『カールロット公爵令嬢は魔女である』~冤罪で追放されたので、本当に災厄の魔女になることにした~

あだち

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一、カールロット公爵令嬢は魔女である、ことにされた

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 人前で泣くのははしたない。他人に弱味を見せてはいけない。
 言われたことは全部遵守してきたけれど、結果はこの様だ。もう知らない。

 そうして、どれほど時間がたったかも分からなくなった頃、頭痛と吐き気で私はようやく泣くのを止められた。堰を切るとはこのことかと、ぼんやり思いながら顔を上げる。

 はたと、家主たちはどうしたのだろうと思い至った。「どうすんだいこれ」とかなんとか、言っていたような気もするけど。
  このまま悪魔の生け贄にでもされるのだろうかとなげやりな考えを抱きながら、寝台の方に振り返る。殺すつもりなら、もう一眠りするからそのうちにとどめをさしておいてほしい。

 しかし、そんなささやかな願いも叶わないようだ。

「あ、終わった」
「終わった、って、あんたねぇ……」

 さっきまで私が横たえられていた寝台の上で、男が食事をしていた。呆れ顔の女も、そばに書き物机の椅子を置いてそこに腰掛け、膝にシチューの皿を乗せている。

「長かったねレダリカ。さ、こんなものしかないけど、とりあえず夕飯をお食べよ」
「こんなものって何! 作れって言うから作ったのに、そんな言うなら料理も教えてよ!」

 ぽんぽんと叩くシーツの上には、手をつけられていないシチューの皿とパンが乗った盆がある。

 この銀髪カラス、なんで私の名前を知っているのかしら。
 よたよたと近寄りながらそう思ったが、もう危機感も恐怖も感じなかった。涙と一緒に色々なものが流れ落ちてしまったようだった。
 勧められるまま寝台に座る。

「……朝から、ちゃんと食べられてないの」

 そう呟いた声は掠れていた。独房で過ごした昨夜に一度、パンと水が渡されたが、それきりだ。男が眉を少し上げたのがわかったが、何も言わなかった。女が皿の乗った盆を私の方に少し、寄せてくる。

「昨日の朝、王宮から、急ぎの呼び出しが来て。ヴァンフリート様との婚儀のことで、何かあったのかと思って、それで」

 私はぼそぼそと森に来るまでの経過を話した。二人は口を挟まず、私の低い声と、スプーンがたまに食器に当たる音だけが部屋に溶けて消えていく。

 気がついたらここにいた、ということまで話し終えると、しばらくの無言ののち、女が「冷めちゃったから、温め直してくる」と言って手のつけられていない皿を持って部屋を出ていった。

 私はそれを黙って見送ってから、銀髪の男の方に顔を向けた。

「もし、私を殺す気がないなら、だけど」

 男は表情を変えないまま、スプーンの上の白い塊を口にいれた。

「弟子にしてもらえない」

 男はゆっくりと咀嚼して、飲み込んでから「なんで?」と短く聞いてきた。私も短く返した。

「復讐するために」

 男は視線をシチューに向けて、たいした興味もなさそうに「やめときなよ」と言った。

「やめない。殺さないなら弟子にして」
「なんで当然のように殺すと思ってんの……? 殺さないけど、弟子にもしたくないんだよなぁ。後悔した君に責められたくないもん」
「こんな目にあって、今さら何を悔やむというの」
「いやだってさー、冤罪被ったんならわかるでしょ」

 男が嫌そうに目をすがめて見てくる。歪んだ顔。気を失う前に、ヴァンフリート様と見間違えたのはこの顔だったらしい。
 今見ると、別に似てなかった。

「魔法使いや魔女っていうのはさ、この世界のつまはじきものだよ。教会には嫌われるし、周りの人には避けられるし、家族にも縁を切られるし。貴族でも、王族でもお構い無しに」

 私は鼻で笑った。上等だ。もとより家族には棄てられているのだから。

 男にも、私の胸に渦巻く黒い感情が伝わったらしい。スプーンの先を顎にあてて、渋い顔でこちらを見ている。

「弟子にしてくれないなら、ここで一思いに殺して。獣の餌にはなりたくないし、苦しんで行き倒れるのも嫌。あいつらが私を嘲笑った世界で、他の生き方を探すなんて冗談じゃない。……それに、どうせもう魔女の謗りは受けてるのよ」

 シーツに手をつき、身を乗り出す。男は顔をしかめていたが、私から目をそらすことはなかった。
 
「だったら、本当になってやろうじゃない。王家に、王太子夫妻に仇なす災厄の魔女に」

 静かに言いきると、私たちはしばらく無言で視線を交わした。ややあって、男の眉が下がる。

「……ただでさえ向き不向きが激しい上、もうその年だと魔法も馴染みにくいと思うよ?」

 厄介なものを見るような緑の目を受け止めて、私は口角をつり上げた。

「構わないわ、大成したいわけじゃないもの。あいつらを死に至らせる方法だけ手に入れば、それで」

 吐くほどの努力は慣れてる。
 今度もきっと、今まで同様頑張れる。
 今度はきっと、今までよりも頑張れる。

 そんな私の決意を見透かすように、魔法使いは苦笑いした。

「……とりあえず、食べなって」

 そう言って、男は盆を寄越した。パンしかないそこに、彼のシチューの皿が乗せられる。

 食べかけのその皿の中を覗く。白いルウの中に、ちぎられたようなお肉と大きな根菜と、皮の弾けた豆のようなものが見えた。

 食べ始めて大分時間がたった皿の上に、男が筋ばった手をかざし、ほんの数秒で退ける。すると出来立てのような湯気が皿から立ち上って、さっきの女が立つ前にこれをやってくれればよかったのに、と少し思った。

「……いただきます」

 口をつけていないスプーンで掬って、息を吹き掛けた。
 魔法って、便利ね。





 しばらくして、部屋にピンク髪の魔女が戻ってきた。もうもうと湯気の立つ不思議な味のシチューを、たらいのような大皿いっぱい盛りつけて。

「嘘でしょ作り足したの、おバカさんなのロザロニア」
「違うさっ、温めついでにちょっと足してきただけだよ!」
「最初からこの量作ってたとか、なおさらおバカさんなのロザロニア」
「…………うっぷ」







 ちなみに、私の、最後の先生の名前は、フラウリッツと言うらしい。
 
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