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寮の入口で、ルドルフが立っているのを見つけた私は、朝から憂鬱になってしまった。別に学校でも会えるのに、どうしてこう目立つことをするんだろう。アーサーと付き合っていることが周りにバレているこの状況で、ルドルフまで私と一緒にいたら、より一層冷たい目で見られることになるのに。
「おはよう」
「……おはよう」
「昨日は失礼した。言い過ぎたよ」
「大丈夫……」
「顔色が悪い。どうかしたのか」
あまりの白々しい言葉に、一瞬で頭に血が上り、カッとなって言葉が考えるより先に出た。
「もう大丈夫だから、放っておいてよ!」
「アリシア」
私の叫び声に、ルドルフは痛ましいものを見たような、哀れみを含んだ表情で私を見てくる。その表情がより一層、私をイライラさせた。誰のせいで、私がこんなことを言うはめになったと思っているんだ。どうして放っておいてくれないんだ。
「わ、私は、アーサーの恋人になったの。だから、ルドルフはもう私に優しくしてくれなくていいから!」
「……」
「ひ、」
私の言葉に、ルドルフの顔からすべての表情が消えた。
その無表情な顔が恐ろしく見えて私は思わず逃げ出した。
逃げた私をルドルフが追いかけてくることはなかった。それから、学校でルドルフの姿が見えたら、徹底的に避けていた。ルドルフからも何か言ってくることはない。私が彼を避けるのは、これで二度目。そろそろ、ルドルフだって私にうんざりしているだろう。優しくしているのに、避けているのだから。でも、しかたない。だって、仮にも恋人がいる身で、他の男性と仲良くしているのは、アーサーに悪いと思ったからだ。だから、これでいいんだ。
その日は、アーサーとの面会があったので、学校から帰ったらすぐに病院に向かった。
「調子はどう?」
「暇だね」
「それはよかった」
「僕も早く学校に通いたいよ。……ところで、」
「どうしたの?」
アーサーが私の方に身を乗り出して聞いてくる。彼の真っ直ぐな瞳が私を射抜く。
「僕に隠していることがあるんじゃない?」
「いや……別に……」
思わず目を逸らしてしまう。嘘は苦手なのに。
「別にじゃないでしょ。なにか隠してる。そんな顔してる」
「そんな顔?」
彼の声は柔らかいけど、確信に満ちている。
「……そんなに分かりやすかった?」
私の問いかけにアーサー微笑む。
「君の顔を見ればわかるよ。だって、ずっと見てたんだから」
彼の瞳が鋭くなる。
「何かあったんでしょ?僕に話してみてよ」
「でも……」
「遠慮しないで」
アーサーの視線から逃れようとして視線を泳がせる。
病室の白い壁が、夕方の光を吸い込んで淡くオレンジに染まっていた。
ベッドの上の彼は、枕に背を預けたまま、じっと私の顔を見ていた。
その視線があまりにまっすぐで、私は、やっぱり彼の目が見れずうつむいた。
「……最近、学校で、何かあった?」
彼の声は柔らかい。けれど、その穏やかさの奥に、逃げ道を塞ぐような真剣さがあった。
「別に、なんでもないよ」
笑ってみせる。けれど、自分でもわかる。うまく笑えていない。
彼は何も言わずに、ベッドの上から伸ばした指先で、そっと私の手を包んだ。
点滴のチューブが腕から延びているのに、その手は不思議なほどあたたかかった。
「本当になんでもないの?」
その一言で、心の奥を優しく撫でられた気がして、言葉が詰まった。
――嘘をつくのが、苦しくなる。
「みんな心配してるんだよ。アリシアが学校で浮いてるって聞いて……」
「浮いてる?」
「うん。ミアさんと揉めたんだって?」
「揉めたって……ちょっとした言い合いをしただけよ」
「その言い合いが問題なんだよ」
アーサーがベッドから身を起こす。点滴のチューブが微かに揺れる。
「ねえアリシア。本当のことを教えてよ。何があったの?」
私は黙り込んだ。言えなかった。
「何もないわ」
「アリシア……」
アーサーの声が悲しげに沈む。
「僕は君を守れないかもしれないけど……話を聞くことはできるよ」
その優しさが逆に痛かった。
「ごめんなさい。今は話せないの」
「そう……」
私は話を変えようと椅子から立ち上がった。
「それより早く治して学校に来てね」
「うん……」
アーサーが何か言いかけた時、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
