18 / 29
序章 とある下働きの少女
11.昨日の約束を②_1
しおりを挟むどうやら私にもそこそこの人気があったようで、次から次へとカウンターの方へと客が集まってくる。
……もちろんその理由の1つには、黒髪黒目が珍しいこともあるだろうが。まじまじと見つめてくる視線を受けて、私は苦笑にも取れる笑みを浮かべた。
「いつ見ても綺麗な黒髪だねぇ……ちょっとだけ触ってもいいかい?」
「んー、ちょっとだけだよ?」
「あ、リィンちゃん。俺、握手してもいい?」
「もちろんっ」
はい、と両手を差し出すと、「俺も俺も」と四方八方から手を伸ばされる。いつの間にか一種の握手会のようなものになっていた。
「いやぁ大人の魅力溢れるビアンカさんも良いけど、リィンちゃんも見てて癒されるんだよなぁ……」
「あーわかるわー……小さい子がちょこまかと働いてるのを見ると何か微笑ましいよな」
「そーそー、小動物的な可愛さというか……くぅー!! たまんねぇな!! 未発達の身体がまた……」
「──おい、そこの変態共」
こちらを眺めながら話していた客の動きが止まる。恐る恐る見上げた先には……般若がいた。
「……お前ら、うちの大事な、だ!! い!! じ!! な!! ……看板娘と息子を前にして何を話そうとしてるんだ?」
大事な、という部分をより強調してビアンカが言う。しかし、2人のうちの一人、眼鏡を掛けた男性客が反論した。
「いやでも俺は別に身体云々の話はしてないっすよ、マジで!! 未発達の身体が何とかって言ったのはコイツですって!! こんなむっつりスケベと一緒にしないで欲しいっすね」
「はあ!? お前もどうせそーゆー目線で見てんだろこのエロメガ──」
不意にぐいっ、と片方の男を引っ張ると、その耳元に唇を近づけるビアンカ。色気のある熱い吐息と共に吐き出されたのは、よく研がれた刃物のように鋭い言葉。
「──その口からレイピア突っ込んで性器ごと身体貫通させてやろうか、あ゛?」
女性とは思えない程ドスの効いた声に、「ヒッ」と情けない声をあげて男が縮こまる。隣の男も青ざめた顔で、恐怖一色に染まる友人を見守っている。
ばっ、と乱暴に離すと改めてビアンカが聞いた。
「……で、何か言いたいことはあるか? まずそこのエロメガネ」
「ないですぅ……」
「じゃ次。隣のむっつりスケベ」
「僕もないですぅ……」
後ろにどす黒いオーラを放っているビアンカに、誰が物申すことが出来ようか。すっかり亀のように首を縮めてしまった男性2人に、ビアンカだけが良い笑顔で頷く。
「ならよし。──今度、この子らの前で変なことを言ったら、その口を綺麗に縫い合わせてあげよう」
これでも刺繍は得意な方だ。そう言って笑う彼女はとても愉しそうで。
私もにこにこしつつ、何となく遠くの方に目を向ける。
酒と料理を楽しむ集団。それらを眺めていると、突然、その内の1つで女性が立ち上がった。
イラついて麻袋をテーブルに叩きつける彼女を、目の前の男性は必死に宥めているようだ。背を向けている為何を言っているかまでは分からないものの、身振りでだいたい分かった。
何でなの!? やってられないわ──喧騒の中、声自体はあまり聞こえない。が、唇の動きからして女性の方はそう言っているようだ。
「せっかく真珠魚の鱗を剥ぎ取ったのに、これじゃあ使い物にならないじゃない!!」
「なぁに? 保存方法が悪いって言うの? でもだって、これが正しい方法って本に……」
「じゃあ正しい保存方法は何よ!! 貴方だってわからないじゃない!!」
まくし立てるだけまくし立てると、女性の方は伏せて泣いてしまった。何も出来ずにオロオロと困惑する男性。
事情を知った私は心の中で合掌をする。
(お気の毒に……)
0
あなたにおすすめの小説
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる