたけどね。相手がCランクの小物だったから助かりました。Bランク以上なら危なかったかもしれません」
「えっと……ちょっと待って」

 禊屋が質問を挟む。

「事前に察知って……そんなの、どうやって?」
「ふふ……秘密の情報網があるんですよ、私にはね」

 灰鷹は質問に対してぼかした答えを返すと、そのまま話を続ける。

「――捕らえた殺し屋を尋問し、依頼人が古志川であることを知りました。私は許せないと思った。交渉が終わればお互いにノータッチという約束だったはずだ。約束を破られるのは許せない。報復のため、そして我々の安全を確保するためにも――古志川は生かしてはおけない。私はそう考えた」

 灰鷹の口調そのものは冷静だが、言葉の裏からは怒りが滲み出ているのがわかった。

「対応としては簡単です。我々も殺し屋を雇い、古志川を殺そうとした……それだけのこと。しかし、そこで手違いが起こってしまった」
「……手違い?」
「『ニヴルヘイム』というウェブサイトをご存知ですか?」

 冬吾は初めて聞く名前だったが、禊屋はそのサイトについて知っていたようだ。

「そういうサイトがあるのは知ってる。……あたしは使ったことがないけど」
「それなら一応、説明しておきましょう。簡潔に言うとニヴルヘイムは、会員制の掲示板サイトです。通常のブラウザには表示されないサイト群……いわゆる、ダークウェブと呼ばれるものの中にそのサイトはあります。ダークウェブ上ではアクセス者は匿名化され、追跡が難しい。特定のブラウザを使えばダークウェブの閲覧自体は誰にでも可能ですが、ニヴルヘイムを利用するには秘密のルートで会員となってIDとパスワードを入手する必要があります。それだけ厳重に隔離されているわけですから、当然ただの掲示板サイトではありません。――端的に言えば、犯罪専門の掲示板……でしょうか。例えば武器やクスリの取引、それに、殺しの依頼など……そんな書き込みで埋め尽くされているのです」

 ネット関係についてはせいぜい一般レベルの知識しかない冬吾にとっては、そんな世界があること自体驚きだった。凄腕のハッカーであるアリスなら、そういうことにも詳しそうだが。

「……つまり、あなたたちはニヴルヘイムを通じて古志川達夫の殺しを依頼したということ?」

 禊屋の問いかけに、灰鷹は頷いた。

「ナイツへ依頼するのは立場上、気が引けましたからね。ニヴルヘイムを使うよう提案したのは私ですが、そのとき私は別件で忙しく、依頼については仲間の一人に任せていました。……さて、問題というのはここからです。その者が掲示板に書き込んだ内容を簡単にまとめるとこう……『古志川達夫を殺した者に報酬を支払う。殺害の達成後、その証拠を用意した上で連絡されたし』。書き込みにはターゲットの写真データと、我々への一時的な連絡先も添えてありました。そしてそれから数日後……三人の男から依頼を達成したとの連絡が」
「三人?」
「おかしいでしょう? 古志川達夫はこの世にただ一人。古志川を殺害できた者が三人もいるはずがない。本当に古志川を殺せたのは当然一人、残り二人は嘘をついているということですよ」
「でも、ターゲットを殺害したという証拠がないと駄目なんじゃないの? そういう嘘の報告を防ぐための条件付けでしょ?」

 灰鷹は苦笑して答える。

「厄介なことに……あるんですよ。三人ともに、それらしいものが」
「そんなことって……」
「あり得ない、でしょう? 私もそう思います。三つのうち二つは偽の証拠なのでしょう。しかし恥ずかしながら、その証拠の真贋の見分けが私にはつかなかった。誰が真実を言っていて、誰が嘘を言っているのか、わからないのです。だからこうして、噂に名高い禊屋さんのお知恵を拝借しようと」
「……なるほど。三人の内、本当にターゲットを殺したのが誰なのかを特定してほしいってことね」
「はい。三人の具体的な供述は後ほどお伝えするとして……ここまでで質問はありますか?」

 禊屋は少し考えてから、灰鷹へ尋ねた。

「その依頼を掲示板へ書き込んだ人は?」

 灰鷹が禊屋の後ろ側、部屋の隅のほうを指して言う。

「そこで死んでいる男です。今回は殺し屋と事前にしっかりと連絡を取り合ってさえいれば防げた事態だ。その失態の責任を取ってもらいました」
「……そこまですること?」
「組織の損失を考えれば当然だ。あなたへオファーするというだけでも馬鹿にならない費用がかかるんですよ。殺し屋三人へ報酬を支払うよりはマシですけどね。……我々は常に生きるか死ぬかの世界に住んでいるんです。足手まといのせいで自分が死ぬのは御免だ。だから仲間といえども情けはかけない、それがうちのルールです」

