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嘘です。
そんな…今まで、私は律儀に…えぇ。自分でも言うのもなんですが、律儀にあのバカヴィクターのやって来たことを見逃し、許容し、なんなら、守っても来ていました。ですが、まさか人違いだったとは!!!
こんな…色々な人に迷惑や心配をかけさせておいて、人違いだったなんて…。こんな恥以外の何物でもありません。

「ああ…私、今でしたら、どこの国にでも嫁いで行ける気がします」
「それは困る!」
「王子…しかし、私は、ずっとあなたをヴィクターと勘違いしていたのです」
「兄上と僕を?なぜ?」
「なぜでしょう…なぜ、ヴィクターはあの時、髪色を銀にしていたのでしょうか」
「……ああ。そんなこともあったね。あの時の兄上は、周りから色々言われていて大変だったらしい。だから、外見だけでも僕たちに似せようと必死だったそうだけど。それより努力すべき場所は、たくさんあったのにね。おかしな人」
「そうだった…のですか」

確かに小さいころののヴィクターは、周りからさんざん容姿のことで言われていたそうです。髪色と瞳の色は、王族の血が流れていることを示すものでもありましたから、それを継いでいないヴィクターが色々と言われるのは、かわいそうなことですし、どうしようもないことでもあるのですが、容姿のことを言ってくる人間は、どこの時代にもいるものです。ましてや、王族のこととなれば、うるさい人間がいなくなるのはありえません。
そして、小さなヴィクターは、それに対してずいぶんと心を削られていたようでした。
そして、髪色だけでもと思ったのでしょう。
小さなヴィクターは、髪を染めたのです。
自分の父と弟たちと同じ銀色に。
…それがいつからでしょうか。
元の色に戻したのは。

…。
思い出しました。
私と婚約をしたとき。
そして、自身が王太子になった時ですね。
彼は、初めて王族として認められたと思ったのでしょう。
そして、王太子という身分は、自分の容姿がどんなものであれ、覆ることはありません。
だから、彼は、髪の色を元に戻したのです。
そして、それから鬱屈した気持ちを晴らすように彼は、何の努力もしなくなったのです。
私は、自分が間違った相手と婚約したことに気づかないまま、小さな約束を果たそうとして、我慢し続けたのです。
そして、今、私はあの時約束した本当の相手を知った。

「も、申し訳ございません。…王子にも、そのご迷惑を…」
「そんなのどうでもいいから、僕と婚約してくれるよね?隣の国との婚約はなしにしてくれるよね?」
「え、ええ。まぁ、父に聞いてみなくては分かりませんが」
「じゃあ、さっそく君の父上に話に行こう」
「え、ええ!?」
「こういうのは、早いほうがいい。君の父上は、王族なんてうんざりしているかもしれないけど、こっちは真剣なんだから」
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