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一章 云わば、慣れるまでの時間
27. で、調べてくれたか?
しおりを挟む「──で、調べてくれたか?」
「ええ、もちろんです」
そう言ってフェデルタは数枚の羊皮紙を差し出してくれるが、その文字は読めない。だが、一応受け取っておく。
フェデルタに頼んだこと。それは今後に必要な情報だった。ペラペラと紙をめくっては、並んだ文字列に胸が高鳴る。そこには、思っていた以上に文字が書かれていた。
短い文字列、そしてその後に長めの文。このセットが6個分。恐らくは名前と簡潔に纏められた詳細だろう。
彼ら相手に利用するのは私のスキルである。
──何かを欲していて、それを手に入れるためには金に糸目をつけないような人。その何かは何でもいいし、国内であればどこでもいい。
もちろん、学園内でもいいのだ。
人脈のある人で成功すれば、口コミで人を集めることができる。そうなれば、もう勝ったも同然である。恐らく、客足の途絶えない商売となるのだから。
とはいえ、成功するかは不明だ。初めて行うのだから当然だろうが・・・・・・それよりも、〝代償〟の存在を知られてしまうのが1番困る。
目に見えない代償ならまだ良いが、体の部位など目に見える所はまずい。
代償は変更可能なのだろうか。可能であれば話は別となる。
「ありがとう。助かった」
「そ、そんな・・・・・・私はただ当たり前のことをしたまででございます」
微笑んで礼をいえば、フェデルタは感極まった表情で床に頭を擦り付ける。主人の役に立つことこそが至高の喜び。この瞬間、彼女はえも言われぬ幸福感に心を酔わせていた。
私はそんなフェデルタの様子には気付かない。感心して紙束を見つめる。
「それにしても、短時間でよく調べたな。どんな方法を行ったのだ?」
はい、と嬉々として語り出したのを聞いて、私はすぐに聞いたことを後悔した。悪びれる様子もなく人間を下等生物と呼ぶ彼女は、やはり魔族なのだと痛感させられる。
フェデルタの話に対し、私は「そうか」としか返せなかった。何の疑問も持たない。
そもそも未成年の私には実感の持てない話ではあったし、彼女の美貌と手腕ならば可能だろうと思ったからだ。
「そうだ。噂の方はどうだったか?」
話が切れた所で私はもう一つの頼み事を切り出す。あの3人も今日来たばかりだと言うが・・・・・・もう既にその存在は浸透しているのだろうか。
聞くと、フェデルタは顔を曇らせた。それで何となくは察しがつく。
「・・・・・・人気、か」
「はい。今朝に盛大なパレードを開いたようで・・・・・・ちっ、蛆虫風情が」
「聞こえてる、聞こえてるぞ」
誰にも聞こえないような小声で吐き捨てる。だが、私の耳にはしっかり届いていた。人前では慎め、と窘めるとフェデルタは大きく頷く。
「はい、もちろんでございます。表向きは仲良くしております」
・・・・・・まあ、問題を起こさなければ何でも構わないが。ここまではっきり言われると、同族としては何とも言えない気持ちになってくる。
同じ人間だが、どうやらフェデルタにとって私は別格らしかった。支配権が移って良かったと心底思っている。
それなら良い、と返して改めて詳細を聞く。フェデルタが聞いてきた話によると、3名も召喚されたとの事で国中が浮き足立っている様子だった。
そして、学園内でも彼らを取り巻く親衛隊ようなものが作られたらしい。国から与えられた権力、そして、その強き力と3名の美貌が大半の生徒の心を掴んだのである。
ファンクラブかよ、と私は呆れた。
「──どれくらいの生徒が、その馬鹿みたいな集まりに入っているんだ?」
「約半数は確実に」
「・・・・・・それは早いな」
フェデルタから返ってきた言葉は、予想外のものだった。肩書きが優秀とはいえ、ぽっと出の異世界人が半日で人望は集められるものなのか。
「試験結果が相当優秀だったのと、あの見た目が人を集めたようです」
「なるほど・・・・・・それなら納得だ」
流石と言うべきだろう。勇者、聖女、賢者の名に恥じない実力をお持ちのようだ。
「まあ、隔離された校舎ならば、彼らと鉢合わせになる可能性も低いだろう。
──フェデルタ、決して余計なことはするな。これで十分なのだから」
「はっ、仰せのままに」
「これからは・・・・・・そうだな、日が沈んだらここへ来るといい。出来るか?」
跪いたままフェデルタは頭を垂れる。つまりは肯定。
誰にも気づかれずに部屋へと入る──転移魔法が使える彼女にとってその程度は造作もなかった。
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