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71話 聖獣クロム
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狼型聖獣クロムは慌てふためく人間を見下ろしてそう思った。
エルフが魔王との闘いで、この世界に被害がでないようにと天界に去った後。
聖気で満ちた世界を人間達が支配した。
人間達はエルフがどうしても困ったときに育てるようにと、聖気を過剰に吸い、急速に育つ植物を、あっという間に世界中に広めてしまった。
すぐ実り味がいいと、全世界の作物を品種改良した作物にしてしまったのだ。
そのために世界でおきたのが【聖気】の不足。
【聖気】を供給する量より窃取する量の方が上回ってしまった。
人間はエルフと違って寿命が短い。そのせいで情報がうまく伝達されず、【聖気】の必要のない作物の種を不要とほぼ死滅させてしまったのである。
時が経つうちに、世界に存在する聖気より、作物が必要とする聖気が上回り、次第にエルフの改良した作物は聖獣たちの【聖気】をも吸い取りはじめたのだ。
聖獣は降魔戦争の時の傷の回復がままならぬまま、最後には世界中に存在する作物に【聖気】を奪われる。
聖獣たちは力をふるう事すらできずに、人間たちの横暴に耐えるしかなかった。
エルフたちも魔族との長き戦いに苦戦していて地上にまで手が回らない。
竜人たちも結局は人間と似たような行動をしていて、世界のことなど見ていない。
聖獣クロムも力が弱ったところを竜神官達に捕らえられ、【聖気】の供給装置として扱われてた。
そして力のすべてを奪われ、ほぼ魔獣化しかけている。
一気に聖杯ファントリウムから【聖気】を吸われセスナの炎の呪いをうけたせいで、体内にある【聖気】で封印していたはずの【瘴気】があふれ出してしまったのだ。
魔獣と聖獣は表裏一体。
彼らは魔獣であり聖獣でもあるのだ。
(……もう理性が保てない)
神官達が封印の力を強めようとしているが、自我を失えば魔獣化したクロムならこのような結界はやすやすと打ち破るだろう。
そしてこの地に住む竜人を倒されるまでむさぼり食らうことになる。
(それもいいかもしれぬ。われの【聖気】をこの600年摂取し続けた竜人たちを守る必要があるだろうか?)
クロムがぐるると牙を向けたその時。
一人の男がクロムに向かってくるのが見えた。
(ああ、まずはあいつから食らってやろう)
クロムは黒い霧を放ちながらやすやすと結界を破るのだった。
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