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60話 他視点

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「また教団への寄付が減っております」

 大神殿の大司教の執務室にて何度目かになる報告に大司教はため息をついた。
 ルヴァイス達がファテナの花を広めてもう5ケ月。
 大司教はルヴァイスを跪かせるどころか自分たちが王国に資金援助を頼まねばいけぬ立場に追い込まれつつある。

 この800年間。
 国を、竜人の威厳をまもってきた竜神官が。
 守り続けたラウシャ教団がもしかしたら権威を失うかもしれない。

 あの番のソフィア。あれが邪魔だ。

 失われたエルフの血筋。
 それだけでこの世界では神聖視されるだろう。

 エルフは神々に直接仕える誇り高き種族。
 キュイが手に入れられない事で世界に聖気を蒔くこともままならない状況の中では、竜神官ごときがかなうわけがない。

 このままでは竜神官は終わりだ。
 自らの代で。先代の作った教団が。
 この国を陰から守っていた偉大なるラウシャ教団が。

 そんなこと絶対に許すものか。

「大司教様」

「なんだ?」

「検問で面白いものがかかりました」

「面白いもの?」

「リザイア家の娘。ソフィアの姉デイジアです」

「……リザイア家の?なぜそのようなものが」

「ソフィアに会わせろと騒ぎたてています、どういたしましょうか?
 王国に引き渡しますか? 竜王に恩を売るのに絶好の機会かと思われますが」

「……いや、確かその女は【セスナの炎】をつかったと言っていたな?」

「はっ」

「面白い。その女を連れてこい」


 ◆◆◆


「離しなさいよ!!私を誰だとおもっているの!?」

 リザイア家の神殿を逃げ出した後。
 デイジアはアルベルトにすがったが、結局は相手にもされず追い返された。
 結局気の弱い従者とともに、館から持ってきた貴金属などを売り払らい、リザイア家の追跡を逃れながら逃亡生活をおくっていた。
 だが館から持ってきた貴金属の金も尽き従者にも見放されたデイジアは、一人竜王国まできたのだが、検問で竜神官に捕らえられてしまった。
 小さな一室に連れてこられ、椅子に座らせたまま手首を拘束されている。

「これは失礼いたしました。デイジア様」

「あなたは」

「竜神官大司教ルグミラです」

 拘束されたままのデイジアに大司教は優雅に微笑んだ。

「私はリザイア家の聖女よ!!離しなさい!!」

「ええ、歓迎いたしますよ聖女様。竜王国にもいろいろ決まりがありまして、手荒な真似になったことをお詫び申し上げます」

「え?」

 大司教の答えに、デイジアは固まった。

 ――聖女様――

(久しぶりの輝かしい響き。
 そうよ、私だってちょっと前までは聖女と崇め奉られていたのに、なぜ今はリザイア家から追い出されソフィアに復讐するはずが、騙されて有り金を全部取られて竜王国前で馬車からおいていかれて、捕まらなきゃならないのよ!)

 なんとか自力で街道を歩いて竜王国に入ろうとしたその先で竜神官達につかまったのである。

「わ、私が誰だかわかって言っているのよね?」

 デイジアが大司教に聞き返す。
 いままでさんざん馬鹿にされてきただけに、このような歓迎を素直に受け止めることができなかったからだ。

「はい。もちろんでございます。
 なぜここにいらっしゃったのかも、十分理解しておりますよ。
 その夢、わたくしがかなえてあげましょう」

 そういって大司教は微笑んだ。




「私が竜人の聖女に?」

 大きな広場に通されて、手首の拘束を外され豪勢な食事の並べられたテーブルでデイジアは大司教の説明に詰め寄った。

「はい、左様でございます。
 あなた様の【聖気】は魂に宿っております。
 竜人の娘と魂と体を入れ替えて、竜人になれば、あなたは初の竜人で聖気をもつ聖女としてエルフの子ソフィアよりも上位の存在となれるでしょう。
 デイジアとしての汚名もすべてなかったことにできます」


「それは間違いないのですか!?」

「はい。間違いありません。ただし魂の交換はかなりの痛みを伴いますがよろしいですか?」

「やりますっ!!もちろんやりますとも!!」

 そうよ!!ソフィアを超えるためならなんだってやるわ!!
 観てなさいソフィア!! 竜王国でほめたたえられる存在になるのは私デイジア。
 あなたじゃない!

◆◆◆


「大司教様!!」

 デイジアに一人食事を楽しめと、部屋に残して廊下を歩いていた大司教に司教の一人が詰め寄った。

「なんだ?」

「よろしいのですか、あのような人間の小娘と誇り高き竜人の娘の魂を入れ替えるなど!!」

「聖獣も手に入らない状態で【金色の聖女】を祭り上げる以外我々に力を取り戻す機会はあるか?」

「そ、それは……」

「あの女の魂は【セスナの炎】で一度ソフィアの魂から力を奪ったおかげで魂に通路ができている。
 転魂も難しいことではない。
 今すぐ消息がわからなくなってもおかしくない身分の見目麗しい竜人の娘を連れてこい」

「で、ですが……」

「いうことを聞けないのか?」

「い、いえ、滅相もありません」

 銀髪の司教は仰々しく頭をさげ大司教のもとから立ち去る。
 
(最近大司教様の様子がおかしい、本当にあの人についていって大丈夫だろうか?)

 …と一抹の不安を抱えながら。


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