35 / 59
一章 云わば、慣れるまでの時間
33. ・・・・・・苦いな
しおりを挟む「いや、これでαクラスの扱いが良くわかった。むしろ感謝しないとな」
「へっ?」
「私が何の役職も持たない転生者であることに変わりはない。だが、悲観しているつもりもない」
αクラスだというのも事実だしな、と付け加える。言われたことが予想外だったのか、一瞬だけアンナの顔が間抜け面へと変わった・・・・・・が、それもすぐに取り繕われる。
へらっとした笑顔に切り替えると、甘え声で隣の男性の腕に飛びついた。柔らかな胸を押し付けるようにして、筋肉質な腕へと絡みつく。
「そうなんだぁ~なら良かったぁ・・・・・・あ、アーベル! 私あれ食べたぁい」
「おう、好きなだけ食え。奢ってやるよ」
アーベルと呼ばれた男性。それは先程まで話していたディルクの兄で。
・・・・・・何とまあデレっとした締まりのない顔である。あの凛々しい表情はどこへ行ったことやら。
だが、それよりも驚いたことがあった。
「あっちょっ・・・・・・俺だって奢ってやるし!!」
「僕だってそれくらい食べさせてあげますよ」
勇者と賢者の行動──そこには嫉妬のような感情が見える。はた、と私の表情が抜け落ちる。それは不自然としか思えない光景。・
・・・・・転生前は普通の友人のような関係に見えたはずなのに。
(何故だ──?)
彼らだけではない。Sクラスの他の男子生徒も、彼女に気に入られようと必死に話しかける。その度にアンナはキラキラとした笑みを振りまきながら、好意を寄せる彼らに応えていた。
エルミータの小さな声が聞こえる。
「・・・・・・今のうちに帰るわよ。関わるとろくな事がないわ」
もはや逆ハーレム状態。今、私たちを注視している者はいなかった。これ幸いと、エルミータを始めとした他3名が動き出す。
しかし、ディルクだけは動こうとしない。信じられないものでも見たかのように固まっている。
「何やってんのよディルク。今のうちに行かないと・・・・・・また、喧嘩になって処分を受けたいの?」
「──ちっ。んなこたぁわかってんだよ・・・・・・ちょっと信じられないものを見ただけだ」
エルミータの促しに素直に応じるディルク。彼の後ろをついて行きながら、私はその背中に呼びかける。
「信じられないもの、だって?」
「・・・・・・てめぇ、年下だろ? 敬語ぐらい使ったらどうだ?」
顔は見えないが、声音から彼が相当不機嫌だとわかる。しかも、指摘されたのは至極当然な事。私も快く了承した、が──
「わかった・・・・・・です。善処する・・・・・・です」
「あ゛?」
ディルクが足を止めた。無言で振り向くと、躊躇なく胸ぐらを掴み険しい表情の顔を近づける。眉に皺を寄せて凄むその顔はヤクザ顔負けで、思わず感心してまじまじと見つめてしまった。
見つめ合うこと数秒間。至近距離から低くドスのある声が発せられる。
「・・・・・・ナメてんだろ、てめぇ」
「い、いや・・・・・・これはわざとではなくてな」
「んなわけねぇだろ、なぁ?」
ぐい、と服ごと引き上げられると、つま先立ちだった足が浮きそうになった。それでも下手に抵抗するわけにもいかず、いやいやいや、と弁解の為に口を開く。
「敬語を使って不利にならない相手ならば、自然と使うことが出来るのだが・・・・・・。
元々敬語自体には慣れていないんだ。それ以外の場合だとどうしても変な言葉遣いになってしまう」
「俺がそれに値しない奴だと?」
そこまでは言っていないだろう・・・・・・、と胸ぐらを掴まれながら眉を八の字に顰める。
「私はここへ学びの為に来た。親交を深めて青春を謳歌したり、貴族共とのパイプ作りに来たわけではないのでな」
必要ないと思っている。素直に伝えるとディルクは真顔で、
「・・・・・・お前、相当捻くれたヤツだな」
「それはどうも」
「いや何一つ褒めてねぇから」
「心配するな、それくらい分かっている。・・・・・・それよりも、そろそろ制服を離してくれ。シワがつく」
視線を落として胸元を見れば、案の定かなりの力で引っ張られているのが分かる。これは入学早々シワを作ってしまうな、と大きく息を吐いた。
途端、頭上から「おっ、まえ・・・・・・」と何かを押し殺したような声がする。心做しか胸ぐらを掴む手も震えているようだ。
「・・・・・・俺は先輩だぞ? そんな態度でいいと思ってんのか?」
「それは道徳的な問題という事か?
──言っただろう、私は別に馴れ合いを求めているわけではない。険悪な関係で結構。・・・・・・それに、変な言葉遣いが気に障るならこの口調しかないからな」
真っ直ぐに目を見て言えば、大きな舌打ちの後に「もういい、勝手にしろ」と吐き捨てる。背を向けると大股にその場を去っていった。
心の中で苦いものが広がる。それは何度も味わったような感覚。
自然と言葉が口から零れる。
「・・・・・・苦いな」
もしかしたら、地球での私もこんな感じだったのかもしれない。全てを遠ざけ1人で過ごす生活・・・・・・。
そこまで考え、くすりと私は小さく笑う。そんな生活も悪くないかもしれない。
私は再び歩き始める。他の4名はもう既にαクラス専用の別校舎へと戻っている頃だろう。
1
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません!
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜
と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます!
3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。
ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
非常に申し訳ない…
と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか?
色々手違いがあって…
と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ?
代わりにといってはなんだけど…
と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン?
私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。
なんの謝罪だっけ?
そして、最後に言われた言葉
どうか、幸せになって(くれ)
んん?
弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。
※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします
完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる