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序章 云わば、これからの下準備
8.強欲で良かった
しおりを挟む「へえ・・・・・・それはまた」
「今の魔王は血も涙もない──それを終わりにしたいんだ」
ふぅん、と興味なさげに返す私。そもそも話が読めない・・・・・・いや、何となくわかるにはわかるのだが。
冷血漢な王の支配にいたたまれなくなり、こうして反乱を起こしている──自分でも魔族とバラしていたし、斯く言う内乱というものだろう。
どちらにしろ、私には関係の無い話である。さっさと望みを叶え、喜んでいるその隙に転移石を使おう。私の手は既に麻袋へと伸びている。
「希望はそれで構わないか?」
「ああ、魔王を超える力を手にすること。それで間違いはない」
アファールが望みを口にすれば、再び半透明のディスプレイ上に浮かび上がる文字。
──それを見て私は驚愕した。その一点を凝視したまま固まる。
《魔族(性別問わず):お代対象全てを10万人分》
《近くに30万程の魔族の反応あり──序列の降順に吸収いたします》
《スキルによって創り出された個体を確認──対象から除外致しました》
「どうした?」
突然その場で固まった私に、怪訝そうにアファールは問いかける。しかしそれにも応えず、私はニヤける口元を手で覆い隠した。
これは・・・・・・思いもよらぬ〝サプライズプレゼント〟だ。
「・・・・・・わかった、それで決定だな?」
「ああ、何度も言わせるな」
最後に確認をして同意を得る。──これでスキル発動の準備は整った。これからの素晴らしい未来を思い浮かべ、口元を綻ばすアファールに対し、私は心より微笑んで期待に輝くその瞳を見つめる。
《スキル発動──この者に贈り物を》
典型文を小さく呟き、笑った。
「・・・・・・お前が強欲で本当に良かったよ、感謝する」
「は? それはどういうこ──」
突如としてアファールの言葉が途切れた。瞬きのその一瞬──ほんの一瞬で。
──その存在は消え去った。
◇◇
「本当に消えた・・・・・・のか」
辺りはしんと静まり返る。遠くの方で金属の交わる音が聞こえた。
何も無くなった荒野でぽつりと一人──いや、二人。跪き頭を垂れる美女が見える。透き通った声が耳に届く。
「──我が尊き創造主様、勝手な発言をお許しください。何かお困りでしょうか?」
ハッと息を呑んですぐに理解した。主がいなくなったが為に所有権が私へと映ったのか。
どうしようかと見下ろす。まだ頭は垂れたままだった。
「・・・・・・表を上げろ。名は?」
「──はい。いいえ、私に名はありません」
黒髪を垂らして女は顔を上げる。見れば見るほほろせどさ美しい。
──何かと使えるかもしれない。放っておくのも勿体無・・・・・・いや、可哀想だろう。
「なら、フェデルタと名乗るといい」
「はっ、ありがたき幸せ・・・・・・!!」
それだけで、フェデルタの顔はキラキラとしたものへと変わる。こちらを見つめる紅色の瞳には、絶対の忠誠心が見え隠れしていた。
思いがけない形で危機を乗り切った。深く安堵すると、麻袋を開く。中には地図と小さな青い石。その中から地図だけを取り出して広げた。
書いてあったのは楕円の形をした大陸1つのみ。・・・・・・だが、そこで気がついた。
文字が読めない。
あの自称女神はどうやら、読み書きの翻訳はしてくれなかったらしい。大陸のあちこちに何か書いてあるのだが、それ全てが記号を組み合わせた暗号のように見える。
「・・・・・・、フェデルタ」
「はっ」
文字は読めるか、と聞こうとして留まった。もしかしたら、聞けばフェデルタが私に失望してしまうかもしれない。そうなれば敵対も考えられる。
──流石にそれはまずい。私は地図を目の前に差し出した。
「これを持っておいてくれ」
「──はっ、失礼致します」
恭しくフェデルタがそれを取る。ひとつ頷くと私は再び麻袋を開いた。次は転移石を取り出すだけである。
ゆっくり手を入れ、そっと転移石に触れる。硬い感触を感じた──その時だった。
パリンッ、と。いつの間にか騒々しくなっていた争いの中で、はっきり音が聞こえた。
「・・・・・・えっ」
嫌な予感がしてゆっくり覗き込めば、そこには案の定粉々になった欠片ばかり。
──ここでようやく私は違和感に気がついたのだった。
身体がおかしい、と。
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