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そうして、イントリア王国から帰国したアデラは、ティガ帝国産の宝石を取り扱う事業を始めた。
最初はティガ帝国のイリッタ公爵令嬢、リンダがデザインした宝石を中心に販売することになっている。
彼女から預かった装飾品はイントリア王国でもすぐに評判になった。
リンダがイントリア王国に移住を希望した職人を紹介してくれたので、生産体制が整えば、工房を立ち上げる予定である。
「問題は、デザインよね」
アデラは、イリッタ王国から送られてきた装飾品を並べて、そう呟く。
ティガ帝国では華やかで美しいデザインが好まれるが、この国では可愛らしいデザインが好まれる傾向にある。
だからアデラも、最初はこの国の流行に合わせた商品を作る予定だった。
けれど、リンダから預かった試作品は、どれも好評で、宝石に合うように、ドレスのデザインを変えた令嬢までいた。
どうやらこの宝石がティガ帝国しか採掘できない貴重なものであることも相まって、帝国風のデザインの方が好まれるようだ。
(それなら装飾品だけではなく、ドレスも帝国風のものを用意してみても良いのかもしれない)
あまりティガ帝国のものばかりだと反発する者もいるだろうが、流行はすぐに移り変わるものだ。今はティガ帝国の特産だということを全面に出して、少しずつオリジナル色を出していけばいいのではないか。
そう結論を出したアデラは、それをテレンスに相談してみた。
「そうだね。アデラの方法が正しいと思う。今は、ティガ帝国の特産であることを全面に出して、デザインもそちらに寄せてみよう」
幸いなことに、ティガ帝国風の大人びたデザインは、アデラによく似合っている。宣伝も兼ねて、しばらくは頻繁に夜会に参加してみた。
結果としては、それが評判になり、ティガ帝国産の宝石への関心が高まったようだ。
「装飾品やドレスを扱う商会を立ち上げなくてはならないが、ここはやはり、アデラが代表となるべきだ」
ふたりで話し合っているときにそう言われて、アデラは喜びよりも困惑が勝って、テレンスを見上げる。
「でも」
基本的にこの国の女性は、表舞台に出ることはない。それはアデラも同じで、たとえデザインやドレスはアデラが中心となって考えてはいても、商会の代表は父かテレンスになるだろうと思っていた。
「扱う商品から考えても、アデラの方がいいと思う。イリッタ公爵令嬢のように、いずれデザインもできるようになれば、完璧だ」
「私が……」
女性が代表となることに、反発もあるだろう。父も、簡単には許してくれないかもしれない。
けれど、外交官の話が出たときに思ったように、今さらだ。
二度も婚約が解消され、たとえアデラに非がなかったとしても、評判は落ちてしまっている。
だったらここは思い切って、表に出るべきではないか。
「正直に言うと、自信はないわ。でも、やってみたい」
そう告げると、テレンスは優しく笑って頷いた。
「私も、できる限り手助けをする。だからふたりで頑張ってみよう」
ふたりでと言ってくれたのが嬉しくて、アデラも笑って頷いた。
父を説得するのは、大変だろうと思っていた。
だからアデラは、テレンスに手伝ってもらって、事前に事業内容に関する資料を作り、それを父の前で説明する。
緊張したが、予想以上にあっさりと、父は許可を出してくれた。
「たしかにこの内容ならば、女性が代表のほうがいいだろう。今はティガ帝国でのふたりの活躍も、噂になっている」
あの事件があって帰国したあと、ローレンはイントリア王国の国王宛に、アデラのテレンスのお陰でスリーダ王国の元王太子のこと、そしてティガ帝国内の問題が解決して、感謝していると伝えてくれたのだ。
そのことでふたりはイントリア王国の王太子に呼び出され、感謝の言葉を伝えてもらっている。
さらにリィーダ侯爵家にだけ、ティガ帝国産の宝石の販売権が与えられたこともあり、今やアデラは時の人となりつつある。
そんなアデラが、イントリア王国では女性で初めて商会を立ち上げる。その話題性を、父も理解していたようだ。
「そうなれば、次期侯爵よりもリィーダ侯爵家夫妻が事業を立ち上げたと言う方が、評判になるだろう」
さらにそう言って、アデラとテレンスが結婚し、リィーダ侯爵家を継ぐことが、商会を認める条件だと言った。
スリーダ王国の元王太子の件も解決し、ふたりが急いで結婚する理由はなくなった。けれどやはり父は、アデラが二度も婚約を解消されていることを、気にしているようだ。
一刻も早くふたりの結婚式を挙げて、テレンスに爵位を譲り、自分は領地の運営に専念したいのだろう。
「わかりました」
アデラが驚いているうちに、テレンスは即答していた。
「うむ」
嬉しそうに頷く父に、アデラも気を取り直して返答する。
「はい。ふたりで頑張っていきます」
「ただ、しばらくは領地にまで手が回らないかもしれません」
テレンスがそう言うと、父はすぐにこう答えた。
「もちろんだ。そこは、私が補佐しよう」
急な話に驚いたが、アデラにとっても、二度の婚約解消のことは、今でも忘れられない出来事だ。
テレンスなら、あのふたりのようにアデラを裏切ることはないと信じていても、結婚すれば安心するだろう。