アーサーが応えると、扉がゆっくりと開いた。
そこに立っていたのはミアだった。予想外の訪問者に私は息を飲む。彼女の目が大きく見開かれ、次の瞬間には鋭く尖った。
「おはよう」
「……おはよう」
「昨日は失礼した。言い過ぎたよ」
「大丈夫……」
「顔色が悪い。どうかしたのか」
あまりの白々しい言葉に、一瞬で頭に血が上り、カッとなって言葉が考えるより先に出た。
「もう大丈夫だから、放っておいてよ!」
「アリシア」
私の叫び声に、ルドルフは痛ましいものを見たような、哀れみを含んだ表情で私を見てくる。その表情がより一層、私をイライラさせた。誰のせいで、私がこんなことを言うはめになったと思っているんだ。どうして放っておいてくれないんだ。
「わ、私は、アーサーの恋人になったの。だから、ルドルフはもう私に優しくしてくれなくていいから!」
「……」
「ひ、」
私の言葉に、ルドルフの顔からすべての表情が消えた。
その無表情な顔が恐ろしく見えて私は思わず逃げ出した。
逃げた私をルドルフが追いかけてくることはなかった。それから、学校でルドルフの姿が見えたら、徹底的に避けていた。ルドルフからも何か言ってくることはない。私が彼を避けるのは、これで二度目。そろそろ、ルドルフだって私にうんざりしているだろう。優しくしているのに、避けているのだから。でも、しかたない。だって、仮にも恋人がいる身で、他の男性と仲良くしているのは、アーサーに悪いと思ったからだ。だから、これでいいんだ。
その日は、アーサーとの面会があったので、学校から帰ったらすぐに病院に向かった。
「調子はどう?」
「暇だね」
「それはよかった」
「僕も早く学校に通いたいよ。……ところで、」
「どうしたの?」
アーサーが私の方に身を乗り出して聞いてくる。彼の真っ直ぐな瞳が私を射抜く。
「僕に隠していることがあるんじゃない?」
「いや……別に……」
思わず目を逸らしてしまう。嘘は苦手なのに。
「別にじゃないでしょ。なにか隠してる。そんな顔してる」
「そんな顔?」
彼の声は柔らかいけど、確信に満ちている。
「……そんなに分かりやすかった?」
私の問いかけにアーサー微笑む。
「君の顔を見ればわかるよ。だって、ずっと見てたんだから」
彼の瞳が鋭くなる。
「何かあったんでしょ?僕に話してみてよ」
「でも……」
「遠慮しないで」
アーサーの視線から逃れようとして視線を泳がせる。
病室の白い壁が、夕方の光を吸い込んで淡くオレンジに染まっていた。
ベッドの上の彼は、枕に背を預けたまま、じっと私の顔を見ていた。
その視線があまりにまっすぐで、私は、やっぱり彼の目が見れずうつむいた。
「……最近、学校で、何かあった?」
彼の声は柔らかい。けれど、その穏やかさの奥に、逃げ道を塞ぐような真剣さがあった。
「別に、なんでもないよ」
笑ってみせる。けれど、自分でもわかる。うまく笑えていない。
彼は何も言わずに、ベッドの上から伸ばした指先で、そっと私の手を包んだ。
点滴のチューブが腕から延びているのに、その手は不思議なほどあたたかかった。
「本当になんでもないの?」
その一言で、心の奥を優しく撫でられた気がして、言葉が詰まった。
――嘘をつくのが、苦しくなる。
「みんな心配してるんだよ。アリシアが学校で浮いてるって聞いて……」
「浮いてる?」
「うん。ミアさんと揉めたんだって?」
「揉めたって……ちょっとした言い合いをしただけよ」
「その言い合いが問題なんだよ」
アーサーがベッドから身を起こす。点滴のチューブが微かに揺れる。
「ねえアリシア。本当のことを教えてよ。何があったの?」
私は黙り込んだ。言えなかった。
「何もないわ」
「アリシア……」
アーサーの声が悲しげに沈む。
「僕は君を守れないかもしれないけど……話を聞くことはできるよ」
その優しさが逆に痛かった。
「ごめんなさい。今は話せないの」
「そう……」
私は話を変えようと椅子から立ち上がった。
「それより早く治して学校に来てね」
「うん……」
アーサーが何か言いかけた時、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
アーサーが応えると、扉がゆっくりと開いた。
そこに立っていたのはミアだった。予想外の訪問者に私は息を飲む。彼女の目が大きく見開かれ、次の瞬間には鋭く尖った。
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