60 / 61
case8 女神の断罪
15 審問会・後編~Blood&Darkness~
しおりを挟む赤の陣営・控え室――今の状況を端的に表現するなら、絶望という言葉が相応しい。
通路側の入り口から薔薇乃が入ってくる。
「薔薇乃さん。禊屋の容態は……?」
冬吾の質問に、薔薇乃は深刻な面持ちで答える。
「高熱のため、まだ意識も戻らない状態です。薬と点滴は手配していただけるようですが……回復は休廷が開けるまでにはとても間に合わないでしょう」
薔薇乃はショックを隠しきれない様子で、片目を覆って嘆く。
「わたくしの責任です……。彼女の体調が悪いことはとっくにわかっていました。それでも彼女に無理をさせる以外に方法はないと、わたくしは……」
それを言うなら、自分も同じだ。いや、むしろもっとひどい。何から何まで禊屋に頼りっきりで、彼女に無理をさせ続けてしまったのだから。
それに、薔薇乃にも謝らなければ。それで許される話ではないとしても。
「……薔薇乃さん、すみません。俺のせいで薔薇乃さんが……」
「……なぜあなたが謝るのです。わたくしは、自分で自分の意地を通しただけのこと。力が及ばなかったことを謝罪するのは、こちらのほうです」
「いや、そんなことは……」
「……いけませんね。こんなことを話し合っていても何の解決にもなりません」
それもそうだ。今はこれからどうするかを考えなくては。
「でも、社長……禊屋が出られなくなった場合って、どうなるんですか?」
織江が言う。彼女は審問会の途中から控え室に来ていたようだ。左手には包帯を巻いていて痛々しい。目元も泣きはらしたように赤くなっているのは気になったが、悪いが今は気にしている余裕はない。
織江の質問に薔薇乃が答えた。
「わたくしはもう支社長では……まぁいいでしょう。審問会のルール上は、審問官が法廷に出られなくなった時点でその陣営の負けという扱いになります」
そんな……! 冬吾は薔薇乃に尋ねる。
「どうにかならないんですか?」
「一つだけ手はあります。補佐がいる場合は、その者が審問官の代理を務めることが出来る……つまり、あなたが禊屋の代わりにルージュを務めれば、一応審問会は続けられます」
「俺が……?」
それが……唯一の方法。冬吾は絶望してソファに座り込む。
「……無理ですよ。俺、調査の内容は聞かされてたのに……あの二人のやり取りについていくので精一杯だったんです。禊屋の助けになるようなことなんて何にも言えなかった。俺に神楽の相手が務めるわけ……」
「おい」
乃神が冬吾に近づいて、その胸ぐらを掴み上げる。
「――ッ!?」
乃神は苛立ったように冬吾に言った。
「お前一人の問題なら幾らでも諦めるがいい……。だが今回はそうじゃない。お前を勝たせるために俺たちがどれだけ苦労したと思っている……!」
「それは……」
普段とは違う乃神の様子に、薔薇乃も織江も驚いたようだった。乃神は更に続ける。
「何より、お前が諦めたら……お前のために……犯人扱いされていたお前を助けようと唯一の味方になろうとした禊屋の思いも、無駄にすることになるんだぞ……! わかっているのか!」
「……!」
……そうだ。犯人扱いされて囚われていたあの時、禊屋が差し伸べてくれた手がどんなに嬉しかったかを思い出す。禊屋があんなに必死になって俺を助けようとしてくれたのに、ここで俺が諦めてしまうなんて……絶対にあってはならないことだ。薔薇乃に、織江に、乃神に、アリスに……この事件に関わった全ての人たちのためにも、俺は立たなければならない。あの場所に。
「…………わかった」
冬吾は乃神の手を払いのけると、テーブルの上に置かれていた証拠品のファイルや資料を取ってからソファに移動する。
「ノラさん……?」
薔薇乃の声に、冬吾は証拠品の数々を今一度確認しながら応える。
「まだ、再開には時間がありますよね。出来る限りのこと、やっておきたいんです」
「……わかりました。わたくしたちも協力しましょう」
薔薇乃はいつもの頼りがいのありそうな顔つきに戻って言った。
「わたくしが禊屋に問いかけ、そしてあの子が頷いたとき、確信しました。禊屋は最後のあの瞬間、答えに辿りついていたはずです。だからきっと、禊屋が最後に言い残したことがヒントになるのではないでしょうか……?」
織江が思い出そうとするように口元に手を当てる。
「たしか……被害者は神楽への電話で嘘をついていた、ということでしたね」
「ええ、その嘘が何なのかを突き止めれば、あの子がどのような論証をしようとしたのかもわかると思います」
「嘘、か……なんだ……? 実は、USBメモリにはSファイル2が入ってないとか? どうせロックがかかっていてアクセス出来ないんだから、確かめようがないし」
「たしかにその場合、渡久地氏が被害者を殺害するのを待たなかった理由にはなると思いますが……今度はなぜそのような嘘を神楽についたのかという問題がありますね。それも合わせて説明出来なければ、論証としては不充分でしょう」
「そっか……それもそうですね……」
織江は考え込んで黙る。しばらくして、薔薇乃が思いついたように言った。
「例えば……ですが。神楽はあの貸金庫にUSBメモリを預ける前に、被害者と会っていたのではないでしょうか? そして脅迫するなりしてUSBメモリのロックを解除させた。被害者の指紋情報は削除して、そして誰か別の人物の指紋を登録していたとしたら……」
「いや、残念ながらそれもありませんね」
乃神が言うと、自分の見ていた資料を薔薇乃に渡す。例のUSBメモリについてアルゴス院の職員が記録した書類だった。
「ここの、指紋認証を求めるウィンドウが出ているところ……見てください。最後にログインがあった日時が表示されています。日付は四年前の十一月十九日。つまり、四年前からこのUSBメモリにアクセスした人間はいないんです。だから登録された指紋は四年前から変更されていないということ。今登録されている指紋は一人分ですし、持ち主である被害者以外の人物が登録されているとは考えづらいでしょう」
「なるほど……」
薔薇乃たちのやり取りを聞きながら、冬吾は、黙々と叢雲のターゲットファイルに目を通していた。あのUSBメモリとは一件関係がなさそうだが、それは他の資料も同じだ。思わぬところから手がかりが見つかるかもしれないと思えば、全て可能な限りチェックしておくべきだ。
左門寺英仁の情報はターゲットファイルには記載されていないようだった。叢雲は左門寺を殺さなかったのだから、それは当然か。他にもざっとページを流し読みしてみたが、これといった手がかりは見つけられなかった。
「ん……?」
ページをめくっていて、ふと気がつく。このファイルには十八年前から四年前までの約十四年間のターゲットが記録されているが、その途中、一年間ほど記録が途絶えている時期があるのだ。十六年前の十二月から十五年前の十二月まで、一人も記録されていない。この時期に何があったのだろう……?
……そういえば、薔薇乃が禊屋の調査について話してくれたときに言っていたような気がする。叢雲は以前にも殺し屋を休業していた時期があったらしいと。それがこの一年間なのだろうか……?
その時、廷吏が入ってきて告げる。
「間もなく審理を再開します。審問官の準備は出来ているでしょうか?」
冬吾が手を上げて言う。
「俺が代理として出ます」
「了解しました。それでは出廷してください」
資料を持って出ようとすると、薔薇乃が声をかけてくる。
「申し訳ありません……結局、それらしい推理も出せませんでしたね」
「いえ……まぁ、なんとかしてみせます……きっと」
すると、薔薇乃は携帯電話を渡してくる。そして冬吾へ耳打ちするように言った。
「これをお持ちになっていてください。わたくしは医務室で美夜子の様子を見ておきたいと思います。もし美夜子が戻っていけそうなら、彼女の携帯からこちらに連絡します。どうかそれまでは、なんとか持ちこたえてください。……頑張って」
「……わかりました」
そして冬吾は一人、法廷に向かった。
「――それでは、審理を再開します」
木槌を打ってニムロッドが言う。
「まずはルージュ側の意思を確認しておきたいのですが……審問官の体調不良につき、補佐であるあなたが代理のルージュを務める……ということでよろしいのですね?」
「は……はい!」
冬吾は緊張しつつ返事をする。先ほどまでは隣りに禊屋がいたからまだよかったものの、こうして一人で立つとなると傍聴人らの視線をかなり意識してしまう。
「私の相手が貴様とはな……戌井冬吾」
向かいの黒壇に佇む神楽が言う。禊屋と対峙していたときと比べて明らかに気落ちしている様子だ。
「まぁ、致し方あるまい。しかし相手が誰であろうと、私は手加減しないぞ? ……精々あがいて見せろ」
「……望むところだ」
咄嗟に売り言葉に買い言葉で答えてしまったが……さぁどうする。先ほどの問いの答えは、結局まだ出せていない……。
「では先ほどの続きだ。早速聞かせてもらおうか? 渡久地殿がUSBメモリの存在を無視して被害者・名護修一を殺したワケとはなんだ……?」
やはり来たか……。
「それは……」
この問題に答えられなければ、この審問会はここで終わる。頭をフル回転させて考えろ……何か、何かないのか!?
「…………ッ!」
…………だめだ! 何も思いつかない!
「ふん……やはり禊屋とは比ぶべくもないか。再開したばかりだというのに、勝負は早々に決着しそうだなぁ?」
神楽が煽るように言う。冬吾はそれに反論すら出来なかった。
くそっ……あいつに言いように言われて、それでお終いなのか……? 結局、俺には何も出来ないのか……?
