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最終章

27、前世編③−和歌と透夜と真子−

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「お腹の子と、架織の仇です。お父様」

自身の父の胸に、短刀を植え込み、真子は冷静に言う。
部屋には、煙が立ち込めている。
青葉城は敵国に攻め込まれ、火を放たれた。
真子の部屋に駆け込み「逃げるぞ」と連れ出そうとした父に、真子は残酷な行為をとった。
和歌も、透夜も、その場に居る。
数日前に、和歌も事情を聞かされているーーーー今日、この日に、敵国により青葉城は朽ちる事になると。
青葉城の情報は全て、その敵国に、透夜は流した。
透夜だけではない、真子同様、青葉城の当主を憎む者達が、それぞれ働いた結果が、今のこの状況へと繋がっている。

「無様ね、お父様。どうぞ、地獄の沙汰で存分にご自慢の権力を行使して下さいませ。では失礼」

笑顔で父を見送り、真子は自身が長年使っていた部屋を後にした。
和歌と透夜もそれに続く。


*****


和歌、透夜、真子は、地下にある隠し通路へと急ぐ。

「真子姫だな、我々と来て貰おう」

敵国の家紋を付けた、忍び二人と武士一人。
和歌も透夜も対峙して分かる、三人ともかなりの手練だと。

真子姫が狙われる事は分かっていた。
この場では殺さず、敵国へ連れ去るだろうと言う事もーーーーどの道、辿る末路は変わりはしないのだけど。
真子の父である、青葉城当主に虐げられた物達は数知れず。
理不尽な年貢を強要されていた民や、些細な出来事で簡単に処分された者達の身内。
その者達の怒りと悲しみを鎮める為にも、青葉城当主が溺愛していた娘である真子の存在は必要なのだ。
要は、大衆の面前での死刑。
そんな事、透夜も和歌も容認できる訳が無い。

「和歌、真子姫様を連れて先に行け。俺も後から追う」

ギリっと歯を噛み締めながらも「分かりました」と、和歌は言葉を懸命に吐き出す。
そんな泣きそうな和歌の頭を、透夜は撫でる。

「良い子だ。早くいけっ」
「はい」

和歌は真子を掬い抱き上げ、地下へと急ぐ。
真子の目には、勇ましく敵国の刺客と剣を交える透夜の姿が映る。
同時に、まだ幼く、自身を「真子姉」と呼び、あどけない笑顔を見せてくれていた時の、透夜を思い出す。

「・・・透夜」


*****


透夜が敵国の刺客を足止めしてくれている間に、和歌は真子と共に隠し通路へと向かう。
その途中、敵国の武士と遭遇し、和歌は背に太刀を食らったが、なんとか返り討ちにする事が出来た。

地下の酒蔵に、その隠し通路の入口がある。
それは、透夜が幼少期から掘り進め作ったものだ。
樽酒を退かすと、子供が通れるくらいの穴が。
入口は狭いが、通路は大人が余裕で走れる程の広さはある。

「わ、和歌。背、血が、早く手当を」
「真子姫様、早く中へ」

震える真子を狭い入り口から先に通路へ通し、和歌も続く。
敵国の刺客にこの通路が見つからぬ様、樽酒は元の状態へ。

和歌は再び真子を抱き抱え、数キロ先にある出口へと向かう。
出口は、信頼出来るハルと言う女店主が営むお茶屋の床と繋がっている。

「和歌、駄目、下ろして、自分で走るから。傷が開く、ね、お願い和歌、下ろして」
「なりません。私の心配は無用です姫様」

ーーーー初めて真子姫様の指示に背いてしまいましたね、どうかお許し下さい。
何にも整って居ない凸凹な道だ、石も沢山転がっており、泥濘みもある。
歩く事さえ厄介な通路、真子に走って貰う訳にはいかないのだ。
透夜が作ってくれている大切な時間だ、今は一刻も早く外へ。


*****


「ハルさん、真子姫をどうか宜しくお願いします。私は城に戻ります」
「いや、いやだ、和歌。お願い、行っては駄目っ行かないで」

涙を落とし、震える体で和歌に抱きつく真子。
父を殺害した時の冷静さは、今は何処にも見当たらない。

「申し訳ありません、今日は逆らってばかりですね。大好きですよ真子姫様。どうか、精一杯生きて、幸せになって下さい」

真子の背に手を回し、和歌は意識を奪う坪を押す。
力が抜ける真子を支え、ゆっくりとその場に寝かす。

「一応問うわ、和歌。貴女も此処で真子姫様と残ると言う選択肢はないの?」
「戻ります。ハルさん、我儘を承知で言います、どうか、真子姫様をお一人にしないで下さい、どうか・・・」
「透夜から前金は沢山貰ってる、その分の働きはするわ。真子姫様の事は私に任せて。和歌は、和歌の選びたい様に。透夜の元へ行くのでしょ?」
「はい。言い付け守れなくて、透夜さんには怒られそうですけど」

ハルに真子を託し、和歌は再び通路の中へ。
耳をすませ集中するが、やはり出口へ向かってくる気配は何もない。
通路は簡単に塞がり崩れる様に、仕掛けがしてある。
その方法を、和歌は透夜から教わっている。
和歌は懐から出したクナイを、とある場所目掛け放り投げる。
クナイが土壁に刺さると、何処からか、ゴゴゴっと言う音が、地響きと共に鳴り始めた。
どんどん背後から崩れていく通路を、和歌は駆け抜け、地下の酒蔵へと戻る。




《その後の和歌と透夜は「1、和歌」「16、透夜」となります》
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