『カールロット公爵令嬢は魔女である』~冤罪で追放されたので、本当に災厄の魔女になることにした~

あだち

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一、カールロット公爵令嬢は魔女である、ことにされた

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 その場にいたのは国王夫妻と王太子殿下、法務大臣と護衛兵だけだった。今の私のみすぼらしい姿を目撃する人数が少ないことに安堵すると共に、底知れない不安が増幅される。

「罪人、レダリカ・カールロット」
「つ、罪など犯しておりません」

 反射的に言葉を返すと、玉座近くに立つ法務大臣に「静粛に」と一喝された。一昨日まで、にこにこ笑って私やお父様の機嫌をとってきた人なのに。

「本来なら公開断罪のち斬首となるところ、貴殿の妹御の助命嘆願と、ほかならぬヴァンフリート殿下ご本人のご温情により、人払いされた中での断罪のうえ、減刑が認められたことに感謝せよ」

 減刑、ということは、冤罪は晴れていないということだ。兵士が肩を押さえて跪かせようとしたが、そんなことされなくても膝に力が入らずへたりこんでいた。

 証拠とされた水晶の短剣や毒水入りの瓶などの“呪具”とやらが私の部屋から見つかったことを、大臣が原稿そのままらしく述べていく。その背後では、両陛下が玉座から無感動に私を見下ろしてきていた。その眼差しは厳しくもなければ情けもなく、実に淡々としていた。
 唖然とした。この二人にとっては、私の人生最大の危機も、いつもの仕事のひとつに過ぎないのだ。

 その横に立つかつての婚約者を見れば、不機嫌そうに眉間に皺を寄せて顔を逸らしている。
 私の方なんてちらりとも見もしない。無関心とは違うが、おおよそ助けてくれそうな気配はない。

「水晶の短剣なんて見たこともございません!」と反論しても、誰も聞く耳を持っていないのが明らかだった。絶望がひしひしと足元から這い上がってくる。
 怖い。
 嫌だ、悪い夢だ。きっとそうだ。

「カールロット公爵家長女、レダリカ。魔女となりて王太子殿下に呪詛をかけし罪により、王都グラニエルからの無期追放を申し渡す。その身は“日没の森”へとく送られるべし。これにあたっては、さらなる呪詛を防ぐため、身の回り品の一切の持ち出しを禁ず」
「にっ……!?」

 下った沙汰に絶句した。反論が全く聞き入れてもらえないどころか、この王都を追放されると言われたのだ。しかも、何も持たず、身一つで。

 それだけでも考えられないのに、よりによってわざわざ西の国境近くの森に送られるなんて。獣の生き餌になるくらいなら、いっそ斬首の方が苦しまない。

 しかし無情にも、大臣が「以上」と締め括ると同時に、肩を押さえていた兵士は今度は腕を取ってわたしを立たせ、御前から引きずっていった。
 そんな、なぜ、お父様は何をしているの。殿下は、急になぜ。

「待って、私、魔女なんかじゃない! 殿下!」

 生まれて初めて、全力で叫んだ。喉が裂けるかと思った。言葉遣いなんて構っていられなかった。
 それでも、ヴァンフリート殿下は私を一瞥だにしてくれなかった。

 目の前が真っ暗になる心地で、足元も覚束ない。引きずられるから、それでも体だけは動かされていく。物のように。

「お姉様っ」

 玉座の間から引きずり出される直前、背後からルゼの声がした。
 首をめぐらせると、妹は玉座の間の入り口、大きな扉の影にちょこんと立っていた。両手を胸の前で組んだ彼女の青い目がまっすぐこちらを向いている。
 兵士に引きずられる私は彼女にどんどん近づいたが、広間の敷居を境に逆に遠ざかっていく。どうやってここに入れたのかを聞く余裕は、時間的にも心情的にもなかった。

「ルゼはお姉様のお帰りを、この宮廷でお待ちしております!」

 体の向きを反転させられ――さすがに後ろ歩きで階段は下ろされなかった――階段を引きずり下ろされる私は、何も答えられなかった。

 扉が閉まる直前、肩越しに振り替える。するとヴァンフリート様のお父上、国王陛下がかすかに口を開くのが見えた。

「よもや、カールロット公爵令嬢が魔女であったとはな」

 聞こえるはずもない距離で、風が運んできた言葉に息が詰まった。


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