「……どうやら、ルージュ側からの反論はないようですね」
審問長ニムロッドが言う。
「それでは岸上燐道会長からの申し出のとおり、ルージュ側はこの審問会を投了するということで――」
「待て」
ニムロッドの言葉を神楽が遮った。
「どうかしましたか? ノワール」
「…………いや、すまない。なんでもなかった」
「……そうですか」
……? 何だ、今のは……?
ニムロッドは神楽の態度を不思議に思ったようだったが、気にせず続けることにしたらしい。
「それでは――」
そこでまた神楽が遮った。
「いや、やっぱり待て。……誰か来る」
その時だった。法廷の正面扉が開いて、廷吏が一人入ってくる。
「何事かあったのですか?」
ニムロッドが尋ねると、廷吏は恐る恐る答えた。
「はっ……審問官ルージュに頼まれ、証人を一人お連れしてきたのですが……!」
「ルージュに?」
ニムロッドは冬吾のほうを見るが、廷吏はかぶりを振る。
「ああいえ、その方ではなく……赤い髪の……禊屋さんのほうです」
禊屋が? ……そういえばさっき、廷吏に何かを頼んでいた。あの廷吏がそうだ! 禊屋は新たに証人を呼んでくるようにあの廷吏に言いつけていたのか!
「証人って……誰なんですか?」
冬吾が尋ねると、その廷吏は答える。
「『地下室の夜景』という店の、主人です。フグ、と名乗っているそうですが」
「フグ……」
薔薇乃から聞いた話ではたしか、四年前に父の千裕が殺害された事件について話してもらった人物だったか。
「あの、禊屋は……他に何か言ってませんでしたか?」
「いえ、とくには……ただ、『今朝自分たちに話してくれた四年前の出来事について、もう一度証言してほしい』と頼んでくれとのことでしたので、そのように伝えて来てもらいましたが。あと、証人にはそれ以外のことは伝えるなと言われていましたので、その通りにしました」
どういうことだ……禊屋は何のために新しい証人なんて呼んだんだ?
「どういうことだ、戌井冬吾。新しい証人とのことだが……それは、今問題にしていることと関係があるのか?」
神楽が問う。それはむしろこっちが訊きたいところだ。
「関係があるのならばさっさと証言を済ませろ。無関係であるのならば、潔く負けを認めるんだな」
「…………関係は、あります」
考えるより先に答えが出ていた。迷う余地はない。本当のところはどうかわからないが……関係があるということにしておかないとここで審問会は終わってしまう!
禊屋が何を考えていたかはわからないが……あいつはこういう状況で無意味なことをするやつじゃない。きっとあの時点で、俺の想像もつかないようなことを予想して証人を呼んでおいたのだろう。だったら……もしかしたらということもある!
ニムロッドは廷吏に向かって言う。
「それでは、証人を連れてきてください」
廷吏に連れられ、証言台に、顔のパンパンに膨れた中年の男がついた。
「証人は名前と職業をお願いします」
ニムロッドの言葉に従って男が言う。
「あーえっと、名前はフグ。本名じゃなくてもいいよな?」
「まぁ、構いません」
「よっしゃ。職業は、『地下室の夜景』っていうガンショップの経営だ」
フグはそこまで言って、急に不安そうに尋ねた。
「俺、なんでここに呼ばれたのか全然説明されてないんだけど……なんでだ?」
「さぁ、私に訊かれても……」
次にフグは神楽のほうを見ると、「ああっ」と声を上げた。
「あんた! 二ヶ月ちょい前にうちに来てくれた人だろ?」
神楽は興味なさげにフグを一瞥する。
「…………さぁな。覚えがないが」
「嘘だぁ、俺記憶力だけには自信があんだよ。たしかにあんただった。ほら、話を聞きに――」
神楽が黒壇を手で打って大きな音を立てる。
「無関係なお喋りは他所でやってもらおうか……?」
「……す、すまん。もう黙ります」
冬吾が慌てて言う。
「いやいや、黙ってもらっちゃ困ります! フグさん。あなたは今朝、禊屋に四年前の出来事について話したんですよね?」
「あ……ああそうだよ。それと同じ話をしてくれって言われたんだけど……」
「…………」
どうする? 話をさせるべきか? 禊屋にはきっと何かが見えていたんだ。だからこの証人を呼んだ。……だが、俺にはまだ何も見えていない。この証人に話をさせて、そこで何も見つけられなければ……今度こそ終わりだ。
「……どうした、戌井冬吾。証人の話を聞かないのか? この期に及んで時間稼ぎなど、無駄なことだぞ」
神楽が睨みを利かせてこちらに言う。……迷っている時間はないか。
「わかりました……フグさん。今朝、禊屋に話して聞かせた四年前の出来事について……もう一度、俺たちにも聞かせてください」
「はいよ」
――そうして、フグは妙にディテールの細かい回想を法廷で語った。それは叢雲という男が『地下室の夜景』という店に入っていくのをフグが目撃したという、単純なものだったのだが……。
「…………どういうことだ」
その証言が終わると、冬吾は自分にしか聞こえないほど小さな声で呟いていた。違和感……いや、違う。フグの証言にははっきりとした矛盾がある。しかし、その矛盾が何を意味するのか冬吾には理解できない。
口元に手を当てながら、考え込む。禊屋はこの矛盾に気づいていたのか……? だとしたら、これで何を説明しようとしていたんだ……?
わからない。だが…………どうしてだ。なぜだかとてつもなく……嫌な予感がする。これより先に思考を進めることが恐ろしいような気がするのだ。
「どうかしたのですか? ルージュよ」
ニムロッドが訝しげに言う。
「ああ、いえ……なんでも……」
冬吾は慌てて首を振った。まずい……このままじゃ結局、何の解決にもならないぞ……。
「何を迷っている」
神楽が腕を組みながら言う。
「答えが出たのならば、後はもう踏み出すだけだろう。貴様にはもう退路などないはずだ。それとも……ここで果てるのが貴様の望みか? ……禊屋ならば、答えられたはずだ。では貴様は、どうなんだ」
…………そうか。神楽の言うとおりだ。もう逃げ場なんてない。
きっと、俺はもう答えを出している。その可能性から必死に目を背けていただけだ。この審問会で勝つには……それに正面から立ち向かわなくてはならない。
「……あの、審問長。二つほど質問があるんですけど」
冬吾はニムロッドに問う。
「被害者は……叢雲時代から現在まで渡久地友禅との繋がりがあったことをアルゴス院に伝えていたんでしょうか?」
「……いいえ。アルゴス院としてもそれは今回の審問会で初めて知ったことです」
「……ではもう一つの質問です。被害者は四年前、アルゴス院に加入したんでしたよね。ではそれよりも以前……アルゴス院は叢雲の正体が誰なのかを把握していましたか?」
「……いいえ。我々の方でも調査は行っていたのですが、叢雲の正体を掴むことは出来ずにいました。それがどうかしたのですか?」
「…………」
そうか……やっぱりそういうことなんだな、禊屋。お前はずっと前からこのことに気づいていて……だから、あんな風に言っていたのか。
『……何があっても、あたしを信じてね』
……疑いなんかするもんか。
これほど間違っていてほしい推理もない……でも……どんなに信じたくないことでも……お前が出した答えなら、これが正解なんだろ?
