『カールロット公爵令嬢は魔女である』~冤罪で追放されたので、本当に災厄の魔女になることにした~

あだち

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一、カールロット公爵令嬢は魔女である、ことにされた

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 私は恐怖に叫ぶのをぐっとこらえた。
 窓の外には夜空と塔と、どこまでも続くような木々が見えた。おそらくこの建物は日没の森のすぐ近くか、森の中にある。塔があるなら城だろうか。

 不気味な森の、魔法使いと魔女のすむ城。であれば、魔法の鏡があってもおかしくない。

 よもや、王太子様を呪った魔女というのは――。

『それにしても、ずいぶんうまくことが運んだな』

 聞こえてきたヴァンフリート様の声に、考えが中断した。魔法の鏡は声まで届けるのか。……ちょっと便利ね。

「似てるって、こいつが、あんたに? そうか? このヴァンフリートとやらは金髪だし、目も紫だ。若々しいし、凛々しいし」
「ちょっとロザロニア」

 フラウリッツとやらがロザロニアを小突く。うるさい、殿下の声が聞こえな――……

『レダリカを追放するのに必要なものが、あんな細工物のひとつふたつで済むとはな』

 ……え。

「……それに、性格も悪そうだ」

 女がぼそっと付け足す。
 
 呆ける私の前で、いや私の前ではないけど、ヴァンフリート様がグラスを煽る。

 これはいったいなんの光景だろう。いったい何について話しているのだろう。

 そもそも、どこにいるのだろう。背もたれの材質からしてソファに座っているのだろうが、殿下の私室や執務室のものとは、色も大きさも違う。
 でも、なんだか見たことあるような。

「……おいこれ、カールロットの屋敷じゃないか、ほらこの後ろの壁に飾られた鎧の」

「……!」

 ロザロニア黙って、と男が言う。
 けれど、彼女の指摘は当たっていた。背後に映りこんだ鎧が持つ盾には、我が家の紋章が描かれている。

『しかし恐ろしい女だな、君は。姉の部屋に呪具を置くのに、なんのためらいもないのか』
『あら、その時間を下さったのは、お姉様を投獄なさった殿下でしょう? それに』

 殿下の言葉に答える、この声は。
 殿下の顔に近づく、この顔は。

「……ルゼ」

 渇いた喉は不用意な呟きを形にしなかった。魔法使いも魔女も、黙って鏡を見つめ続けて私には気がつかない。
 鏡に映る殿下と、殿下に寄り添いグラスにワインを注ぎ足す妹も、こちらに気がつかない。

『これであなた様が私の夫になりますのに、いったい何をためらえと?』

 小首をかしげるしぐさは、私からの忠告に戸惑うときの癖だと思っていたのに。

『ああ、本当に、君は私の妻にふさわしいよ、誰よりもね』

 それは、私だけに向けられた賞賛だと思っていたのに。

 テーブルに中身の少なくなったボトルが置かれる。そこには同じワインに満たされたグラスがもうふたつあった。ひとつにルゼが手を伸ばす。
 もうひとつは、鏡の枠の外から延びてきた男の手が取った。

『では、ヴァンフリート殿下と、わが娘ルゼの婚約に』

 乾杯の音頭をとる声は、お父様だった。
 瞳を輝かせるヴァンフリート様の腕に、自分の腕を絡めたルゼが笑っている。私が羨んだ華々しい笑顔で、グラスを掲げて口を開く。

『それから、カールロットの魔女の追放に』




「……おいフラウリッツ。どうなってんだい、これ」
「こっちが聞きたいわよ」

 気がつくと、私は鏡を見つめる二人のすぐ後ろにいた。女が「うわ起きてたのか!」と振り向き、男は手のひらでさっと鏡を一撫でした。その途端、ルゼ達の姿は消えた。
 曇った鏡に映るのは、こちらを向く女のピンクの頭と、無表情の男、そしてぼさぼさの髪と薄汚れたドレスの私。

「どうなっているのよ、なんで、なんで……」

 ふらふらと鏡に近づき、手のひらを鏡面に置く。そこにはもう、懐かしい面々の姿はないのに。
 違う。

「あの三人が、私を陥れただなんて!!」

 がん、と、生まれてはじめて拳を打ち付ける。

 私の思っていた王太子など、妹など、父親など最初からどこにもいなかったのだと気がついて。
 馬鹿みたい。突然の呼び出し。部屋から見つかった呪具。隠された裁判。
 
「帰らなきゃなんて、待ってるだなんて、誰ひとりそんな人いなかったんだわっ!」

 みんなみんな、あの三人が示し合わせて動いただけだ。

 両の拳で鏡を叩く。「ちょ、やめろ、割れるっ」とそばで女が言っていたが、手が止まらなかった。

「馬鹿みたい!」

 涙も止まらなかった。

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