私立白百合女子高校〜百合の花束とアイソトープ〜

初瀬四季[ハツセシキ]

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百合の国

百合裁判

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‪「知らなかったんだ! 許してくれ!」

 被告人の男は涙ながらに頭をさげる。

「そうか。知らなかったのなら仕方がないな。己の無知を憎むがいい。ーー判決死刑」

 裁判長が裁定を下す。

「な、なんで⁉︎  嫌だ! 助けてくれ! 本当に知らなかったんだ! こんな法律があったなんて! やめろぉ! 触るな! 俺は無実だ!」‬

 男が暴れ出す。それを警備兵が制圧する。

「おかしいだろ! なんだよこの裁判! 弁護人も、弁明の機会さえない裁判なんて! 俺は! 俺はただ! 可愛い女の子達と遊ぼうとしただけなのに!」

 警備兵が男を気絶させ退廷させる。それを見送りながら、裁判長は深々とため息をつく。

「全く嘆かわしい。百合を解しない人間はこれだから。しかしあの男、あの年までよく生きてこられたものだ。この国であんな行動をとれば、問答無用で死刑になるというのに」

「どうやら、国外からの旅行者だったようです」

 裁判員の一人が裁判長に進言する。

「なるほどな。通りで、我々とは相容れない価値観を持っていた訳だ。全く、検閲は何をしているのやら。こうも毎日国外からの犯罪者を送り込まれては、我々は休む暇もないではないか」

 裁判長が肩をグルグルまわしながら、ぶつぶつと愚痴をこぼす。

「裁判長。次の裁判の時間が迫っています」

 裁判員の一人が資料を手渡しする。裁判長はふぅと短く息を吐き出すと、資料に目を通しはじめる。

「ふむ。っ⁉︎ これは!」

 裁判長は目を見開くと、他の裁判員たちと視線を交わす。

「では、被告人。入廷してください」

 入ってきたのは、小学生くらいの子供だった。

「被告人は名前と職業。それと、性別を」

「佐々小百合。小学四年生です。性別はーー」

 その時、外で花火の音が鳴る。その音にかき消され、性別は誰の耳にも届かなかった。

「ーー今日は何か祭りでもありましたか?」

「さぁ。特に覚えがありませんが」

 裁判員たちが話し出す。裁判長が静粛にとそれを咎める。

「被告人。もう一度性別を教えて頂けますか?」

「ぼくはーーです」

 その言葉は連続であがった花火によりかき消された。

「どうやら、この資料に間違いはないようですね。被告人は性別不詳。しかし、学校の女子生徒と関係をもったと。間違いありませんね? 被告人?」

 裁判長の言葉に被告人の子供が反論するように口を開く。

「いえ、ですから、ぼくはーーです!」

 しかしその言葉は、たまたま近くを通った選挙カーの応援演説にかき消される。

「これは、間違い無いですね。裁判長! 判決を!」

「いやいやおかしいでしょ! ぼくさっきから性別言ってるのに! というか、判決早すぎないですか⁉︎ まだ、証拠の提出とか色々やってないでしょう⁉︎」

「まだ、この後に裁判が残っているので」

 食い下がる被告人を一蹴すると、裁判長は判決を言い渡す。

「被告人には懲役三年執行猶予五年が妥当でしょう。この五年のうちに性別が判明したらまた会いましょう。それでは退廷を」

「いや、だからぼくはーーなんですってば!」

 被告人の言葉は勢いよく開かれたドアの音にかき消され、そのまま警備兵が連れ立って退廷した。

「難しい裁判でしたね。まさか性別不詳の人間が存在するとは。役所の戸籍はどうなっているのでしょうか?」

「これは想像の域を出ないのですが、戸籍自体は存在するのでしょう。ただそれを確認しようとすれば、何か作為的な力で妨害され、判別が不可能になるのでは無いでしょうか?」

 裁判員たちが口々に話しだす。その間に新しい資料が配られる。

「これが今日最後の裁判資料ですか」

 裁判長が首をコキリと鳴らしながら、資料に目を通しはじめる。暫く眺めていたかと思うと、喉を鳴らし、食い気味に被告人への入廷を指示する。

「被告人! 入廷を! 入廷をお願いします!」

 入ってきたのは、黒い髪を肩口まで伸ばした制服姿の女子高生だった。

「被告人は名前と職業。性別をお願いします」

「狭山ゆり。白百合女子高校の二年生です。性別は見ての通りです」

 裁判長はゴクリと喉を鳴らす。

「資料によると、被告人は金髪の同級生と、密室でお弁当を食べさせあったとありますが、これは事実ですか?」

「それが何か問題ですか?」

 裁判長は慎重に言葉を重ねる。

「その際、タマゴサンドを口移しで食べさせたというのは、事実でしょうか?」

「まぁ、成り行きで」

 裁判長は、はぁと感嘆のため息をもらし、席に深く腰掛ける。
 裁判員たちも皆一様にため息をもらすものもあれば、腕を組んで頷くものもいた。

「これは満場一致ということで構いませんね?」

 裁判長の言葉に他の裁判員たちが頷く。

「判決を申し上げます」

 裁判長は、一瞬間を置くと続ける。

「被告人は尊死」
 


 裁判所の外ではマスコミ各社が人だかりを作っていた。
 そこに一人の女子高生が二つ折りの紙を持って走りよる。
 そして、紙をパッと広げる。

「尊死! 尊死です! 注目の裁判の結果は尊死!」
 
 キャスターがカメラ越しにその情報を伝える。それを聞きながら、リリーはトーストをかじる。

「変な国」

 
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