冬吾はゆっくりと証人へ問う。
「フグさん……あなたの今さっきの証言、確かな記憶なんでしょうね?」
フグが答える。
「ああ、さっきも言ったけど、俺記憶力には自信あるからさ。円周率三千桁、暗唱して――」
冬吾は赤壇に拳を振り下ろすように打った。法廷中にその音が響く。
「……叢雲の言葉も、その時と一言一句同じであると断言できるんでしょうね!?」
「ええっ急にこわっ……! あ……ああ、そうだよ。よく覚えとこう、って意識しておいたことはずっと覚えてられるからな……それ以外のことは結構忘れちゃうけど。その時のことは色々と衝撃的だったから、今でもよく覚えてんだよ」
「……そうですか」
冬吾は深く息を吐き出す。そして、また大きく息を吸った。
――よし、決心はついた。もう大丈夫……。
「フグさん。叢雲があなたのお店の前で電話を受けたときに言っていたという言葉……もう一度、言ってみてくれますか?」
「ああ……べつにいいけど。じゃあ、言うぜ。こう、携帯を取りだしてだな……『――ああ、叢雲だ。もう店の前まで来ている、少し遅れたかと思ったが時間ぴったりだったな。……わかった、地下のほうだな。じゃあ……』って。こんな感じだ」
「……『時間ぴったりだったな』。たしかにそう言ったんですね?」
「ああ……言ったはずだぜ」
冬吾は頷いて、今度は神楽に向かって言う。
「神楽。お前が聞かせたボイスレコーダーの電話、その最初のほうを聞かせてくれないか?」
「……別に構わないが。どのあたりだ?」
「被害者が戌井千裕を殺害したときのことを語っている部分。その実行直前のあたりだ」
「少し待て……」
神楽はボイスレコーダーを操作し、該当の部分を探り当てる。
「よし、では聞くがいい……」
神楽が、録音を再生させた。
『――彼のお陰で場所の用意は出来た。私のほうは、千裕を仕事に絡めて何とか言いくるめて、その店で深夜に待ち合わせた。そして深夜の二時ちょうど、あいつが……千裕がやってきたんだ』
「止めてくれ」
冬吾の声で、神楽が再生をストップさせた。
そして、冬吾はゆっくりと語り出す。
「今、被害者は……『深夜の二時ちょうど』に、戌井千裕がやってきたと言いました。でもそれは、フグさんの証言と照らし合わせると明らかにおかしくなってしまうんです。フグさんの証言で叢雲が言っていた、『時間ぴったりだったな』という言葉。これは流れからしておそらく、戌井千裕と名護修一が約束を交わしていた午前二時にぴったりだったという意味です」
冬吾は千裕の手帳を手に取り、該当のページを開いた。
「これは父の……戌井千裕が生前に残していたメモです。『11/20 午前2時 地下室の夜景 待ち合わせ 名護』とある。このことからも、事件当日、戌井千裕が約束をしていたのは午前二時であったというのがわかります」
冬吾は手帳を閉じて、考え込むように顎を触りながら話し続ける。
「被害者・名護修一……つまり叢雲は、フグさんの証言では午前二時ぴったりに店に入っていったということになります。しかし一方、電話中の被害者は、午前二時ちょうどにやってきた戌井千裕を迎える立場だったような言い方をしている。これではあべこべになってしまう。矛盾しているんです」
「その矛盾が何を意味しているか、説明出来るのだろうな?」
神楽が腕組みをしつつ尋ねた。冬吾はゆっくり頷く。
「禊屋は倒れる直前、被害者はあんたへの電話中に嘘をついたと言っていた。その嘘っていうのはきっと……『名護修一が叢雲である』ということなんだ」
法廷がざわざわと騒ぎ出すが、それを審問長の木槌が抑えた。
「ルージュよ。どういうことなのですか? 名護修一が叢雲ではないということは……」
冬吾はまた頷き、そして……最も認めたくない真実を告げた。
「そうなったら、答えは一つしかありません。フグさんがその夜に目撃した、本物の叢雲……その正体は、戌井千裕なんです」
「なんと……!」
感情表現に乏しい審問長が、明確に驚愕の表情を浮かべる。
そうだ……そう考えると今までの全てに辻褄が合う。
「しかし、ルージュ側が先ほど取りだして説明していた叢雲のファイル。あれは名護修一の筆跡によるものではなかったのですか?」
ニムロッドの問いかけに、冬吾は慎重に考えつつ答える。
「これは俺の推測ですけど……名護修一は、本来は叢雲のマネージャーだったんだと思います。叢雲にマネージャーがいたという話はアルゴス院でも把握しているんじゃないですか?」
「ええ……確かに」
「そのマネージャーの正体について、被害者はアルゴス院に話したことがありましたか?」
「……いいえ」
「では、その可能性は充分あると思います。名護修一は叢雲のマネージャーだった。とすると、この暗殺のターゲットについて記録したファイルが、彼の筆跡で書かれていることにも説明がつく」
冬吾は叢雲のターゲットファイルを手に取りページをめくっていく。
「これは叢雲本人ではなく、そのマネージャーが記録していたものだったんです。この中で名護修一自身が手にかけたターゲットは、おそらく最後に書かれてある戌井千裕だけだったんじゃないでしょうか……。そして戌井千裕が叢雲だと考えると、彼が殺された理由にも見当がつきます」
「それはいったい……?」
「実は禊屋たちは事件の調査中、渡久地友禅が言うところのSファイルに関係するある人物に話を聞いていました。左門寺英仁の、その後輩に当たる人物です。その人は叢雲が左門寺さんを殺しにやってきたとき偶然居合わせていて、奥の部屋に隠れて二人のやり取りを部分的にではありますが、耳で聞いていたそうです。たしかにその人の話の中でも、左門寺さんはSファイル2を叢雲に託していました。だからその部分に関しては被害者は嘘をついていません。おそらく戌井千裕から聞かされた話をそのまま自分に置き換えて話していたんでしょう。そして左門寺さんを殺さずに逃がしたのも、戌井千裕だということになる。そして渡久地友禅の秘密も知ることになった。――渡久地友禅はそれに気づいて……戌井千裕を殺すように名護修一へ命令したんです。叢雲も自分のマネージャー相手になら油断すると踏んで、裏切らせた……結果だけ見れば、その目論見は成功したことになります。被害者はそのときの自分の行いを相当悔やんでいたようでした。渡久地からの命令は、殆ど脅迫に近いものだったに違いない。名護修一は渡久地に弱みを握られて、いいように操られてしまったんです」
冬吾はそう言って、傍聴席の渡久地を見る。相手はただ無表情で冬吾を睨み返した。
待ってろよ……今度こそ絶対に追い詰めてやる……!
冬吾は更に説明を続ける。
「そういえば……あの電話で神楽から『左門寺を逃がしたことで罰を受けなかったのか?』と訊かれたとき、被害者は少しだけ戸惑ったような反応をしていました。そのことで処刑されたのは戌井千裕のほうであり、自分には何もなかったから、その違いをどう修正するか迷った挙げ句のあの反応だったんじゃないでしょうか? 他にも言葉に詰まったような箇所がありましたが、それも話しながら嘘を考えていたせいだと思われます。神楽は被害者に対する入念な身辺調査をしていて、被害者からすればどこまで知られているかわからない状態でした。だからボロを出してしまわないように、まったくの虚構ではなくなるべく真実に沿った形で、自分が叢雲であるかのように話した……。そんなところだったんだと思います」
そこでニムロッドが冬吾へ尋ねた。
「しかしそもそも、被害者はなぜ自分が叢雲であるなどと偽っていたのでしょうか?」
「それはきっと……渡久地友禅の指示でアルゴス院をスパイするためです。マネージャーだった被害者ならば、叢雲とほぼ同じ情報を手にすることが出来ました。そして都合のいいことに二人とも正体は不明のまま。被害者ならば叢雲になりすまして、アルゴス院に潜入することが出来た」
だからこそ、名護は神楽に対しても嘘をつかなければならなかった。相手が誰だったとしても、名護が本当のことを話していたらどこかでその情報がアルゴス院に伝わるリスクがある。それをきっかけに自分が本当に叢雲であるかを疑われてしまう状況を危惧して、名護は必要とあらば叢雲のフリをし続けてきたのだろう。
冬吾は更に続ける。
「貴重な情報と見返りに組織へ入って早々幹部に昇進した被害者は、スパイとしてアルゴス院の内部情報を渡久地友禅に渡していたんです。殺し屋時代どころか、現在でも渡久地友禅と繋がったまま、そしてアルゴス院にもそのことを告げていなかったとなるとその可能性が高い。……よく調べれば、何らかの証拠が見つかるかもしれません」
ニムロッドはそれを聞いて、何事かしばらく深刻な顔で考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「…………実は、被害者が仕事場としていた部屋を調べたところ、仕事用のPCからとある機密情報にアクセスされた形跡が見つかりました。閲覧には幹部以上の権限が必要なのですが、彼の仕事には関係がなかったはずの情報です。なので、不審には思っていたのですが……」
よし……! 今のは正直合っているかどうか自信がなかったが、上手く繋がったようだ。
……それではそろそろ、この問題に答えを出すとしよう。
「では、最初の問題に立ち返ってみましょう。被害者がSファイル2の入ったUSBメモリのロックを解除する前に、渡久地友禅が被害者を殺害するはずがない……。それがノワール側の主張でした。しかし叢雲の正体が戌井千裕だったと考えると、ある可能性が生まれるんです」
「ある可能性とは……?」
ニムロッドの問いに、冬吾ははっきり答えた。
「最初に左門寺さんからSファイル2を受け取ったのは、戌井千裕でした……つまりそのUSBメモリに指紋登録されているユーザーも、名護修一ではなく戌井千裕だったという可能性です。USBメモリについての記録を見てもらえればわかりますが、こいつの最終ログイン日時は四年前の十一月十九日になっています。これは、父の……戌井千裕が殺害された日の前日でした。彼がログインしていたことはあり得る。そしてもう一つ。名護は戌井千裕の殺害と並行して、Sファイル2を探すようにも命じられていたんでしょう。左門寺を逃がしたことがバレていたとすると、左門寺からSファイル2を託された人物というのはおそらく戌井千裕だということも渡久地は見当を付けていたはずですから。名護修一が地下室の夜景にそのUSBメモリを持ってくるように指示したのか、それとも戌井千裕が名護に相談しようと自主的に持ってきたのかはわかりませんが、おそらく名護はSファイル2が指紋認証付きのUSBメモリに入っているとは知らなかったんでしょう。そして名護がこのUSBメモリを手にしたとき、既に戌井千裕が死んだ後だったとすれば……もうロックは解除出来ない状態だったわけです。慌てて死体の指で解除を試みた可能性もありますが、高度なハッキングや偽造指紋でも通用しないとなると、死体の指にも反応しなかったでしょう。その時点で渡久地はUSBメモリに手出しが出来なくなりましたが、捨てるわけにもいきませんでした。渡久地にとってはそれが唯一のSファイル1の手がかりなんですから。いつかそのロックを解除出来る方法が考案されないとも限らないため、名護がそのまま保管しておくことになったんでしょう。そこを、イエローアローズに盗まれてしまった……」
「なるほど……では最初からそのUSBメモリのロックを解除できる人間はもうこの世には存在しなかったと」
「はい。その場合、被害者がUSBメモリを取引の材料として渡久地友禅に安全を保証してもらったという話も、まったくのデタラメということになります。……きっとノワールは、電話で被害者が嘘をついていたのに便乗してこんな主張を組み上げたんでしょう」
まったく――いったいどんな頭の構造をしていればこんなことを考えつくんだか。だが、答えには辿り着いてやったぞ……!
