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プロローグ
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カランカランカラーン!
「緑玉! 3等、大当たりぃぃぃぃぃい!!」
商店街の福引をやったら、なんと3等が当たった。
高校のクラスメイトで幼稚園からの友人である牧村紗希――サキが、手に持ったベルを「これでもか」というくらい鳴らす。
そのせいで道行く人がみんな「特賞か!?」といった表情でこちらを見ていった。恥ずかしい。
振り回されるだけ振り回されたベルは、用済みといわんばかりに長机に無造作に置かれ、悲しげにカランとひと鳴きした。
「ほら、ムッキー。喜びなよ。3等だよ」
振り回したベルを置くと共に、サキは私に因縁をつけるかのように聞いてきた。
ちなみにムッキーとは、私――早乙女睦月のあだ名である。
「喜べって言われても、3等って三味線の弦じゃない。三味線持ってないのに、弦だけ貰ってもねぇ~……」
「なにおう!? 我らが住む長浜市は絹製のはつね糸の生産シェアの70%を誇ってるんだぞ!」
「絹でできてるの?」
「イエス。最近は、ナイロンとか安価な糸に押されて、作ってる会社も減っちゃったけどね。確かに、ナイロンとかも求める音によっては全然、良いの! 良いんだけど、やっぱり絹糸の伸びのある音は一聴の価値があるの!」
はつね糸――つまり他の弦楽器でいうところの弦について熱弁を振るってくれるサキ。
なぜ彼女がここまで熱くなるのか、というと、三味線を弾いてるわけでも糸の製造会社の関係者でもない。ただ郷土愛が強いだけだ。
昔からこんなんだったんだよね。
『自分の町を調べよう』という授業の時も、みんなA4の紙に書いてくるのがせいぜいだったのに、サキはB0サイズの用紙を使って書いてきた。
調べるサキも凄いが、そんな特殊な紙を用意する親も凄い。ちなみに、サキの両親は一般的なサラリーマンだ。
なぜサキはここまで熱くなれる物があるのか分からない。私に郷土愛が無さ過ぎな気もするけど、他のクラスメイトを見ているとサキは突出していると思う。
私にも何か、これから熱くなるモノと出会えるのだろうか……?
「とはいっても、三味線持ってないし興味もない人に糸を渡してもね、ってことで、ほいっ」
そばに置いていたファイルから、1枚のプリントを取り出して私に渡してきた。
プリントの内容は、三味線糸を使った水引の作り方だった。
「なんか、凄く勿体ないね」
「そう言ってあげなさんなって。どこも生き残りをかけて必死なんだから。これだって、新しい名物になればってことで、商工会や製造会社の人たちが必死になって考えた物なんだから」
う~ん……。確かにそうなんだけど、用途が違うものに使うのはやっぱり気が引けるというか……。
「どうする? 玉を返して、もう一回やる?」
悩む私を見かねたサキは、もう一度、ガラガラを回すかどうか聞いてきた。
たぶん次にやったら白玉――ティッシュになるだろう。
使えない物を貰うよりそちらの方が良い、というのは分かっているけど――。
「ううん。せっかくだから、糸を貰う。当たったんだから、きっとこれも何かの縁だろうし」
「そう? 分かった。袋に入れるね」
無地の白い袋に三味線糸を入れ、それを両手で丁寧に渡してくれた。
「水引、頑張って作ってね」
「うん。ありがと」
「緑玉! 3等、大当たりぃぃぃぃぃい!!」
商店街の福引をやったら、なんと3等が当たった。
高校のクラスメイトで幼稚園からの友人である牧村紗希――サキが、手に持ったベルを「これでもか」というくらい鳴らす。
そのせいで道行く人がみんな「特賞か!?」といった表情でこちらを見ていった。恥ずかしい。
振り回されるだけ振り回されたベルは、用済みといわんばかりに長机に無造作に置かれ、悲しげにカランとひと鳴きした。
「ほら、ムッキー。喜びなよ。3等だよ」
振り回したベルを置くと共に、サキは私に因縁をつけるかのように聞いてきた。
ちなみにムッキーとは、私――早乙女睦月のあだ名である。
「喜べって言われても、3等って三味線の弦じゃない。三味線持ってないのに、弦だけ貰ってもねぇ~……」
「なにおう!? 我らが住む長浜市は絹製のはつね糸の生産シェアの70%を誇ってるんだぞ!」
「絹でできてるの?」
「イエス。最近は、ナイロンとか安価な糸に押されて、作ってる会社も減っちゃったけどね。確かに、ナイロンとかも求める音によっては全然、良いの! 良いんだけど、やっぱり絹糸の伸びのある音は一聴の価値があるの!」
はつね糸――つまり他の弦楽器でいうところの弦について熱弁を振るってくれるサキ。
なぜ彼女がここまで熱くなるのか、というと、三味線を弾いてるわけでも糸の製造会社の関係者でもない。ただ郷土愛が強いだけだ。
昔からこんなんだったんだよね。
『自分の町を調べよう』という授業の時も、みんなA4の紙に書いてくるのがせいぜいだったのに、サキはB0サイズの用紙を使って書いてきた。
調べるサキも凄いが、そんな特殊な紙を用意する親も凄い。ちなみに、サキの両親は一般的なサラリーマンだ。
なぜサキはここまで熱くなれる物があるのか分からない。私に郷土愛が無さ過ぎな気もするけど、他のクラスメイトを見ているとサキは突出していると思う。
私にも何か、これから熱くなるモノと出会えるのだろうか……?
「とはいっても、三味線持ってないし興味もない人に糸を渡してもね、ってことで、ほいっ」
そばに置いていたファイルから、1枚のプリントを取り出して私に渡してきた。
プリントの内容は、三味線糸を使った水引の作り方だった。
「なんか、凄く勿体ないね」
「そう言ってあげなさんなって。どこも生き残りをかけて必死なんだから。これだって、新しい名物になればってことで、商工会や製造会社の人たちが必死になって考えた物なんだから」
う~ん……。確かにそうなんだけど、用途が違うものに使うのはやっぱり気が引けるというか……。
「どうする? 玉を返して、もう一回やる?」
悩む私を見かねたサキは、もう一度、ガラガラを回すかどうか聞いてきた。
たぶん次にやったら白玉――ティッシュになるだろう。
使えない物を貰うよりそちらの方が良い、というのは分かっているけど――。
「ううん。せっかくだから、糸を貰う。当たったんだから、きっとこれも何かの縁だろうし」
「そう? 分かった。袋に入れるね」
無地の白い袋に三味線糸を入れ、それを両手で丁寧に渡してくれた。
「水引、頑張って作ってね」
「うん。ありがと」
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