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55 黄島さんは上川君のことが気になる
しおりを挟む「あれでもない、これでもない」
私は自分の部屋のコレクションを物色するのに必死だった。
「何で俺まで……。つーか、22世紀のネズミが嫌いな猫型ロボットかよ」
ブツクサ文句を言う彩翔を尻目に、私はお目当てのユニットを探すのに必死だった。
ボーカルダンスグループ“COLORS”
今をときめく実力派、男女混合3人組グループ。蒼司、朱音、翠で構成されていた。3人とも歌えるし、作曲もする。音楽以外にも俳優活動、バラエティー番組にも出演して実質、アイドルのようにマルチ活動を展開していた。
でも、と思う。COLORSを語るうえで、たった一年だけ在籍した、真冬という少年のことが外せない。ハイトーンボイスの三人と見比べれば、地味という評価が先立つ。でも、彼のハモリはCOLORSの音楽を際立たせた。ファーストアルバム「Good bye Nautilus」が名盤と言われた理由だ。
でも彼はライブ終了後、脱退をする。彼が残したメッセージは――。
『他のみんなの足を引っ張りたくないんだ』
蒼司たちが、意外そうな顔をしたのを今でも覚えている。なんでって、脱退前ライブに私は、ひかちゃんや湊、おまけに無理やり連れて行った彩翔と参加したからだ。
「これじゃないの?」
彩翔がお目当てのブルーレイディスクを見つけてくれた。お礼もソコソコに、デッキで再生する。
あの日のライブが流れて――。
「やっぱり……」
と私は呟いた。
画面では脱退した真冬が、ソロパートを歌っているところだった。
長い髪で、双眸が隠れている少年は――私が知っている、あの人に酷似していた。
■■■
「なぁ、黄島さん?」
上にゃんが私に声をかけた。
今日もゆっきのお弁当を幸せそうに食べたいた上にゃん。
弥生先生と瑛真先輩が、今か今かと上にゃんとゆっきの馴れ初めエピソードを聞きたいとウズウズしていた。
私のめくるめく思考は打ち消される。上にゃんは、私の気持ちなんか知るはずもない。彼はいつもと同様に、特定の人――雪姫限定の笑顔を見せた。
「ちょっと相談があるんだけどさ」
「へ?」
ひかちゃんも瑛真先輩も弥生先生も何事かと目を点にした。
と、上にゃんが取り出したのは女性用ファッション誌だった。
「雪姫ってさ、この髪型が似合うと思わない?」
「へ? え?」
「で、この髪だと。こういうワンピースとか、絶対可愛いと思うんだよね。あえてこういうパンツスタイルも良いかなぁって。女性目線の意見も教えて欲しいなぁ、って」
「えっと、上にゃん。それって……雪姫の、ってことだよね?」
「もちろん」
今の雪姫の髪型は、どちらかというと地味で、高校生にしては野暮ったい。上にゃんが見せた髪型やファッションは、今の雪姫には少し不釣り合いな気がした。可愛いならまだ分かる。でも綺麗を見せるファッションを上にゃんはコーディネートしようとしていて――私から見ても、かなりハードルが高い。
「絶対、可愛くなると思うんだよ。もちろん、今でも雪姫は可愛いんだけどさ」
あのね上にゃん。遠慮がなくなったのは良いことだよ。大変良いことだ思うの。でもね無自覚に惚気けるの止めてもらえないかな? そうでなくても彩翔・湊カップルのせいで、私のライフは日々削られているわけ。それがさらにトドメを刺すように、空っちと天音さんの無自覚カップルのエンカウント。おかげで私のライフもうゼロ。ゼロなの。それなのに……。雪姫がココにいないのに、それ以上の甘さを私に提供してくるのは、なんのイヤガラセなのかな、上にゃん? 私だってひかちゃんと、もっと近付きたいんだから――!