「USBメモリのロックを解除出来る人物はもうこの世に存在しなかった。つまり渡久地友禅には名護修一の殺害を躊躇う理由なんて、まったく無かったということになるんですよ……!」
……法廷を静寂が包み込んだ。神楽でさえ、腕組みをしたまま目を閉じ、黙ったままだった。
冬吾は大きくため息をつく。話し終えた途端、どっと疲れが押し寄せてきた。まさか……まさかこんなところで親父の事件の真相に辿り着くなんて……。
戌井千裕が叢雲だという、明確な証拠はない。だが、確信があった。きっとこれが真実なのだ。
禊屋……。これでよかったんだよな……。
やがて、ニムロッドが静かに言う。
「ルージュ側の論証を裏付けているのは状況証拠のみであり、完璧なものとは言い難い……。しかし、それはノワール側の主張も同様です。そしてどちらがより正しく聞こえるかと問われれば……私はルージュの主張を選ぶでしょう」
やった……! 冬吾は僅かに表情を和らげる。先ほどのスパイに関する話が効いたのだろうか、きっとニムロッドの中にも渡久地友禅への疑惑が芽生え始めたに違いない。
そしてニムロッドは、傍聴席の渡久地に向かって告げた。
「渡久地会長……あなたにはまた証言をしてもらわなければならないようです」
渡久地は右手を軽く上げて、余裕の表情で言った。
「ふっ……審問長のご要望とあらば、応えぬわけにはいかんな」
その時、冬吾はふと気がつく。渡久地の右の手袋……その手の甲の部分に小さく赤い色が付いているのだ。左の手袋は真っ白なのに、右手にだけ赤い模様……いや、染みのようなものが見える。なんだ、あれは……? 今まで気がつかなかったが、最初から付いていたのだろうか……?
フグと交代で車椅子に乗った渡久地が証言台に移動するのを待ってから、ニムロッドが問う。
「――では渡久地会長。先ほどルージュ側によって、あなたが被害者・名護修一に対しアルゴス院へのスパイ活動を命じていたという主張がされました。これに対しあなたのご意見を聞かせていただきたいのですが?」
渡久地は右半分のマスクを手で触りつつ、悠々と答えた。
「ご意見……と言われてもな。先ほどその男が言ったのは証拠も何もないただの言いがかりだ。私が名護修一に対してスパイ活動を命じていたという明確な証拠でもあるのかね? 全てが憶測でしかないではないか。修一がアルゴス院に私との繋がりを黙っていたのは、ただ私に迷惑をかけないようにと思ってのことだろう。私自身もアルゴス院についての情報を要求した覚えなどはない」
よくもまぁ、ぬけぬけと言う……。おそらく自分が名護にスパイを命じていたという確証は見つからないであろうことを確信しているのだ。事実、その方向で攻めるにはあまりにも手がかりが少なすぎる……。
そこへ、神楽が提言する。
「審問長。ここで名護修一がスパイだったかどうかを言い争っても仕方があるまい。今取り扱うべき問題はただ一つ、名護修一を殺害した犯人は誰なのかということだ」
「たしかに、そうですが……」
「よく思い出してもらおう。ルージュ側は結局、私の休廷前の疑問には答えていない。殺し屋や部下を幾らでも動かせる立場にある渡久地殿がなぜ、自ら死体の中に隠れるなどという馬鹿げたトリックを実行し被害者を殺さなければならなかったのか? それを説明してもらわない限りは、渡久地殿が犯人という推理はあまりにもリアリティに欠けるな」
……確かに、その通りだ。名護を殺すだけならば、渡久地自身がトリックを使って殺人などする必要は無い。それこそ凶鳥のような殺し屋を雇って狙撃させるなりして殺せば、それで済んだはずだ。そうしておいたほうが渡久地自身にとって安全だったのは言うまでもない。
わからない……! なぜなんだ……? 渡久地友禅はどうして自分で名護修一を殺さなければならなかった……?
「……戌井冬吾」
神楽が静かに笑う。そして更に冬吾を煽るように言った。
「どうやらここまでのようだな。せっかく頑張って、尊敬していた父が大量殺人者だったという主張までしたのに……残念だったなぁ?」
「ッ……!」
「この問題が解決出来ない限り、渡久地殿を犯人扱いすることは私が許さん。……まぁ、渡久地殿が殺したという決定的な証拠でも挙げられるのであれば別だが……? ふっ……禊屋にさえ不可能だったのだ、貴様に出来るはずもないか」
決定的な……証拠……?
審問長が言う。
「ノワールの意見ももっともです。渡久地会長にはたしかに不審な点が幾つか見受けられますが……名護修一を殺害した犯人としては考えづらい」
まずい……! 審問長がこの様子だと、このまま判決に移っても勝ち目はなさそうだ……。
「はっはっはっは……!」
渡久地が勝利を確信したかのように笑う。
「まさかこの私が、このような目に遭わされるとはな。だがこれはこれで、実に愉快な一日だった。所詮は相手との力量差もわからぬ哀れな野良犬が噛みついてきたというだけのこと……獅子である私にとっては痛くもかゆくもない。――さぁ愚かな負け犬よ、茶番はもう終わりだ。貴様はここで負け、殺処分でもされるのがお似合いの末路よ」
「くっ…………」
渡久地友禅……! ここまできて、あいつを……親父の仇を逃がすしかないのか!?
渡久地がなぜ自分で名護を殺さなければならなかったのか……それを理解するには、きっとまだ手がかりが足りないんだ。冬吾はアルゴス院の調査ファイルをめくってもう一度確認する。何か見落としていた事実があるかもしれない。
すると、そこで初めて気がついたことがあった。ファイル中にある証拠品について述べられたページ……そこに記載されているナイフの項目に、ペンで囲みがしてある。きっと禊屋がつけていた印だ。他のページにもちょくちょく同じような印があったので、禊屋が気になった部分にメモとして印を付けてあるのだろう。しかし他の印が付いた部分はともかくとして、禊屋はこの審問会中、ナイフについて言及する場面があっただろうか……? いや、犯人が使った凶器の一つとして触れていたくらいで、特別な言及はなかった気がする。
禊屋はこのナイフ……名護の腹を裂くのに使われた凶器の何が気になったというのだろう? なにかおかしな点でもあったのだろうか? なにか……おかしな…………。
「…………――――ッ!?」
その瞬間、冬吾の脳内に稲光のような閃きが訪れる。これって、まさか…………!
「どうなのだ? 戌井冬吾」
神楽が問う。
「貴様に説明出来るのか? 渡久地殿が自分で被害者を殺害しなければならなかった理由を」
「…………それは、わからない」
「ふん……やはり、ここまでが限界だったようだな」
「だけどもう一つ……渡久地友禅が名護修一を殺害した決定的な証拠なら、提示できるかもしれない……」
「……ほう?」
神楽は興味を惹かれたように口角を上げる。
すると渡久地のほうは、肩をすくめ呆れたように言った。
「馬鹿な……あり得んな。私が殺した決定的な証拠だと? そんなものは存在しない!」
冬吾は渡久地に向かって力強く言い返す。
「いや…………いや、ある! 教えてやるよ、渡久地友禅……ただの野良犬が、獅子の喉笛を食い千切ることだってあるってな……!」
「な、なんだと……貴様……!」
――そうだ。きっとさっきの閃きは間違いなんかじゃない。推理の方向性はこれで合っている。この閃きこそが、渡久地友禅の息の根を止める一撃になるはずだ!
よく思い出せ……薔薇乃から聞かされた調査の話、ファイルに記載されている情報、この審問会であった出来事、奴の言動、様子……その全てを!
冬吾は目を閉じて考えを集中させる。――耳鳴りがする。深い水の底まで潜ったときのように、周囲の音が聞こえなくなる。今までの出来事が脳内で次々とフラッシュバックしていく。……そして、辿り着いた。
……きっと、このためだったんだ。
冬吾はゆっくりと目を開け、渡久地を見据える。
今ならわかる。俺はきっと……今日この日のためにナイツに入ったんだ。この場所に立って……渡久地友禅、お前に引導を渡すために……!
神楽が冬吾に向け左手を広げて言う。
「それでは答えてもらおうか……? 戌井冬吾、貴様が提示する、渡久地殿の犯行を証明する決定的な証拠とは……何だ!?」
「……その証拠は、今はない」
「ふっ……今はない、だと? 自信満々だったわりには随分頼りない言葉だな?」
「そうじゃない。今俺の手元にはないってだけだ。ある場所を調べてくれたら、すぐにはっきりするさ」
「ある場所だと……? どこのことだ?」
「礼拝堂の講壇の中だ」
その一瞬、渡久地の表情が緊張で強張るのを冬吾は見逃さなかった。やはり間違いない……!
