シャミセン☆ロック

いぬぶくろ/戌狛瑞領

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お祖母ちゃんの三味線

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「へぇ~、水引ねぇ」

 「福引きで3等が当たった」という言葉に反応した母は、私が見せた3等のはつね糸三味線弦を見てやや落胆した様子で言った。

「なんか、長浜って三味線の弦が有名なんだって。知ってた?」

「昔、なんかで聞いたことがあるわね。お義母さんだったかしら?」

 母にそう言われ、思い出したことがあった。

 5年前に亡くなった祖母は、三味線を趣味にしていて閉じられた戸の向こうから音がよく漏れていた。

 晩年は手の自由がきかず三味線自体に触れることがなくなっていたが、それ以前はたまにお祖母ちゃんから手ほどきを受けていた記憶があった。

 ――懐かしい思い出だ。

「でも、そんなのを水引にするのは、なんか勿体ないわね」

「あっ、やっぱそう思う?」

 お母さんも、私と同じことを思ったらしい。

 仕方がないとはいえせっかく与えられた役目を果たせず、別な物に使われるというのは本望じゃないだろう。

「三味線――確かまだお義母さんの部屋にあったと思うけど」

「まだあるの?」

「確か、ね。亡くなったあと誰も片付けていないから、生前に整理していなければどこかにあるはずよ」

「ふ~ん……」



「すごい。三味線、あったんだ」

「うん。お祖母ちゃんのだけど」

 あの後、お祖母ちゃんの部屋の押し入れをひっくり返すように探したら、奥の方から三味線が納められたケースが見つかった。

 しかも、三つも。

 その中の一つ。

 私がお祖母ちゃんの手ほどきを受けていた時に使っていたものを組み立て、それをスマホで撮影したものをサキに見せた。

「ムッキーのお祖母さんって、何かやってた人なの?」

「私は覚えていないんだけど、三味線の集まりみたいなのに参加していて、そこで定期的にコンサートを開いていたんだって」

「へぇ、スゴい。じゃあ、あのはつね糸は行くべきところに行ったわけだ」

「お祖母ちゃんが居ないと、誰も使う人が居ないよ」

「でも、一応、張ったことは張ったんでしょ?」

「うん。本当、張っただけだけどね」

 スマホで三味線の弦の張り方を説明した動画を見つつ、見よう見まねでやってみたけど、いざ鳴らしてみると「これじゃない」感じの音がする。

 調律ができていないのは明らかだけど、調律の仕方が分からないし、素人にオススメと書いてあった電子チューナーは高くて買えなかった。

「宝の持ち腐れとは、まさにこのことね」

 「途中で適当に辞めずに、きちんと習っておけば良かった」と、当時、お祖母ちゃんに三味線を習いたいと言ったにも関わらず、早々に飽きて辞めてしまった幼少期の自分を恨んだ。

「最近は、YouTubeとかでも練習方法が流れているけど、そういうのじゃダメなの?」

「あ~、ダメダメ。見たけど、画面が小さいし、なにを言ってる分かんないもん」

 そもそも、三味線の練習動画自体が少ない。他の楽器なら検索結果も大きく違うけど、伝統楽器といえどマイナージャンルなんだろう。

 いや、伝統楽器だからか……。

「じゃじゃ、隣のクラスの男子に教えて貰えば?」

「……なんで隣のクラスの男子が出てくるのよ?」

「隣のクラスに、三味線の家元が居るんだよ。知らない?」

「いや、そんなマイナーな存在知らないし……」

 部活で活躍していれば、学校からの紹介がある。

 テストの点が良ければ、クラスメイトとの会話の中で話題になる。

 でも、三味線の家元なんて初めて知った。茶道は聞いたことがあるけど、三味線にもあるんだ。

「なら、後で行ってみようよ」

「えっ、うっ、うん」

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