こうしてふたりは、結婚式の予定を大幅に早めることになった。
最初はティガ帝国のイリッタ公爵令嬢、リンダがデザインした宝石を中心に販売することになっている。
彼女から預かった装飾品はイントリア王国でもすぐに評判になった。
リンダがイントリア王国に移住を希望した職人を紹介してくれたので、生産体制が整えば、工房を立ち上げる予定である。
「問題は、デザインよね」
アデラは、イリッタ王国から送られてきた装飾品を並べて、そう呟く。
ティガ帝国では華やかで美しいデザインが好まれるが、この国では可愛らしいデザインが好まれる傾向にある。
だからアデラも、最初はこの国の流行に合わせた商品を作る予定だった。
けれど、リンダから預かった試作品は、どれも好評で、宝石に合うように、ドレスのデザインを変えた令嬢までいた。
どうやらこの宝石がティガ帝国しか採掘できない貴重なものであることも相まって、帝国風のデザインの方が好まれるようだ。
(それなら装飾品だけではなく、ドレスも帝国風のものを用意してみても良いのかもしれない)
あまりティガ帝国のものばかりだと反発する者もいるだろうが、流行はすぐに移り変わるものだ。今はティガ帝国の特産だということを全面に出して、少しずつオリジナル色を出していけばいいのではないか。
そう結論を出したアデラは、それをテレンスに相談してみた。
「そうだね。アデラの方法が正しいと思う。今は、ティガ帝国の特産であることを全面に出して、デザインもそちらに寄せてみよう」
幸いなことに、ティガ帝国風の大人びたデザインは、アデラによく似合っている。宣伝も兼ねて、しばらくは頻繁に夜会に参加してみた。
結果としては、それが評判になり、ティガ帝国産の宝石への関心が高まったようだ。
「装飾品やドレスを扱う商会を立ち上げなくてはならないが、ここはやはり、アデラが代表となるべきだ」
ふたりで話し合っているときにそう言われて、アデラは喜びよりも困惑が勝って、テレンスを見上げる。
「でも」
基本的にこの国の女性は、表舞台に出ることはない。それはアデラも同じで、たとえデザインやドレスはアデラが中心となって考えてはいても、商会の代表は父かテレンスになるだろうと思っていた。
「扱う商品から考えても、アデラの方がいいと思う。イリッタ公爵令嬢のように、いずれデザインもできるようになれば、完璧だ」
「私が……」
女性が代表となることに、反発もあるだろう。父も、簡単には許してくれないかもしれない。
けれど、外交官の話が出たときに思ったように、今さらだ。
二度も婚約が解消され、たとえアデラに非がなかったとしても、評判は落ちてしまっている。
だったらここは思い切って、表に出るべきではないか。
「正直に言うと、自信はないわ。でも、やってみたい」
そう告げると、テレンスは優しく笑って頷いた。
「私も、できる限り手助けをする。だからふたりで頑張ってみよう」
ふたりでと言ってくれたのが嬉しくて、アデラも笑って頷いた。
父を説得するのは、大変だろうと思っていた。
だからアデラは、テレンスに手伝ってもらって、事前に事業内容に関する資料を作り、それを父の前で説明する。
緊張したが、予想以上にあっさりと、父は許可を出してくれた。
「たしかにこの内容ならば、女性が代表のほうがいいだろう。今はティガ帝国でのふたりの活躍も、噂になっている」
あの事件があって帰国したあと、ローレンはイントリア王国の国王宛に、アデラのテレンスのお陰でスリーダ王国の元王太子のこと、そしてティガ帝国内の問題が解決して、感謝していると伝えてくれたのだ。
そのことでふたりはイントリア王国の王太子に呼び出され、感謝の言葉を伝えてもらっている。
さらにリィーダ侯爵家にだけ、ティガ帝国産の宝石の販売権が与えられたこともあり、今やアデラは時の人となりつつある。
そんなアデラが、イントリア王国では女性で初めて商会を立ち上げる。その話題性を、父も理解していたようだ。
「そうなれば、次期侯爵よりもリィーダ侯爵家夫妻が事業を立ち上げたと言う方が、評判になるだろう」
さらにそう言って、アデラとテレンスが結婚し、リィーダ侯爵家を継ぐことが、商会を認める条件だと言った。
スリーダ王国の元王太子の件も解決し、ふたりが急いで結婚する理由はなくなった。けれどやはり父は、アデラが二度も婚約を解消されていることを、気にしているようだ。
一刻も早くふたりの結婚式を挙げて、テレンスに爵位を譲り、自分は領地の運営に専念したいのだろう。
「わかりました」
アデラが驚いているうちに、テレンスは即答していた。
「うむ」
嬉しそうに頷く父に、アデラも気を取り直して返答する。
「はい。ふたりで頑張っていきます」
「ただ、しばらくは領地にまで手が回らないかもしれません」
テレンスがそう言うと、父はすぐにこう答えた。
「もちろんだ。そこは、私が補佐しよう」
急な話に驚いたが、アデラにとっても、二度の婚約解消のことは、今でも忘れられない出来事だ。
テレンスなら、あのふたりのようにアデラを裏切ることはないと信じていても、結婚すれば安心するだろう。
こうしてふたりは、結婚式の予定を大幅に早めることになった。
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