「講壇の中、だと……?」
神楽が言う。
「あの中には血で汚れたナイフと、被害者の大量の血痕が残っていただけだろう」
「ああ、ぱっと見はそうだ……。だが今思えば、講壇の中があんなに血で汚れていること自体がおかしかったんだよ」
「おかしなことなど何もあるまい? 被害者の腹を裂くのに使われたナイフが置いてあったのだから、血で汚れるのは当然だろう」
「それがおかしいって言うんだ。犯人は俺に濡れ衣を着せるために、俺が眠っている間に犯行に使ったナイフと拳銃に指紋を残させている。そのうち拳銃のほうは俺が倒れていた場所のすぐ傍に置いてあった。でも、ナイフのほうはなぜか講壇の中に置かれてあったんだ」
「それがどうした? 遺体の解体に使った後、犯人が近くにあった講壇に置いていったというだけのことだろう」
「俺が犯人だった場合はそうだ。でも、そうじゃない場合はおかしいって話なんだよ」
冬吾は開きっぱなしだったアルゴス院の調査ファイルを指して言う。
「このファイルの記述を見ると、ナイフには『被害者の血液が付着した上から』俺の指紋が付いているとある。つまり犯人は、被害者を解剖した後、入り口近くの掃除用具入れの後ろに倒れていた俺にナイフを握らせて、それから更に戻って講壇の中に入れておいたということになる。この行動は不自然だ。俺に濡れ衣を着せたいのであれば、ナイフは拳銃と一緒に俺の近くに置いておいたほうが自然なのに。その犯人が渡久地友禅だとすると、尚更変だ。渡久地は両足がなくて、這って床を移動するしかなかった。礼拝堂の中は狭いとはいえ、入り口と遺体のある祭壇近くまでの行き来はなかなか大変だったろう。そこに、あんな大振りのナイフを持って移動するとなったら邪魔で仕方がなかったはずだ。俺の指紋を残させた後、その場に置いていけるものなら置いていきたかったはず、なのにそうせず、遺体の場所まで持ち帰って講壇の中に置いている……これはおかしい」
「ふん……それは貴様の推理が間違っているからだろう」
「いいや違う。犯人は苦労してでもそうせざるを得なかったんだ。自分が講壇の中に残してしまった、ある痕跡を隠すために……」
「痕跡、だと……? 何のことだ?」
「……犯人自身の、血痕」
「……ッ!」
神楽が一瞬大きく目を見開く。
「犯人は、被害者を殺害するために前もって講壇の中に隠れていた。その時に身体のある場所に怪我を負ったんだ。覗き穴を塞ぐために取り付けられた板があったよな。おそらく、あれから飛び出していた釘で引っ掻いたってところだろう。犯人はその時に出血したんだ。そしてその時に残ってしまった血痕を隠すために、講壇の中で被害者の血を拭ったりナイフの血振りをして意図的に血塗れにした……木を隠すなら森の中ってわけだ。だが、それだけではなぜ講壇の中が血で汚れているのか不審に思われるかもしれない。だから遺体の解剖に使った血塗れのナイフを講壇の中に置いておく必要があった。そうすれば、講壇の中まで血塗れである違和感をかなり軽減させることが出来る」
「ふっ……面白い。だが貴様のその推理には問題点があるな」
神楽は薄笑いを浮かべつつ指摘した。
「犯人が講壇の中の釘で身体のどこかを引っ掻いた……まぁそれはよしとしよう。しかし、その際に出血したというのならそれをすぐに拭き取ってしまえばよかったはずだ。そうすればわざわざ講壇内を血塗れにする必要もあるまい。怪しい痕跡が見つからなければアルゴス院も詳しい検査などしないだろう」
「拭き取ることが出来ない状態だったとすれば、どうだ?」
「……何が言いたい?」
「犯人が自分の血痕に気がついたとき、既にその血痕は固まっていて拭き取っても綺麗には消せなかったんだ。犯人は、自分が怪我をしたことに気がつかなかったんだよ。講壇の中に隠れていたってことは、当然被害者を殺すその瞬間まで講壇の戸は閉じたままだったはず。講壇の中は覗き穴から差し込むごく僅かな光以外は、真っ暗だったんだ。だから自分が出血していることに気がつかなかった。気がついたのは戸を開けてから……つまり被害者を殺害した後だ」
「ふっ……たしかに、暗闇の中にいたせいで自分の出血を目視できなかった可能性はあるだろう。しかし、人間の感覚はなにも視覚だけではない。つまり痛覚……身体のどこかを釘で引っ掻くようなことがあれば、必ずそれなりの痛みを感じたはずだ。それで自分が怪我をしたことに気づいていなかったというのは、無理があると言わざるを得ないな」
「ああ、そうだな……だが例外はある」
「なに?」
冬吾は間髪入れずに、今度は渡久地へ尋ねる。
「渡久地、あんたは五年前の交通事故で両足を失ったんだったな?」
「……それがどうした?」
「以前に聞いたことがあるんだが……手や足を切断した人間は、その多くが幻肢痛(げんしつう)という症状に悩まされるらしいな。ファントムペインとも呼ばれていて、あるはずのない手足が痛むかのような感覚に襲われるというものだ。あんたもそうなんじゃないのか?」
「…………」
「今朝、禊屋と話をしたときにあんたは突然苦しみだしたと聞いている。それより以前にも、あんたが足のあたりを押さえながら苦しんでいるところを見たという人物もいた。つまり義足を押さえていたってことだよな。それに高齢になってから手足を切断した場合のほうが幻肢痛の症状はひどく、そして治るまで時間がかかりやすいという話も聞いたことがある。……どうなんだ?」
「……だったらどうだと言うんだ?」
冬吾は赤壇に両手をつきながら、更に続ける。
「あんたはそうやって苦しみだしたとき、いつも鎮痛剤を飲んでいたみたいだな。鎮痛剤が効いている間は、幻肢痛の痛みを感じることはないってわけだ。その鎮痛剤というのは、例えばモルヒネのような強力なものなんじゃないのか? 今も持っているんだろう? 見せてくれないか?」
隠し通せないと思ったのか、渡久地は渋々答える。
「……ただの経口モルヒネだ」
捕まえた……! 冬吾は一気に攻め立てる。
「事件の少し前にも、あんたはその経口モルヒネを飲んでいたんじゃないのか? そう……鎮痛剤の効果で、あんたは痛覚が鈍っていたんだ! だから自分が怪我をしたことにも気がつかなかった!」
「くっ……ぐぐっ……」
渡久地が目を剥き、ぎりぎりと歯を噛む。冬吾は赤壇を両手で叩いて言った。
「そうなんだろ、渡久地友禅! ……あんた、さっきから右手の手袋に血が染みてるぜ」
「なっ……!?」
渡久地は驚愕して自分の右手を見る。右手の甲の部分に、赤い染みが出来ていた。先ほど見たときより少し染みが広がっているようだ。
「さっき乃神が持ってきてくれた携帯電話……あの留守電を聞いたとき、あんたは怒って証言台を右手で叩いていた。その時に傷が裂けてしまったんだろう。その痛みにも、あんたは今まで気づいてなかったようだけどな。せっかく傷跡を隠すために手袋なんて着けていたのに、それも無駄になったってわけだ。お前があの時もう少し冷静でいられていたら、そんなくだらないミスはなかっただろうに。人に指示をするのはお得意なのかもしれないが……犯行時の怪我といい、実行犯としてのあんたは二流もいいとこだな?」
「きっ……貴様ぁぁ…………ッ!!」
渡久地は冬吾にあらん限りの憎悪を向ける。だが冬吾は一切怯まない。相手はもう、虫の息だ。
「――乾いてしまった自分の血痕を誤魔化すために、お前は講壇の中を被害者の血で汚し、遺体の解剖に使ったナイフを残しておいた。講壇の中を――とくに板に打たれた釘を入念に調べれば、きっとお前の血液が検出されるはずだ!」
冬吾は敵へ向かって、力の限り右手の人差し指を突きつけた。
「さぁ、これではっきりしたな……! 渡久地友禅……! 俺とお前……どっちが本当の負け犬か、答えてみろッ!!」
「お…………おの、れ…………戌井…………冬吾ぉぉ……ッ!!」
渡久地は咆哮し、証言台へ頭を勢い良く打ちつけた。そして、そのまま動かなくなる。
地下大法廷は、誰もがそこで行われたやり取りに圧倒されてしまったかのように、静寂に包まれた。
「…………ふぅ」
冬吾は大きく息を吐いて下を向く。一気に疲れが押し寄せてきて、今にも倒れそうだった。
……勝った。禊屋がいなくても――……いや、そうじゃない。一人だけじゃ絶対に無理だった。禊屋が色んなヒントを残していてくれたから、勝てたんだ。
会いたい。今どうしようもなく、禊屋に会いたかった。会って、このことを知らせてやりたい。感謝の言葉を伝えたい。……それだけでいいのか? 何か、もっとあったような……。そんな風に考え事をしている時だった。
突然、雷霆の一撃のような大きな音が廷内に響き渡った。
冬吾は驚いて顔を上げる。どこから聞こえた音なのか一瞬わからず、視線を彷徨わせて――そして、見た。審問官ノワールこと神楽が、黒壇の上で拳を固めている姿を。今のは神楽が黒壇に拳を振り下ろした音だった。
「見事だ……戌井冬吾」
神楽はゆっくりと、そして静かに語り出す。
「実に見事な論証だった。一人でよくやったものだ。私の予想以上だったよ、貴様は。これでようやく、長かった審問会も決着の時を迎えただろう……」
そこまで言うと彼女は、口元に酷薄な笑いを浮かべる。
「――貴様の相手がこの神楽でなければ、だが」
……なんだって?
