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一章 云わば、慣れるまでの時間
46. お前の願いを叶えようと思ってな
しおりを挟む「う、ん・・・・・・? ここは・・・・・・」
「ああ、ようやくお目覚めか。手荒な真似をしてすまないな」
キョロキョロと見慣れぬ景色に周りを見渡すオルトン氏。目の前からの声に、ガタリと大きな音をたて椅子から立ち上がった。
警戒心を露わに険しい表情を浮かべているが、その口元は僅かながら緩んでいる。嬉しいのだろう、すぐ近くに望んでいたものがあるのだから。
それは、この場が自宅ではないという事さえも忘れさせるようで、話しかけようと近づいてきた。私は逃げずにそのまま座る。
「お、お嬢ちゃん。ここはお嬢ちゃんの家かね?」
「そうだ。私以外は誰も居ない」
ゴクリ。唾を飲み込み、彼の喉仏が動いた。
「じゃ、じゃあ何のために私を・・・・・・?」
「お前の願いを叶えようと思ってな」
そこで私は言葉を切る。それを聞いても怪訝そうな顔をするオルトン氏に、立ち上がってくっと顔を寄せて囁く。ニヤリと口角を上げた。
「──〝少女趣味〟なのだろう?」
途端、ビクリと身体を震わせた・・・・・・が、すぐに否定の言葉を口にする。
「なっそんなわけ・・・・・・いい加減なことを言うんじゃない!!」
「まあまあ、そう声を荒らげるな。──私はそれを咎めるつもりもバラすつもりもない。叶えようと言っているのだ、悪い話ではないだろう?」
「ばっバカバカしい。ただの子供に何が出来ると思って──そうか」
突如に浮かんだ考えに、オルトン氏は欲情にまみれた笑みを浮かべた。ねっとりとした視線で私の全身を見回す。
無遠慮なその視線に悪寒が走った。それでも、顔には出さずに微笑み続ける。
「どこから情報が漏れたのかは知らないが、嬢ちゃんが私の家に来てくれるというのならば、願ったり叶ったりだ。
──もちろん歓迎しよう」
勘違いも甚だしい。まさか、と私は嘲る。
「私はオルトン氏に好きなだけ少女を与えると言っているんだ。・・・・・・希望も沢山詰め込んでいいぞ、行為に耐えられるように丈夫だとか、可愛らしいとかな」
さあ、どうする? 誘導するように言えば、見下ろす彼の顔がだらしなく緩む。
それを見た私は、最後の止めだと言わんばかりに微笑んだ。獲物は掛かったのである。
「──なら、一人分試してみるか? どんな少女が良い?」
思惑通り。計画通り。順調すぎる物事に、この頃はまだ気づいていなかった。
◇◇
3名の転生者のみに与えられた部屋。そこで、アンナたち3人は集まっていた。
「──そっかぁ、やっぱ退学は厳しいよねぇ」
「そりゃそうだろ。向こうが失態を犯さなきゃムリだ」
下手したらこっちが危ねぇよ、と零したのは勇者カズキ。複数の能力によって強化された肉体は、その見た目も逞しく変化させていた。
「ねぇねぇ、トモキはどう思う? 能力とかでわからなぁい?」
「生憎、僕の能力は悪知恵に使えないんですよ。
・・・・・・しかし、何故そこまで彼女に固執するんですか? 所詮はαクラス、能力だって取るに足らないものだったじゃありませんか」
「んー・・・・・・そうなんだけどねぇ。能力の数だって1個とは限らないでしょう? それに、なぁーんかあの時に引っかかったんだよねぇ」
儲ける手立てくらいはある──それはアンナの脳裏に引っかかった言葉。
「アゼリカちゃんの能力って、贈り物をするスキルでしょ? もし、何でも贈り物が出来たら・・・・・・例えばぁ、〝強力な力〟そのもの、とか」
「・・・・・・それは脅威ですね。確かに転生者である以上、有り得る話ではあります」
「そうなる前に片付けちゃいたいんだぁ。あ、もちろん間接的に、ねぇ? 私たちが変な事しちゃダメだもん。
・・・・・・それに、アゼリカちゃんには私の能力が効かないしねぇ」
最後の台詞は聞こえないほどの小声で囁く。それでも何かしら聞き取ったカズキが聞き返すと、「何でもなぁい」と笑顔を咲かせる。
「多分、毒入りケーキは食べたと思うけど・・・・・・まあ、失敗したら次のを考えなきゃね!
──私だけの理想郷に、邪魔な女はいらないもん」
この能力さえあれば、容易く実現出来てしまう理想。アンナは、自身に忠実2人を上目遣いで手を握る。
「──2人とも、力を貸してくれるよねっ?」
彼らから返される言葉は、既に決まっていた。
◇◇
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