でも、そんなヤツアタリを溢すワケにもいかないので、私は真面目に答えた。
「今までのイメージが強いから、ちょっと想像がつかないけれど……確かに可愛いと、思うよ?」
「だよね。やっぱり黄島さんもそう思うよね?」
ニパッと笑顔を向ける。上にゃんは手でチョキと作り、イメージしている。多分、その向こう側には雪姫を思い描いているのは間違いないんだろうな、と思う。
「さて。じゃぁ、そろそろ上川くんと下河さんの経緯を教えてもらおうかな」
弥生先生がウキウキした表情を隠さずに言う。
「ずっと上川君のこと心配していたのに、私には何の報告もなかったんだもん。冬希、私は寂しかったんだゾ」
「はい、アウトです!」
指の腹で上にゃんの喉元を撫でる弥生先生に、私は問答無用で評価した。
「えー? なんでよー?」
意味が分からないと先生はプンプン拗ねてみせるが、アウトどころかじゃない。もうレッドカードだ。
「あのですね、弥生先生。私、言いましたよね? ゆっきにとって、上にゃんが唯一の拠り所なんです。これは言い換えると、上にゃんを介しての接点が、唯一ゆっきとつながる方法なんです。そこを蔑ろにしたら、ゆっきは簡単にダークサイドに堕ちますからね」
「ハハハ、そんな大袈裟な」
「上にゃんは黙ってて」
「えー?」
私は本気で言っている。ゆっきが学校に行きたいという気持ちを変わらず抱いてくれていることが嬉しい。文芸部にも戻ってきて欲しい。でも、それは上にゃんがゆっきの隣にいることが前提だ。兎に角ゆっきには自信がない。
『こんな私――』
そうゆっきが思っているぐらいに自信が欠けているし、自己評価が低い。
そんななか、雪姫以外の誰かが上にゃんのパーソナルスペースに入り込んでいたら。ゆっきの感情はあっさり崩れていく。それは日曜日、町内清掃とピクニックで私は目の当たりにしたのだ。
「最近、上にゃんとひかちゃん、仲良いですよね?」
「そうね。担任としても、上川君が他のお友達と交流できたってのは安心してる」
「でもゆっき、ひかちゃんと上にゃんの仲良しっぷりにヤキモチ妬きましたからね」
「え?」
流石の弥生先生も表情がピシリと固まる。ゴクリと弥生先生が唾を飲み込む音が聞こえた。
「……えっと、二人はそういう関係? それはそれで有りかも――」
「「そんなわけあるか!」」
上にゃんとひかちゃん、息ぴったり。でも、ごめんね。実は私もちょっとアリかもって思った。次の作品に活かさせてもらうかも。いや、それはそれとして。はい、ちょっと仕切り直そう。
「それから瑛真先輩?」
「……私?」
「先輩も上にゃんと仲良いですよね」
「そ、そりゃ。うちの店でバイトをしてるし上川君。でもそれだけだよ? あの二人の間にに入り込むなんて絶対に無理だから――むしろ、下河さんを見るくらい、もっと上川君、私を見て欲しかったよ……」
そりゃ、そうだ。それは私も同感。でも瑛真先輩、後半ボソボソ呟いて何故かモジモジして。私、よく聞こえなかったんですけど?
「ゆっき、ほんの些細な変化で不安になりやすいですから。そこは少し配慮してあげたいって思うんです。でも、その不安をすぐに解消しちゃうのも上にゃんなんですけどね」
しみじみと私は言う。
「俺?」
上にゃんは目をパチパチさせるが、何を今さら。そうだよ。キーパーソンは君しか有り得ないんだから。
病みそうなぐらい。下手をしたら見失いそうになるぐらい、雪姫は不安に陥っちゃう。でも君の躊躇いのない一挙一動が、何度もゆっきを救い上げたのは間違いないから。
この関係、依存と言っても良いかもしれない。
良いのか悪いのかと聞かれたら――正直、分からない。でも、ゆっきには上にゃんが必要で。上にゃんがいないと、呼吸ができない。外に歩み出すことができない。
「だから、ゆっきが文芸部に来るためには、上にゃんが必要だと思うんです」
素直な気持ちで私は言う。
「きょ、今日……そのことも相談をしようと思っていたのに」
上にゃんは唖然として言う。むしろその反応、私が予想外だったので、目を丸くしてしまう。
「不純な動機で、ごめんって思ってる。だって、俺は小説は書けないし。ただ雪姫の書く小説を読んでみたいけど……。俺は雪姫がまた学校に来られるのなら、何でもしたいって思ってる。そのキッカケが文芸部だって思うから、利用させてもらおうと露骨に考えてるよ。ただ、書く以外で手伝えることがあれば、それはもちろん協力したいから――こんな不順な動機だけど、俺を文芸部に入部させてくれませんか?」