神楽は左手をゆらりと動かし、口元の前で人差し指と中指の二本を立てる。
「我が心既に空なり……天魔覆滅。今こそ、この一刀で貴様の息の根を絶つ」
そしてその左手の人差し指を、そのまま冬吾へと突きつけた。
「私はここに主張しよう――ルージュ側の論証には、決定的な矛盾があると!」
「なっ――!?」
そんな馬鹿な!? 嘘だ、あり得ない……!!
「貴様がやっとの思いで辿りついた推理に水を差すようで悪いが……あの講壇の中の違和感については、私も最初から気づいていた。ナイフに付いた血を拭うのなら、わざわざ講壇の中でなくてもよかったはずだからな。そこに何かしらの作為を感じた。だから私は念のために、あの講壇の中の血液を入念に調べるよう、アルゴス院に依頼していたのだ。そしてその鑑定結果が、この資料である」
神楽は紙の資料を取りだし、廷吏を介して同じものを審問長と冬吾にも渡す。
審問長ニムロッドはそれに目を通しつつ言う。
「ふむ……確かに正式な鑑定記録のようですね」
神楽は資料を手に、更に続ける。
「その結果はこのようになった。講壇の中に付着していた血液の殆どは被害者・名護修一のものであったが……覗き穴を塞ぐのに使われていた板の釘から、微量であるが別人の血液を検出した。その血液は被害者のものでもなければ、被告人のものでもなく……アルゴス院の鑑定機関に登録されているデータとは一致しなかったそうだ。そして次は、私が追加で調べるよう依頼しておいた項目なのだが……『釘から検出された血液の持ち主と被害者との間に血縁関係は認められない』とある」
「えっ……?」
冬吾は一気に血の気が引いていくのを感じた。神楽は嗜虐的な笑みを浮かべて言う。
「貴様らの浅い考えなど、私はとうに見抜いていた。私は貴様らが渡久地殿を真犯人として告発してくるだろうということを予測していたのだ。だから前もって、こうしてそれを否定する証拠を用意していた。そう……この期に及んで言うまでもないことだが、貴様が犯人として名指ししている渡久地殿は、被害者の実父である。その血液が被害者と血縁関係がないなどというのは――あり得ない!」
「あ……ああ…………」
冬吾は絶望で身体が震えた。なんてことだ……まさか……まさか! 今になって推理を根底からひっくり返されるなんて! そんなのありか……!?
神楽は左の手の平を黒壇に叩きつけて言う。
「これでルージュ側の論証は跡形もなく崩れた! 渡久地殿が犯人であるという根拠がなくなった今……ノワール側は改めて、被告人こそがこの事件の真犯人であると主張する!」
「ふ……ふざけるな!」
冬吾は必死に抗弁する。
「講壇の中で被害者以外の人物の血液が見つかったのは事実なんだ! だったら、その人物こそが犯人に違いない!」
「ふん……ふざけるな、と言いたいのはこちらのほうだ。貴様らルージュ側の推理は、事件関係者の中で唯一渡久地殿だけがトリックを用いることによってあの礼拝堂から目撃されずに出入り出来たという前提のもとに成り立っている。講壇の中から渡久地殿以外の血液が見つかったところで、それは何の意味もない! おそらく事件とはまったく無関係の人物が、事件よりも以前にあの釘を触って怪我をしたというだけのことだろう」
「……そんな、馬鹿な…………」
冬吾は脱力してしまい、赤壇の上に両手をついてやっとの思いで立つ。頭を抱えてしゃがみ込みたい気分だった。
……ここまでやったのに、全部無駄骨だったのか!? 禊屋の推理も俺の推理も全て間違っていた……? そんなことって……あるかよ……!
「貴様……私は、そんな話は聞いていないぞ……!」
……? 冬吾は顔を上げる。今発言したのは渡久地友禅のようだ。先ほど証言台に頭を打ちつけたせいで顔面右側のハーフ・マスクがひび割れてしまっていた。
神楽は腕を組みながら答える。
「当然です。申し上げておりませんでしたので。こうでもしておかなければ、ルージュの動きを封じることは出来ませんでした。どうかご了承ください」
そこで渡久地は何かに気がついたように息を呑み、戦慄の表情を浮かべる。
「まさか……まさか貴様…………」
「……ご心配なく。やれるだけのことはやってみせますよ」
神楽は微笑して会話を打ち切った。
何だ、今のやり取りは……? 渡久地も、神楽の手によって劇的な逆転を演じたわりには微塵も安心している風ではない。
いや……考えてみれば。先ほどの渡久地の追い詰められた様子、あのとき向けられた憎悪は、冤罪を押しつけられたことによるものだったのだろうか……?
……いや、違う。やはり今までの奴の反応からして、奴が無実だとは思えない! 奴はまだ安全圏に逃げたわけではないのだ。だが、しかし……血液の鑑定結果も疑えない。
わからない……どうすればこの状況を逆転できるのか、今度こそ本当に思い浮かばない。渡久地が犯人である説が根本から否定されたわけではないから、何か別の決定的な証拠を挙げられれば、あるいはまた渡久地を追い詰めることが出来るのかもしれないが……もうとても、そんな余力は無かった。
その時、冬吾は気がつく。赤壇の上に置いていた携帯電話の通知ランプが点滅していたのだ。薔薇乃から預けられていた携帯である。確認してみると、二分前に一通のメールが届いていた。
「…………」
メールを読み、冬吾は携帯をポケットに仕舞う。
「先ほどから黙ったままだが……反論はないのか? 戌井冬吾」
神楽は腕組みをしたまま冬吾に言った。冬吾はかぶりを振って、
「……反論は、出来ない。神楽……お前には敵わないよ。何もかも、お前のほうが上回っていた。比較なんて出来ないくらいに」
「随分としおらしくなったな……いよいよ負けを認める気になったか?」
「……そうだな。俺一人なら、そうだ。俺が逆立ちしたってお前に勝てるはずなんかない」
「一人なら……だと?」
その時、赤の陣営後方の扉が開いて、一人の足音が近づいてくる。
「……言っただろ。俺の相棒なら、お前に勝てるって」
冬吾は振り向くこともなく言った。
「そうだよな、禊屋?」
――法廷に現れた赤髪の探偵は、冬吾の右横に並び立つと、勢い良く右拳を左の手の平に打ちつけた。
「――あったりまえじゃんッ!」
傍聴席からどよめきが広がる。このルージュ側にとって最大のピンチに禊屋が復活を遂げたことで、傍聴人たちも興奮しているのだ。
「あなたは……もう大丈夫なのですか?」
ニムロッドが尋ねる。禊屋は頷いて、
「はい! ここからはまたあたしが審問官ルージュを務めます、問題ないですよね?」
「それは構いませんが、あなたは審理の流れをまだ把握できていないのでは?」
「それは大丈夫! 仲間がメールで知らせてくれてました」
そう言って、禊屋は携帯電話をニムロッドへ見せる。おそらく織江あたりが審理の進行状況を連絡していたのだろう。
禊屋と目が合う。冬吾はやや照れくさいのを我慢しつつ言った。
「悪い。もしかしたらいけるか……とは思ったんだけど。やっぱり俺一人じゃここが限界だった」
「……一人でよく頑張ったね。もうだいじょーぶ! あとはあたしに……ううん、違うか」
禊屋は、最高の表情で冬吾に笑いかけてこう言った。
「この事件を終わりにしよう……あたしたち二人で!」
「……そうだな」
冬吾は力強く頷いた。
向かい側から声が聞こえる。
「やっと戻ってきたか、禊屋。待ちわびたぞ……」
神楽は高揚を抑えきれない様子だった。ゆっくりと左の手の平を禊屋へ向ける。
「では……答えてもらおうか? この血液鑑定の結果により、先ほど戌井冬吾が挙げた決定的証拠は完全に否定された。これに対し、貴様はどう出るつもりだ?」
禊屋は堂々とした態度で神楽に返答する。
「……ルージュ側の論証は、間違っていなかったと主張します」
「ほう……? それでは、私の提出したこの血液鑑定の結果が間違っているとでも?」
「……いいえ。きっとそれも間違ってはいないと思います」
「ふっ……それでは貴様は、何が間違っていると言うのだ?」
「先ほどの論証も、そして血液の鑑定結果も間違ってないのなら、間違っているのはもう……一つしかあり得ません」
禊屋はそこで右手の人差し指をゆっくりと口元の前に持っていき、静かに言う。
「……今度こそ、全ての謎は禊ぎ払われました」
その右手人差し指を、今度は渡久地友禅へと向ける。
「間違っているのは……渡久地友禅さん。あなたです」
「――ッ!?」
渡久地が息を呑む。反応から明らかに動揺している様子が見て取れた。
渡久地友禅が間違っている……? どういう意味だ?