 禊屋は灰鷹をじっと見つめてから、更に続けた。

「……じゃあ、別の質問。これはあたしがニヴルヘイムを利用したことがないからそう感じるのかもしれないけど……そもそも掲示板への書き込みなんかで殺しを依頼しても、それを引き受ける相手はそうそういないように思うんだよね。報酬は後払いということだったらしいし、下手すりゃ取りっぱぐれでしょ?」
「なるほど、たしかにそう考えるのは当然だ。しかし、ニヴルヘイムのシステムでそれはあり得ないのです。普通はね」
「どういうこと?」
「ニヴルヘイムはまさに犯罪の巣窟。しかし一方では、それなりに秩序立っているのも確かなのです。ニヴルヘイムの管理人は、一つだけ厳格なルールを定めている。掲示板内で結んだ契約、約束は必ず履行されなければならないというルールです。ユーザーから契約違反の通報があった場合、それが重大な違反であれば、管理人は違反ユーザーの情報を徹底的に調べ上げ、それを掲示板へ晒して指名手配する。言うなれば、抹殺指令ですね。ニヴルヘイムの管理人は素性不明ですが、ナイツや伏王会にも匹敵するほどの調査能力・情報網を持つと言われる怪物だ。その手配から逃げ切るのはかなり困難と言えるでしょう。だから普通はルール違反を起こそうとは思わない。その信頼性がニヴルヘイムの売りでもあるのです」

 禊屋はそれを聞いて、考え込むように眉間を指でなぞり出す。

「だとすると……古志川さんを殺したと主張する三人の殺し屋のうち二人は、ルール違反となることを――つまりバレたら殺されると承知した上で、嘘をついている……ってことになるよね? そんなことって、あり得るのかな? さっきの話から言って、報酬が特別高額というわけでもないんでしょ?」

 果たしてルールを破ってまで依頼を達成したと報告する価値があったのか、ということだ。

「ええ、たしかに相場の範囲内の額ですが……ふふ、だから言っているじゃありませんか。おっしゃるとおり、嘘がバレたときのリスクを考えれば、『普通は』あり得ないことだ。しかし時折、度を超えた馬鹿というのは出てくるものです。今回はたまたまそれが二つ重なったというだけでしょう」
「……そう」

 禊屋はまだ納得がいっていないようだったが、ひとまず話を進めることにしたらしい。

「わかった、じゃあ質問はそれだけ。三人の供述を聞かせて」
「わかりました。でもその前に……条件を確認しておきましょう」

 灰鷹は微笑を浮かべつつ言った。

「条件?」
「禊屋さん。私はあなたに大きな期待をかけている。あなたならばきっと、正しい答えを導き出してくれるだろうと信じています。信じていますが……状況が状況ですからね。手を抜いて時間稼ぎをされても困るわけです。だから条件を付けさせてもらう」

 灰鷹はそう言いつつ、禊屋の後ろにいる冬吾のほうを見る。

 冬吾は緊張から、唾を飲み込む。蛇に睨まれた蛙のような気分だ。……嫌な予感がする。

「そうですね……三十分にしましょう。あなたが私を納得させてくれるだけの解答を出してくれるまで、シンキングタイム三十分ごとに、そこの男の指を一本ずつ切り落とします」
「待って! そんなことする必要ない!」

 即座に禊屋が抗議するが、灰鷹は苦笑するだけでまともに取り合わない。

「必要かどうかは私が判断します。なぁに、ちょっとした配慮ですよ。そうしたほうがあなたのやる気が出るでしょう?」

 禊屋は怒りを押し殺したような声で言う。

「……親切すぎて涙が出てきそう。あなた、本当に卑怯だね」
「ええ、まぁ。しかしそれでも、あなたはこの条件を呑むしかない……ですよね?」
「…………」

 灰鷹の言葉に、禊屋はただ睨み返すばかりだった。

 この状況ではナイツの助けも望めないだろう。こちらからしばらく連絡がなかったら向こうも異変に気がつくだろうが、禊屋が人質に取られた今の状況では、充分な対策が練られるまで数時間はかかると見たほうがいい。

 冬吾は視線を下げ、自分の手を見る。三十分で、指一本……。禊屋でも、さすがに三十分では……。

「……まぁ、だいじょーぶだって!」

 禊屋は後ろを向くと、右手の親指を立てて冬吾へ笑いかける。

「あたしはこの程度の修羅場、今まで何度も経験してるんだよ? こんなのちゃちゃっと解決しちゃうからさー、キミは大船に乗ったつもりでいてよ?」
「あ……ああ」

 禊屋は、俺を心配させまいと気遣ってくれたのだろうか? 

 ……見守ることしかできない自分に歯痒さを感じる。だが、今は禊屋が上手くやってくれることを祈るしかないか……。

 禊屋は灰鷹のほうへ向き直って、

「……約束して。あたしが三十分以内にあなたを納得させられる答えを出せたら、彼には手を出さないって」
「くく……随分と、彼のことが大切なようですね? ただの護衛というわけではなさそうだ」
「答えて。約束するの? しないの?」
「約束、ですか。……ええ、もちろんいいですとも」

 灰鷹は不気味な笑みを浮かべながら頷く。禊屋はやたらと約束を尊重する奴の性格を利用して、安全を保証させたのだろう。その約束が果たされるかどうかは、禊屋の推理に懸かっている。

 いよいよ始まる――殺し屋たちの自白の鑑定が。

 古志川達夫を真に暗殺したのは誰か?

 禊屋は、三十分でこの謎を解き明かすことができるのだろうか――。
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