ペコリと上川冬希は頭を下げた。
そういうトコなんだよね。私はつい微笑が溢れた。
ゆっきのためなら、上にゃんはすぐに行動に移しちゃう。迷いなんか振り切ってゼロタイムで。ここ数日、上川冬希と接して分かったことが幾つかある。彼はコミュニケーションが下手くそだから、誤解されやすい。そつなく自分一人で解決してしまうから【気まぐれ猫】なんて言われるけれど。
でも本質は暖かいし、寂しがり屋――本当にゆっきが言う通りだと思う。
「私には反対する理由がないよ。だって雪姫にまた部活に参加して欲しいから。誘ったのは私だしね」
と瑛真先輩。
「僕も同じく。それに上川が入部してくれたら、僕も嬉しいしね」
とひかちゃんも微笑んだ。なんだかんだ言って、男子部員が増えて――それが上にゃんだから、なお嬉しいよね。
「きっかけは何でも良いと思うの。でも下河さんがまた学校に来れるなら、ソコは応援したいかな。あとは一応、部員みんなの了承が必要かもね。だって上川君、作品は書かないんでしょう?」
「書けませんね。文才ないし」
キッパリと上にゃんは言う。文才が無い……か。むしろ、そういう活動はあえて遠ざけているように、私には見えるけど。ただ、ゆっきと上にゃんが一緒だと、周りが一切見えなくなって、お砂糖を撒き散らす時があるから。むしろ、私はそっちの方が心配だ。
「上にゃん? それじゃ近々、部活に顔を出す? 別に今日でも良いけどね」
と私は言うと、上にゃんは少し、渋い顔をした。
「……雪姫にまだ参加日は言ってないんだよね。明日以降で良い?」
「リハビリもあるもんね。瑛真先輩、それで良いですか?」
と私は部長にパスをする。
先輩は私の意図を理解して、笑顔でコクンと頷いてくれた。さすがは持つべきものは、アップダウンサポーターズだ。
「じゃ、そういうこことで。では満を持してだね。これまでの下河さんとの経過を報告してもらおうかな」
ニッコリと弥生先生が上にゃんの腕を掴んで言ったのだった。弥生先生は喉から手が出るほど、恋バナを聞きたがっているのが見てとれたけど――。
「はい、アウト」
「えぇ、黄島さん? なんで?」
「上にゃんへのお触りは禁止です。ジャレるのも禁止。お弁当のおかずを分けるのも絶対禁止。どうしてもゆっきのヤキモチの標的になりたいなら止めはしませんけど、私は知りませんからね」
見れば、ひかちゃんも同意するようにコクコク頷いていた。
「そんなに?」
「そんなにです」
私は頷く。
「そんな大袈裟な」
うん。上にゃん。君は少し黙ろうね。
大袈裟でも何でもなくて。ゆっきには君が必要なの。昨日、外に出られたのも危ういバランスだったの理解して。君がいなきゃ、絶対に無理だったんだから。
昼休みという短い時間の中で、上にゃんはこれまでのゆっきとの物語を語り始めた。
昨日、聞いて思ったけど。
もう一回聞いて、私は再認識する。
ゆっきには上にゃんが必要で。上にゃんがいないと呼吸ができない。歩みだすこともできない。
でも、上にゃん。君はどうなの?
君にとっての下河雪姫は、どういう存在なの?
■■■
「なるほどね。プリントをお願いした生徒が、まさか口説いて、押し倒していたなんて……先生ショックでニヤニヤ止まらない」
「ちょ、ちょっと、言い方!」
「で? で? 結局、ドコまでいったの?」
「先生、言い方が下世話だから!」
「手をつないで、抱擁して? 膝の上で抱っこ? それだけで済むとはとても思えないんですけど?」
「私が邪魔したせいもあるんだけど。あの後、雪姫とキスできた?」
「瑛真先輩、いらないこと言わないで!」
「でも上川、昨日に比べて余裕があるんだよね。下河と何かあった?」
「か、海崎、うるさいよ!」
みんながニコニコして上にゃんを追求するのが――妙に楽しくて、可笑しい。ここにゆっきが居てくれたら。私はついそう思ってしまう。
でも私は、まだ上にゃんから肝心なことを聞いていない。
「ねぇ、上にゃん?」
「なに、黄島さん?」
「COLORSの真冬って知ってる?」
私がそう言った瞬間、上にゃんの表情が強張って、血の気が引く。
はい、アウト。
私はきっと上にゃんにとってのジョーカーを引いてしまったんだと思う。
その刹那、昼休憩終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
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