「講壇の中の釘に付着していた血痕は、やっぱりあなたのものです。被害者との血縁関係がないと鑑定されるのは当然だった。――だって、あなたは渡久地友禅ではないんだから」
法廷が大きくざわついた。禊屋の言うことが飲み込めず、混乱しているようだ。
「静粛に! 静粛に!」
審問長が木槌を打つ。そして禊屋へ問いかけた。
「ルージュよ……いったいどういうことなのですか? そこにいるのが渡久地友禅氏ではないと……?」
「そのままの意味ですよ。ここにいるのは本物の渡久地友禅じゃない。だから被害者とは赤の他人同士、元から何の繋がりもなかったんです」
そして禊屋は渡久地の――いや証言台の男に向かって言った。
「ね? そうですよね、渡久地さん? ――いいえやっぱり、ここは本名で呼びましょう。そうですよね、真季蘭童(まさきらんどう)さん?」
「ぐっ…………!」
真季と呼ばれた男は、既に大量の脂汗を浮かべていた。審問長は困惑した様子で禊屋に言う。
「待ってください。真季蘭童とは何者なのですか?」
「……今から五年前、渡久地さんは交通事故に遭いました。それが全ての始まりだったんです」
禊屋は静かに語り始めた。
「ある日の夜、渡久地さんが乗った車は帰宅途中に大型トラックに追突され、炎上しました。その時車の中には、渡久地さんの他に二人の人物がいたんです。その二人とは渡久地さんの妻である渡久地絵羽さんと、そして車を運転していた秘書の真季蘭童さん。ニュースによれば絵羽さんは車内で焼死、真季さんは車外に脱出はしたものの全身に重度の火傷を負っており救助が来る前に死亡していたとのことでした。渡久地さんだけが生き残ったものの、彼も顔と両足に重度の火傷を負ってしまった……。さて、ここで重要なのは真季さんと渡久地さんがそれぞれ火傷を負った箇所です。一人は全身に重度の火傷……おそらく全身火達磨のようになっていて、遺体の身元を特定するのも困難な状態だったんじゃないでしょうか。そして、もう一方は顔に重度の火傷を負っていた。これはあたしの推測ですけど、事件当時は顔の半分だけでなく全面を火傷していたんだと思います。それを後で半分だけ整形したんでしょう」
「もしや……その二人が……?」
審問長が禊屋へ尋ねると、そこへ割り込むように証言台の男が叫ぶ。
「違う! 私が……私こそが渡久地友禅なのだ!!」
審問長ニムロッドは強かに木槌を打って、相手を黙らせた。
「お静かに、今は証人に発言を求めていません。――それで、どうなのですか? ルージュよ」
禊屋はゆっくりと頷く。
「そうです。その事故で本当に死んでいたのは渡久地友禅とその妻の絵羽。逆に生き残っていたのは、秘書の真季蘭童だったんですよ。その後、真季さんは渡久地友禅に成り代わって今まで生きてきたんです。きっと事故に便乗する形で、渡久地さんの持つ絶大な権力を横取りしてしまうために!」
冬吾はただただ驚いていた。渡久地友禅と真季蘭童は入れ替わっていただなんて……そんなこと、想像もつかなかった。
「しかし、いくら顔が火傷で潰れていたとはいえ、そのような入れ替わりが上手くいくものでしょうか?」
審問長の問いに、禊屋は答える。
「渡久地さんと真季さんは太すぎず痩せすぎずで背格好は似ていました。当時渡久地さんは六十七歳、真崎さんは四十九歳でしたが、写真で見る限り渡久地さんは年齢のわりに若々しい人だったようなので誤魔化しは効いたんじゃないでしょうか。でも、簡単ではなかったと思います。全てを誤魔化すことは不可能だったはずなので、少なくとも担当医師とは結託している必要があったでしょう。他にも協力者がいたかもしれません。本人に成り代わる上で最大の問題となる記憶の違いについては、事故後の混乱ということで誤魔化したと考えられます。ニュースを見る限りでは、事故後しばらくの渡久地さんは記憶が混乱している様子が見受けられていたようなので。声の違いは元々似たような声だったのかもしれませんし、ある程度の範囲の違いであれば、事故のショックを装って話し方を変えるなどの工夫をしておけば、これも誤魔化せるでしょう。しばらくしたら、火傷を負っていた顔は半分だけ整形し、渡久地友禅に似せました。半分だけにしたのは、全部を整形すると元の渡久地さんとのズレがわかりやすくなってしまうからです。半分だけにしておけば、多少印象が違うとしてもそれは火傷の影響だろうと相手を納得させることが出来る。そして事故後半年ほどは怪我の治療も兼ねて休養していたそうですから、その間に本物の渡久地さんに成り代わるために必要な知識を必死に詰め込んでいたんでしょう」
入れ替わりのためにそこまでするとは……並外れた執念がなければ出来なかったはずだ。あとは奴が手にした渡久地友禅の権力がそれだけ絶大で、事後工作が容易だったということはあるかもしれないが……それでも途方もない苦労があったに違いない。現に今、実年齢は五十代前半であるはずの奴の顔つきや身体が、七十を越えた年老いた男にしか見えないのがその証左だ。あれは整形手術や化粧だけでどうにかなるものではない。渡久地への成りすましを続ける内に、摩耗した精神が肉体を変貌させたのだろう。それが結果的に成りすましをより完璧なものに近づけているのは、皮肉的なことだが。
禊屋は口元に手を当てて考えるようにしながら話す。
「きっと……左門寺英仁さんが残したファイルの内容はこれだったんじゃないでしょうか? 現在の渡久地友禅は本物の渡久地友禅ではなくて、真季蘭童が成り代わったもの……左門寺さんがそれをどこまで掴んでいたかはわかりませんけど、概ね的を射ていたのだと思います。正義のジャーナリストだった左門寺さんは、渡久地友禅の悪事を暴こうと常にマークしていたようでした。そんな彼だからこそ気がついたんでしょう。――そりゃあ必死になってファイルを探そうとするはずですよね。そのファイルが流出して自分が本物の渡久地友禅じゃないとバレてしまったら、せっかく手に入れた権力を失ってしまいかねないんだから」
そういえば、薔薇乃が調査について話してくれたときこんなことを言っていた。左門寺の後輩である早坂晋太郎は、左門寺が自分の掴んだ秘密について叢雲に話しているとき、辛うじて二つのワードを聞き取っていたと。そしてそのワードが「生き残った」と「アンドウ」。
今ならその意味がわかる。そのうちの「アンドウ」はおそらく早坂の聞き間違いで、本当は「ランドウ」、つまり生き残った真季蘭童のことを言っていたのだ。
「そして左門寺さんから渡久地友禅の秘密を聞かされた、叢雲こと戌井千裕さんは、おそらくそのことだと推測できる内容を自分の手帳にメモしています」
禊屋は千裕の手帳を開いて言う。
「ここに、『Mの件は保留 偽の証拠がない』とあります。ここにあるMとは、おそらく真季蘭童のこと。そして『偽の証拠がない』というのは、渡久地友禅が偽者であるかどうかの証拠がない……という意味ではないでしょうか? このメモは名護修一さんとの待ち合わせの時間を記したメモのすぐ下にあったので、このことを名護さんに伝えるかどうか千裕さんは迷っていたのかもしれません。しかし、千裕さんは左門寺さんを逃がしたということを真季蘭童に感づかれてしまいました。それで名護さんが命令を受けて千裕さんを殺すことになったんです……。おそらく名護さんも、実父である渡久地友禅が別人に成り代わっていることには気がついていたんじゃないでしょうか? それでも、その力に恐怖してしまい偽の渡久地友禅の傀儡とならざるを得なかった……そう考えれば全てに説明がつきます」
そして、禊屋はすっかり顔を青ざめさせた渡久地友禅――のフリをした真季蘭童を見据えると、腰に手を当て余裕の表情で言い放った。
「――ふふん、さぁどうですか? まだ何か言い訳してみます? ……できるものなら、ですけどね!」
「違うッ!! 私は……私は……! 違うぅぅ……! 真季…………などでは……ないぃぃいいいいッ!!!」
渡久地は半狂乱に陥ったかのような様子でわめき立てる。もはや勝負は決したも同然だ。
右隣りで禊屋が視線で合図を送ってくる。冬吾は頷いて、真季へと向き直った。
「……お前がどれだけ否定しようが、もう無駄なことだ。今度はその釘に残った血痕と、お前自身の血液を照合してもらえばそれではっきりする……」
そこで冬吾は、右手人差し指を相手に突きつけて言った。
「お前が渡久地友禅の偽者で――そして、この事件の真犯人だってことがな……!」
「そーいうこと!」
禊屋は軽快に指を鳴らして、そのまま冬吾と同じように左手人差し指を相手に突きつける。
「あなたは『影の帝王』でもなんでもない……誰かに乗り移ることでしか存在できないただの『亡霊』。だからさっさと、成仏しちゃってね?」
それがトドメの一言。
「くっ……ぎぎっ……ぎ…………ぐおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
真季蘭童は法廷中に響き渡る壮絶な咆哮をしたかと思うと、一転して操り人形の糸が切れたように脱力して倒れかけ、勢い良く証言台に顔面を打ちつける。既にひび割れていた真季の仮面は砕けて、更に車椅子からも身体ごと崩れ落ちた。
偽りの帝王の仮面は剥がされた――今度こそ、勝敗は決したのだ。
「五年前の……あの事故の日。私は決意したのだ」
廷吏によって車椅子に戻された真季は、完全に意気消沈した様子でありながらも、証人席でぽつぽつと語り出す。
「突然、あのトラックが後ろから追い上げてぶつかってきた。運転していたのは私だが、避けようと考える間もなかったのだ。横転し、炎上する車から私は必死に這い出た。顔面と両足を炎に焼かれる苦痛に悶えながら私は憎んだよ……己の運命を。長年、傲慢な渡久地友禅に媚びへつらって手足のように働かされてきたのに……私は結局何も成し遂げぬまま死ぬのかと。それもおそらくは、渡久地友禅を狙って差し向けられた刺客の手によってだ。その巻き添えで死ぬなど、絶対に御免だった。そして……私の後方で火達磨になって死んでいる渡久地を見て、閃いた。あれを私だということにしてしまえばいい……と。そうすれば私が本物の渡久地友禅となって、奴の力を奪い取ることが出来る……。後は概ね、貴様の言ったとおりだ……」
禊屋を見ながら真季は言う。
「いずれ私の正体に気がつく者が出始めること自体は想定済みだった。だから、四年前に左門寺が私の前に現れたときも落ち着いて対処さえすれば問題はないと思っていたのだ……。だが、あの叢雲……戌井千裕が奴を逃がしたことから歯車が狂い始めた……!」
真季は目を剥き出し憎悪を込めて言う。
「そもそも叢雲という殺し屋は、私が成り代わる前の渡久地友禅が作り上げたも同然の存在だ。十八年前、大金が入り用になったという戌井千裕に、名護修一を介して裏の仕事を紹介したのが渡久地友禅だった。それ以来、叢雲は基本的にはフリーランスの殺し屋として活動しながら、密かに渡久地の手駒としても動き続けていたのだ」
十八年前……大金……冬吾には思い当たる節がある。きっと母の病のことだ。
自分を産んですぐ、母はある難病に伏せったと聞いたことがある。その治療費を求めて、父は裏社会に足を踏み入れてしまったのだろう。そのお陰で母の病は一時は回復したものの、妹の灯里が産まれてすぐに再発し、亡くなった。その時、既に父は殺し屋をやめるにやめられない状況に追い込まれてしまっていたのかもしれない。そして殺し屋のまま……死んだのだ。
「万が一にも左門寺を仕留め損なうようなことがあってはならない。だからこそ私は最高の殺し屋である叢雲にその仕事を頼んだのだ。だが……だが叢雲は、左門寺の口車にまんまと乗せられ逃がしてしまった……! 幸いだったのは、私がすぐにその可能性に気づいて名護に探りを入れさせ、奴が裏切ったという確信を得られたことだった。薄汚い殺し屋ごときが、私に逆らうなど……断じて許せんことだ。だから私は名護に命令し、叢雲を……戌井千裕を殺すように仕向けたのだ。無論、左門寺から奴に託されたSファイル2を取り戻すためにもな。その時、私は名護と同じく傀儡の一人だった岸上豪斗にそれを手助けさせた。戌井千裕と岸上豪斗が義理の兄弟の関係にあることは知っていたが、私はあえてそう命令したのだ。岸上豪斗に私への恐怖心を植え付け、より忠実な手駒とするためにな」
……そういうことか。岸上豪斗はナイツ夕桜支社の幹部だった一方で、渡久地友禅に扮する真季蘭童のスパイでもあったのだ。彼が殺されたとき、すぐに自宅が燃やされ証拠が隠滅されたのはおそらく真季の手の者の仕業だったに違いない。
「私の秘密を知り、裏切った戌井千裕は死んだ。名護の奴めがしくじったおかげでSファイル2のロックは解けずじまいになってしまったが……とりあえず、これで難は逃れたと思っていた。だがその四年後……戌井冬吾、貴様が現れた」
真季は冬吾を睨みつけて言う。
「ナイツにあの戌井千裕の息子が入ったと知った時から、私は嫌な予感がしていた。しかも、岸上豪斗と接触しようとしていたそうじゃないか。幸い戌井千裕暗殺の真相や私の情報はまだ伝わっていなかったようだが、貴様を生かしておいてはいずれ障害になると私の本能が告げていた。父の死の真相を求めて、貴様がいずれ私の元に辿り着くかもしれないとな……。くくく……事実、その通りになってしまったようだが……」
真季は苦笑した。冬吾が確認するように尋ねる。
「俺を殺そうとしてキバや灰羽根旅団をけしかけたのも、お前だったんだな?」
「……私は叢雲の一件以降、とりわけ用心深くなった。万に一つ程度の可能性とはいえ、そこに芽があるのなら潰しておかねばならないと思ったのだ……」
そこで、禊屋が真季に尋ねた。
「名護さんはきっと、あなたの正体にも気がついていましたよね。どうしてあなたは彼を今まで放置していたんですか?」
「簡単なことだ。名護は図体は大きいが、本質的には臆病で保身を第一に考える性格。そういった手合いは私ならば容易くコントロール出来るという自信があった。だから生かしておいたのだ。奴を脅迫する材料には事欠かなかったことでもあるしな。私の正体を知った上でなお手駒として動いてくれる存在は、私にとっても都合がよかった」
「……じゃあ、どうして今になって名護さんを殺したんですか? やっぱり、キバのときに戌井冬吾を助けたから?」
「それもあるが……それだけではない。……私は二度にわたって戌井冬吾へ向けて刺客を放った。だが、キバに続いて灰羽根旅団までもが失敗したことで、私の懸念はますます大きくなったのだ。なんとしてでも戌井冬吾だけは始末しておかねばなるまい……そう考えるようになっていた。そして一昨日の夜、その女……神楽が私に連絡してきたのだ」
指を向けられた神楽は、先ほどから黙ったまま黒壇の上を見つめていた。
「その女が言うには、名護は私の秘密を打ち明ける代わりに伏王会へ保護を求めようとしたらしい。礼拝堂で待ち合わせをしていて、そこで秘密について直接話すつもりなのだと」
それは初めて聞く話だ。
「そこでその女は私に協力するからと言って、名護を殺し、そして戌井冬吾を陥れる計画を提案してきたのだ。なぜそんなことを提案するのか、と私が訊けば、『名護修一より渡久地友禅に恩を売っておく方が得だから』などと答えた。無論、怪しいと思ったとも。だが奴の話を聞く内に、私はその計画に乗るしかないと思った。神楽の話が真実かどうかを確かめる術はないが……もしも真実だった場合は取り返しのつかないことになりかねん。しかもその話が真実だとすれば、私が直接名護を殺す必要があった。神楽に秘密を打ち明けるつもりなら、何らかの証拠を手元に用意している可能性があったからな。殺した後でそれを回収する必要があることを考えたら、殺し屋に依頼するわけにもいかない。もしかすると神楽は既に私の秘密に感づいていて、私を嵌めようとしているのではないか……とも考えたが、それならもっと直接的で効果的な方法が幾らでもあったはずだ。だから私は、神楽の計画に乗ることにした……。まぁ……結局のところ、名護は私の秘密を示すような証拠は何も持っていなかったのだが……」
計画を提案してきたのは、神楽の方からだったのか……? ということは……もしかして……。
審問長ニムロッドが神楽へ尋ねた。
「ノワールよ。今の告白は真実なのですか?」
神楽は静かに答える。
「…………事実無根である。私は渡久地殿から計画を持ちかけられたため、それに協力したまでのこと。断れば伏王会にとって色々と不利益なことになりかねなかった……仕方がなかったのだ」
「しかし、それは……」
そこまで言いかけたところで、ニムロッドは審問長席のテーブルの上を見て小さく「え?」という声を出す。こちらからは見えないが、何か置いてあるのだろうか。
「……わかりました。ノワールの言い分を認めましょう」
「……ご理解いただけて感謝する」
神楽は手の動作をつけて丁寧に一礼する。ニムロッドは神楽の返答に対して疑問を抱いていたように見えたが……今のはいったい?
「マスターバベルが指示したんだよ。神楽の言い分を認めろって」
禊屋が耳打ちしてくる。そうか、ニムロッドが驚いていたのは、テーブルの上に置いてあった電子端末か何かにマスターバベルの指示が表示されたからか。しかし、どうしてマスターバベルがそんなことを……?
「くくく……そうか、そういうことか……」
真季が笑う。
「そういうことって……何のことだ?」
冬吾が問いかけると、真季は冬吾を睨みつけて言う。
「ふん……貴様の知ったことではないわ……! 戌井冬吾……父親に続いて私を邪魔した者……貴様の名は、たとえ死んだとしても忘れはせん……地獄に墜ちようとも……呪い続けてやる……!」
「…………そうかよ。言いたいことは終わりか?」
「……くっ……審問長」
真季は歯噛みしてニムロッドに言う。
「……さっさと幕を引け。私はもう……疲れた」
ニムロッドは少し考えるようなそぶりを見せたが、やがてゆっくりと頷いた。
「わかりました。色々と確認しておきたいことは山積みではありますが……少なくとも今回の審問会の目的は既に果たされました。『戌井冬吾は名護修一を殺害した犯人であるか、否か?』……その答えは充分に証明されたと言えるでしょう」
――そして、審問長が木槌を打った。
「それでは判決を言い渡しましょう。……戌井冬吾を無実であると認め――赤の陣営の勝利とします」
もう一度木槌を打って、結びの言葉とする。
「それでは、これにて審問会は閉廷。皆様、お疲れさまでした」
その直後、禊屋が冬吾に抱きつく。
「うわっ……ちょっ……禊屋?」
「よかった……ほんとに……よかったね……!」
禊屋はぼろぼろと大粒の涙を流しながら笑っていた。その表情に冬吾までつられて泣きそうになってしまうが、今は堪える。冬吾はただ強く禊屋を抱きしめ返して、言った。
「本当にありがとう……禊屋……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる